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消えていくトリック

消えていくトリック・・・その9

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人間とは予期しない何かが起きた瞬間、ほんの少し時間が止まるらしい。
今の倉根もそれと同じように、ほんの少し止まった時間が後追い影のように
凄い勢いで飛んで行った皿の軌跡に動き始めた視線を走らせた。

えっ?・・・視線を移した倉根の視界に摩訶不思議な光景が飛び込んできた。
飛んで行った皿は、ちょうど、あやねのお腹のあたりを目指して飛んで行ったらしいのだが
なんと、そこには、隣の部屋でアニメを見ていたはずのくまのぬいぐるみがちょこんと座っていたのである。

そして、そのくまのぬいぐるみのお腹には、今飛んで行った皿が刺さっていた。
とはいえ、元がぬいぐるみなので、刺さっていたの表現が正しいのかどうかは分からないのだが
まるで、あやねを守るかのように飛んで行った皿をお腹で受け止めたように倉根には見えた。

「大丈夫よ。あなたの大切な彼女を警察に売ったりはしないから・・・」

えっ?・・・あやねが言葉を届けた方向へ倉根が反射的に視線を移す。

「でもね、決めるのは彼女よ?・・・それでいい?」

あやねの声に、倉根は反射的にあやねの方へ視線を戻す。

「コマちゃん、ありがと!守ってくれて!」

そう言いながら、くまのぬいぐるみのお中からお皿を手に取るとソファから立ち上がった。
そして、抱き抱えているくまのぬいぐるみをソファに置こうと前かがみになった瞬間、
倉根の視界に入り込んできたお尻が、長めのカーディガンで隠れているはずなのに、
縁側での光景が倉根に透視能力を与えてしまったらしく、お尻の半分以上が見えてしまう切れ込みのショートパンツが倉根には透けて見えていた・・・錯覚だけど。

そんな倉根の妄想タイムを知ってか知らずか、少し強めに腰を振って振り返ると
不意の遠心力でふわっと流れたカーディガンの隙間から可愛いお尻がお顔を出した。
目の前であらわになったあやねの可愛いお尻に目が点になっている倉根を笑みで見返しながら
あら?どうかしたの?・・・と、小悪魔声で流しながら窓際へ歩いていくあやね。

あやねが、窓際のテーブルで倒れている鉢植えを直している音に我に返ったらしい倉根が
「あの・・・」・・・の、後の言葉が続かないらしく頭の中の混乱が収まらないみたいである。

「そういえばさ、この事件っていつ頃に起きた事件なの?」

「あっ、はい。事件が起きてから、もう、10日になります」

「被害者の女性の旦那さんは?」

「それが、知らせを聞いてすぐに帰国したんですけど、よっぽど仕事が忙しいらくし、葬儀が終わったらすぐに海外に・・・」

「ふ~ん。それで仲の良い夫婦ね~」

「僕も初めはそう思ったんですけど、でも、二人の間にお子さんもいないみたいなので仕事の戻った方が気がまぎれるのかな?とも思ったんです」

「で、これは内緒にしちゃったわけ?」・・・そう言って、テレビ画面を指さすあやね。

「ええ、まあ。とりあえずベッドで絞殺という感じで・・・」

「そうかもしれないわね。まあ、被害者が亡くなった時の写真をわざわざ遺族に見せるってのもあまり聞かないし」

「ええ、それに犯人もすぐに捕まったわけですし。あっ、犯人じゃなかった」

「いいんじゃない?もう、犯人ってことで?」

「だから、そういうわけには・・・」

「状況証拠がそろい過ぎているんだし、あんた一人が騒いだって、きっと、誰も聞いてくれないわよ?」

「まあ、確かにそれはそうなんですけど・・・」

「それに、旦那さんだって、もう、お仕事に戻ってるわけだしさ。事件の真相なんて誰も望んでないんじゃないかな?」

「そんな事を言ったら、捕まってる男の家族はどうなるんです?」

「離婚のきっかけが出来てホッとしてるかもね?」

「それはちょっと・・・と言いますか、どうしてそう思ったんですか?」

「ん?んなもん、何年も定職にもつかないで、それに派遣社員として仕事が安定しているなら少しは安心も出来るんだろうけどさ」

「ええ、まあ。ここ5年くらいは仕事も途切れ途切れだったみたいです」

「でしょうね」

「でも、どうして、あやねさんには分かるんですか?」

「臨時収入よ」

「臨時収入・・・ですか?」

「そっ!被害者の女性からの臨時収入。んなもんが手に入るようになるとさ、人間なんてだんだん適当になっていくのよ」

「そんなもんなのかな?」

「そんなもんよ!って事で、犯人になってもらいましょう!」

「そういうわけにはいかないですってば!」

「あのね、いつまでもそんな事ばっか言ってるとさ、あんた殺されるかもよ?」

あやねの言葉に、倉根の時間が少し戻ったらしく鳥肌が目を覚ましてしまった。

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