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後編 魔法学園での日々とそれから
166.カルロスと二人
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夕方になるまでダンスの練習をして、疲れを感じながら裏庭のベンチに座る。私もお手本として何度かジェニーと踊ったし、口も少しは出した。
「お二人とも、ありがとうございました。こんなに難しかったんですね……」
一番疲れたのはユリアちゃんだ。
「だよね。分かる分かる」
「頑張ったわね、ユリア」
日が傾きかけている。空気も冷えてきた。
「そういえばユリアちゃん、ここで何度も練習しているとさすがにレイモンドたちにも気付かれると思うけど、趣味としてって言っとけばいい?」
「いえ、そのまま理由を言っちゃっていいですよ」
「え、いいの?」
だって、失恋ってほぼ確定しちゃってるんじゃ……。
「はい。カルロスさんも知っていますから」
「そうなの!?」
カルロス……そこはかとなくユリアちゃんに好意を持っているようにも見えるし、ただの友人にも見えるし分かんないんだよね……。
「相談したんです。想いを伝えるつもりはないけれど、ただサヨナラするのも寂しいなって。そうしたらダンスをアリスさんたちに習えないか聞いてみたらって……あ、これ、ご迷惑な提案をした理由がカルロスさんってことになっちゃいますね。聞かなかったことにしてください」
「そっか、そんな相談をするまで仲よくなっていたんだね」
「そうね、私も驚いたわ。ほっともしたわね」
「あ、そうですね。男性に完全に慣れたかもしれません。よかったです」
メイザーとカルロス、二人のお陰ではあるのかな。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうですね。少し汗もかいたんで着替えたいです」
立ち上がって中へと戻る。
ちょうどカルロスが外から帰ってきたところだった。
「あれ。皆さん、お揃いだったんですね」
「おかえりー、カルロス」
手を振ってすれ違う。
うーん……怪しい。
帰宅がてら、私たちがダンスをしていたか探っていたんじゃ。終わりそうな雰囲気を声から感じとって、帰ってきたんじゃ……。
二階で各自が部屋に入ると同時に、なんとなく三階へとカルロスを追いかけた。素早く風魔法を使ってだ。
「……カルロス」
「うわ! いきなり背後からは驚きますね。足音もしませんでしたが。あ、警戒していれば魔法の察知で気付けますよ。ご安心ください。考え事もしていて気を緩めすぎていました」
浮いてきたのはバレているか。
そっか、いずれ要人警護の仕事をしたいって言ってたし、心配されちゃうって思ったのかな。
「ユリアちゃんとダンスの練習をしていたの」
「そうだったんですか」
「カルロスも知ってるって聞いた」
「ええ、そうですね」
それ以上は言わない。
相変わらずの爽やかな笑顔を向けてくれるけれど……。
「答えなくてもいいけど……友情、なの?」
メイザーと同じ赤い髪。あっちはチャラそうで女慣れしていそう。こっちは爽やかな印象で瞳も青く澄んでいる。
でも、今は少しだけ……。
「アリス様にしては踏み込まれますね」
大きな体のカルロスがいつもより私の側に来た。
――そうだった、私はあの受験の日……この人を胡散臭いと感じたんだった。
耳元で、今まで聞いたことのない暗い声でカルロスが言う。
「あの人が相手でよかった。必ず失恋してくれる」
驚いて顔を凝視するも、爽やかに微笑むだけ。さっきの暗い声は本当にこの人から発せられたのだろうかと不思議になる。
「私の第一感って……当たるんだね」
「ああ、胡散臭いと思われたって言ってましたね」
「よく覚えてるね」
「あれから呼び捨てにしてもらえているんで、嬉しくて」
「爽やかで胡散臭い人だったんだね」
「優しくて穏やかでいい人って言葉が抜けていますよ」
「そんなにあの時、褒めたっけ。本当によく覚えてるね……」
「嬉しかったんで!」
にっこりと清々しい笑顔を向けられる。
うーん、カルロスも片思いか……。でも、なんとなくユリアちゃんを好きな男の子がいるというのは救いにはなる気はする。
「上達した頃に、教えてほしいって彼女に頼んだら聞いてくれますかね。騎士学校でも軽く教養としては習ったんですよ。男だらけなんで、本当に軽くですけどね」
「策士だねー……」
そういえば、ずーっと前にソフィが、好きな人相手なら計算だってしますとか言ってたっけ。
「俺の学科、王族や貴族の方の護衛につく可能性の高い生徒が多いですしね。一応知っておくべきってことなのか、ごくたまにダンスの授業が入るらしいんですよ。騎士学校の時と同様に先生相手に順番に程度で、ほとんど真似をしながら一人でにはなりそうですけどね。」
「そうなんだ……それは練習相手がほしいって言いやすいね」
「ですよね。知識をつけるための特別講義という形で、数える程度ですけどね」
恋愛が絡むと、綺麗なだけではいられないよね。私も色々おかしくなっちゃったし。
「応援するよ、カルロスのこともね」
「それは、ありがとうございます」
ただ爽やかなだけの男なんていない。女性として、どの男性に対しても警戒心をもつことを忘れないようにしよう。
「誰か来ますね」
階段を上る足音が聞こえる。ダニエル様っぽくないということは……!
まずいまずいまずい!
逃げないと!
咄嗟になぜか私はそう考え、窓を開けてしまった。
「お二人とも、ありがとうございました。こんなに難しかったんですね……」
一番疲れたのはユリアちゃんだ。
「だよね。分かる分かる」
「頑張ったわね、ユリア」
日が傾きかけている。空気も冷えてきた。
「そういえばユリアちゃん、ここで何度も練習しているとさすがにレイモンドたちにも気付かれると思うけど、趣味としてって言っとけばいい?」
「いえ、そのまま理由を言っちゃっていいですよ」
「え、いいの?」
だって、失恋ってほぼ確定しちゃってるんじゃ……。
「はい。カルロスさんも知っていますから」
「そうなの!?」
カルロス……そこはかとなくユリアちゃんに好意を持っているようにも見えるし、ただの友人にも見えるし分かんないんだよね……。
「相談したんです。想いを伝えるつもりはないけれど、ただサヨナラするのも寂しいなって。そうしたらダンスをアリスさんたちに習えないか聞いてみたらって……あ、これ、ご迷惑な提案をした理由がカルロスさんってことになっちゃいますね。聞かなかったことにしてください」
「そっか、そんな相談をするまで仲よくなっていたんだね」
「そうね、私も驚いたわ。ほっともしたわね」
「あ、そうですね。男性に完全に慣れたかもしれません。よかったです」
メイザーとカルロス、二人のお陰ではあるのかな。
「そろそろ戻りましょうか」
「そうですね。少し汗もかいたんで着替えたいです」
立ち上がって中へと戻る。
ちょうどカルロスが外から帰ってきたところだった。
「あれ。皆さん、お揃いだったんですね」
「おかえりー、カルロス」
手を振ってすれ違う。
うーん……怪しい。
帰宅がてら、私たちがダンスをしていたか探っていたんじゃ。終わりそうな雰囲気を声から感じとって、帰ってきたんじゃ……。
二階で各自が部屋に入ると同時に、なんとなく三階へとカルロスを追いかけた。素早く風魔法を使ってだ。
「……カルロス」
「うわ! いきなり背後からは驚きますね。足音もしませんでしたが。あ、警戒していれば魔法の察知で気付けますよ。ご安心ください。考え事もしていて気を緩めすぎていました」
浮いてきたのはバレているか。
そっか、いずれ要人警護の仕事をしたいって言ってたし、心配されちゃうって思ったのかな。
「ユリアちゃんとダンスの練習をしていたの」
「そうだったんですか」
「カルロスも知ってるって聞いた」
「ええ、そうですね」
それ以上は言わない。
相変わらずの爽やかな笑顔を向けてくれるけれど……。
「答えなくてもいいけど……友情、なの?」
メイザーと同じ赤い髪。あっちはチャラそうで女慣れしていそう。こっちは爽やかな印象で瞳も青く澄んでいる。
でも、今は少しだけ……。
「アリス様にしては踏み込まれますね」
大きな体のカルロスがいつもより私の側に来た。
――そうだった、私はあの受験の日……この人を胡散臭いと感じたんだった。
耳元で、今まで聞いたことのない暗い声でカルロスが言う。
「あの人が相手でよかった。必ず失恋してくれる」
驚いて顔を凝視するも、爽やかに微笑むだけ。さっきの暗い声は本当にこの人から発せられたのだろうかと不思議になる。
「私の第一感って……当たるんだね」
「ああ、胡散臭いと思われたって言ってましたね」
「よく覚えてるね」
「あれから呼び捨てにしてもらえているんで、嬉しくて」
「爽やかで胡散臭い人だったんだね」
「優しくて穏やかでいい人って言葉が抜けていますよ」
「そんなにあの時、褒めたっけ。本当によく覚えてるね……」
「嬉しかったんで!」
にっこりと清々しい笑顔を向けられる。
うーん、カルロスも片思いか……。でも、なんとなくユリアちゃんを好きな男の子がいるというのは救いにはなる気はする。
「上達した頃に、教えてほしいって彼女に頼んだら聞いてくれますかね。騎士学校でも軽く教養としては習ったんですよ。男だらけなんで、本当に軽くですけどね」
「策士だねー……」
そういえば、ずーっと前にソフィが、好きな人相手なら計算だってしますとか言ってたっけ。
「俺の学科、王族や貴族の方の護衛につく可能性の高い生徒が多いですしね。一応知っておくべきってことなのか、ごくたまにダンスの授業が入るらしいんですよ。騎士学校の時と同様に先生相手に順番に程度で、ほとんど真似をしながら一人でにはなりそうですけどね。」
「そうなんだ……それは練習相手がほしいって言いやすいね」
「ですよね。知識をつけるための特別講義という形で、数える程度ですけどね」
恋愛が絡むと、綺麗なだけではいられないよね。私も色々おかしくなっちゃったし。
「応援するよ、カルロスのこともね」
「それは、ありがとうございます」
ただ爽やかなだけの男なんていない。女性として、どの男性に対しても警戒心をもつことを忘れないようにしよう。
「誰か来ますね」
階段を上る足音が聞こえる。ダニエル様っぽくないということは……!
まずいまずいまずい!
逃げないと!
咄嗟になぜか私はそう考え、窓を開けてしまった。
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