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心の時間

心の時間・・・その13

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さすがに、クリスマス当日というのは、不思議と、雪がそれなりに降ってくるらしい。
今日も、朝から小雪が降り始めたのだが、午後になるとピンポン玉の半分くらいの雪に変わった。

積もるのかな・・・?窓際の席で文庫本を開いて読んでいた雪子が窓の外を見ながら呟いた。
裕子と待ち合わせをする時は、いつも1時間ほど早く来て、
好きな小説を読むのが、雪子の楽しみのひとつなのである。

左手を少し丸めて、そっと頬を支えるように添えて読みながら、
少し長めの髪を、時々、かきあげる仕草は、少し訳アリのような雰囲気を漂わせている。

もともと、若い頃から喫茶店で時間をつぶすのが好きな雪子だったのだが、
それは、今も変わりなく、週に1度は好きな時間を楽しんでいた。
小さい頃から大人しく物静かな雪子なのだが、かといって無口というわけでもなく、
それならば、人と接することが苦手かといえばそういうわけでもない。
1人で過ごす時間というか、自分だけの世界の中にいる時に感じる雰囲気が好きなのである。

雪子は、自分の感情をあまり表に出さない性格のためか、
どちらかというと、自分の意見をいうよりも周りの雰囲気に合わせるといった女性である。
そんな大人しい雪子なのだか、唯一、裕子といる時だけは自分の感情を素直に出せるらしい。

裕子にしてみれば、いつも自分と会っている時の雪子が基本形の姿に見えてしまうらしく、
雪子は、自分以外の人の前では、いつも猫をかぶっていると思っているらしい。
おそらくは、なかなか人になつかない影猫のような性格が雪子なのかもしれない。

雪子と裕子は、小さい頃からお互い家が近所だったということもあって、
小さい頃からいつも一緒にいた裕子にだけは、素直な自分を見せることが出来るのかもしれない。

いや・・・もうひとり・・・。
雪子が、自分を素直に見せることが出来た相手。「もう終わったこと」雪子の口癖である。
ふふっ・・・。今も、思い出すと、どうしても笑みが抑えきれなくなってしまう。

まさか、あのふーちゃんが女性になってたなんて、今でも信じられないけど。
でも、この写真を見ると間違いなくふーちゃんだし・・・。
それに、昨日、メールしてた時のふーちゃんったら本当に女言葉なんだもん。

本当に、ふーちゃんとメールしたんだよね・・・。
今でも、まだ信じられないけど・・・夢じゃないよね?

よっぽど嬉しかったのか、それとも懐かしさからなのか。
きっと、それは、雪子にしか分からない感情なのかもしれない。
茶系の格子模様のハンドバッグからスマホを取り出して、
裕子に送ってもらった夏樹の色々な写真を見ながら、雪子は一人で微笑んでいた。
喫茶店の玄関が開くと、裕子が手で肩に積もった雪を払いながら入ってきた。

「やっぱり、早く来てたのね?」

「ふふっ・・・」

裕子は、コーヒーを頼むと、雪子が座っている席と向かい合わせの席に座った。
窓の外を見ながら着てきたコートを座った状態で脱いで隣の席にバッグと一緒に置くと、

「この分だと積もるわね?」

「うん・・・」

「そういえばさ、あたしの旦那、雪子のことが好きみたいよ」

「どうして・・・?」

「どうしてって、いつも雪子が優しく接してるからじゃないの?」

「だって、裕子の大切な旦那様だもん。やっぱ優しく接しないとダメでしょ?」

「う~ん・・・。時々、怖くなるわね。雪子の性格って」

「そんなことないよ」

「あるわよ!今だって、言葉を変えて嫌いだって言ってるようなもんじゃないのよ」

「嫌いだなんて、そんな風に思ったりしたことないよ」

「私の前でまで猫かぶりしなくてもいいわよ」

「ふふっ・・・。でも、裕子が元気になって良かったね」

「雪子が、あの人にメールしてくれたんでしょ?」

「う~ん・・・メールはしたんだけど肝心なことを言い忘れちゃって」

「肝心なことって?」

「裕子のこと・・・」

「何?そうなの?てっきり、雪子が私にメールしてあげてって言ってくれたとばかり思ってたわよ」

「本当はそれを伝えたかったんだけど、伝えたのは、裕子が最近元気がないってことだけだよ」

「雪子は、あの人と、いつからメールしてたの?」

「昨日だよ。昨日の夜が初めてだよ」

「昨日・・・?それじゃ、何時頃までメールしてたの?」

「うんとね、確か3時頃までだったと思うよ」

「夜中の・・・?」

「うん、夜中の2時頃から3時頃まで」

それじゃ、あの人は、その後、すぐに私にメールをよこしたのね?
でも、どうして、私なんかに・・・?
雪子とメールで再会したんだから、もう、私のことなんかどうでもいいはずなのに。どうして?

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