上 下
133 / 189
後編 魔法学園での日々とそれから

133.翌日

しおりを挟む
 翌日の日曜日の早朝、ジェニーが私の部屋を訪れた。早い時間にごめんなさいと断って、教えてくれた。

『昨日のお風呂のことなんだけど……夜に入るってダ、ダニーに伝えたのは私なのよ。ニコールからも聞いていたとは思うけれど。そのままレイモンド様にも伝わって……その……アリスなら露天風呂でよからぬ発言をする可能性もあるから隣にいるって言ってたらしくてね……。だから私は知っていたの。ごめんなさい、言わなくて』
『大丈夫、いてくれてよかったよ。さすがレイモンド、分かってるね』
『元気がないわね。レイモンド様はアリスに強く怒るタイプではないと思ったのだけど……』

 注意するって言葉に心配してくれたのかもしれない。ユリアちゃんと残った時もそれを説明したのかな。

 やっぱり真っ裸で他の男性が壁を隔てていても隣にいるだけで、普通気になるもんね。

『怒られてはいないけど注意はされた。そうされないと気付けないほど、私はまだ全然レディじゃないんだなって少しショックだったかな。ジェニーってお手本が身近にいてくれるし、気を付けるね』

 なぜだか少し涙が滲んでしまった。

 理由は分からない。
 レイモンドには大事にされているし、プロポーション問題もそんなに気にならなくなった気がするし、キスだって交わして……何も悲しいことなんてないはず。ガッカリなんて私もしていないよって昨日の返事をすれば、全て解決のはずだ。

 信用されていないことが悲しいのかもしれないけど、実際に外でアレな言葉を発してしまったわけで……これから気を付けて、少しずつレディらしくなっていけばいい。

 理由が分からないのに悲しい気持ちになるのは初めてで解決のしようもない。咎められたのがショックだったのかな。翌日にまで引きずるほどに……。
 
 朝食の時間も、なぜか皆に気遣われた。

『いい天気ですね、アリスさん』
『あ、うん。そうだね』
『今日もレイモンド様とデートなんですよね』
『たぶん……』
『たぶんじゃないよ!? 土日のどっちかはいつもそうしているし、約束もしていたよね』
『行くなら行く』

 と、私がいつもよりテンションが低かったからかもしれない。でも、落ち込んでいる時にテンション高くはいられないしな……。
 そして、なぜ落ち込んでいるかも分からないときている。

 ダニエル様まで、少しこっちに来いと私を大浴場の向こうの廊下まで誘って――、

『お前は私が妹にしたくなるくらいには可愛らしい。自信を持て』

 と、照れながら言うものだから、私の頭の中になぜかピヨピヨとひよこが飛んだ。どうしていきなりこの人はこんなことをと大混乱だ。
 お陰で、罵ってしまってごめんなさいと謝ったものの、放心しながらだった気がする。反省の色がちゃんと出ていたのか自信がない。今も少しピヨピヨしている。

 私が落ち込んでいると他の皆までおかしくなってしまう。なんとかしなきゃと思いながら、今はレイモンドと本屋に向かって歩いている。

「ねー、アリス。言い過ぎたから機嫌直してよ」
「機嫌は悪くない」
「ごめんね、アリス。隙がありすぎて八つ当たりしちゃったんだよ」
「あ……そういえばえっと、ガッカリとかしてない。他の人と比べてこうだったらとかも思ったことない」
「そ、そっか。それはありがとう」
「うん……」
「でも顔が強張ってるって、アリスー」

 違うことに頭を使いたくて本屋に行きたいと言ったものの、道中ずっとこんな感じだ。

 ソフィに全部話して相談しよっかな。
 明日からまた学校が始まるし、それまでに解決したい。ほとんど休みなしで働いているニコールさんと違って、日曜日はソフィもお休みだ。隠れ家にいる確率は高い。

 八方塞がりだった現状の打開策を見つけた気分になって、少し浮上する。

「レイモンド。悪いけど私、ソフィとお話したい」
「あ……うん……俺は機嫌が悪いアリスでもいいからデートはしたいけど、それなら一緒に行こうか」
「却下。昼食の時間前に迎えに来て。それまでに血湧き肉躍る本を探し出して買っといて」
「どんな本!?」
「分かんない。レイモンドの趣味のエロ本でもいい。どっちでもいい。どちらかでよろしく」
「え……頑張って血湧き肉躍る本を探すよ……。なんのイメージも湧かないけど」
 
 レイモンドの前で相談なんてできない。彼には意味の分からない課題を与えておこう。可哀想だけど、私を好きになったんだから諦めてもらおう。

 悩み始めたレイモンドと隠れ家の方向へ。よく考えると、護衛がいないのに私を一人にはしたくないに決まっている。

「じゃ、頑張ってね」

 そう言って、隠れ家が見えたところで早くソフィに会いたくて走り出した。……私が中に入るまで見つめ続けるんだろうなと思いながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

悪役令嬢を拾ったら、可愛すぎたので妹として溺愛します!

平山和人
恋愛
転生者のクロエは諸国を巡りながら冒険者として自由気ままな一人旅を楽しんでいた。 そんなある日、クエストの途中で、トラブルに巻き込まれた一行を発見。助けに入ったクロエが目にしたのは――驚くほど美しい少女だった。 「わたくし、婚約破棄された上に、身に覚えのない罪で王都を追放されたのです」 その言葉に驚くクロエ。しかし、さらに驚いたのは、その少女が前世の記憶に見覚えのある存在だったこと。しかも、話してみるととても良い子で……? 「そういえば、私……前世でこんな妹が欲しかったって思ってたっけ」 美少女との出会いが、クロエの旅と人生を大きく変えることに!?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...