38 / 386
心の時間
心の時間・・・その18
しおりを挟む
裕子は、(じゅんきん)という言葉に驚く素振りを見せない雪子の反応に、
ある意味、確信にも似た答えが、自分の目の前に初めて姿を現したと感じていた。
それは、何の反応も見せない雪子が、それを意図的に見せないようにしている。
裏返せば、(じゅんきん)という、わずか五文字が表す、その言葉の意味が、
雪子にとって、どれほど深く恋しい一言なのかを裕子に教えていた。
怖いのね、雪子・・・。今でも、あの人のことが好きな自分自身が怖いのね・・・。
そして・・・なぜ、あの人が、また、私にメールを送ってきたのか?
きっと、雪子には、その理由が分かるのね。
私には、何となくとしか分からないけど・・・。
「ねぇ~、裕子。コーヒーのおかわりは?」
「えっ・・・?」
裕子は、普通に会話をし始めた雪子に少し驚いた。
「えっ?って、もうコーヒーカップの中が空だよ?」
「あっ、そうね。雪子は?」
「ミルクティー・・・」
「それは分かってるわよ。そうじゃなくて、雪子もおかわり頼むの?」
「どうしようかな?」
どうしようかな?って、普通はそうじゃないでしょ?
普通は、私はおかわりを頼むけど裕子はどうする?・・・じゃないかしら?
「どうしようかな?じゃなくて、雪子も、おかわり頼みなさいよ」
「う~ん、裕子がそう言うなら頼もうかな?」
「はいはい・・・」
裕子は、マスターにミルクティーとコーヒーのおかわりを頼んだ。
「さすがに、のんびり雪子も少しは動揺したみたいね?」
「そんなことないよ」
「あるでしょ?まったく、もう。素直じゃないんだから」
「そういうわけじゃないけど。ふーちゃんが、私のあだ名なんてよく覚えてたな~って」
「よく覚えていたな~じゃなくて、忘れなかったってことでしょ?」
「そうとも言う・・・」
「でもさ~、雪子と私の初体験の相手が、同じあの人だったなんてね~。なんか不思議よね」
「違うよ。私は、裕子のお下がりだよ」
「お下がりって、あのね?兄弟同士の服のお下がりと一緒にしちゃダメでしょ?」
「ふふっ。でも、ホントだよ」
「まったく、もう。でもさ、私としては雪子の考え方って羨ましいわ」
「どうして・・・?」
「だって、普通は好きな人には自分だけを見て欲しいから、その想いを愛で確かめるもんでしょ?」
「そうなの・・・?」
「だから、羨ましいのよ。雪子の考え方ってさ」
「そうかな・・・?なんか変わった性格してるって言われてるみたいだけど」
「ただね、ちょっと怖いのよね。雪子の、その性格が」
「どうして、怖いの?」
「あっ、そうか!そういうことだったんだ。あの人が言ってたことって」
「ん?なになに?」
「相手のことを思っての好きと、自分の感情に素直なままの好きとは違うって話」
「んん・・・?」
「なるほどね、やっと分かったわ。あの人は雪子のことを言ってたのね」
「私は、ちっとも分からないんですけど・・・」
「雪子は分かんなくてもいいのよ」
「ええ===っ!どうして?」
「どうしてもよ。ただ、あの人は今でも雪子だけを愛してるのかもしれないって思っただけよ」
「ねぇ~、裕子・・・?」
「えっ・・・?なに?」
「裕子が今、さりげなく、とんでもないことを言ったような気がしたのは、私の気のせいかな?」
「そうよ、気のせいよ。ただの気のせいだから気にしない気にしない」
お願いだから、カップの底に少し残っているミルクティーを飲みながら、
可愛い子猫が覚えたての上目使いで遊ぶように、疑いの視線を私に向けないでね。
「とは言っても、雪子にはちゃんと家庭があるんだし、優しい旦那様だっているんだから、別にあの人の気持ちを知ったって大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないかも・・・?」
「ちょっと、雪子。脅かさないでよ?」
「ふふっ・・・大丈夫だよ。だって、ふーちゃんとのことは遠い昔にもうとっくに終わったことなんだから」
「そうよね。そうじゃないと私が困るわ」
「どうして、裕子が困るの?」
「雪子が間違ったことをしないようにってことでしょ?あの人がまた私にメールをよこしたのって?」
「そうなの・・・?」
「きっと、そうよ。なにせ、私は、あの人に2度もふられてるんだから分かるのよ」
「そこ、強調するトコ?」
「いいのよ。あの人にとっての私はいつも2番だって分かってるから・・・。悔しいけど」
「ダメだよ、裕子。そんな風に考えちゃ?ね?」
「いいのよ、いいの。私は、ネガティブでいいのよ」
「もう、裕子ったら・・・」
あの人は、そんな雪子の性格をよく知っている。
そして雪子は、そんな自分をあの人が全部分かってくれていることを知っている。
だから、雪子は、今でも、あの人のことが怖いのね。
どんな自分でも全て受け入れてくれる、あの人だから・・・。
もしも、雪子の心が動いたら、夏樹さん?あなたは・・・どうするつもりなの?
ってか、それって、どこかズルくない?
あの人って、昔っからなのよね。
相手が知りたいと思う1番大切なことは、自分からは絶対に言わない。
あなたのそういうところって、今でも変わってないような気がするのは私だけかしら?
ある意味、確信にも似た答えが、自分の目の前に初めて姿を現したと感じていた。
それは、何の反応も見せない雪子が、それを意図的に見せないようにしている。
裏返せば、(じゅんきん)という、わずか五文字が表す、その言葉の意味が、
雪子にとって、どれほど深く恋しい一言なのかを裕子に教えていた。
怖いのね、雪子・・・。今でも、あの人のことが好きな自分自身が怖いのね・・・。
そして・・・なぜ、あの人が、また、私にメールを送ってきたのか?
きっと、雪子には、その理由が分かるのね。
私には、何となくとしか分からないけど・・・。
「ねぇ~、裕子。コーヒーのおかわりは?」
「えっ・・・?」
裕子は、普通に会話をし始めた雪子に少し驚いた。
「えっ?って、もうコーヒーカップの中が空だよ?」
「あっ、そうね。雪子は?」
「ミルクティー・・・」
「それは分かってるわよ。そうじゃなくて、雪子もおかわり頼むの?」
「どうしようかな?」
どうしようかな?って、普通はそうじゃないでしょ?
普通は、私はおかわりを頼むけど裕子はどうする?・・・じゃないかしら?
「どうしようかな?じゃなくて、雪子も、おかわり頼みなさいよ」
「う~ん、裕子がそう言うなら頼もうかな?」
「はいはい・・・」
裕子は、マスターにミルクティーとコーヒーのおかわりを頼んだ。
「さすがに、のんびり雪子も少しは動揺したみたいね?」
「そんなことないよ」
「あるでしょ?まったく、もう。素直じゃないんだから」
「そういうわけじゃないけど。ふーちゃんが、私のあだ名なんてよく覚えてたな~って」
「よく覚えていたな~じゃなくて、忘れなかったってことでしょ?」
「そうとも言う・・・」
「でもさ~、雪子と私の初体験の相手が、同じあの人だったなんてね~。なんか不思議よね」
「違うよ。私は、裕子のお下がりだよ」
「お下がりって、あのね?兄弟同士の服のお下がりと一緒にしちゃダメでしょ?」
「ふふっ。でも、ホントだよ」
「まったく、もう。でもさ、私としては雪子の考え方って羨ましいわ」
「どうして・・・?」
「だって、普通は好きな人には自分だけを見て欲しいから、その想いを愛で確かめるもんでしょ?」
「そうなの・・・?」
「だから、羨ましいのよ。雪子の考え方ってさ」
「そうかな・・・?なんか変わった性格してるって言われてるみたいだけど」
「ただね、ちょっと怖いのよね。雪子の、その性格が」
「どうして、怖いの?」
「あっ、そうか!そういうことだったんだ。あの人が言ってたことって」
「ん?なになに?」
「相手のことを思っての好きと、自分の感情に素直なままの好きとは違うって話」
「んん・・・?」
「なるほどね、やっと分かったわ。あの人は雪子のことを言ってたのね」
「私は、ちっとも分からないんですけど・・・」
「雪子は分かんなくてもいいのよ」
「ええ===っ!どうして?」
「どうしてもよ。ただ、あの人は今でも雪子だけを愛してるのかもしれないって思っただけよ」
「ねぇ~、裕子・・・?」
「えっ・・・?なに?」
「裕子が今、さりげなく、とんでもないことを言ったような気がしたのは、私の気のせいかな?」
「そうよ、気のせいよ。ただの気のせいだから気にしない気にしない」
お願いだから、カップの底に少し残っているミルクティーを飲みながら、
可愛い子猫が覚えたての上目使いで遊ぶように、疑いの視線を私に向けないでね。
「とは言っても、雪子にはちゃんと家庭があるんだし、優しい旦那様だっているんだから、別にあの人の気持ちを知ったって大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないかも・・・?」
「ちょっと、雪子。脅かさないでよ?」
「ふふっ・・・大丈夫だよ。だって、ふーちゃんとのことは遠い昔にもうとっくに終わったことなんだから」
「そうよね。そうじゃないと私が困るわ」
「どうして、裕子が困るの?」
「雪子が間違ったことをしないようにってことでしょ?あの人がまた私にメールをよこしたのって?」
「そうなの・・・?」
「きっと、そうよ。なにせ、私は、あの人に2度もふられてるんだから分かるのよ」
「そこ、強調するトコ?」
「いいのよ。あの人にとっての私はいつも2番だって分かってるから・・・。悔しいけど」
「ダメだよ、裕子。そんな風に考えちゃ?ね?」
「いいのよ、いいの。私は、ネガティブでいいのよ」
「もう、裕子ったら・・・」
あの人は、そんな雪子の性格をよく知っている。
そして雪子は、そんな自分をあの人が全部分かってくれていることを知っている。
だから、雪子は、今でも、あの人のことが怖いのね。
どんな自分でも全て受け入れてくれる、あの人だから・・・。
もしも、雪子の心が動いたら、夏樹さん?あなたは・・・どうするつもりなの?
ってか、それって、どこかズルくない?
あの人って、昔っからなのよね。
相手が知りたいと思う1番大切なことは、自分からは絶対に言わない。
あなたのそういうところって、今でも変わってないような気がするのは私だけかしら?
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる