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消えていくトリック
消えていくトリック・・・その16
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なぜ?こんな格好で・・・確かにそうである。
他の同僚刑事たちは、まあ、趣味が行き過ぎての犯行と気にも留めなかったのだが
今回の事件で倉根が一番引っかかっていたのが被害者の最後の姿なのである。
「どう?あんたが一番引っかかっていた謎だったんじゃない?」
「えっ?」
「違ったかしら?」
「ええ、確かに。でも、どうして分かったんですか?」
「どうして?」
「ええ。僕自身もあやねさんに言われるまでは全然気が付かなかったっていうか、頭の中にだけ存在していた感じで。でも、今、あやねさんに言われた時に思い出したっていうか。そうそう、僕が一番引っかかっていたのってこれだったんだって」
「だから、さっき言ったじゃない?認識しているようで認識していないって」
「あっ、うわのそらでってやつですね」
「そうよ。人間ってね、答えを探そうとするとね、自分が必要とする答えに結び付くものだけを意識してしまうの。だから、よく言うじゃない?いったい、どこで間違えたんだろう?って」
「ええ、確かに・・・」
「もっと注意して見ていれば・・・もっとちゃんと考えていれば、んでもって、もっと周りの人のいう事を聞いていればってね!」
「確かに言われてみれば、そういう話ってよく聞きますね」
「何言ってんのよ?あんたたちの専売特許なんじゃないの?原点に戻れって!違う?」
「はあ、なんとも面目ない次第で返す言葉もありません」
確かに、あやねの言う通りなのである。
意識しているようで意識していなかったというか、見ているようで見ていなかったというか。
確かに頭のどこかでは引っかかっていたはずなのに、どこかうわのそらだったのかもしれない。
それに、いつの間にか容疑者逮捕という答えに固視していたのは間違いないのかもしれないし
僕自身も、冤罪というひとつの疑念に疑問を持つ事にだけ固視していたのかもしれない。
そんな、申し訳なさそうにしている倉根に笑みを浮かべながらあやなが言葉を声に乗せる。
「これが、初めから存在しないトリックの正体なのよ!」
初めから存在しないトリックの正体・・・。
あやねさんは、初めから分かっていたんだ。
確かに、あやねさんの場合、一般的な捜査という方法をまったく必要としないところがあるけど、
一般的には、関係者や背景などを色々な人からの聞き込みや情報を元に進めていくわけだし
その途中で、新しい情報や疑問点などを精査していきながら事件の全体層を作り上げていくのが
ひとつのセオリーとして我々は事件を解決していくのである。
しかし、あやねさんは事件の終焉が、その事件の始点であり全てであるという考えなのである。
今回の事件で言えば、この殺害現場が事件の終焉ということになる。
そして、それはそのまま事件の始まりであり終わりである。これが、あやねの考え方なのである。
我々は、初めから間違っていたのかもしれない。
我々刑事は、犯人探しに躍起になってばかりで大切な何かを見ようともしなかった。
あやんさんが言った言葉・・・なぜ?こんな格好で・・・なのである。
他の同僚刑事たちは、まあ、趣味が行き過ぎての犯行と気にも留めなかったのだが
今回の事件で倉根が一番引っかかっていたのが被害者の最後の姿なのである。
「どう?あんたが一番引っかかっていた謎だったんじゃない?」
「えっ?」
「違ったかしら?」
「ええ、確かに。でも、どうして分かったんですか?」
「どうして?」
「ええ。僕自身もあやねさんに言われるまでは全然気が付かなかったっていうか、頭の中にだけ存在していた感じで。でも、今、あやねさんに言われた時に思い出したっていうか。そうそう、僕が一番引っかかっていたのってこれだったんだって」
「だから、さっき言ったじゃない?認識しているようで認識していないって」
「あっ、うわのそらでってやつですね」
「そうよ。人間ってね、答えを探そうとするとね、自分が必要とする答えに結び付くものだけを意識してしまうの。だから、よく言うじゃない?いったい、どこで間違えたんだろう?って」
「ええ、確かに・・・」
「もっと注意して見ていれば・・・もっとちゃんと考えていれば、んでもって、もっと周りの人のいう事を聞いていればってね!」
「確かに言われてみれば、そういう話ってよく聞きますね」
「何言ってんのよ?あんたたちの専売特許なんじゃないの?原点に戻れって!違う?」
「はあ、なんとも面目ない次第で返す言葉もありません」
確かに、あやねの言う通りなのである。
意識しているようで意識していなかったというか、見ているようで見ていなかったというか。
確かに頭のどこかでは引っかかっていたはずなのに、どこかうわのそらだったのかもしれない。
それに、いつの間にか容疑者逮捕という答えに固視していたのは間違いないのかもしれないし
僕自身も、冤罪というひとつの疑念に疑問を持つ事にだけ固視していたのかもしれない。
そんな、申し訳なさそうにしている倉根に笑みを浮かべながらあやなが言葉を声に乗せる。
「これが、初めから存在しないトリックの正体なのよ!」
初めから存在しないトリックの正体・・・。
あやねさんは、初めから分かっていたんだ。
確かに、あやねさんの場合、一般的な捜査という方法をまったく必要としないところがあるけど、
一般的には、関係者や背景などを色々な人からの聞き込みや情報を元に進めていくわけだし
その途中で、新しい情報や疑問点などを精査していきながら事件の全体層を作り上げていくのが
ひとつのセオリーとして我々は事件を解決していくのである。
しかし、あやねさんは事件の終焉が、その事件の始点であり全てであるという考えなのである。
今回の事件で言えば、この殺害現場が事件の終焉ということになる。
そして、それはそのまま事件の始まりであり終わりである。これが、あやねの考え方なのである。
我々は、初めから間違っていたのかもしれない。
我々刑事は、犯人探しに躍起になってばかりで大切な何かを見ようともしなかった。
あやんさんが言った言葉・・・なぜ?こんな格好で・・・なのである。
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