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戻らない想い
戻らない想い・・・その9
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夏樹は、自分の膝の上に乗せているクマのぬいぐるみの耳をなでながら言葉を続けた。
「もし。もし、あの子たちが、そんな気持ちの京子の言葉を忘れていなかったとしたら?」
「まさか・・・というより、京子は子供たちの前でそんなお金の話なんて・・・」
「言わなかったと思う・・・?」
「もしかして、言ったんですか?・・・子供たちの前で・・・」
「ええ・・・何度もね・・・」
「まさか・・・そんな・・・」
「それだけじゃないわ。京子は借金ということに対して、異常なくらいにヒステリックになるの」
「ヒステリックに・・・?」
「京子にとって、それは、お金がないということに対しての劣等感からくる感情なのよ」
「お金がないって・・・。私だって公務員じゃないしお給料の高い会社勤めじゃないし・・・。誰だってそうなんじゃないんですか?」
「それは、あんたと京子は育った環境が違うからかもしれないし、もしかしたら、京子自身の生まれ持った感情なのかもしれないし、その辺は、あたしにも分からないけど」
「でも、京子はよく言ってましたよ。うちの旦那は、ちょっとした物なんかを買うのにもけっこう迷ったりしてるとかって」
「そうなの・・・?」
「ええ・・・。それに、中古の住宅だからいろいろ不便はあるけど。。でも、貸家よりはいいかな~って・・・とかも言ってたし」
「そう・・・」
「私なんか、ずっとアパート暮らしだし、京子は、たとへ中古住宅でも羨ましいわよ!って、言ったこともあるし」
「でも、京子が話すその言葉って、すべてお金がないってことへの裏返しになるんじゃないかしら?」
「えっ・・・?」
「そう思わない・・・?」
「まさか・・・。だって、私からしたら京子がとっても羨ましいなって思ってたし」
「妥協する基準とか、満足する基準っていうのって、人それぞれってことなんじゃないかしらね」
「でも・・・京子は、そんなに贅沢をしたがるような子じゃないと思いますよ」
「だから、その贅沢をするという気持ちの基準も、人それぞれだってことよ」
「贅沢の基準ですか・・・?」
「そう。そして、その贅沢を贅沢と思うか思わないかってことも、人、それぞれだしね」
「どういうことですか?」
「う~ん・・・それじゃ~ね。普通に建売住宅を買って、普通に人並な自動車に乗って、普通に人並に年に2回も家族旅行に行ったり、そして、時々は海外旅行にも行ったり、それなりに老後の貯蓄もあって、それなりに安心できるだけの保険にも入って子供たちにも塾や習い事をと・・・まだまだあるけど。そういう人並の生活をしている人たちってさ、そういう生活をしている自分たちのことを、はたして贅沢な生活をしているって思うのかしら?それとも自分たちは平凡だな~。もっと良い家に住みたいな~とか、高級車とかも欲しいわとか、時にはセレブって呼ばれてみたいわとかって思うのかしら?」
「でも、そんなのって欲を言えばキリがないじゃないですか?」
「そうね・・・」
「私だって、一戸建てでお庭があるような家に住みたいなとかって思うし、そんな風に思うのって普通のことだと思うんですけど」
「それで、そんな生活環境のことで、子供たちになんて言われてたの?」
「それなりに嫌味とかも言われたりしたし、もっとお金があるような生活したい・・・みたいなことも言われたこともあるし。ふふっ・・・それに、どっかのお金持ちでも引っ掛けて来てとかって冗談で言われたりとか・・・」
「あんたが子供たちに言われたいろんな言葉と、京子が子供たちに言われた言葉を比較してみてどう思う?」
「公務員と一緒になればよかったんだってことですか?」
「そうよ・・・あんたどう思う?」
「どう思うって言われても・・・」
「問題はね、公務員って言葉じゃなくて、その後に続く、なればよかったんだ・・・って方の言葉なのよ」
「なればよかったんだ・・・どういう意味なんですか?」
「子供たちが、自分の母親にそんな言葉を言うってことはね、それは、父親であるあたしのことを思う気持ちから出る言葉だと思わない?」
「あっ・・・」
「そういうことなの・・・。子供たちの口から、そんな言葉を言わせてしまうってことが、どういうことか分かる?」
ほんの少しの隙間にある何気ないはずの言葉が、いつの間にか、少しずつ誰かの心を傷つけてしまう。
まさか、あの京子が自分の子供たちをそんな風に傷つけていたとは思ってもみなかった直美は、
夏樹の言葉に、自分が、なぜ夏樹のところへ来たのか、その答えを探し始めていた。
「もし。もし、あの子たちが、そんな気持ちの京子の言葉を忘れていなかったとしたら?」
「まさか・・・というより、京子は子供たちの前でそんなお金の話なんて・・・」
「言わなかったと思う・・・?」
「もしかして、言ったんですか?・・・子供たちの前で・・・」
「ええ・・・何度もね・・・」
「まさか・・・そんな・・・」
「それだけじゃないわ。京子は借金ということに対して、異常なくらいにヒステリックになるの」
「ヒステリックに・・・?」
「京子にとって、それは、お金がないということに対しての劣等感からくる感情なのよ」
「お金がないって・・・。私だって公務員じゃないしお給料の高い会社勤めじゃないし・・・。誰だってそうなんじゃないんですか?」
「それは、あんたと京子は育った環境が違うからかもしれないし、もしかしたら、京子自身の生まれ持った感情なのかもしれないし、その辺は、あたしにも分からないけど」
「でも、京子はよく言ってましたよ。うちの旦那は、ちょっとした物なんかを買うのにもけっこう迷ったりしてるとかって」
「そうなの・・・?」
「ええ・・・。それに、中古の住宅だからいろいろ不便はあるけど。。でも、貸家よりはいいかな~って・・・とかも言ってたし」
「そう・・・」
「私なんか、ずっとアパート暮らしだし、京子は、たとへ中古住宅でも羨ましいわよ!って、言ったこともあるし」
「でも、京子が話すその言葉って、すべてお金がないってことへの裏返しになるんじゃないかしら?」
「えっ・・・?」
「そう思わない・・・?」
「まさか・・・。だって、私からしたら京子がとっても羨ましいなって思ってたし」
「妥協する基準とか、満足する基準っていうのって、人それぞれってことなんじゃないかしらね」
「でも・・・京子は、そんなに贅沢をしたがるような子じゃないと思いますよ」
「だから、その贅沢をするという気持ちの基準も、人それぞれだってことよ」
「贅沢の基準ですか・・・?」
「そう。そして、その贅沢を贅沢と思うか思わないかってことも、人、それぞれだしね」
「どういうことですか?」
「う~ん・・・それじゃ~ね。普通に建売住宅を買って、普通に人並な自動車に乗って、普通に人並に年に2回も家族旅行に行ったり、そして、時々は海外旅行にも行ったり、それなりに老後の貯蓄もあって、それなりに安心できるだけの保険にも入って子供たちにも塾や習い事をと・・・まだまだあるけど。そういう人並の生活をしている人たちってさ、そういう生活をしている自分たちのことを、はたして贅沢な生活をしているって思うのかしら?それとも自分たちは平凡だな~。もっと良い家に住みたいな~とか、高級車とかも欲しいわとか、時にはセレブって呼ばれてみたいわとかって思うのかしら?」
「でも、そんなのって欲を言えばキリがないじゃないですか?」
「そうね・・・」
「私だって、一戸建てでお庭があるような家に住みたいなとかって思うし、そんな風に思うのって普通のことだと思うんですけど」
「それで、そんな生活環境のことで、子供たちになんて言われてたの?」
「それなりに嫌味とかも言われたりしたし、もっとお金があるような生活したい・・・みたいなことも言われたこともあるし。ふふっ・・・それに、どっかのお金持ちでも引っ掛けて来てとかって冗談で言われたりとか・・・」
「あんたが子供たちに言われたいろんな言葉と、京子が子供たちに言われた言葉を比較してみてどう思う?」
「公務員と一緒になればよかったんだってことですか?」
「そうよ・・・あんたどう思う?」
「どう思うって言われても・・・」
「問題はね、公務員って言葉じゃなくて、その後に続く、なればよかったんだ・・・って方の言葉なのよ」
「なればよかったんだ・・・どういう意味なんですか?」
「子供たちが、自分の母親にそんな言葉を言うってことはね、それは、父親であるあたしのことを思う気持ちから出る言葉だと思わない?」
「あっ・・・」
「そういうことなの・・・。子供たちの口から、そんな言葉を言わせてしまうってことが、どういうことか分かる?」
ほんの少しの隙間にある何気ないはずの言葉が、いつの間にか、少しずつ誰かの心を傷つけてしまう。
まさか、あの京子が自分の子供たちをそんな風に傷つけていたとは思ってもみなかった直美は、
夏樹の言葉に、自分が、なぜ夏樹のところへ来たのか、その答えを探し始めていた。
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