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見える世界と見えない世界

見える世界と見えない世界・・・その15

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「でも、いわゆる一般的な呪いとか恨みから来る悪意よりも、もっと厄介な悪意もあるんですよ」

「呪いや恨みよりもですか?」

「ええ。一般的には呪いや恨みというのは、そのほとんどが呪う標的が決まっていることが多いので、それを知っていれば、それに備えたりや回避が出来るんですけどね」

「そんなことが出来るんですか?」

「ええ、でも、この場合も人間の世界での回避の方法と霊の世界での回避の方法が違うんですけどね」

「それっていうのは・・・?」

「人間が考える回避の方法は、呪いから助かりたいという願いの前提には、その呪われている自分が、その先も生きているということが前提になっている回避方法なんですよね」

「それでは、霊が考える回避方法というのは?」

「呪われいる人が、自ら死を選ぶという回避方法です。美奈子さんにはこの違いが分かるんじゃないですか?」

「いえ、そんなことを考えた事がないので・・・。でも、もしかして、霊からの呪いによって、その呪っている霊に命を奪われないように自ら命をということでしょうか?」

「ええ、その通りです。これを剣士同士の戦いで考えると分かりやすいですよね」

「あっ、はい。相手の剣に切られて死ぬよりも、自らの剣で自らの命を奪ってしまうということですよね?」

「ええ、自分が決して勝てない相手と知った時に、自らの誇りを守るための唯一の方法なのですが、それと同じなんです」

「確かに言われてみれば、それは、霊が望む死ではない。ですね」

「これも、先ほど言いました人間の善悪と霊の善悪の違いのひとつになるんですよ」

「それって、死後の世界と知らない者と死後の世界を知った者との違いみたいな感じなのでしょうか?」

「はい、その通りです。でも、この現象は別に霊だけに限った話ではないんですけどね」

「と、言いますのは?」

「スポーツの世界や商売の世界、それから政治や不良の世界。他にも色々ありますけど、その世界を知った者と知らない者とでは、その世界の善悪とそれ以外の世界の善悪の違いって分からないわけですよね」

「あっ、なるほど。確かにそうですよね」

「ただ、これが霊の世界となると、少し話が違って来てしまうんですよね」

「少し話が違って来てしまう?」

「はい。何が違うのかというと、霊の場合は人の命を奪っても法で裁かれないということなんです」

「もし、霊がそのことに気が付いたとすると・・・」

「ええ、今、美奈子さんが思った通りです」

「それが先ほど言っていました道徳や良識の変化になるわけですか?」

「はい。なので、幽霊は命を失ってもしばらくはそのことには気が付かないんです。自分が生きていた時の道徳や良識に囚われているから、亡くなってからすぐには恨む相手を呪ったりはしないんですよ」

「いわゆるタイムラグが生まれてしまうわけですね?」

「ええ、そうなんです。まあ、この話も話すと長くなりますのでこちらもちょっと飛んで頂きまして、先ほどお話をしました厄介な悪意の方を説明しますね」

「あっ、はい」

よく、恨みにより呪いとかの話を見たり聞いたりしている時に、
ちょっとした疑問があった美奈子だったのだが、あやねの話を聞いていてなるほどと思った。
これが霊が相手を呪うまでのタイムラグだったのか?と、それをさらりと話すあやねには、またまた驚かされてしまう美奈子であった。
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