愛して欲しいと言えたなら

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心の時間

心の時間・・・その3

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どうにかして、あの人に関連したような、でも、遠回りにっていうか・・・。
雪子の方から、あの人のことでも話題にしてくれれば、話は簡単なんだけど。
この子ったら、高校卒業以来、滅多に、あの人のことを話したことがないのよね。
それどころか、ちょっとした話題にすらしたことがないし。

まるで、あの人のことを避けているっていうか、そのことには触れないようにしてるっていうか。
そういえば、私が、あの人と二度目の別れになりそうで、すごく落ち込んでた頃に、
雪子ったら、知らない間に、あの人と付き合い始めてたのよね。

雪子に、あの人と付き合っていると聞かされた時は、正直言って信じられなかったわ。
最初は、あの人と上手くいかなくて、毎日、ふさぎ込んでいる私のことを、雪子が心配して、
別れそうになっているその理由が知りたくて、あの人に連絡をしてくれたんだっけ。

嬉しかったな~。
いつも、影猫のような雪子が、ふさぎ込んでいる私のために知らない男に電話をするなんて。
それが雪子にとって、ものすごく勇気がいることだって思ったから、とても嬉しかった。
でも、それが、どうして、あの人と雪子が付き合うことになるのよ?とも、思ったけど。

それでも、まるで、おとぎの国にでもいるような臆病な雪子が、あの人と付き合うという行為に、
どれだけの勇気が必要だったんだろうって思ったら、なぜかしら、不思議と許せちゃった。

今回は、あの人と、私は、別に付き合ってはいないけど・・・。
それでも、これで、また、私から雪子にあの人のことを言えば、昔と同じような感じになるし。
なんかね~、これじゃ、まるで、あの人と雪子の橋渡しをするのが、私の運命みたいじゃない?
で・・・どうして、あの人が、女になってるわけ?

「さっきから、何、考えてるの?」

「えっ・・・?」

「なんか、一人で難しそうな顔をしたり、急に含み笑いみたいな顔になったりして」

「そ・そうかな?」

「そうよ、なに考えてたの?」

なにって・・・。あんたのことよ!とは言えないし・・・。
とにかく、なんとかして雪子が今はもう、あの人には何の感情もないってことを訊き出さないと。

別に、私が、あの人とメル友だってことを、雪子に教えなければいいんだろうけど。
でも、そういうわけにはいかないような気がするし。
もし、雪子が、今でも、あの人のことが好きだったとしたら・・・。

あの時、あの人との別れを、壊れた言葉でも隠せないまま泣き続ける雪子の泣き顔が、
30年以上も過ぎた遠い日の出来事なのに、なのに、今でも、忘れられないのよ。

今、もし、あの人と、もう一度、話が出来ると知ったなら・・・。
たとへ、メル友でも、どんな形でもいいから、もう一度、あの人と話をしてみたい。
もし、雪子が、心のどこかでそんな風に思っているとしたら・・・。

そういえば、雪子は、あの人のことを「ふーちゃん」って呼んでたのよね。
どうして「ふーちゃん」なの?って訊いたら、なんとなくって、笑ってたけど。

「裕子は、メル友さんのことを考えてるの?」

「えっ・・・?別に、考えてないわよ」

「だって、心配なんじゃないの?」

「どうして、私が心配するの?」

「だって、そのメル友さん騙されてるかもしれないんでしょ?」

「違うのよ。別に騙されてるとか、そういうことじゃないのよ」

「好きなのね、そのメル友さんのことが」

いや・・・そうじゃなくて・・・。
もう、どうして、変な方に話を持って行くかな?この子ったら・・・。

「ねぇ~、雪子」

「な~に?」

「雪子も、話してみない?」

「話すって、誰と?」

「誰とって、さっき写真で見せたメル友だけど、この人って面白いのよ」

「私が・・・?」

「そうよ!とりあえず、メルアド教えるからさ、雪子も話してみてよ」

「やだもう~、裕子ったら。私、そんな趣味ないわよ」

あああ~っ!もう~!
この子の頭の中って、いったい、どういう思考回路してるのよ。

「だから、そんな関係じゃないってば!私だって、そんな趣味あるわけないでしょ?」

「ふふっ・・・」

「なに・・・?なによ・・・?」

「いいの?私に、その人のメルアドなんて教えちゃっても」

「いいのって、だから、ただのメル友だって言ってるじゃない?」

「そうじゃなくて・・・」

「そうじゃなくてって・・・どういうこと?」

「そのメル友さんは裕子の大切な人・・・。違う?」

大切な人って・・・。雪子?いったい、何を言ってるの?
裕子は、寂しさとも、嬉しさとも、少し違う笑みを浮かべる雪子の言葉に少し戸惑っていた。

「大切な人って、別に、ただのメル友よ。じゃなきゃ、メルアド教えるなんて言うわけないでしょ?」

「裕子って、昔から、私にだけは、優しいのよね」

「えっ・・・?」

「裕子は、私のことを心配してくれてたんでしょ?」

「ちょっと・・・雪子・・・?」

雪子はグラスの中のウイスキーを少し傾けて遊ぶ仕草で笑みを流すと
膝の上から飼い主を見つめる猫のような視線で裕子を見つめ返しながら

「ふーちゃんなんでしょ?さっきの写真の女の人・・・」

「えっ・・・?」

思ってもみなかった雪子の言葉に、驚きよりも、なぜか寂しさが込み上げてくる裕子だった。
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