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後編 魔法学園での日々とそれから
111.親睦
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「では、私はそろそろ席を外しますね」
ソフィが初めて言葉を発した。もう自己紹介は終わっていたんだろう。
「あ、待って、ソフィ。部屋の観葉植物なんだけど……私、枯らす自信があって。水やりの頻度を教えて」
「あ、そうでしたね。フェリキタスビティスという果樹で、育てる人によって味を変えるんです! 皆様の部屋にもあるので、実がなったら分け合いましょう。土が乾いたら水を与えるくらいで大丈夫ですよ。夏は毎日、冬場は週に一回か二回くらいでしょうか」
フェリ……キ……え、何?
育てる人によって?
そんな不思議植物が……。
「南のオークバレル大陸から輸入されている果樹ね。味が一定ではないから、あまり出回ってはいないわ。楽しみね」
「そうなんですね……知りませんでした」
「私も。カルロスさんは?」
「あ、俺も知らないですし、食べたこともないです。腐らせないように頑張ります」
「私もそこだけが心配かなぁ」
「同じ心配ができるなんて、嬉しいです」
カルロスはニコニコしているけど……レイモンドがやや不機嫌そうだ。愛想よくしているから私しか気付いていないだろうけど、わざとらしい。
でも、さっきからカルロスだけ自己紹介以降しゃべっていないし。誰かが話しかけるべきところでしょ。……受験日にカルロスと会ったことを話しそびれていたのは、まずかったかな。でも忘れてたし。
「もしアリスのが腐ったら俺のをあげるよ」
「え……腐るのを増やすのは嫌かな……その場合は才能がなかったと諦めて食べる方に専念する。皆、頑張ってね」
「アリス……腐らせるのが前提になっていないかしら」
「大丈夫ですよ、アリス様。丈夫な品種ですから。毎日話しかけていれば、雑な育て方でもそれなりに食べられます!」
「それなりに……」
それなりって、どんな味なんだろう。
話しかけるのも大事なの……。
「では、私はそろそろ下がらせていただきますね」
「私も失礼します。後ほど、紅茶をお出しします」
ソフィとニコールさんがしずしずと下がっていく。
……大丈夫かな。これから二人きりになることも多そう。ハンス、知っているのかな。仕事だしね。それはそれで知っていても割り切れるのかな。
ダニエル様もあんまり会話に入ってこないし、話を触ろう。
「ダニエルさんは育てたことは……」
「ないな。美味しくなかったらすまない。いや、腐らせたらすまないな」
「王子様に謝られるのは、さすがに困るかなぁ」
「だからお前は茶化すなと……」
「でもユリアさんだって困るよね。あ、なんて呼べばいい? 違う呼び方の方がいい?」
「え……いえ……えっと、呼び捨てでもなんでも……」
「それなら、ユリアちゃんって呼ぶね」
「はい、ありがとうございます」
うん……やっぱり固い。顔がやや強張っている。カルロスは騎士のお父さんがいるからか、丁寧語でも話し方は柔らかい。偉い人慣れしているのかもしれない。ユリアちゃんが緊張しているのは、このメンバーだしね……。
貴族寄りで平民気分の私が、しばらくは間に入った方がいいかな。馴れ馴れしくしておこう。
「それじゃ、親睦も深めたいし……改めて願望と共通点自己紹介でもしよっか」
「何それ、アリス。俺とはしなかったよね」
……第一印象がアレでしようとは思わないよね。
「レイモンドとは共通点がなさそうだったし」
「酷いな。どんな自己紹介?」
「もしこんなことができたらとか、生まれ変わったらこうしたい、とか実現不可能そうな願望を言うの。それから皆と共通点がありそうなことを言って、同じくって思ってくれる人がたくさんいる人が……勝ち?」
「勝負なの!?」
どうだっけなぁ。
中学に入ったばかりの時にクラスの何人かで水族館に行って、イルカショー待ちに暇だからやったんだけど。友達が言い出したからはっきりと覚えていない。
……レイモンド、それは見ていないんだ。
「いいじゃない、面白そう。アリスからお願いしていいかしら」
「ま、待って。考える時間をちょうだい」
「あら、用意していなかったのね。確かに私も考えたいわ」
「じゃ、しばらく考える時間ね」
皆がうーんうーん、とあっちこっちに視線をさ迷わせながら悩む。その間にニコールさんとソフィが一度来て紅茶を給仕してくれた。
これ……楽しいかも。私の発言で皆が悩んでいるって……ん、レイモンドが意味ありげな顔で私を見ている。なんだろう。やっぱり人を苦悶させるのが好きだよね、的な?
椅子の配置は三人掛けくらいに大きいソファが二つ真向かいになっていて、それぞれダニエル様とジェニファー様、カルロスとユリアちゃんが座っている。挟むように一人掛けソファが向こう側に二つ……その斜め後ろに、さっきまでソフィたちが控えるように立っていた。こちら側にも二つあって、レイモンドと私が座っている。
レイモンドも片づけをしていたわけだし、一番最後に来たのかもしれない。隣り合ってはいるものの、一脚ずつだから距離はあるんだよね。
椅子が違うとはいえジェニファー様とユリアちゃんに挟まれる形でレイモンドが座っていたのが意味分かんないけど……もしかしたら途中まで向こう側に魔女さんがいたのかもしれない。
さて、この流れだと絶対に私からだ。
早く考えないと……。
ソフィが初めて言葉を発した。もう自己紹介は終わっていたんだろう。
「あ、待って、ソフィ。部屋の観葉植物なんだけど……私、枯らす自信があって。水やりの頻度を教えて」
「あ、そうでしたね。フェリキタスビティスという果樹で、育てる人によって味を変えるんです! 皆様の部屋にもあるので、実がなったら分け合いましょう。土が乾いたら水を与えるくらいで大丈夫ですよ。夏は毎日、冬場は週に一回か二回くらいでしょうか」
フェリ……キ……え、何?
育てる人によって?
そんな不思議植物が……。
「南のオークバレル大陸から輸入されている果樹ね。味が一定ではないから、あまり出回ってはいないわ。楽しみね」
「そうなんですね……知りませんでした」
「私も。カルロスさんは?」
「あ、俺も知らないですし、食べたこともないです。腐らせないように頑張ります」
「私もそこだけが心配かなぁ」
「同じ心配ができるなんて、嬉しいです」
カルロスはニコニコしているけど……レイモンドがやや不機嫌そうだ。愛想よくしているから私しか気付いていないだろうけど、わざとらしい。
でも、さっきからカルロスだけ自己紹介以降しゃべっていないし。誰かが話しかけるべきところでしょ。……受験日にカルロスと会ったことを話しそびれていたのは、まずかったかな。でも忘れてたし。
「もしアリスのが腐ったら俺のをあげるよ」
「え……腐るのを増やすのは嫌かな……その場合は才能がなかったと諦めて食べる方に専念する。皆、頑張ってね」
「アリス……腐らせるのが前提になっていないかしら」
「大丈夫ですよ、アリス様。丈夫な品種ですから。毎日話しかけていれば、雑な育て方でもそれなりに食べられます!」
「それなりに……」
それなりって、どんな味なんだろう。
話しかけるのも大事なの……。
「では、私はそろそろ下がらせていただきますね」
「私も失礼します。後ほど、紅茶をお出しします」
ソフィとニコールさんがしずしずと下がっていく。
……大丈夫かな。これから二人きりになることも多そう。ハンス、知っているのかな。仕事だしね。それはそれで知っていても割り切れるのかな。
ダニエル様もあんまり会話に入ってこないし、話を触ろう。
「ダニエルさんは育てたことは……」
「ないな。美味しくなかったらすまない。いや、腐らせたらすまないな」
「王子様に謝られるのは、さすがに困るかなぁ」
「だからお前は茶化すなと……」
「でもユリアさんだって困るよね。あ、なんて呼べばいい? 違う呼び方の方がいい?」
「え……いえ……えっと、呼び捨てでもなんでも……」
「それなら、ユリアちゃんって呼ぶね」
「はい、ありがとうございます」
うん……やっぱり固い。顔がやや強張っている。カルロスは騎士のお父さんがいるからか、丁寧語でも話し方は柔らかい。偉い人慣れしているのかもしれない。ユリアちゃんが緊張しているのは、このメンバーだしね……。
貴族寄りで平民気分の私が、しばらくは間に入った方がいいかな。馴れ馴れしくしておこう。
「それじゃ、親睦も深めたいし……改めて願望と共通点自己紹介でもしよっか」
「何それ、アリス。俺とはしなかったよね」
……第一印象がアレでしようとは思わないよね。
「レイモンドとは共通点がなさそうだったし」
「酷いな。どんな自己紹介?」
「もしこんなことができたらとか、生まれ変わったらこうしたい、とか実現不可能そうな願望を言うの。それから皆と共通点がありそうなことを言って、同じくって思ってくれる人がたくさんいる人が……勝ち?」
「勝負なの!?」
どうだっけなぁ。
中学に入ったばかりの時にクラスの何人かで水族館に行って、イルカショー待ちに暇だからやったんだけど。友達が言い出したからはっきりと覚えていない。
……レイモンド、それは見ていないんだ。
「いいじゃない、面白そう。アリスからお願いしていいかしら」
「ま、待って。考える時間をちょうだい」
「あら、用意していなかったのね。確かに私も考えたいわ」
「じゃ、しばらく考える時間ね」
皆がうーんうーん、とあっちこっちに視線をさ迷わせながら悩む。その間にニコールさんとソフィが一度来て紅茶を給仕してくれた。
これ……楽しいかも。私の発言で皆が悩んでいるって……ん、レイモンドが意味ありげな顔で私を見ている。なんだろう。やっぱり人を苦悶させるのが好きだよね、的な?
椅子の配置は三人掛けくらいに大きいソファが二つ真向かいになっていて、それぞれダニエル様とジェニファー様、カルロスとユリアちゃんが座っている。挟むように一人掛けソファが向こう側に二つ……その斜め後ろに、さっきまでソフィたちが控えるように立っていた。こちら側にも二つあって、レイモンドと私が座っている。
レイモンドも片づけをしていたわけだし、一番最後に来たのかもしれない。隣り合ってはいるものの、一脚ずつだから距離はあるんだよね。
椅子が違うとはいえジェニファー様とユリアちゃんに挟まれる形でレイモンドが座っていたのが意味分かんないけど……もしかしたら途中まで向こう側に魔女さんがいたのかもしれない。
さて、この流れだと絶対に私からだ。
早く考えないと……。
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