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中編 愛の深まりと婚約
106.アンディくんの卒園
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入学式も間近に迫った三月。私たちは「教えの庭」に来ている。数ヶ月に一度は訪れていて、アンディくん以外の子とも少しは話をして多少は仲よくなれただけに寂しさもひとしおだ。
「では、来月から小学園に入る皆さんから、一人ずつ得意なことを披露しましょう!」
相変わらずマッチョのオリバー先生が、遊戯室で四人に話しかける。シルビア先生は、ピアノのすぐ横で見守ってくれている。
今日は卒園式に保護者や在園児の前で披露するという、得意なこと発表を見せてもらいに来た。卒園式の軽いリハーサルも兼ねているようで、オリバー先生の挨拶のあとには皆が好きだという歌の合唱もあった。何を歌うかは子供たちが話し合って決めたらしい。伴奏はシルビア先生だ。
一人ずつ園生活で何が楽しかったかの発表もあった。冬の園内でのお祭りの話、園でクッキーをつくった話……アンディくんは遠足の話を出していた。
皆がチラチラとこちらを見ては照れくさそうに笑い、隣のお友達とも目を見合わせる。
小さい子って感じで可愛い。
「最初はリナ・テイラーさん!」
「はい! 私はお手玉をします。まずは、魔法なしです」
丁寧な言葉での進行だ。
このクラス一人だけの女の子が、二つのピンクのお手玉を器用にポンポンとリズムよく回す。
「次に魔法を使います。1、2、3、4……」
六つに増やしたお手玉を等間隔に宙へと舞わせていく。
これ、難しそう……私も戻ったらやってみようかな……。練習したんだろうなと思うと、それだけで感動する。
パチパチとレイモンドと一緒に大きく拍手をすると、頑張ったという顔で笑ってくれた。
セオくんとレジーくんも順番に得意なことを披露してくれた。セオくんは魔法なしのフラフープの次に、魔法ありでフラフープを宙でくるくると器用に回す。最後にはお手玉のように順に格好よくキャッチした。フラフープの素材は何かの蔦のようだ。
レジーくんは魔法なしのけん玉の次に、「これは魔法を使わないとできないので……たぶん使います」と少しだけ悔しそうに言って、玉の上にけんを乗せる灯台という技を見せてくれた。落ちそうになったけんを魔法で戻したものの、やっぱり駄目だったかという顔をしていた。
続けて、紐のついていない玉を魔法で出した水の勢いで軽く吹き上げて、水を消すと同時にけん玉のお皿で受け止める技も見せてくれた。
うん……魔法に頼らない頑張りに、魔法をプラスするという園の方針を感じるよね。小さい頃から魔法に馴染んでいると、調整が上手くなるのかもしれない。どれも私には自信がないな……。
次はアンディくんだ。
最初に会った時よりも、ずっと男の子っぽくなった。短く切ってもらったらしい赤い髪がツンツンと立っている。
「僕は竹馬をします」
一人称が僕になっている。卒園式用だよね。使い分けているのも可愛い。
竹馬、めっちゃ高い……少なくとも私の身長を越えているはず。
先生の持つ竹馬にぴょいと魔法で飛び乗った。そのままテクテクスタスタとまるで靴を履いているだけのように楽そうに進んでいるけれど、大きいだけに迫力がある。
「魔法も使います」
そう言って、竹馬を力強くトンと床に打ち付けると石の階段が出現して上っていく。最後は風魔法も使って飛んで降りてきた。
「アンディくんはお二人と背くらべもしたいらしいので、こちらへ来てもらってもいいですか」
オリバー先生に促されて、バランスを取りつつ待っているアンディくんの側に行く。勝ったぞ、と少し得意げだ。
「追い越されちゃったね。高くてすごい!」
褒めると、笑顔でコクンと頷いてくれる。
でも……やっぱり変わっていくんだなと思う。前は好きだって気持ちをストレートにぶつけてくれたけど、今は少し隠す。
「はい、ありがとうございました。お戻りください。竹馬に乗って、とっても背が高くなりましたね。アンディくんにも拍手!」
パチパチと手を鳴らす。
全員がほっとした顔をしている。子供なんだから失敗しても……なんて思うけど、子供たちは必死にいいところを見せようとしてくれる。
観客は私たち、たった二人なのに。
そんな一生懸命さに、じわりと感動する。
「皆さん、今日はとても頑張りましたね。本番が楽しみです。それでは、最後にお二人に感想を聞いてみましょうか! まずはレイモンド先生からお願いします」
来た直後にあとで感想を聞くとは言われていたものの、緊張する……。言葉を考えないと!
「今日は素敵な会を開いてくれてありがとう。歌もとっても上手でした。皆の思い出も聞いて、たくさん成長したんだなと感じました。少しずつ大きくなっていく皆を見るのが、僕にとっても喜びでした。リナちゃん、すごくお手玉上手だったね。感動しました。セオくん、フラフープ綺麗に回っていて驚いたよ」
レイモンドの感想が続いていく。
うん……辺境伯より保育士のが向いてそう……。でも親善試合や魔法学園の試験なんかを見ていると戦闘系も向いていそうだし、不器用って言ってたけど絶対に器用だよね。頭もいいし……。
もしかして私、『突然現れたイケメンに求婚されて顔だけ見てときめいて相手はたまたま完璧な男で幸せになりました』的展開に近いものがあるんじゃ……。より正確に言えば『突然現れたイケメンに求婚されて、あまりの溺愛っぷりに三日で沼落ちしたところ、相手はたまたま完璧な男で幸せになりました』ということに……酷いな。そんなタイトルの小説もありそう。
いや、まだ分からないよね。
学園に入学すらしていないし。もっと素敵な女の子が現れて、私が邪魔者になる可能性も……。
「皆さんと過ごすことができた僕は、本当に幸せでした。小学園に行っても元気に過ごしてください。僕も来月からは王都で学園に入ります。遠く離れてはしまうけれど、僕も頑張るので、皆さんも頑張ってください。たくさんの思い出をありがとう」
先生の拍手に合わせて子供たちも拍手してくれる。少し目が潤んでいる。子供にも分かりやすいコメント力……ううん、子供ウケのよさも私の好みだったのかな……。
「とっても素敵なお言葉をいただけましたね。一緒に頑張りましょう! それではアリス先生もお願いします」
いつからオリバー先生は、私に先生をつけるようになったんだっけ。
「えっと……初めて皆さんに会った時、とても楽しそうに魔法を使っていたのが思い出されます。まだ私は魔法が下手で、その時からここの子供たちはすごい、と尊敬する気持ちを持っていました。今日は今までの中で一番その気持ちが強いかもしれません」
さっきの得意なこと発表を思い出す。
「リナちゃん、あんなにたくさんのお手玉を回せるんだね、驚きました。私も見習って練習したいですが、できると思いますか?」
リナちゃんに笑いかけると、どうかなぁという顔をして首をチョコンと斜めに傾けた。
「あとでぜひコツを教えてください。セオくん、フラフープをあれだけ何度も回せるなんて、すごい特技だね。私は数回も回せないかなと思います。尊敬します。レジーくん、けん玉の技をたくさん見せてくれてありがとう。練習をするとこんなに色んなことができるんだと教えてもらいました」
レイモンドを真似して順番に褒めていく。皆、一人ずつ何かは言われたいよね。
――最後はアンディくんへの一言だ。
「では、来月から小学園に入る皆さんから、一人ずつ得意なことを披露しましょう!」
相変わらずマッチョのオリバー先生が、遊戯室で四人に話しかける。シルビア先生は、ピアノのすぐ横で見守ってくれている。
今日は卒園式に保護者や在園児の前で披露するという、得意なこと発表を見せてもらいに来た。卒園式の軽いリハーサルも兼ねているようで、オリバー先生の挨拶のあとには皆が好きだという歌の合唱もあった。何を歌うかは子供たちが話し合って決めたらしい。伴奏はシルビア先生だ。
一人ずつ園生活で何が楽しかったかの発表もあった。冬の園内でのお祭りの話、園でクッキーをつくった話……アンディくんは遠足の話を出していた。
皆がチラチラとこちらを見ては照れくさそうに笑い、隣のお友達とも目を見合わせる。
小さい子って感じで可愛い。
「最初はリナ・テイラーさん!」
「はい! 私はお手玉をします。まずは、魔法なしです」
丁寧な言葉での進行だ。
このクラス一人だけの女の子が、二つのピンクのお手玉を器用にポンポンとリズムよく回す。
「次に魔法を使います。1、2、3、4……」
六つに増やしたお手玉を等間隔に宙へと舞わせていく。
これ、難しそう……私も戻ったらやってみようかな……。練習したんだろうなと思うと、それだけで感動する。
パチパチとレイモンドと一緒に大きく拍手をすると、頑張ったという顔で笑ってくれた。
セオくんとレジーくんも順番に得意なことを披露してくれた。セオくんは魔法なしのフラフープの次に、魔法ありでフラフープを宙でくるくると器用に回す。最後にはお手玉のように順に格好よくキャッチした。フラフープの素材は何かの蔦のようだ。
レジーくんは魔法なしのけん玉の次に、「これは魔法を使わないとできないので……たぶん使います」と少しだけ悔しそうに言って、玉の上にけんを乗せる灯台という技を見せてくれた。落ちそうになったけんを魔法で戻したものの、やっぱり駄目だったかという顔をしていた。
続けて、紐のついていない玉を魔法で出した水の勢いで軽く吹き上げて、水を消すと同時にけん玉のお皿で受け止める技も見せてくれた。
うん……魔法に頼らない頑張りに、魔法をプラスするという園の方針を感じるよね。小さい頃から魔法に馴染んでいると、調整が上手くなるのかもしれない。どれも私には自信がないな……。
次はアンディくんだ。
最初に会った時よりも、ずっと男の子っぽくなった。短く切ってもらったらしい赤い髪がツンツンと立っている。
「僕は竹馬をします」
一人称が僕になっている。卒園式用だよね。使い分けているのも可愛い。
竹馬、めっちゃ高い……少なくとも私の身長を越えているはず。
先生の持つ竹馬にぴょいと魔法で飛び乗った。そのままテクテクスタスタとまるで靴を履いているだけのように楽そうに進んでいるけれど、大きいだけに迫力がある。
「魔法も使います」
そう言って、竹馬を力強くトンと床に打ち付けると石の階段が出現して上っていく。最後は風魔法も使って飛んで降りてきた。
「アンディくんはお二人と背くらべもしたいらしいので、こちらへ来てもらってもいいですか」
オリバー先生に促されて、バランスを取りつつ待っているアンディくんの側に行く。勝ったぞ、と少し得意げだ。
「追い越されちゃったね。高くてすごい!」
褒めると、笑顔でコクンと頷いてくれる。
でも……やっぱり変わっていくんだなと思う。前は好きだって気持ちをストレートにぶつけてくれたけど、今は少し隠す。
「はい、ありがとうございました。お戻りください。竹馬に乗って、とっても背が高くなりましたね。アンディくんにも拍手!」
パチパチと手を鳴らす。
全員がほっとした顔をしている。子供なんだから失敗しても……なんて思うけど、子供たちは必死にいいところを見せようとしてくれる。
観客は私たち、たった二人なのに。
そんな一生懸命さに、じわりと感動する。
「皆さん、今日はとても頑張りましたね。本番が楽しみです。それでは、最後にお二人に感想を聞いてみましょうか! まずはレイモンド先生からお願いします」
来た直後にあとで感想を聞くとは言われていたものの、緊張する……。言葉を考えないと!
「今日は素敵な会を開いてくれてありがとう。歌もとっても上手でした。皆の思い出も聞いて、たくさん成長したんだなと感じました。少しずつ大きくなっていく皆を見るのが、僕にとっても喜びでした。リナちゃん、すごくお手玉上手だったね。感動しました。セオくん、フラフープ綺麗に回っていて驚いたよ」
レイモンドの感想が続いていく。
うん……辺境伯より保育士のが向いてそう……。でも親善試合や魔法学園の試験なんかを見ていると戦闘系も向いていそうだし、不器用って言ってたけど絶対に器用だよね。頭もいいし……。
もしかして私、『突然現れたイケメンに求婚されて顔だけ見てときめいて相手はたまたま完璧な男で幸せになりました』的展開に近いものがあるんじゃ……。より正確に言えば『突然現れたイケメンに求婚されて、あまりの溺愛っぷりに三日で沼落ちしたところ、相手はたまたま完璧な男で幸せになりました』ということに……酷いな。そんなタイトルの小説もありそう。
いや、まだ分からないよね。
学園に入学すらしていないし。もっと素敵な女の子が現れて、私が邪魔者になる可能性も……。
「皆さんと過ごすことができた僕は、本当に幸せでした。小学園に行っても元気に過ごしてください。僕も来月からは王都で学園に入ります。遠く離れてはしまうけれど、僕も頑張るので、皆さんも頑張ってください。たくさんの思い出をありがとう」
先生の拍手に合わせて子供たちも拍手してくれる。少し目が潤んでいる。子供にも分かりやすいコメント力……ううん、子供ウケのよさも私の好みだったのかな……。
「とっても素敵なお言葉をいただけましたね。一緒に頑張りましょう! それではアリス先生もお願いします」
いつからオリバー先生は、私に先生をつけるようになったんだっけ。
「えっと……初めて皆さんに会った時、とても楽しそうに魔法を使っていたのが思い出されます。まだ私は魔法が下手で、その時からここの子供たちはすごい、と尊敬する気持ちを持っていました。今日は今までの中で一番その気持ちが強いかもしれません」
さっきの得意なこと発表を思い出す。
「リナちゃん、あんなにたくさんのお手玉を回せるんだね、驚きました。私も見習って練習したいですが、できると思いますか?」
リナちゃんに笑いかけると、どうかなぁという顔をして首をチョコンと斜めに傾けた。
「あとでぜひコツを教えてください。セオくん、フラフープをあれだけ何度も回せるなんて、すごい特技だね。私は数回も回せないかなと思います。尊敬します。レジーくん、けん玉の技をたくさん見せてくれてありがとう。練習をするとこんなに色んなことができるんだと教えてもらいました」
レイモンドを真似して順番に褒めていく。皆、一人ずつ何かは言われたいよね。
――最後はアンディくんへの一言だ。
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