141 / 189
後編 魔法学園での日々とそれから
141.葛藤
しおりを挟む
扉の前まで足音を立てないように進むも、返事をするかを葛藤する。
窓を閉める音に気付かれたのかもしれない。聞いていたのかと尋ねられたら、どう答えたら……。それに泣いてしまった。レイモンドのことだ、気付いてしまいそう。
電気さえ消していればバレなかったかもしれないけど……日記を書いている途中だったせいで灯りをつけたままだ。今消したら扉の隙間から漏れている光がいきなり消えてノックに気付いたとバレる……。
って、そうじゃん! 漏れている光で起きていることもバレバレじゃん!
いや、ノックの音は小さかったし気付かなかったで通すことも……。灯りをつけたまま寝てしまったということにするのも……。
葛藤していると、足音が立ち去っていく音がした。
無視しちゃった……。
明日どうしよう。
ものすごく気まずくなったら、どうしたらいいのか分からない。
またじわじわと涙が滲んできたところで、もう一度足音が――、
なんなの!
私を揺さぶらないで!!!
扉の下の隙間から、小さなメモが差し込まれる。
『忘れて』
……あのね、こんなのを見て本当に忘れたフリなんてしていたら気まずくなるの確定じゃん!
もう開けよう。心がゆらゆらしすぎて疲れた。どうでもよくなってきた。
――キィ。
扉を開けると、やっぱりレイモンドの姿が……。暗がりの中、申し訳無さそうに立っている。声を廊下に響かせたくはない。静かに中に入れると文句を言う。
「あのね、わざと私の心をかき乱すのはやめてほしいんだけど。部屋にいただけなのに、げっそりなんだけど」
……あれ。これってもしかして言いがかり?
「もしかして、わざとだって気付いてた? ……アリス、泣いていたの? 目が赤い」
「あくびしただけ」
「ごめんね、アリス……。咄嗟のことでああ言っちゃったんだよ。君が窓を開けたのに気付いて、ダニエルは好意で聞いてくれただけなんだ。間接的に伝えたいことはないのかって。ついそれを利用して、ああやって言えばそのうち受け入れてくれるかなって。ごめん……すぐに卑怯だったかなって反省はしたけど……」
え、どういうこと?
あれ?
私が窓を開けたところから気付かれていた?
ん……んん?
つまり……私の心をかき乱すなって言葉を、全て知ってますってことだと捉えた……?
「泣くほどだとは……思わなかった。ごめんね、気を付けるから。かわそうとしていること、分かってはいたんだ。俺を負担に思わないで」
涙目になったレイモンドが、またあの言葉を呟く。それは前の世界の愛の言葉で……私を幸せにしたいと思ったその時の気持ちを思い出そうとしているようで――。
その小さな浅いキスと、愛を語っているはずのその音は……私との間に距離をつくるものに感じた。
違うの。
そんな意味で泣いたわけじゃない。
どう言おうか考える間もなく、すぐに「おやすみ」と言って寂しそうに立ち去る彼を、言葉を発せずに見送る。
ここが寮でなかったなら、私はどうしただろう。
◆◇◆◇◆
翌日――、何もなかったように皆が集合する。
「アリス、おはよう。今日はあなたの好きな海の幸とパプリカのテリーヌがあるわよ。デザートはクロワッサンのテリーヌ・ショコラよ」
「すごい! テリーヌ祭じゃん。ありがとう。ますますニコールさんが好きになった」
「ありがとうございます」
毎日それぞれの好物をローテーションで出してくれる。さすがニコールさんだ。
「アリスはすぐに気軽に好きだって言うからなー」
「大丈夫、愛しているのはレイモンドだけ」
「はいはい、俺もだよ」
「相変わらずね……」
揃ったら、皆でいただきますだ。
「そういえば、フェリキタスビティスがわずかに色づいてきたんですが、皆さんのところもですか?」
お、ユリアちゃんのもそうなんだ。
「私のもー。毎日愛してるって話しかけているから、すごく甘くなるに違いないって期待してるんだけど」
「待ってよ、アリス。俺に対するより頻度が多くない?」
「そうかも。フェリフェリちゃんに負けてるね」
「それはないよ~」
「私のも色づいてきたわ。テスト開けくらいにいい色になっていたら皆で食べましょうか」
「賛成ー!」
「俺も腐らずに成長してくれて安心しましたよ」
「私もだ……」
「全員腐らずにすみそうだね。私もほっとした」
いつも通りの朝。ソフィもいてくれて、食器類をニコールさんと片付けてくれる。
登校準備ができたらまた一階ラウンジに集合して――。
「そろそろ行く時間ねぇ~。行ってらっしゃぁ~い」
魔女さんも出てきて、手を振ってくれる。
「行ってきますね、エリリンさん!」
「留守を頼む、番人」
「エリリン、今日もありがと~」
皆で魔女さんに挨拶をして、にこやかに門を出る。
いつもと……何も変わらない。
でも――。
「フェリフェリちゃんに負けないくらい、俺にも愛を語ってよー」
いつも通りを装う彼と私の間には、溝ができてしまった。
「フェリフェリちゃんとフェリビティちゃんなら、やっぱりフェリフェリちゃんかなー」
「完全にスルーしたよね」
「誰があんな名前考えたんだろう。舌嚙みそうだし。ユリアちゃんならどんな名前にする?」
「ええー? そうですねぇ……フェリスちゃんでしょうか」
「綺麗に略してる!」
いつもの日常。
そんな中で、ジェニーがこっそりとダニエル様に「フェリフェリちゃんに話しかけてはいないの?」と聞いていたり、変化があって。
皆、誰かには話さないたくさんの変化を抱えながら、日々が過ぎていく。
窓を閉める音に気付かれたのかもしれない。聞いていたのかと尋ねられたら、どう答えたら……。それに泣いてしまった。レイモンドのことだ、気付いてしまいそう。
電気さえ消していればバレなかったかもしれないけど……日記を書いている途中だったせいで灯りをつけたままだ。今消したら扉の隙間から漏れている光がいきなり消えてノックに気付いたとバレる……。
って、そうじゃん! 漏れている光で起きていることもバレバレじゃん!
いや、ノックの音は小さかったし気付かなかったで通すことも……。灯りをつけたまま寝てしまったということにするのも……。
葛藤していると、足音が立ち去っていく音がした。
無視しちゃった……。
明日どうしよう。
ものすごく気まずくなったら、どうしたらいいのか分からない。
またじわじわと涙が滲んできたところで、もう一度足音が――、
なんなの!
私を揺さぶらないで!!!
扉の下の隙間から、小さなメモが差し込まれる。
『忘れて』
……あのね、こんなのを見て本当に忘れたフリなんてしていたら気まずくなるの確定じゃん!
もう開けよう。心がゆらゆらしすぎて疲れた。どうでもよくなってきた。
――キィ。
扉を開けると、やっぱりレイモンドの姿が……。暗がりの中、申し訳無さそうに立っている。声を廊下に響かせたくはない。静かに中に入れると文句を言う。
「あのね、わざと私の心をかき乱すのはやめてほしいんだけど。部屋にいただけなのに、げっそりなんだけど」
……あれ。これってもしかして言いがかり?
「もしかして、わざとだって気付いてた? ……アリス、泣いていたの? 目が赤い」
「あくびしただけ」
「ごめんね、アリス……。咄嗟のことでああ言っちゃったんだよ。君が窓を開けたのに気付いて、ダニエルは好意で聞いてくれただけなんだ。間接的に伝えたいことはないのかって。ついそれを利用して、ああやって言えばそのうち受け入れてくれるかなって。ごめん……すぐに卑怯だったかなって反省はしたけど……」
え、どういうこと?
あれ?
私が窓を開けたところから気付かれていた?
ん……んん?
つまり……私の心をかき乱すなって言葉を、全て知ってますってことだと捉えた……?
「泣くほどだとは……思わなかった。ごめんね、気を付けるから。かわそうとしていること、分かってはいたんだ。俺を負担に思わないで」
涙目になったレイモンドが、またあの言葉を呟く。それは前の世界の愛の言葉で……私を幸せにしたいと思ったその時の気持ちを思い出そうとしているようで――。
その小さな浅いキスと、愛を語っているはずのその音は……私との間に距離をつくるものに感じた。
違うの。
そんな意味で泣いたわけじゃない。
どう言おうか考える間もなく、すぐに「おやすみ」と言って寂しそうに立ち去る彼を、言葉を発せずに見送る。
ここが寮でなかったなら、私はどうしただろう。
◆◇◆◇◆
翌日――、何もなかったように皆が集合する。
「アリス、おはよう。今日はあなたの好きな海の幸とパプリカのテリーヌがあるわよ。デザートはクロワッサンのテリーヌ・ショコラよ」
「すごい! テリーヌ祭じゃん。ありがとう。ますますニコールさんが好きになった」
「ありがとうございます」
毎日それぞれの好物をローテーションで出してくれる。さすがニコールさんだ。
「アリスはすぐに気軽に好きだって言うからなー」
「大丈夫、愛しているのはレイモンドだけ」
「はいはい、俺もだよ」
「相変わらずね……」
揃ったら、皆でいただきますだ。
「そういえば、フェリキタスビティスがわずかに色づいてきたんですが、皆さんのところもですか?」
お、ユリアちゃんのもそうなんだ。
「私のもー。毎日愛してるって話しかけているから、すごく甘くなるに違いないって期待してるんだけど」
「待ってよ、アリス。俺に対するより頻度が多くない?」
「そうかも。フェリフェリちゃんに負けてるね」
「それはないよ~」
「私のも色づいてきたわ。テスト開けくらいにいい色になっていたら皆で食べましょうか」
「賛成ー!」
「俺も腐らずに成長してくれて安心しましたよ」
「私もだ……」
「全員腐らずにすみそうだね。私もほっとした」
いつも通りの朝。ソフィもいてくれて、食器類をニコールさんと片付けてくれる。
登校準備ができたらまた一階ラウンジに集合して――。
「そろそろ行く時間ねぇ~。行ってらっしゃぁ~い」
魔女さんも出てきて、手を振ってくれる。
「行ってきますね、エリリンさん!」
「留守を頼む、番人」
「エリリン、今日もありがと~」
皆で魔女さんに挨拶をして、にこやかに門を出る。
いつもと……何も変わらない。
でも――。
「フェリフェリちゃんに負けないくらい、俺にも愛を語ってよー」
いつも通りを装う彼と私の間には、溝ができてしまった。
「フェリフェリちゃんとフェリビティちゃんなら、やっぱりフェリフェリちゃんかなー」
「完全にスルーしたよね」
「誰があんな名前考えたんだろう。舌嚙みそうだし。ユリアちゃんならどんな名前にする?」
「ええー? そうですねぇ……フェリスちゃんでしょうか」
「綺麗に略してる!」
いつもの日常。
そんな中で、ジェニーがこっそりとダニエル様に「フェリフェリちゃんに話しかけてはいないの?」と聞いていたり、変化があって。
皆、誰かには話さないたくさんの変化を抱えながら、日々が過ぎていく。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい
tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。
本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。
人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆
本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編
第三章のイライアス編には、
『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』
のキャラクター、リュシアンも出てきます☆
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
変装して本を読んでいたら、婚約者さまにナンパされました。髪を染めただけなのに気がつかない浮気男からは、がっつり慰謝料をせしめてやりますわ!
石河 翠
恋愛
完璧な婚約者となかなか仲良くなれないパメラ。機嫌が悪い、怒っていると誤解されがちだが、それもすべて慣れない淑女教育のせい。
ストレス解消のために下町に出かけた彼女は、そこでなぜかいないはずの婚約者に出会い、あまつさえナンパされてしまう。まさか、相手が自分の婚約者だと気づいていない?
それならばと、パメラは定期的に婚約者と下町でデートをしてやろうと企む。相手の浮気による有責で婚約を破棄し、がっぽり違約金をもらって独身生活を謳歌するために。
パメラの婚約者はパメラのことを疑うどころか、会うたびに愛をささやいてきて……。
堅苦しいことは苦手な元気いっぱいのヒロインと、ヒロインのことが大好きなちょっと腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(作品ID261939)をお借りしています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
婚約破棄された公爵令嬢は、飼い犬が可愛過ぎて生きるのが辛い。
豆狸
恋愛
「コリンナ。罪深き君との婚約は破棄させてもらう」
皇太子クラウス殿下に婚約を破棄されたわたし、アンスル公爵家令嬢コリンナ。
浮気な殿下にこれまでも泣かされてばかりだったのに、どうして涙は枯れないのでしょうか。
殿下の母君のカタリーナ妃殿下に仔犬をいただきましたが、わたしの心は──
ななな、なんですか、これは! 可愛い、可愛いですよ?
フワフワめ! この白いフワフワちゃんめ! 白くて可愛いフワフワちゃんめー!
辛い! 愛犬が可愛過ぎて生きるのが辛いですわーっ!
なろう様でも公開しています。
アルファポリス様となろう様では最終話の内容が違います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる