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後編 魔法学園での日々とそれから
159.学園祭2
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「そろそろユリアちゃんが店番の時間ね。不思議魔道具製造クラブに行きたいわ、レイモンド」
カルロスが店番をしていた串焼き屋台さんと、パンケーキ喫茶で昼食を食べてレイモンドとぶらぶらと校舎を歩く。どこも生徒たちが歩いている。
午前の後半が私たちのグループのクラブ当番で、毎年恒例だからか子連れの外部からの参加者も多く、忙しくこなした。
輪投げに的当てに魚釣りごっこだ。全部できた子供には手作りの首飾りをあげた。ジェニーたちも来てくれて、「ツチノコちゃんに輪が入ったわ」と喜んでくれてほっとした。
正直……子供が多くて、やりにくいかなって。誘って悪かったかなーとは思ったものの、他の生徒も来てくれていたし気にしないでおこう。
「そうだね。午後の前半らしいからね」
ゴーンゴーンと午後開始の鐘の音が鳴る。
「あ。外を見ないと!」
「始まるね」
鐘の音と同時に、外に紙吹雪が舞うからだ。今は二階。廊下にいる全員が窓際に寄った。
色とりどりの紙吹雪が華やかに宙を乱れ舞う。生徒会の人たちが風魔法を使って屋上から飛ばしているらしい。
「綺麗……」
魔法で片付けられるのもいいよね。魔法世界は便利な部分も多い。
私たちの視界に鮮やかな色を見せつけて、スゥッと重力に逆らって空へと上っていく。屋上の彼らのもとへ吸い込まれていくのだろう。
「やっぱりいいわねー、魔法!」
まだ窓際にいる生徒も多い。言葉遣いも意識するものの、魔法について感慨深げに言うのもよくはないかな。
……ま、異世界から来たなんて思う人はいない……いや、いるんだっけ。魔女さんに拾われた設定のせいで、一部には異世界からの迷い子だと思われているんだっけ。
「そうだね。精霊さんは人がたくさんいると姿を見せてくれないのが少し残念だけどね」
「あれから見ていないものね」
「一生見れない人も多いよ」
そこまでだったんだ!
雑談をしながら不思議魔道具製造クラブの教室まで来た。
「どうぞ、ごゆっくりしていってくださいね」
受付の人に話しかけられつつ中に入る。
カーテンが閉められて薄暗い。中央にある大きなタライのような容器には水が入っていて、中央から花の形に青白く発光している。
「お二人とも、来ていただいてありがとうございます」
「ユリアちゃん! これ、すごく綺麗ね……どうなっているのかしら」
「説明すると長くなってしまいますが、手を入れてみてください」
チャプンと手を中に入れると青白い光が波紋のように手から広がる。じっとしているとまた、花の形に戻った。
「すごい……」
「あちらの魔道具にも手をあててみてくださいね」
「ありがとう」
次のお客さんが後ろから来てしまった。それなりに人もいる。あまり話せないのは残念だけど次へ行こう。
長机に並んでいる正体不明の魔道具の数々……しかし先を歩く生徒が試していたので、説明の紙を読まなくても分かる。
ポンとミキサーのような形をしたアンティークな魔道具に取り付けられた魔石に手をあてると、中からポワポワ~と水色の煙が立ち上った。隣のレイモンドが触った魔道具からは、黄色の煙だ。
「取り立てて目的がないあたりが不思議魔道具ってことかな」
レイモンド……堂々とそれをここで言うのは失礼なんじゃない?
「エキゾチックな気分に浸るって目的は達成できていると思うわ」
「それが目的なの?」
「さぁ……分からないのが不思議魔道具の由縁?」
暗いから、こそこそ声になる。
他にも魔石に手をあてると自動で動く芸術的なピタゴラスイッチのようなものやら、折り紙でくす玉が折られ、また元に戻るものだったり……目的は分からないものの綺麗な魔道具を楽しんだ。
それからもあちこち校舎をまわり、外に出るとコーラス部の合唱が聞こえてきた。
青空の下で綺麗な歌声……。
「レイモンド、しばらく聞いてもいいかしら」
「そうだなぁ……木の上で聞く?」
「木の上?」
「誰にも邪魔されない。上の方なら他の人に声も聞こえないよ」
簡単に木の上に行けるあたり、最高に魔法世界だなぁ。言葉遣いを気にしないでいられるのも楽だし。
「そうしよっかな……」
コソッとそう言うと、せーのと顔を見合わせながらトンッと足を地面に大きく踏み込み、宙に浮いて聳え立つ樹の太い枝に並んで座る。
上を覆う葉が陽射しを遮ってくれて、下に揺れる葉が私たちを二人きりにするように重なり合い、鮮やかな緑の絨毯をつくる。葉の間から差し込む陽射しは、チラチラと目の端に映る緑を柔らかく照らす。
生徒たちの呼び込みの声も、どこか遠い。
前の世界で私の寿命が長かったら……レイモンドには見つけてもらえなかった。そうしたら……高校に行って、それから大学に入ったのかな。この学園とはどこが同じで、どこが違ったんだろう。クラブなんてあったのかな。大学の学園祭はどんな雰囲気だったんだろう。
味わってみたかったとは思わない。ここがそれだけ楽しいからだ。
……愛って偉大だよね。レイモンドを好きじゃなかったら、そこまでは思えなかったかな。
ただ……レイモンドのことはすごく大好きだし愛してるって思うけど……恋って感じはそんなにしない。言葉を交わすだけでドキドキとか、少女漫画の最初の方の感情ってなかったような……あったかな。何年か前のことだし思い出せないな……。
あ、少女漫画って基本、最初から相思相愛じゃないよね。そうだ、片思いをしたことがないんだ、私!
「アリス、合唱聞いてる? 違う世界に飛んでない?」
「んー。そうかも」
「やっぱりな。何を考えてたの」
「レイモンドが最初から私を好きなせいで!」
「好きなせいで?」
「私、片思いを味わったことがない! 片思いの醍醐味を知らない!」
「……それだけは一生味わえないと思うよ。というか味わうなら他の男相手だよね。本当に片思いの醍醐味を知りたいの?」
「え、いや……」
目が怖い。
しまった、しまった。
「俺を選ぶ以外の選択肢は潰すって言ったよね。これからはアリスが知り合う男の前で堂々とこうするしかないかなー」
「ちょっ……!」
人がいっぱい下にいるのに、堂々とキスをするな!
楽しい学園祭も時が過ぎれば終わってしまう。後夜祭では生徒会主催の花火の打ち上げが行われ、この日は終わった。
カルロスが店番をしていた串焼き屋台さんと、パンケーキ喫茶で昼食を食べてレイモンドとぶらぶらと校舎を歩く。どこも生徒たちが歩いている。
午前の後半が私たちのグループのクラブ当番で、毎年恒例だからか子連れの外部からの参加者も多く、忙しくこなした。
輪投げに的当てに魚釣りごっこだ。全部できた子供には手作りの首飾りをあげた。ジェニーたちも来てくれて、「ツチノコちゃんに輪が入ったわ」と喜んでくれてほっとした。
正直……子供が多くて、やりにくいかなって。誘って悪かったかなーとは思ったものの、他の生徒も来てくれていたし気にしないでおこう。
「そうだね。午後の前半らしいからね」
ゴーンゴーンと午後開始の鐘の音が鳴る。
「あ。外を見ないと!」
「始まるね」
鐘の音と同時に、外に紙吹雪が舞うからだ。今は二階。廊下にいる全員が窓際に寄った。
色とりどりの紙吹雪が華やかに宙を乱れ舞う。生徒会の人たちが風魔法を使って屋上から飛ばしているらしい。
「綺麗……」
魔法で片付けられるのもいいよね。魔法世界は便利な部分も多い。
私たちの視界に鮮やかな色を見せつけて、スゥッと重力に逆らって空へと上っていく。屋上の彼らのもとへ吸い込まれていくのだろう。
「やっぱりいいわねー、魔法!」
まだ窓際にいる生徒も多い。言葉遣いも意識するものの、魔法について感慨深げに言うのもよくはないかな。
……ま、異世界から来たなんて思う人はいない……いや、いるんだっけ。魔女さんに拾われた設定のせいで、一部には異世界からの迷い子だと思われているんだっけ。
「そうだね。精霊さんは人がたくさんいると姿を見せてくれないのが少し残念だけどね」
「あれから見ていないものね」
「一生見れない人も多いよ」
そこまでだったんだ!
雑談をしながら不思議魔道具製造クラブの教室まで来た。
「どうぞ、ごゆっくりしていってくださいね」
受付の人に話しかけられつつ中に入る。
カーテンが閉められて薄暗い。中央にある大きなタライのような容器には水が入っていて、中央から花の形に青白く発光している。
「お二人とも、来ていただいてありがとうございます」
「ユリアちゃん! これ、すごく綺麗ね……どうなっているのかしら」
「説明すると長くなってしまいますが、手を入れてみてください」
チャプンと手を中に入れると青白い光が波紋のように手から広がる。じっとしているとまた、花の形に戻った。
「すごい……」
「あちらの魔道具にも手をあててみてくださいね」
「ありがとう」
次のお客さんが後ろから来てしまった。それなりに人もいる。あまり話せないのは残念だけど次へ行こう。
長机に並んでいる正体不明の魔道具の数々……しかし先を歩く生徒が試していたので、説明の紙を読まなくても分かる。
ポンとミキサーのような形をしたアンティークな魔道具に取り付けられた魔石に手をあてると、中からポワポワ~と水色の煙が立ち上った。隣のレイモンドが触った魔道具からは、黄色の煙だ。
「取り立てて目的がないあたりが不思議魔道具ってことかな」
レイモンド……堂々とそれをここで言うのは失礼なんじゃない?
「エキゾチックな気分に浸るって目的は達成できていると思うわ」
「それが目的なの?」
「さぁ……分からないのが不思議魔道具の由縁?」
暗いから、こそこそ声になる。
他にも魔石に手をあてると自動で動く芸術的なピタゴラスイッチのようなものやら、折り紙でくす玉が折られ、また元に戻るものだったり……目的は分からないものの綺麗な魔道具を楽しんだ。
それからもあちこち校舎をまわり、外に出るとコーラス部の合唱が聞こえてきた。
青空の下で綺麗な歌声……。
「レイモンド、しばらく聞いてもいいかしら」
「そうだなぁ……木の上で聞く?」
「木の上?」
「誰にも邪魔されない。上の方なら他の人に声も聞こえないよ」
簡単に木の上に行けるあたり、最高に魔法世界だなぁ。言葉遣いを気にしないでいられるのも楽だし。
「そうしよっかな……」
コソッとそう言うと、せーのと顔を見合わせながらトンッと足を地面に大きく踏み込み、宙に浮いて聳え立つ樹の太い枝に並んで座る。
上を覆う葉が陽射しを遮ってくれて、下に揺れる葉が私たちを二人きりにするように重なり合い、鮮やかな緑の絨毯をつくる。葉の間から差し込む陽射しは、チラチラと目の端に映る緑を柔らかく照らす。
生徒たちの呼び込みの声も、どこか遠い。
前の世界で私の寿命が長かったら……レイモンドには見つけてもらえなかった。そうしたら……高校に行って、それから大学に入ったのかな。この学園とはどこが同じで、どこが違ったんだろう。クラブなんてあったのかな。大学の学園祭はどんな雰囲気だったんだろう。
味わってみたかったとは思わない。ここがそれだけ楽しいからだ。
……愛って偉大だよね。レイモンドを好きじゃなかったら、そこまでは思えなかったかな。
ただ……レイモンドのことはすごく大好きだし愛してるって思うけど……恋って感じはそんなにしない。言葉を交わすだけでドキドキとか、少女漫画の最初の方の感情ってなかったような……あったかな。何年か前のことだし思い出せないな……。
あ、少女漫画って基本、最初から相思相愛じゃないよね。そうだ、片思いをしたことがないんだ、私!
「アリス、合唱聞いてる? 違う世界に飛んでない?」
「んー。そうかも」
「やっぱりな。何を考えてたの」
「レイモンドが最初から私を好きなせいで!」
「好きなせいで?」
「私、片思いを味わったことがない! 片思いの醍醐味を知らない!」
「……それだけは一生味わえないと思うよ。というか味わうなら他の男相手だよね。本当に片思いの醍醐味を知りたいの?」
「え、いや……」
目が怖い。
しまった、しまった。
「俺を選ぶ以外の選択肢は潰すって言ったよね。これからはアリスが知り合う男の前で堂々とこうするしかないかなー」
「ちょっ……!」
人がいっぱい下にいるのに、堂々とキスをするな!
楽しい学園祭も時が過ぎれば終わってしまう。後夜祭では生徒会主催の花火の打ち上げが行われ、この日は終わった。
応援ありがとうございます!
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