愛して欲しいと言えたなら

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戻らない想い

戻らない想い・・・その3

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「あら?どうしたの?急に黙っちゃって」

「あっ・・・いえ・・・」

「あたし、何か、変なことでも言ったかしら?」

「変なことってわけじゃないんですけど、夏樹さんが京子のことを不幸せにしたって言ったので」

「はは~ん・・・それで、何言ってんだ、こいつ!って思ったのね」

「いえ、そうじゃなくて・・・」

「ん?・・・違うの?」

「いえ・・・ただ、京子から聞いていた夏樹さんとは全然違うし・・・」

「違うし・・・?」

「ええ・・・それに、まさか夏樹さんが京子のことをそんな風に思ってたなんて、ちょっとビックリしたもので」

「はは~ん・・・京子のやつめ、あたしの悪口ばっかり言ってたんでしょ?」

「ええ・・・まあ・・・」

「んで、あたしが突然変わったとか、あんなひどい人だとは思わなかったとかって言ってたんでしょ?」

「ええ・・・まあ・・・それに近いことは・・・確かに・・・」

「近いことじゃなくて、もっとすごいことも言ってたって方が正解なんじゃないかしら?」

「やっぱり分かるんですか?」

「そりゃ、分かるわよ・・・」

「だから、以前に京子から聞いていた夏樹さんからは想像出来なくて・・・」

「あたしの変わり様がってこと・・・?」

「ええ・・・」

「な~に・・・それじゃ、あたしの変わり様が見たくて、わざわざ、あたしに会いにここまで来たってわけ?」

「いえ・・・そうじゃなくて・・・」

「あら?違うの?」

「その京子が、突然、変なことを言い始めたもので・・・」

「変なこと・・・?」

「変なことっていうか、何ていうか・・・」

「ふ~ん・・・」

「ふ~んって・・・訊かないんですか?」

「何?・・・その変なこと・・・?」

「ええ・・・」

「別に、興味ないわね・・・」

そう言うと、夏樹は席を起って縁側の方へ歩いて行くと、
一匹のクマのぬいぐるみを抱えて戻ってきた。

「このクマさん可愛いでしょ?」

「えっ・・・あっ・・・ぬいぐるみが好きなんですか?」

「まあ~、嫌いじゃないわね」

直美は、夏樹のところへ初めて会いに来た緊張感が薄れていくと、周りの景色を見る余裕も出てきた。
今、ぬいぐるみを持ってきた縁側の方を見ると、沢山のぬいぐるみが飾られてあるのが見えた。
しかも、ただ単に、綺麗に整理されて飾られているのではなくて、
まるで、今にも動き出しそうな感じに思えるような配置や、ぬいぐるみたちの仕草なのである。

これはもう「嫌いじゃないわね」どころのレベルではない。
「好き」の最上級ではないだろうか?とさえ、思えるのである。

「すごい数のぬいぐるみですね?」

そう言って縁側から見える部屋を見ている直美の顔が徐々に微笑みに変わっていった。

「部屋の中にもぬいぐるみが・・・いったい、どれくらいいるんですか?」

「いるんですか・・・?」

「えっ・・・?」

「分かる・・・?今、あんたは、あるんですか?じゃなくて、いるんですか?って訊いたのよ」

「あっ・・・」

「この子たちはね、みんな生きてるのよ」

「えっ・・・?」

「ただ、動いていないだけ・・・。でもね、ちゃんと心もあるし、意思だってちゃんと持ってるのよ」

「はあ・・・」

「だからね、あたしのところに来たばかりの時と今とでは、お顔が違うの」

「ぬいぐるみの顔が変わるんですか?」

「う~ん・・・お顔が変わるっていうより、お顔の雰囲気が変わるって言った方が分かりやすかしらね」

「ホントですか・・・?」

「ホントよ!でも、まあ・・・このお話しは長くなるので興味があるなら後日お話ししてあげるわね」

「はあ・・・」

「京子がね、だったら私を幸せにしてよって・・・言ったことがあってね」

「えっ・・・?」

「その言葉を言われた時ね、京子と結婚する前に感じていた不安が頭の中をよぎったのよ」

突然、話を変えてくる夏樹の言葉に少し戸惑う直美なのだが。
それでも、京子に聞かされていた夏樹とは違う夏樹を見ているようで、少し不思議な感覚だった。

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