愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

文字の大きさ
上 下
48 / 386
再会

再会・・・その8

しおりを挟む
夏樹の言葉に雪子が振り返るかと思ったが、別にそんな素振りを見せる様子もなく、
夏樹の腕の中に顔をうずめるようにして降りしきる雪を眺めながら歩き続ける。

「ねぇ~、ふーちゃん?」

「ん・・・?」

「偶然・・・?それとも、必然?」

「どっちのこと・・・?」

「どっちも・・・」

「あんたの考えてる通りだと思うわよ」

雪子は、夏樹の言葉を聞きながら少し間をおいて呟いた。

「逆だったらよかったな~」

「そうかしら?」

「どうして・・・?」

「あんたは、自分とは偶然で元妻とは必然だと思ったんでしょ?」

「うん・・・」

「それで、自分が必然だったらよかったって思ったのね?」

「うん・・・」

「あんたが必然だったから?」

「うん・・・」

確かに雪子は、自分は夏樹に会えるかもしれないと思いながら、
裕子から聞いていた夏樹が、よく買い物をするスーパーに来てみたのだから。

そこで夏樹に会えたのは、雪子側からすると、それは必然であり、
夏樹側から見れば、それは偶然ということになると思ったらしい。
そして、離婚した元妻側からすれば、それは偶然であり、
夏樹側から見れば、それは必然なのだと思ったのだろう。

ようするに、雪子が夏樹を追いかけて、夏樹が元妻を追いかけていると思ったのかもしれない。
だから、夏樹にとって自分との再会が必然であって元妻とは偶然だったらよかったのにと。

夏樹との再会に何かを期待していたわけではなかったのに、そんな風に考えてながらも、
なぜか、夏樹の言葉に、ちょっとした焼きもちを感じた自分が可笑しかったらしく、
夏樹の腕の中で、雪子は1人で微笑んでいた。

「でもさ、あんた、よく、あたしだって分かったわね?」

「どうして・・・?」

「だって、今日はメガネかけてなかったのよ?」

「そんなの関係ないよ」

「いや、普通は、かけてるとかけていないとでは大違いなんじゃないの?」

「もしかして、コンタクト?」

「大丈夫、流してないから」

「ああっ・・・覚えてたんだ」

「あんた1人で言って1人で笑い転げていたからね」

「だって・・・」

「でも、あたしはメガネのあんたも好きだったのよ」

「ウソばっかり・・・」

「ウソじゃないわよ・・・」

「ホントに・・・?」

「あんた、メガネの方が可愛いからね」

「ふーちゃんは・・・?」

「あたしが化粧してメガネかけると、教育ママごんみたいになっちゃうわよ」

夏樹の言葉に笑いながら顔を見上げる雪子。
それを見るんじゃないわよ!という目つきで見下ろす夏樹。

「ねぇ~、ふーちゃんはどうしてマスクをしてるの?」

「マスクをしてると、とっても若く見えるからよ」

「それだけ・・・?」

「うるさいわね!ついでに歯もないからよ」

「歯医者さんに行かないの?」

「あんた、あたしを殺したいの?」

「あはは!面白いんだ!ふーちゃんって」

「あんた信じてないでしょ?」

「だって、苦しい言い訳なんだもん」

「ホントはね、昼間マスクをしていないと夜寝る時に咳が止まんなくなるのよ」

「ふーちゃん、喘息なの?」

「さぁ~ね・・・」

「でも、奥さんにバレちゃったね」

「元妻よ・・・」

 「でも、きっと、ビックリしたよね?」

「ビックリよりも、もう変態よ!間違いなく変態!」

「ふーちゃんは変態なの?」

「そういうあんたの胸はどうなの?ちゃんと均等になったの?」

「触ってみる?」

「あたしはそういう趣味はないわよ」

「あっ、そっか。そういえば、ふーちゃん、今は女だもんね」

「違うでしょ?」

「えっ・・・?もしかして、ふーちゃん、女に興味がなくなったとかって?」

「そっちは、もっと違うわよ」

たわいもない会話の中、絡みつく夏樹の体温を感じながら歩く雪子。
降りしきる雪がさえぎる景色の中に、夏樹が化粧で隠す素顔の意味を雪子に伝えていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...