愛して欲しいと言えたなら

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戻らない想い

戻らない想い・・・その7

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夏樹の言動に少し違和感を感じ始めている直美なのだが、とりあえず話を戻してみることにした。

「あの・・・、さっき言っていた、京子は自分を良く見せようとしてるっていうのは?」

「ん・・・?どこか、おかしいかしら?」

「いえ、おかしいというよりも、私には、よく分からないっていうか・・・」

「どこが分からないの?」

「どこって・・・。京子が自分のことを悪く思われたくないって思うのは普通だと思うんですよね」

「それは、誰でも、そう思うんじゃない?」

「ですよね・・・?」

「ふふっ・・・。あんたってさ、考え方が素直なのね・・・」

「えっ・・・?」

「それに、あんたって、自分が思ってるよりも、ずっと、強い人だと思うわよ」

「そうかな・・・?」

「でもね・・・。京子は、あんたとは正反対・・・。あの子は自分が思ってるほど強くないし、とっても弱虫な子なの」

「えっ・・・?私なんかよりも、ずっと強いっていうか、芯がしっかりしてると思いますよ」

「もし、そうなら、自分のことを良く見せようとはしないはずよ」

「あの・・・」

「な~に・・・?」

「その、さっきから言ってる自分を良く見せるって、自分を悪く思われたくないとは違うんですか?」

「どうして・・・?」

「だって、さっきから自分を良く見せるって言葉を使ってるから、もしかしたら違うのかなって?」

「そうね・・・違うわね」

「私には、同じ意味のように思えるんですけど」

「確かに、普通に使っている言葉の意味で解釈するなら、同じような言葉なのかもしれないけど、でもね、その言葉が生き物だとしたら、言葉の持つ動詞っていうのかしら?目的っていうのから?その辺が少し変わってくるんじゃないかしら?」

「あの・・・それは、どういう感じに違うんですか?」

「自分を悪く思われたくないっていう想いと、自分を良く見せたいっていう想いの違いよ」

「想い・・・ですか?」

「そうよ。人ってさ、自分では気がつかないうちに何かを求めているものなのよね」

「何かを求めている・・・?」

「自分を悪く思われたくないっていうのは、だから自分から離れて行かないで欲しい・・・だから自分を嫌いにならないで欲しいっていう思いがあるのよね」

「だと思います・・・。でも、自分を良く見せたいっていうのは、それとは違うんですか?」

「違うっていうより、正反対って考えた方が分かりやすいかもしれないわね」

「正反対・・・ですか?」

「その方が分かりやすいと思うけど。ようは、自分を良く見せたいっていうのは、自分のそばにいて欲しい・・・自分を好きになって欲しいってことなの・・・この違いって分かる?」

「と、言われても・・・」

「ようすうるに、引き止めたいのか。それとも引き寄せたいたいのか。っていう想いの違いってことね」

「引き止めたいのか・・・引き寄せたいのか・・・ですか・・・」

「あんたの場合、離婚を決めた時から子供に対しての想いって引き止めたい・・・の方じゃなかったかしら?」

「引き止めたい・・・?言われてみれば、確かにそうかもしれません・・・」

「引き止めたいっていう想いは、自分に自信があるから出てくる想いなの。でもね、引き寄せたいっていう想いっていうのはその逆で自分に自信がない、そんな隠れた心の弱さからくる想いなのよ」

「心の弱さ・・・」

「引き止めるって言うのは、その子供の心がまだ自分の手の中にあるからそう思うんでしょ?」

「だから、自分から離れて行かないように引き止めるということですか?」

「それとは逆で、すでに、その子供の心が自分の手の中から離れてしまっているから、引き寄せたいって思うんじゃない?」

「でも・・・そんなの分かんないじゃないですか?」

「そうね。離婚の時に、自分の子供が、まだ自分と一緒に暮らしていれば、全て引き止めたいになるわよね」

「ええ・・・そう思います」

「でも、それは目に見えている状況のことでしょ?」

「目に見えている状況・・・ですか?」

「それじゃ、心はどうかしら?いくら一緒に暮らしているとしても、子供がすぐそばにいるとしても、その子供の心の中までは分かんないんじゃないかしら?」

「確かに、言われてみれば・・・。でも、一緒に暮らしているんだし、自分の子供なんだし、いつも色んなことを話したりしてるんだから、ある程度は、自分の子供の考えてることとかって分かるんじゃないですか?」

「そして、そこにある、あんたの感じる子供に対しての安心は不安をはるかに凌駕してる・・・。でも、もし、それが逆だったら?」

「それが逆だったら・・・」

「う~ん、例えがちょっと分かりにくかったわね。それじゃね、愛って考えてみて」

「愛・・・ですか?」

「そう、愛。愛を引き止めたい。と、愛を引き寄せたいでは、どう?」

「あっ・・・」

直美は、夏樹の言いたいことがなんとなく分かってきたような気がした。
それに、ここまで砕いて説明をしてくれなかったら見逃してしまうような心の隙間にある真実を、夏樹は見逃していないということに、直美は、少なからず驚いているのである。
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