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潜む殺意

潜む殺意・・・その11

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早い!早い!まるで100メートル8秒フラットかと思わせる程のスピードで駆け抜けていく。
そして、その勢いは衰える事なく住宅のフェンスを抜けて道路へと出ると滑り込みの体制のまま右に曲がる。
しかも、空回りの滑る足もなんのその、まるでそこに遠心力など存在していないかの如く直角に曲がるとそのまま消えて行った。

突然、突風の如く消えて行った台風倉根に訳が分からないまま慌てたのは後輩である。
とにかく後輩も倉根の残像を頼りにフェンスドアを抜けて全力疾走で後を追いかけていく。
後輩が倉根と同じように右側に曲がって走っていくと100メートル程先にある自動販売機の前でしゃがんでいる倉根が見えた。

「せんぱ~い!僕を置いて行くなんてひどいじゃないですか?」

息も絶え絶えの後輩が、吸う息と吐く息を間違えながらも訴えるように騒いでいた。

「いや~マジで死ぬかと思った!」

「何言ってんすか?それは僕の方ですよ!」

「悪い!悪い!」

「でも、どうしたんですか?いきなり走っていなくなってしまったからビックリしちゃいましたよ?」

「いきなりって、お前、聞こえなかったのか?」

「聞こえなかったって、何がです?」

「何がって・・・音だよ!音!」

「音って、何の音です?」

「玄関だよ!玄関の鍵が閉まる音!ほんとに聞こえなかったのか?」

「いえ、何も聞こえなかったですけど。あの・・・もしかして、玄関の鍵が勝手に閉まったとかって?ないですよね?」

「あったんだよ!」

「マジで?」

「ああ、僕が玄関の鍵を閉めようと鍵穴に鍵を近づけたらさ、いきなりガチャって勝手に鍵が閉まったんだよ!」

「うっそ?」

「お前、僕に訊いただろ?2階に何か見えるんですかって?」

「ええ、はい。ってか、えっ?あの、もしかして、先輩には何か見えていたんですか?」

「ああ、実はな。僕が何気なく2階の窓の方を見た時に居たんだよ。髪の長い女性がさ、居たんだよ。しかも、こっち見てさ、笑ったんだよ!」

「えええ===っ?マジ?うそ?マジっすか?」

「んでもさ、もう一度さ、見返した時には居なかったんだよな。だからさ、見間違えかな?っても思ったんだけど・・・」

「思ったんだけど・・・って、何かその後に続くんですか?」

「まあな、もしかしたら?っても思った事は思ったんだけど、でも、まさかな?っても思ってさ」

「な・な・なんなんですか?その、まさかっていうのは?」

「いやな、もしさ、2階の窓に見えたのが見間違えじゃなかったとしたらさ、んでもってさ、見返したら居なかったとしたらさ、もしかして?ってな」

「だから、何なんですか?その、もしかしてって言うのって?」

「うん、だからさ、見返した時に居なかったって事はさ、もしかして、移動した?ってさ。んでさ、思ったんだよ!もしかして、玄関に移動して来たんじゃないかなって?」

「えっ?マジすか?」

「だからさ、想像してみろよ?あの状況でさ、あの家の玄関の向こう側に居るかもしれないって思ったら怖いのなんのって!」

「そしたら居たんですね?」

「としか思えないだろ?だってさ、勝手に閉まったんだぜ?玄関の鍵が勝手に閉まったんだよ!」

「えええ===っ?ってか、僕ひとり置いて逃げちゃうなんてあんまりですよ!」

「んなこと言ったって仕方ないだろ?それどころじゃなかったんだからさ」

「まあ、確かに気持ちは分かりますけど・・・」

「とりあえず、何か飲まないか?僕がおごるからさ!なっ!」

恐怖の館からの無事生還に安堵したらしく倉根は笑いながら後輩に何が飲みたいか訊いている。
ちょうど、自販機のボタンを押して出てきた缶コーヒーを取っていると自動車が近づいて来る音が聞こえてきた。

別に自動車のエンジン音が聞こえてきたからと気にする程の事でもないのだが
倉根が何気なく近づいてくる自動車の方に目をやると見覚えのある男性が視界に入って来た。
少し徐行気味に通り過ぎていく自動車のテールライトあたりを見ながら倉根が呟いた。

「あれ?あの人って、確か・・・」

「どうしたんです?先輩?」

「いや、今の自動車の運転していたのって被害者の女性の旦那さんじゃなかったかな?」

「うそ?旦那さんって、確か海外に戻ったんじゃなかったんですか?」

倉根の横で騒いでいる後輩を制止するようにしながら自動車の方を見ていると
先程、やっとの思いで脱出してきた被害者の女性の家の前で止まった。

「やっぱりそうだ!間違いない!被害者の旦那さんだよ!」

と言うか、あやねさんの言っていた通りだ!
近いうちに旦那さんが戻って来るって言っていた通り旦那さんが戻って来たみたいだ!
というか・・・入るの?
もしかして、入るの?あの家に?あの、恐怖の館に入っちゃうの?
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