愛して欲しいと言えたなら

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心の時間

心の時間・・・その17

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あの人のことを、雪子は、いったい、どう思ってるのかしら?
今でも好きっていう気持ちがあるのは、分からないわけでもないわよ。
だって、私だって、あの人のことは今でも好きだし、いくら時間が過ぎたって、
何十年って月日が経っていたって、そうそう簡単に嫌いになんかなれないし。

そりゃ、別れた時とか、別れてから何年かの間は、嫌いになったりってことはあるとは思うけど、
逆に何十年も昔のことになってしまうと、あの頃の悲しいとか辛いとかって思っていた気持ちが、
時間が経つにつれて、いつの間にか、ただの笑い話や楽しい想い出に変わっていくのが、
なぜか嬉しくて、そんな自分の心の変化が、不思議と居心地が良かったり。
そういえば、こんなことがあったな~とか、あんなこともあったわね~って感じで。

確かに、あの頃は、あの人のことが嫌いになったはずなのに、不思議なのよね。
今になって思えば、ただ単に嫌いになる材料を探しては自分を慰めていただけなのかもしれない。
でも、ある頃になるとさ、何故かしら、不思議とそんな風に思えてきたの。

それでも、今の雪子のあの人への想いが、正直、分からないの。
あの人と別れてから、あの夜、私の前で涙を流した雪子が、
次の日からは、あの人のことには触れようとしなくなっていったわ。

それどころか、私には、あの人を忘れようとしているんじゃくて、何かから逃げようとしている、
振り払えない何かを、必死に避けようとしてるようにしか見えなかった・・・はず。

なのに、今は、普通に、あの人のことを話している雪子。
懐かしそうに「ふーちゃん」って、あの人のことを話すのは、なぜ?

あの人が夏樹さんだと分かった(その言葉)を、雪子に教えるべきか・・・。
それとも、このまま、話をはぐらかした方がいいのか。自分でも分からないのよ・・・。
雪子との話のなりゆきでって感じで、ここまで話したんだけど。でも、正直、悩むわ。

あれから、30年以上も、あの人のことには触れないように避けてきたはずの雪子・・・。
それなのに、今は、普通に「ふーちゃん」って、あの人のことを話す雪子・・・。

「ねぇ~、裕子・・・?」

「あっ・・・。ごめん、ごめん。ちょっと考え事してたわ」

「裕子、もしかして、旦那さんとまた喧嘩したの?」

「えっ・・・?どうして?」

「だって、裕子って、旦那さんと喧嘩した時って、いつもこんな感じだし」

「こんな感じって、えっ・・・嘘?」

「本当だよ。だから、いつも思うの」

「思うって、何を?」

「裕子ってさ、いつも旦那さんを嫌ってるようなことを言ってるけど本当は好きなんだな~って」

「何、言ってんのよ。そんなわけないでしょ?」

「そうかな~?」

「なに・・・?なによ。その疑いの眼差しは」

「ふふっ・・・そんなに慌てなくてもいいよ。ちゃんと分かってるから」

ちが===う!そうじゃないでしょ===が?
私のことじゃなくて、あんたのことで悩んでるんだっちゅ====の!

「ねぇ~、雪子・・・?」

「な~に・・・?」

「さっきの答えを教える前に、どうしても、雪子に訊いておきたいことがあるの」

「な~に?裕子の旦那さんのこと?」

「違うわよ。うちの旦那のことはどうでもいいのよ」

「あ~っ、やっぱり、喧嘩したんだ!」

「もう~、雪子ったら。うちの旦那が私に向かって生意気な口なんてきけないって知ってるでしょ?」

「ふふっ。だから、いつものように言いすぎちゃったってことでしょ?」

ねぇ、雪子?今、私の目の前にいるあなたは、いったい、何を怖がってるの?
雪子は気がついていないかもしれないけど、あなたは、また、話を逸らしたのよ。
話題が、あの人の雪子への想いに近づくと、すぐに、そうやって話をはぐらかすのは、なぜ?

「雪子、いい?ちゃんと訊いて?ね?」

「はいです・・・!」

「雪子さ、さっき「ならないかも」って言ったわよね?」

「うん、言ったよ・・・」

「それって、どういう意味なの?」

「どういう意味って、別に、ただの冗談だってば。もう~、裕子ったら変なの」

「ねぇ~、雪子。このことだけは真面目に答えてくれない?」

「ちょっと裕子、やっぱり少し変だよ。どうしたの、急に?」

「雪子さ、いつも私といる時と同じように、雪子は自分の旦那さんとも話しとかしてる?」

「えっ・・・?う~ん・・・してると思うけど・・・」

「嘘つかないで、してないでしょ?どうしてなの?」

「う~ん・・。そんなの分かんないよ」

「雪子が、私といる時と同じ雪子が雪子のままでいられた相手って、私、以外に誰かいた?」

「ううう・・・。誰もいないと思う・・・」

誰もいない?・・・私、以外に誰もいない?・・・。なぜ、噓をつくの?

普段から、雪子の考えていることが理解出来ないとはいっても、
それでも、雪子とは、幼い頃からの長い付き合いの裕子である。
さっきから、雪子が、あきらかに話をそらそうとしていることぐらい分からない裕子ではない。

話すべきなのかもしれない・・・裕子は、小さくため息をつきながらそう思った。
このことだけは、雪子に伝えるべきなのかもしれないと、少しのあきらめの中でそう感じていた。
そして、それを雪子に伝える言葉は、きっと、裕子にしか分からない悲しみなのかもしれない。

ただ、それを今の雪子に伝えたら、この子はどうなってしまうのだろうという不安もある。
私がそう思うのは、雪子と夏樹さんが恋人だった。いえ、違うわね・・・。
あの大人しくて物静かな雪子ではない雪子を見せた、私、以外の、ただ一人の相手であり、
誰にも見せたことがなかった雪子を見せた唯一の相手が夏樹さんだったから、正直言って怖いの。

分かる、雪子・・・?
今の、私の気持ちが・・・でも・・・。
でも、やっぱり、雪子には知る権利があるんだよね・・・きっと。

そのことを知って、この先、どうにかなってしまう雪子より、
このまま、何も知らないままでいる雪子の方が、私には、可哀そうに思えてしまうから。
やっぱり伝えるわね・・・あの人が言った言葉を・・・。

「私ね、あの人にこう訊いてみたの。私の親友は雪子って名前なんだけど、私が彼女と二人きりの時だけに使う彼女のあだ名を当ててみてよ!って」

裕子の言葉に、雪子の顔色が変わった・・・。それでも、裕子は、次の言葉を止めなかった。

「そしたら、あの人はこう答えたの・・・。(じゅんきん)でしょって。」
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