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消えていくトリック
消えていくトリック・・・その19
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「これを、消えていくトリック・・・って、言うのよ」
「消えていくトリック?」
「そう!普通はトリックを見破るとかって言うけど、トリックを消していく!なんて聞いたことないでしょ?」
「確かに・・・と言いますか、初めから存在しないトリックというのも、今日、初めて聞いたんです」
「ふふっ、でしょうね。被害者の女性の唯一のミスは殺害現場に指紋を残さなかった事なのよ!」
「いや~それを言われますと、そんな大事な事を見逃していた自分がなんとも・・・」
「あんたじゃなくても見逃すと思うから気にしなくてもいいと思うわよ」
「いや、面目ない次第でなんとも・・・」
「まあ、あんたたち警察は証拠を探すのがお仕事になってしまうから仕方がないんじゃない?そうじゃなくてもさ、証拠がないって観点から証拠がない事が証拠とは考えないもんね!」
確かに、あやねさんの言う通りなのかもしれない。
僕たち警察は、事件が起きると無意識のうちに犯人探しが目的になってしまっているのかもしれない。
そのために、証拠を探そうと色々な情報を集めて状況証拠を見つけていく。
そして、その見つけた状況証拠から物的証拠なり裁判で通用する証拠を探し出していく。
だから、最初から結論ありきの考え方に固視してしまっていて、いつの間にか、その事に何の疑念も持たないまま犯人探しへと進んでいるのかもしれない。
証拠がない事が証拠・・・正直、考えもしなかった・・・。
「確かに、あやねさんの言う通りかもしれません。最初から犯人探しに頭の中が凝り固まっていたのかもしれません」
「だから言ったでしょ?被害者の女性の最後の姿。そして、なぜ?この格好で?この時点で選択肢はふたつ。ひとつはS?もうひとつはМ。ここに無意識な先入観が入り込んでしまったために選ぶべき選択肢を間違えてしまったのね」
「まあ、確かに、この状況で被害者の女性がSかМかなんて普通考えないですから」
「ところが、ここで被害者の女性の完全犯罪に唯一のミスが残ってしまった」
「それが、指紋になるわけですね」
「そっ!捜査線上に浮かんできた犯人の予定の人の性格と事件現場の状況の違和感に気が付いていれば、見つかっていく状況証拠と捕まってる人の言葉の持つ意味がまるっきり反対の意味になってしまうの?分かる?」
「その辺にくると、なんかややこしくて、わけが分からなくなってしまうんです」
「まあ、ひとつひとつ考えてみるといいわ。それで、捕まっている人の言葉はどう?」
「言葉ですか・・・う~ん」
「玄関の鍵が掛かってて家の中に入れなかったは?」
「いや~・・・もう、そこからこんがらかってしまいます」
「几帳面な性格でもないのに、ドアの内側の指紋だけを拭き取って偽装を装うは?」
「あっ!確かに!」
「それって、あんたがあたしのところに来て言ってた腑に落ちない事じゃなかったかしら?」
「そうです!そうです!」
「でしょ?」
「見えていたはずなのに、どこかうわのそらの認識だったんですね」
「ここで、お庭の穴掘りが出てくるとどうなるかしら?」
「どうなるかって訊かれましても・・・あの、何か関係があるんでしょうか?」
「被害者の女性がSか?Мか?」
「あっ!と言いますか、そこ角度から攻めて来るんですか?」
「被害者の女性がSだと認識すると、捕まってる人の言葉の信憑性はどうなっていくと思う?」
「う~ん・・・」
「お庭の穴を掘ってはメモを見つけて、んで、メモに書かれている通りにメモを燃やしてはまた穴掘りして、んでもって、またメモを見つけてメモを燃やして。んな事を言われた通りに守るような男が完全犯罪を目論むような頭の切れる犯人なのかしら?」
「確かに言われてみれば・・・」
「目の前でお金を撒かれて、その撒かれたお金をせっせせっせと拾ってるような男よ?」
「そうなんですよね・・・」
「う~ん、まだ、理解が出来ていないようね?」
「だって、針の穴に糸を通そうとしてる時に似てますから・・・ははは」
「針の穴に通りそうで通らない細い糸を見つめているみたいな感じなんでしょ?」
「ええ、そうなんです!」
「お団子状態に絡まってる糸を解すのとは正反対だもんね!」
その通りだと倉根は思った。
団子状態に絡まってる糸を解すのなら、じっくりと構えて分か箇所から一本一本と糸を解いていけば、解いた分だけ糸の絡まりが減っていくわけなのだが・・・。
これが、通りそうで通らないという状況になると話がまるっきり違って見えてくるわけで
目の前にあるはずの糸が見えているようで見えていないような状況になってしまう。
そのうち、だんだんと針の穴と糸との位置までが合ってるのか?ずれているのか?さえも分からなくなってしまう。
これは、見えそうで見えない、という状況とはまったく違う状況なのである。
見えそうで見えないのであれば、その見える部分を見失わないようにすればいいわけなのだが。
針の穴に糸とを通す状況となると、その針の穴と糸を見つめれば見つめる程にぼやけてしまい
見えているものが、ちょっとでも気を抜くと見えなくなってしまう錯覚に陥ってしまう。
尚且つ、それがひとつならまだしも、次から次へと同じような状況が現れてくるのだから
余程の精神の集中が出来る人でなければ到底無理な話なのかもしれない。
「何をそんなに難しそうな顔してんのよ?囲碁や将棋の戦いでもあるまいし。もう一度、始点に戻って被害者の女性がSという設定に変えて、そこから、改めてひとつひとつを辿って行けば見えてくるわよ」
「消えていくトリック?」
「そう!普通はトリックを見破るとかって言うけど、トリックを消していく!なんて聞いたことないでしょ?」
「確かに・・・と言いますか、初めから存在しないトリックというのも、今日、初めて聞いたんです」
「ふふっ、でしょうね。被害者の女性の唯一のミスは殺害現場に指紋を残さなかった事なのよ!」
「いや~それを言われますと、そんな大事な事を見逃していた自分がなんとも・・・」
「あんたじゃなくても見逃すと思うから気にしなくてもいいと思うわよ」
「いや、面目ない次第でなんとも・・・」
「まあ、あんたたち警察は証拠を探すのがお仕事になってしまうから仕方がないんじゃない?そうじゃなくてもさ、証拠がないって観点から証拠がない事が証拠とは考えないもんね!」
確かに、あやねさんの言う通りなのかもしれない。
僕たち警察は、事件が起きると無意識のうちに犯人探しが目的になってしまっているのかもしれない。
そのために、証拠を探そうと色々な情報を集めて状況証拠を見つけていく。
そして、その見つけた状況証拠から物的証拠なり裁判で通用する証拠を探し出していく。
だから、最初から結論ありきの考え方に固視してしまっていて、いつの間にか、その事に何の疑念も持たないまま犯人探しへと進んでいるのかもしれない。
証拠がない事が証拠・・・正直、考えもしなかった・・・。
「確かに、あやねさんの言う通りかもしれません。最初から犯人探しに頭の中が凝り固まっていたのかもしれません」
「だから言ったでしょ?被害者の女性の最後の姿。そして、なぜ?この格好で?この時点で選択肢はふたつ。ひとつはS?もうひとつはМ。ここに無意識な先入観が入り込んでしまったために選ぶべき選択肢を間違えてしまったのね」
「まあ、確かに、この状況で被害者の女性がSかМかなんて普通考えないですから」
「ところが、ここで被害者の女性の完全犯罪に唯一のミスが残ってしまった」
「それが、指紋になるわけですね」
「そっ!捜査線上に浮かんできた犯人の予定の人の性格と事件現場の状況の違和感に気が付いていれば、見つかっていく状況証拠と捕まってる人の言葉の持つ意味がまるっきり反対の意味になってしまうの?分かる?」
「その辺にくると、なんかややこしくて、わけが分からなくなってしまうんです」
「まあ、ひとつひとつ考えてみるといいわ。それで、捕まっている人の言葉はどう?」
「言葉ですか・・・う~ん」
「玄関の鍵が掛かってて家の中に入れなかったは?」
「いや~・・・もう、そこからこんがらかってしまいます」
「几帳面な性格でもないのに、ドアの内側の指紋だけを拭き取って偽装を装うは?」
「あっ!確かに!」
「それって、あんたがあたしのところに来て言ってた腑に落ちない事じゃなかったかしら?」
「そうです!そうです!」
「でしょ?」
「見えていたはずなのに、どこかうわのそらの認識だったんですね」
「ここで、お庭の穴掘りが出てくるとどうなるかしら?」
「どうなるかって訊かれましても・・・あの、何か関係があるんでしょうか?」
「被害者の女性がSか?Мか?」
「あっ!と言いますか、そこ角度から攻めて来るんですか?」
「被害者の女性がSだと認識すると、捕まってる人の言葉の信憑性はどうなっていくと思う?」
「う~ん・・・」
「お庭の穴を掘ってはメモを見つけて、んで、メモに書かれている通りにメモを燃やしてはまた穴掘りして、んでもって、またメモを見つけてメモを燃やして。んな事を言われた通りに守るような男が完全犯罪を目論むような頭の切れる犯人なのかしら?」
「確かに言われてみれば・・・」
「目の前でお金を撒かれて、その撒かれたお金をせっせせっせと拾ってるような男よ?」
「そうなんですよね・・・」
「う~ん、まだ、理解が出来ていないようね?」
「だって、針の穴に糸を通そうとしてる時に似てますから・・・ははは」
「針の穴に通りそうで通らない細い糸を見つめているみたいな感じなんでしょ?」
「ええ、そうなんです!」
「お団子状態に絡まってる糸を解すのとは正反対だもんね!」
その通りだと倉根は思った。
団子状態に絡まってる糸を解すのなら、じっくりと構えて分か箇所から一本一本と糸を解いていけば、解いた分だけ糸の絡まりが減っていくわけなのだが・・・。
これが、通りそうで通らないという状況になると話がまるっきり違って見えてくるわけで
目の前にあるはずの糸が見えているようで見えていないような状況になってしまう。
そのうち、だんだんと針の穴と糸との位置までが合ってるのか?ずれているのか?さえも分からなくなってしまう。
これは、見えそうで見えない、という状況とはまったく違う状況なのである。
見えそうで見えないのであれば、その見える部分を見失わないようにすればいいわけなのだが。
針の穴に糸とを通す状況となると、その針の穴と糸を見つめれば見つめる程にぼやけてしまい
見えているものが、ちょっとでも気を抜くと見えなくなってしまう錯覚に陥ってしまう。
尚且つ、それがひとつならまだしも、次から次へと同じような状況が現れてくるのだから
余程の精神の集中が出来る人でなければ到底無理な話なのかもしれない。
「何をそんなに難しそうな顔してんのよ?囲碁や将棋の戦いでもあるまいし。もう一度、始点に戻って被害者の女性がSという設定に変えて、そこから、改めてひとつひとつを辿って行けば見えてくるわよ」
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