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心の時間
心の時間・・・その18
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裕子は、(じゅんきん)という言葉に驚く素振りを見せない雪子の反応に、
ある意味、確信にも似た答えが、自分の目の前に初めて姿を現したと感じていた。
それは、何の反応も見せない雪子が、それを意図的に見せないようにしている。
裏返せば、(じゅんきん)という、わずか五文字が表す、その言葉の意味が、
雪子にとって、どれほど深く恋しい一言なのかを裕子に教えていた。
怖いのね、雪子・・・。今でも、あの人のことが好きな自分自身が怖いのね・・・。
そして・・・なぜ、あの人が、また、私にメールを送ってきたのか?
きっと、雪子には、その理由が分かるのね。
私には、何となくとしか分からないけど・・・。
「ねぇ~、裕子。コーヒーのおかわりは?」
「えっ・・・?」
裕子は、普通に会話をし始めた雪子に少し驚いた。
「えっ?って、もうコーヒーカップの中が空だよ?」
「あっ、そうね。雪子は?」
「ミルクティー・・・」
「それは分かってるわよ。そうじゃなくて、雪子もおかわり頼むの?」
「どうしようかな?」
どうしようかな?って、普通はそうじゃないでしょ?
普通は、私はおかわりを頼むけど裕子はどうする?・・・じゃないかしら?
「どうしようかな?じゃなくて、雪子も、おかわり頼みなさいよ」
「う~ん、裕子がそう言うなら頼もうかな?」
「はいはい・・・」
裕子は、マスターにミルクティーとコーヒーのおかわりを頼んだ。
「さすがに、のんびり雪子も少しは動揺したみたいね?」
「そんなことないよ」
「あるでしょ?まったく、もう。素直じゃないんだから」
「そういうわけじゃないけど。ふーちゃんが、私のあだ名なんてよく覚えてたな~って」
「よく覚えていたな~じゃなくて、忘れなかったってことでしょ?」
「そうとも言う・・・」
「でもさ~、雪子と私の初体験の相手が、同じあの人だったなんてね~。なんか不思議よね」
「違うよ。私は、裕子のお下がりだよ」
「お下がりって、あのね?兄弟同士の服のお下がりと一緒にしちゃダメでしょ?」
「ふふっ。でも、ホントだよ」
「まったく、もう。でもさ、私としては雪子の考え方って羨ましいわ」
「どうして・・・?」
「だって、普通は好きな人には自分だけを見て欲しいから、その想いを愛で確かめるもんでしょ?」
「そうなの・・・?」
「だから、羨ましいのよ。雪子の考え方ってさ」
「そうかな・・・?なんか変わった性格してるって言われてるみたいだけど」
「ただね、ちょっと怖いのよね。雪子の、その性格が」
「どうして、怖いの?」
「あっ、そうか!そういうことだったんだ。あの人が言ってたことって」
「ん?なになに?」
「相手のことを思っての好きと、自分の感情に素直なままの好きとは違うって話」
「んん・・・?」
「なるほどね、やっと分かったわ。あの人は雪子のことを言ってたのね」
「私は、ちっとも分からないんですけど・・・」
「雪子は分かんなくてもいいのよ」
「ええ===っ!どうして?」
「どうしてもよ。ただ、あの人は今でも雪子だけを愛してるのかもしれないって思っただけよ」
「ねぇ~、裕子・・・?」
「えっ・・・?なに?」
「裕子が今、さりげなく、とんでもないことを言ったような気がしたのは、私の気のせいかな?」
「そうよ、気のせいよ。ただの気のせいだから気にしない気にしない」
お願いだから、カップの底に少し残っているミルクティーを飲みながら、
可愛い子猫が覚えたての上目使いで遊ぶように、疑いの視線を私に向けないでね。
「とは言っても、雪子にはちゃんと家庭があるんだし、優しい旦那様だっているんだから、別にあの人の気持ちを知ったって大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないかも・・・?」
「ちょっと、雪子。脅かさないでよ?」
「ふふっ・・・大丈夫だよ。だって、ふーちゃんとのことは遠い昔にもうとっくに終わったことなんだから」
「そうよね。そうじゃないと私が困るわ」
「どうして、裕子が困るの?」
「雪子が間違ったことをしないようにってことでしょ?あの人がまた私にメールをよこしたのって?」
「そうなの・・・?」
「きっと、そうよ。なにせ、私は、あの人に2度もふられてるんだから分かるのよ」
「そこ、強調するトコ?」
「いいのよ。あの人にとっての私はいつも2番だって分かってるから・・・。悔しいけど」
「ダメだよ、裕子。そんな風に考えちゃ?ね?」
「いいのよ、いいの。私は、ネガティブでいいのよ」
「もう、裕子ったら・・・」
あの人は、そんな雪子の性格をよく知っている。
そして雪子は、そんな自分をあの人が全部分かってくれていることを知っている。
だから、雪子は、今でも、あの人のことが怖いのね。
どんな自分でも全て受け入れてくれる、あの人だから・・・。
もしも、雪子の心が動いたら、夏樹さん?あなたは・・・どうするつもりなの?
ってか、それって、どこかズルくない?
あの人って、昔っからなのよね。
相手が知りたいと思う1番大切なことは、自分からは絶対に言わない。
あなたのそういうところって、今でも変わってないような気がするのは私だけかしら?
ある意味、確信にも似た答えが、自分の目の前に初めて姿を現したと感じていた。
それは、何の反応も見せない雪子が、それを意図的に見せないようにしている。
裏返せば、(じゅんきん)という、わずか五文字が表す、その言葉の意味が、
雪子にとって、どれほど深く恋しい一言なのかを裕子に教えていた。
怖いのね、雪子・・・。今でも、あの人のことが好きな自分自身が怖いのね・・・。
そして・・・なぜ、あの人が、また、私にメールを送ってきたのか?
きっと、雪子には、その理由が分かるのね。
私には、何となくとしか分からないけど・・・。
「ねぇ~、裕子。コーヒーのおかわりは?」
「えっ・・・?」
裕子は、普通に会話をし始めた雪子に少し驚いた。
「えっ?って、もうコーヒーカップの中が空だよ?」
「あっ、そうね。雪子は?」
「ミルクティー・・・」
「それは分かってるわよ。そうじゃなくて、雪子もおかわり頼むの?」
「どうしようかな?」
どうしようかな?って、普通はそうじゃないでしょ?
普通は、私はおかわりを頼むけど裕子はどうする?・・・じゃないかしら?
「どうしようかな?じゃなくて、雪子も、おかわり頼みなさいよ」
「う~ん、裕子がそう言うなら頼もうかな?」
「はいはい・・・」
裕子は、マスターにミルクティーとコーヒーのおかわりを頼んだ。
「さすがに、のんびり雪子も少しは動揺したみたいね?」
「そんなことないよ」
「あるでしょ?まったく、もう。素直じゃないんだから」
「そういうわけじゃないけど。ふーちゃんが、私のあだ名なんてよく覚えてたな~って」
「よく覚えていたな~じゃなくて、忘れなかったってことでしょ?」
「そうとも言う・・・」
「でもさ~、雪子と私の初体験の相手が、同じあの人だったなんてね~。なんか不思議よね」
「違うよ。私は、裕子のお下がりだよ」
「お下がりって、あのね?兄弟同士の服のお下がりと一緒にしちゃダメでしょ?」
「ふふっ。でも、ホントだよ」
「まったく、もう。でもさ、私としては雪子の考え方って羨ましいわ」
「どうして・・・?」
「だって、普通は好きな人には自分だけを見て欲しいから、その想いを愛で確かめるもんでしょ?」
「そうなの・・・?」
「だから、羨ましいのよ。雪子の考え方ってさ」
「そうかな・・・?なんか変わった性格してるって言われてるみたいだけど」
「ただね、ちょっと怖いのよね。雪子の、その性格が」
「どうして、怖いの?」
「あっ、そうか!そういうことだったんだ。あの人が言ってたことって」
「ん?なになに?」
「相手のことを思っての好きと、自分の感情に素直なままの好きとは違うって話」
「んん・・・?」
「なるほどね、やっと分かったわ。あの人は雪子のことを言ってたのね」
「私は、ちっとも分からないんですけど・・・」
「雪子は分かんなくてもいいのよ」
「ええ===っ!どうして?」
「どうしてもよ。ただ、あの人は今でも雪子だけを愛してるのかもしれないって思っただけよ」
「ねぇ~、裕子・・・?」
「えっ・・・?なに?」
「裕子が今、さりげなく、とんでもないことを言ったような気がしたのは、私の気のせいかな?」
「そうよ、気のせいよ。ただの気のせいだから気にしない気にしない」
お願いだから、カップの底に少し残っているミルクティーを飲みながら、
可愛い子猫が覚えたての上目使いで遊ぶように、疑いの視線を私に向けないでね。
「とは言っても、雪子にはちゃんと家庭があるんだし、優しい旦那様だっているんだから、別にあの人の気持ちを知ったって大丈夫でしょ?」
「大丈夫じゃないかも・・・?」
「ちょっと、雪子。脅かさないでよ?」
「ふふっ・・・大丈夫だよ。だって、ふーちゃんとのことは遠い昔にもうとっくに終わったことなんだから」
「そうよね。そうじゃないと私が困るわ」
「どうして、裕子が困るの?」
「雪子が間違ったことをしないようにってことでしょ?あの人がまた私にメールをよこしたのって?」
「そうなの・・・?」
「きっと、そうよ。なにせ、私は、あの人に2度もふられてるんだから分かるのよ」
「そこ、強調するトコ?」
「いいのよ。あの人にとっての私はいつも2番だって分かってるから・・・。悔しいけど」
「ダメだよ、裕子。そんな風に考えちゃ?ね?」
「いいのよ、いいの。私は、ネガティブでいいのよ」
「もう、裕子ったら・・・」
あの人は、そんな雪子の性格をよく知っている。
そして雪子は、そんな自分をあの人が全部分かってくれていることを知っている。
だから、雪子は、今でも、あの人のことが怖いのね。
どんな自分でも全て受け入れてくれる、あの人だから・・・。
もしも、雪子の心が動いたら、夏樹さん?あなたは・・・どうするつもりなの?
ってか、それって、どこかズルくない?
あの人って、昔っからなのよね。
相手が知りたいと思う1番大切なことは、自分からは絶対に言わない。
あなたのそういうところって、今でも変わってないような気がするのは私だけかしら?
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