愛して欲しいと言えたなら

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後悔

後悔・・・その4

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夏樹の言葉に、返す言葉が見つからない裕子を意地悪っぽい目で見つめていた夏樹が
隣の席に置いていたバッグから財布を取り出すとレシートを手に裕子に語りかけた。

「道路に雪がないから、ちょっと、遠出してみる?」

「えっ・・・?」

「あら?あたしとじゃ嫌なの?」

「嫌じゃないけど・・・どこへ行くの?」

「昔、あんたを連れていけなかったところかしら?」

「私を連れていけなかったところって・・・もしかして、海?」

「あら?やっぱり覚えていたのね」

「夏樹さんも覚えていてくれたの?」

「当たり前でしょ・・・」

「でも、雪子に悪いわ・・・」

「今から行けば、明るいうちに帰って来れると思うから行くわよ」

そう言うと、夏樹は席を立って1人で会計を済ませてしまう。
こんなところも、やっぱり変わってないのね。
割り勘とかが嫌いで、勝手に1人で会計を済ませてしまうところも昔と同じ。

裕子は、そんな夏樹の後ろ姿を慌てて追いかけるのだが・・・ふと、考えてしまった。
夏樹さんのスカートの中って、どうなってるのかしら?・・・と。

ここから海までは約1時間くらいなので、おそらく暗くなった頃には帰って来れる距離である。
裕子にとって、ハンドルを握る夏樹の顔を助手席から見るのは35年ぶりである。
もう、あれから35年も過ぎたのね・・・。
でも、不思議ね・・・まるで、昨日のことのように思えてしまうのは・・・。

「あんた、さっきから何見てんのよ?」

「だって、まさか、もう一度、夏樹さんの運転している顔を見れるとは思わなかったから」

「あたしの顔なんか見てどうすんのよ?」

「ねえ~夏樹さん・・・?」

「やっぱりまた、さん、に戻ったのね?」

「だって、こっちの方が呼びやすいから・・・」

「しかし、あんたたちって面白いわね」

「どうして・・・?」

「だってさ、片方はさんづけで呼んで、もう片方はあだ名で呼び捨てにしてるじゃない?」

「そのことについては、私も、不思議なのよね」

「そのこと・・・?」

「ええ・・・。雪子が夏樹さんのことをあだ名で呼んでるって、どう考えても、私の知ってる雪子じゃないのよね」

「あんたも、そう思う・・・?」

「ええ・・・ってか、夏樹さんもそう思ってたの?」

「もちろん思ってたわよ。だって、あやつって普段は借りてきた猫みたいじゃない?」

「借りてきた猫って、なんか分かる気がする」

「でしょ?普段は物静かで大人しくて控えめなのに、どうして、あたしの前では違うのかしら?ってね」

「よね~。雪子って、何をする時もいつもワンテンポ遅れて行動するような子なのに不思議だわ」

「あんたとは正反対だもんね」

「えっ・・・?」

「あんたは普段はうるさいくせに、あたしの前では大人しいもんね」

「別に大人しいわけじゃないけど・・・」

「あら、間違えたわ。大人しいんじゃなくて従順だったわね、ふふっ」

「そういうわけじゃないけど。でも、普通は好きな人の前ではそんな感じなんじゃないの?」

「ふ~ん・・・あたしのことが好きだったの?」

「もう~・・・そういうことは言わないの」

「今でもでしょ・・・?」

「だから・・・」

「あんたも大変ね・・・」

「そうよ。これでも、けっこう傷つくことも多いのよ」

「それでも、あやつのことを考えちゃうんでしょ?」

「うん・・・」

「あたしの結婚生活ってそんな感じだったのよ。だから、今でも元妻のことを嫌いになれないでいるの」

夏樹さんが言っていた相手の事を想っての好き・・・って、そういうことなのかしら。
でも、それじゃ、さっきの私の質問に答えた「雪子・・・」って・・・
いったい、どういう意味なの・・・?
もしかして、自分の心に素直な想いってこと・・・?
う~ん・・・ということは・・・この場合の私ってなんかそれなりにとっても傷つくかも・・・。

「少し傷ついちゃったかしら・・・?」

「それより缶コーヒーか何か飲みたい・・・」

「強くなったわね。あんた・・・」

強くなんかないわ・・・。
声にならない言葉でつぶやく裕子の視線は、窓の外の雪景色を見つめていた。

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