愛して欲しいと言えたなら

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戻らない想い

戻らない想い・・・その8

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「京子はね・・・怯えているのよ・・・」

直美は、思いがけない夏樹の言葉に少し驚いた。
京子が怯えてる・・・?それは、いったいどういうことなの?
そんなことなんて、今まで考えたことも、思ったこともなかったけど・・・

ううん・・・それよりも、この人って、いったい、京子の何なの?
いったい、京子の何を知ってるっていうの?
私の知らない京子、いったい、どんな京子を、この人は、知っているっていうの?

「京子が、怯えてる・・・?」

「そうよ・・・」

「でも、いったい、京子は何に怯えているんですか?」

「自分の言葉によ・・・」

「自分の言葉に・・・ですか?」

「そうよ・・・」

「あの・・・よく分からないんですけど、それって、いったい、どういう意味なんですか?」

「意味・・・?そんなのは別にないけど、京子が怯えているのは現在過去未来の自分の言葉なのよ」

「あの・・・」

「う~ん・・・ちょっと分かりづらかったかしら?」

「ええ・・・ちょっと・・・」

「まあ~、あんたは京子の一番のお友達だから教えてあげるけど」

「私が一番の友達・・・?」

「そうよ・・・あら?あんた知らなかったの?」

「ええ・・・」

「京子がよく言ってたわ。この世界で、あたし以外に信じられるとしたら、あんただけだって」

「京子がそんなことを・・・」

「ってか、あたしは脱落したんだから、今はあんたが一番ってことになるわね」

「そんな・・・」

「でもね、ふつうの友達とか京子の親とかなんかには教えないわよ」

「京子が怯えていることをですか?」

「そうよ・・・。そんなの、京子にとっては屈辱以外の何ものでもないからね」

「京子にとって・・・そんなに大切なことを、私が知っても・・・?」

「いいんじゃないの?京子はね、あの子は誰かに助けてほしいって思ってるの。だから、あんたがここに来ることを、京子は止めなかったんじゃないかしら?」

「あっ・・・でも、私が夏樹さんに会うってことは、京子には何も言ってないですけど」

「そんなもん、あんたが言わなくても、なんとなく分かるもんでしょ?それに、あんたに、どうしても、あたしに会いに行って欲しくなかったら、あんたが何も言わなくても行かないでって止めるはずよ・・・。違うかしら?」

まただ・・・何・・・何なの、この人・・・?
まるで、京子の考えていることが手に取るように分かるっていうの?
京子が怯えてるとか、私が夏樹さんに会いに行くことを感づいていたとか・・・。

「あの子はね、寂しいのよ・・・。あたしと離婚してから、ずっと寂しいのよ」

「寂しい・・・でも、京子はそんな素振りなんて見たことがなかったけど・・・」

「だから、あの子は弱虫なのよ・・・」

「どうしてですか・・・?」

「強い人なら、自分の弱さや寂しさを隠したりはしないわ」

「いえ・・・それって逆じゃないんですか?」

「あんた、雑誌とかテレビの見過ぎよ」

「えっ・・・?」

「弱虫だから隠すの。弱虫だから、これ以上寂しくなりたくないから、強い自分を演じようとするの」

「京子が、そうだと・・・?」

「そうよ・・・。だから、毎日!毎日!自分を良く見せようとする度に、何かを伝えようとする自分の言葉に怯えているのよ」

「あの・・・やっぱり、よく分からないんですけど・・・」

「それじゃね、こう言ったら分かるかしら?子供たちがね、昔よく言ってたことがあったんだけどね」

「はい・・・」

「お母さんは公務員と一緒になればよかったんだって・・・」

「あの子たちが・・・ですか?」

「そうよ、この言葉の意味、あんたなら分かるでしょ?」

「安定した給料と安定した職場と世間体・・・ですか?」

「それもあるわね・・・。でも、もっと大事なことがあるの・・・あんたに分かる?」

「もっと大事なこと・・・」

「そして京子は自分の言葉に怯えている・・・分かる?」

「いえ・・・ごめんなさい。やっぱり分かりません」

「んもう~しょうがないわね!安定した給料、安定した職場、そして世間体・・・この言葉を子供たちに当てはめてみると、どうなるかしら?」

「子供たちの将来・・・いえ・・・子供たちを育てるのにかかるお金・・・ですか?」

表情が少し寂しそうになった夏樹を見た時、直美は、自分が見つけた言葉の意味を知った。

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