愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
51 / 386
再会

再会・・・その11

しおりを挟む
「困った子ね、まったく・・・」

そう言うと、夏樹は手提げバックを開いてハンカチを雪子の前に差し出した。

「あっ、クマさんだ!」

「ふふっ、可愛いでしょ?」

雪子は、受け取ったハンカチで涙を拭きながら、チラチラと夏樹の顔を見ていた。

「な~に・・・?」

「別に・・・なんでもないよ」

「そういえばさ、あんた、あたしを憎んでたんじゃなかったの?」

「うん、憎んでたよ。それに恨んでたし・・・」

「あら?はっきり言うのね」

「それだけじゃないよ。思いっきり!大っ嫌いだったもん!」

「あはは、そこまで言う?」

「だって、本当の事だし」

なぜなのかは分からないが、夏樹は照れながらマスクの紐に手をかけた。

「ちょっと、ふーちゃん?」

「な~に・・・?」

「そこまで言わせておいて、どうしてって訊かないの?」

「ふふっ、答えは、あたしの目の前にいるじゃない?」

そう言うと夏樹はマスクを外して見せた。
というより、マスクをしたままではコーヒーが飲めないと言った方が正解だろう。

「うわっ・・・うそ?」

「ん?嘘って、何が?」

「だって・・・」

「もしかして、あたしって綺麗?」

「あはは・・・。もう~、ふーちゃんったら」

泣いたカラスがもう笑ったがそのまま適応している雪子を見ながらではコーヒーが飲めないので、窓の外に視線を移しながら夏樹はコーヒーを口にした。

あらあら・・・鬼の形相なんかしちゃったら、せっかくの美人が台無しなんじゃないかしら?
とはいえ、ここからは元妻の顔までは見えないけど、
と~っても怖い雰囲気がビシ!ビシ!と、ここまで伝わってきてるわよ。
京子、あたしを恨む事で今を生きる事は出来てもね、それじゃ、いつまでも明日が見えないのよ。

京子、理解した?
さっきね、わざとなのよ!
わざと、あんたに見せつけてあげたのよ!
あんた、それに気がついていなんでしょ?
あんたがいつまでもウジウジとあたしの事を恨む毎日を送ってるから見せつけてあげたの。

あんたが自分は悪くないと思う事はあんたの勝手だけど。
でもね、そんなあんたのままじゃ、いつか子供たちにも出て行かれちゃうわよ?

とはいっても、京子?
あんたにとって雪子の存在は、ある意味において地獄かもね?
それよりも、昔の旦那が女性になっていたって事の方がショックだったかしら?

「ふーちゃん、何、考えてるの?」

「ん・・・?どうして?」

「だって、さっきからずっと窓の外を見てるし」

「ずいぶん雪が降るわね~って思ってね」

「でも、ふーちゃんって綺麗なんだ!」

「あい・・・?」

「それだったらマスクなんかしなくも大丈夫だよ」

「だから昼間マスクをしていないと、寝る時に咳が止まらなくなるって言ってるでしょ?」

「なんか、もったいないね」

「すっかり揉まれる事を忘れちゃってるあんたの可愛い胸の方がもったいないわよ」

「ふーちゃん、揉みたいの?」

「ほら、ウエイトレスさんが聞いてるわよ」

「へへへ・・・」

変わらないわね、そんなとこも。雪子は、今も、あの頃のまま・・・。
そして、あの日から、雪子の時間は止まっていたのね・・・やっぱり・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

元妻

Rollman
恋愛
元妻との画像が見つかり、そして元妻とまた出会うことに。

処理中です...