愛して欲しいと言えたなら

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心の時間

心の時間・・・その5

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「ふーちゃん、かわいそうだね」・・・
そう呟きながら、何気ない素振りでお酒を飲む雪子を見ていると、
言葉の先にあるはずの悲しさというよりも、どこか嬉しそうにしているように見えてくる。

とはいっても、いったい、何が嬉しいのか、裕子には分からないのだが。
それでも、写真を一度見ただけで、すぐにあの人だと分かったと言った雪子には、正直、驚かされた。

どちらにしても、雪子にメルアドを教えたとしても、はたして連絡を取ろうとするかしら?
昔の友達なり同級生とかなら、懐かしいということで連絡を取ってみようと思うかもしれないけど。

それが、昔の恋人だったとしたら・・・

私の場合は恋人というよりも、若い頃に少しお付き合いをしただけのお相手。
どこにでもあるような、誰でも経験するような、懐かしい想い出話になるんだろうけど。

でも、雪子とあの人は、普通の恋人とも少し違うように感じていたのを、今でも覚えているわ。
それは、さっき、雪子に見せた1枚の写真が、それを証明しているように。

裕子は、メールに添付されて送られてきた写真を見せられても、全然、気がつかなかった。
それも、1枚2枚ではないのにもかかわらず、まったくといって気がつかなかった。
それだけではない。3か月くらい普通にメールの交換をしていたのである。
それなのに、メル友の相手があの人だと、気がつくことなどなかった・・・。

でも、雪子はたった1枚の写真を見ただけで、すぐに、あの人だと分かってしまうなんて。
やっぱり、私なんかとは、全然、違うのね・・・。
それだけ、あの人を愛していた。そして、あの人に愛されていた雪子なのね。
私としては、それなりに、ちょっとは悔しいけど。

だからなのかしら?
写真の女性があの人だと分かっても、何もなかったかのように自然に受け入れてしまう雪子。
それなのに、そのことに関心を示すこともなく、感情も見せないで他人事のように話すのは、
それは、遠い日の記憶だから?それとも、今は、お互い、違う人生を生きているから?

もしかしたら、あの頃のように、もう一度、あの人と話が出来るかもしれないと分かっても、
素知らぬ顔でいるのは、あの人の人生を気遣って、迷惑かけてはいけないという想いからなの?

「ねぇ~、雪子・・・?」

「な~に・・・?」

「メルアドを教えても、雪子は、あの人にメールする気ないでしょ?」

「どうして・・・?」

「どうしてって・・・。なに?それじゃ、メールしてみるの?」

「ふふっ・・・しないわよ・・・」

「やっぱり・・・。あ~、ビックリしたわ」

「どうして、裕子がビックリするのよ?」

「どうしてって言われても・・・。まあ~、なんていうか・・・って、ことよ」

「んんん?よく分かんないけど。でも、私から、ふーちゃんにメールとかしないと思うよ」

「でも、私からってことは、あの人からメールが来たらメールするってこと?」

「そんなのありえないよ・・・」

「ありえないって?どうして、そんなことが分かるのよ?」

「だって、ふーちゃん、私のアドレスとか知らないでしょ?」

「雪子がいいなら、私が、雪子のメルアドをあの人に教えるけど?」

「別に教えなくてもいいよ。それに教えたとしても、ふーちゃんからメールなんて来ないから」

「そんなの分かんないわよ?」

「分かるよ・・・。ふーちゃんは、そういう人だから」

「いいわよ、それじゃ、今度、訊いてみるから」

裕子の言葉を気にする素振りを見せることもなく、いつものように、静かにお酒を飲んでいる。
そんな雪子に、それじゃ、今からメールをしてみるわよ?とは、裕子には言えなかった。

なぜ・・・?

今、あの人にメールをしたら、また、雪子に、あの人を奪われてしまうから?
違うわね・・・。雪子には、家庭があるからよね。
私から見ても、とても幸せな家庭に見えるものね。
今の雪子にとって、あの人は、記憶の片隅にある遠い過去の恋物語。

そうは思ってみても、自分だけが、あの人のアドレスを知ってるというのは、
裕子にしてみれば、どうしても、気が引けてしまうのである。
自分だけが、あの人のメルアドを知っていて、雪子が知らないというわけにはいかないのだから。
雪子がメールをすることがないとしても、とりあえず、メルアドだけは教えておこうと思った。

「裕子、誰にメールしてるの?」

「気になる・・・?」

「別に、気にならないけど。ふーちゃんなら、もう寝てると思うよ」

「寝てないわよ。あの人は夜行性だから朝まで起きてるわよ」

「ふーちゃん、眠れないのかな?」

おいおい・・・。だから、どうして、そういう風に考えるのよ?

「あっ、メールきたよ・・・」

「そうよ。今、送ったから。それが、あの人のメルアドよ」

「どうして、私に?」

「だって、私だけ知っていて、雪子が知らないっていうのは、なんか嫌じゃない?」

「そうかな?でも、ありがとうね。教えてくれて」

「いいわよ・・・」

これで、よかったのよね・・・。
たとへ、あの人にメールをすることがなくても、やっぱり、雪子には教えるべきだと思うし。

私、間違ってないわよね・・・。今度、あの人にも訊いてみようかしら?
もし、雪子のメルアドが分かったら、雪子にメールするの?、それともしないの?って。
そしたら、あの人は、なんて答えるかしら?
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