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後悔
後悔・・・その7
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私たちの人生も変わっていたかもしれない・・・。懐かしい夏樹の話し方だった。
言葉は女言葉なのだが、話す雰囲気が忘れないあの頃のように優しく語りかけてくる。
私たちの人生か・・・。あの頃のように優しく言われると嬉しいけど・・・。
でも・・・違うわね・・・。
もし、あの頃、二人でここに来たとしても、少しだけ夏樹さんとの時間が長くなるだけ・・・。
きっと、夏樹さんは雪子と出会うはずだから。
「遊歩道は歩けるみたいだから、少し歩いてみる?」
「ええ・・・でも、なんとなく雪子に怒られちゃうかもしれないわね」
「あやつは怒んないわよ。ただ一人でいじけるだけよ」
「そっちの方が余計に気が引けちゃうわよ」
「あんたって、ほんと、あたしの前では控えめよね?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「ほら!行くわよ!」
夏樹は、そう言うと後部座席から赤いコートを手に取って運転席のドアを開けた。
慌てて裕子も、こげ茶色のコートを手に助手席のドアを開けて車を降りた。
「あんたさ、昔、あたしの脚って細くてカモシカの足みたいって言ってたけど、今はどう?」
「どうって・・・スタイルの良い女性って感じに見えるけど」
「でしょ?でしょ?スカートの裾からのチラ見えって色っぽいでしょ?」
車のそばでおどけるようにスカートの裾をなびかせる夏樹の仕草が、
夏樹の昔を知る裕子には、妙に可笑しくて、軽い笑みのつもりが、笑い声に変わってしまう。
「変態な二人に見られてもいいなら腕を組んでみる?」
「うん・・・」
両手をコートのポケットに入れて歩く夏樹の左腕に裕子はそっと右手を絡ませた。
「でも、信じられないわ」
「ん・・・?なにが・・・?」
「なにがって・・・。だって、まさか、夏樹さんとここに来れるなんて思ってもみなかったわ」
「そうお・・・?」
「うん・・・。それに、夏樹さんとこうして腕を組んで歩けるなんて夢にも思ってなかったし」
「まあ~確かにね。あんたが、あのコミュニティサイトに来てなかったら、あんたと、もう一度、出会うなんてこともなかったかもしれないしね」
「私だって驚いたわよ。まさか夏樹さんが女性になってたなんて思ってもみなかったわよ」
「あら?そっちなの・・・?」
「うん・・・そっちなの・・・」
海岸に沿って続いている遊歩道というよりは、
海のそばの崖に沿って続いている遊歩道といった方が正解だろう。
海面から10メートルか、もう少し高いところに作られている遊歩道から広がる海は、
とても青く、とても広く、そして、とても遠く、裕子には感じられた。
「ねえ~夏樹さん・・・?」
「な~に・・・?」
「夏樹さんは、雪子のことをどう思ってるの?」
「あら?あんたも変わってるわね?」
「えっ・・・?どうして・・・?」
「どうしてって、あんたね、せっかく、あたしと二人っきりだっていうのに、どうして雪子が出てくるわけ?」
「えっ・・・?変かしら・・・?」
「まあ、変っていえば変だけど、あんたらしいって言えばあんたらしいかもだけど」
「そうお・・・?」
「あたしが何を望んでいるのか・・・あんたって、いつもそんなことばかり考えていたものね」
「別に、そういうわけじゃないけど・・・」
「あたしね、今でも覚えてるのよ・・・」
「私のこと・・・?」
「そう、あの時の、あんたの顔、今でもはっきりと覚えてるわ」
「私って、なにか変な顔とかしたの?」
「変っていうより、あんたの寂しい顔・・・あたし初めて見たわ」
「うそ・・・?私、そんな顔をしたことあった?」
「ええ・・あったわよ。一度だけ、あたしの前で寂しい顔をしたのよ」
「私、そんな顔をしたことなんて覚えてないけど」
「あたしの部屋で、もし子供が出来ても俺は親にはなれないって言ったの・・・覚えてる?」
裕子は、不思議そうな顔で夏樹を見つめた。
「思い出したみたいね?」
「うん・・・思い出しちゃった・・・」
「でも、今のあんた、あの頃とは違うわね?」
「違うって、なにが・・・?」
「あの頃のあんただったら、組んでる腕を解いて3~2歩後ろに下がって・・・こう言うわ」
「えっ・・・?」
「あの頃のあんたなら、うつむいて泣き声で小さく呟くの。どうしてそんなことを言うの?って」
裕子は嬉しそうに憎んだ瞳で見つめながら、夏樹の肩に頬を寄せて組んだ腕を強く抱きしめた。
言葉は女言葉なのだが、話す雰囲気が忘れないあの頃のように優しく語りかけてくる。
私たちの人生か・・・。あの頃のように優しく言われると嬉しいけど・・・。
でも・・・違うわね・・・。
もし、あの頃、二人でここに来たとしても、少しだけ夏樹さんとの時間が長くなるだけ・・・。
きっと、夏樹さんは雪子と出会うはずだから。
「遊歩道は歩けるみたいだから、少し歩いてみる?」
「ええ・・・でも、なんとなく雪子に怒られちゃうかもしれないわね」
「あやつは怒んないわよ。ただ一人でいじけるだけよ」
「そっちの方が余計に気が引けちゃうわよ」
「あんたって、ほんと、あたしの前では控えめよね?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「ほら!行くわよ!」
夏樹は、そう言うと後部座席から赤いコートを手に取って運転席のドアを開けた。
慌てて裕子も、こげ茶色のコートを手に助手席のドアを開けて車を降りた。
「あんたさ、昔、あたしの脚って細くてカモシカの足みたいって言ってたけど、今はどう?」
「どうって・・・スタイルの良い女性って感じに見えるけど」
「でしょ?でしょ?スカートの裾からのチラ見えって色っぽいでしょ?」
車のそばでおどけるようにスカートの裾をなびかせる夏樹の仕草が、
夏樹の昔を知る裕子には、妙に可笑しくて、軽い笑みのつもりが、笑い声に変わってしまう。
「変態な二人に見られてもいいなら腕を組んでみる?」
「うん・・・」
両手をコートのポケットに入れて歩く夏樹の左腕に裕子はそっと右手を絡ませた。
「でも、信じられないわ」
「ん・・・?なにが・・・?」
「なにがって・・・。だって、まさか、夏樹さんとここに来れるなんて思ってもみなかったわ」
「そうお・・・?」
「うん・・・。それに、夏樹さんとこうして腕を組んで歩けるなんて夢にも思ってなかったし」
「まあ~確かにね。あんたが、あのコミュニティサイトに来てなかったら、あんたと、もう一度、出会うなんてこともなかったかもしれないしね」
「私だって驚いたわよ。まさか夏樹さんが女性になってたなんて思ってもみなかったわよ」
「あら?そっちなの・・・?」
「うん・・・そっちなの・・・」
海岸に沿って続いている遊歩道というよりは、
海のそばの崖に沿って続いている遊歩道といった方が正解だろう。
海面から10メートルか、もう少し高いところに作られている遊歩道から広がる海は、
とても青く、とても広く、そして、とても遠く、裕子には感じられた。
「ねえ~夏樹さん・・・?」
「な~に・・・?」
「夏樹さんは、雪子のことをどう思ってるの?」
「あら?あんたも変わってるわね?」
「えっ・・・?どうして・・・?」
「どうしてって、あんたね、せっかく、あたしと二人っきりだっていうのに、どうして雪子が出てくるわけ?」
「えっ・・・?変かしら・・・?」
「まあ、変っていえば変だけど、あんたらしいって言えばあんたらしいかもだけど」
「そうお・・・?」
「あたしが何を望んでいるのか・・・あんたって、いつもそんなことばかり考えていたものね」
「別に、そういうわけじゃないけど・・・」
「あたしね、今でも覚えてるのよ・・・」
「私のこと・・・?」
「そう、あの時の、あんたの顔、今でもはっきりと覚えてるわ」
「私って、なにか変な顔とかしたの?」
「変っていうより、あんたの寂しい顔・・・あたし初めて見たわ」
「うそ・・・?私、そんな顔をしたことあった?」
「ええ・・あったわよ。一度だけ、あたしの前で寂しい顔をしたのよ」
「私、そんな顔をしたことなんて覚えてないけど」
「あたしの部屋で、もし子供が出来ても俺は親にはなれないって言ったの・・・覚えてる?」
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「思い出したみたいね?」
「うん・・・思い出しちゃった・・・」
「でも、今のあんた、あの頃とは違うわね?」
「違うって、なにが・・・?」
「あの頃のあんただったら、組んでる腕を解いて3~2歩後ろに下がって・・・こう言うわ」
「えっ・・・?」
「あの頃のあんたなら、うつむいて泣き声で小さく呟くの。どうしてそんなことを言うの?って」
裕子は嬉しそうに憎んだ瞳で見つめながら、夏樹の肩に頬を寄せて組んだ腕を強く抱きしめた。
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