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後悔

後悔・・・その6

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「夏樹さんが死んだ後のお話を書いてるの?」

「そうよ・・・」

「そうよって・・・」

「変かしら?」

「変かしら?って。変っていうより、普通は書かないと思うわよ・・・」

「そうお・・・?」

「でも、どうして自分が死んだ後のことなんか書いてるの?」

「なんとなくかしら?でも、あくまでも空想の世界を書いてるんだけどね」

「その小説って、どんな内容なの?」

「20歳の綺麗な一人の女性がぬいぐるみさんたちと暮らす何気ない日々を書いているんだけどね」

「一人の女性?」

「そうよ。縁あって、あたしと暮らしていた女性とお人形さんとくまのぬいぐるみが主人公なのよ」

「もしかして、夏樹さんがいなくなったその家で、その女性がぬいぐるみさんたちやお人形さんたちと一緒に暮らす物語なの?」

「う~ん、ちょっと違うんだけどね。そうね~。あたしが死んだ後にぬいぐるみたちが動き出すの」

「はい・・・?」

「そんでもって、あたしは死んだというより悪魔に連れ去られちゃったのよ」

「悪魔・・・?」

「そうなの。それでね、残された女性とぬいぐるみたちは、あたしのお仕事を引き継ぎながら、悪魔に連れ去られたあたしを探して旅をするの」

「ファンタジーみたいな感じなのね?」

「そうね。あたしとしては、優しい世界を描いてみたいって思ってね」

裕子は、正直、少し驚いていた。
若い頃の夏樹を知ってる裕子にとって、それは自分の知らない夏樹だったからである。

夏樹が小説を書いているということだけでも信じられないことなのだが、
その小説の内容が、それ以上に、どこか信じられないというのが正直なところだろう。
アクションものやSFもの、推理小説、サスペンスや恋愛小説とかならわかるけど、
ファンタジーといえば、どちらかというと絵本とか童話とかになると思うのである。

「この世に2冊しかない本。その1冊を探して、あたしの孫が訪ねてくるってところから始まるのよ」

「孫・・・?夏樹さんの孫ってこと?」

「そうよ。とはいっても、もちろん空想の中ってことだけどね」

「なんか、不思議な感じ・・・」

「そうなのよ、不思議な世界の物語なのよ」

「そっちの不思議じゃなくて、夏樹さんが書いている本の内容の方の不思議の方よ」

「どうして・・・?」

「どうしてって、だって、私が知ってる夏樹さんからは、ちょっと想像つかないし・・・」

「ふふっ・・・そうかしら?」

しばらく走っていると、フロントガラスの向こうに海が見えてきた。
海辺の方は内陸とは違って、雪もそれほど積もってはいないのが普通なのだが、
今年は例年と違って積雪が多いみたいで、海岸沿いの景色も白一色といった景色である。
夏樹は、助手席の裕子をからかうように、たわいのない話をしながら海沿いの国道を走っていた。

「こっちも、けっこう雪が積もってるわね」

「私、こっちに来たの初めてなのよ」

「一応は観光地になってるけど、この雪だから誰も来てないわね」

「ちょっと!人の話を聞いてないでしょ?」

「ちゃんと聞いてるわよ。ってか、あんた、彼氏とかと海とかに来たことないの?」

「あるけど。今から行く海岸には一度も行ったことがないかしら」

「一応は、ちゃんと除雪はしてるみたいね」

「だから!ちゃんと人の話を聞きなさいってば!」

珍しく甘え声で話す裕子を横目に、夏樹は、国道から海岸へ続く道路へと車を走らせる。
国道から右折して10分ほど車を走らせると、目的地である海岸が見えてきた。

海岸とはいっても、砂浜があるような海水浴場ではなく、
かといって、お土産屋がたくさん並んでいるわけでもない。
沢山の岩が海沿いに沿って続いている感じで、その岩に沿って遊歩道が伸びている海岸である。

とはいえ、まったくお土産屋がないかといえばそうではなく、
海岸の名前を記載したアーチ状の大きな看板もある。
そのアーチの下をくぐると、広い駐車場になっていて、左側に大きなレストランが見える。
もちろん、今は冬なのでレストランは冬季閉店中ではある・・・。はずなのだが・・・
なぜか営業しているみたいである。

「あら?レストラン営業してるみたいよ」

「ホントね・・・。それに車も何台か止まってるみたい」

「冬だから誰も来てないと思ったのに。しかも、この大雪の中よく来るわね?」

「そんなことを言ったって、私たちも来たじゃない?」

「ふふっ、確かに・・・」

夏樹は、他の来客と同じようにレストランに近い場所に車を止めた。

「ねえ~・・・裕子・・・?」

裕子は、普段とは違う夏樹の声に魅かれるように、視線をその口元へと移していく。

「もし、あの頃、あんたとここへ来ていたら、あたしたちの人生も変わっていたのかしら?」

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