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中編 愛の深まりと婚約
96.学生寮
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「ここ、どこ……」
「学生寮だよ、アリス!」
いや……自宅に戻るかと思うじゃん、あの流れ。涙も引っ込むよね。
「私たちの愛の園よぉ~、アリスちゃん。一緒に暮らしましょうねぇ?」
「俺たちの愛の園だよ!」
「一緒に暮らしたいって……言ってくれたものねぇ?」
「含みを持たせた言い方をしないでよ、魔女さん」
「う……うん……? 話についていけてないけど」
寮……?
西洋風の旅館に見える。受付のような机もあるし、右手には食堂といったテーブルが複数とソファやローテーブルなど団欒する場所がまとまっている。ロビーだったのかもしれない。奥の階段から上にいくようで、部屋もいくつかありそうだけど……寮と言えるほど大きくはなくない?
「小さな旅館を買いとってもらったんだ。あ、無理矢理じゃないよ。手放そうとされている旅館の中でよさそうなのをね。学園区からは少し離れて中央区にはなっちゃったけど。通える距離だし、いいよね」
まだ顔に残っている涙を、レイモンドにハンカチで拭かれる。
え、鼻水まで拭ったハンカチをしまわないでよ。そこの洗い場で洗って!
いや、その前に聞きたいことを聞こう。
「……買いとってもらったって……誰に……」
「私だ」
突然真後ろから、威圧感のある声がした。
は! いつの間にか魔女さんが真後ろにワープしてる! 今、連れてきたんだ!
「あなたたち、目立ちすぎよ……」
ジェニファー様がため息を吐きながら私に微笑んで、ふわっと一度だけ軽くハグされる。
「よかったわね、アリス。私まで見ていて泣いちゃったわ」
「う……うん……ありがとう……」
めちゃくちゃ恥ずかしいな。
「それで、えっと……ダニエル様が買いとってくださったんですか?」
「ああ。気楽にお前に会える学生寮を用意しろとそいつに言われてな」
「そんな上から目線じゃないよ。ちゃんと丁寧にお願いしたよ?」
「言ってる内容は変わらん。さすがに二人はまずいが、ジェニファーもお前と過ごしたがっていたからな。魔女も管理人として入ると言うし、仕方ないから私も付き合おう。学園にも話は通した」
「楽しみだって言ってたくせに」
「話して疲れる相手が少なければ楽にはなる。週末は公務のためにいないこともあるだろうが、学生の間くらいは私も羽を伸ばさせてもらおう」
どこから突っ込めばいいんだろう。
だって絶対、家近いでしょ!
王宮から通えるでしょ!
王子様と一緒に暮らすって……それに……。
「魔女さん、管理人……?」
「そうよぉ~、そこの受付みたいなところの後ろの部屋にいつもいるわぁ~。いないかもしれないけどぉ。よろしくねぇ~」
それは安心かも、防犯上。護衛がいなくても鉄壁の守りなんじゃないの。
「五人で暮らすってこと……?」
「いや、悪いが私の従者を従業員として入れさせてもらう。食事も任せておけばいい。そこの調理室を使わせてもらう。それから、生徒も少なすぎる。平民から二人入れる。貴族はあとで面倒だ」
「平民……」
「厳選するがな。寮は点在していて第一希望からの抽選式だ。どこかには入れる。よさそうな平民に、どこも満員になったからとあてがっておく。もうほとんど決めてはいて……レイモンドも知っている。お前には何も言ってなかったようだがな」
「俺がわざわざアリスに黙っていたみたいな言い方はしないでほしいよね、ダニエル」
「ここのことも黙っていたんだろう。いいのか、こいつで。アリス嬢」
……アリス嬢。久しぶりに聞いたフレーズだ。新鮮だよね。
「ええ。卑怯なのも姑息なのも肝心なことを言わないのも、しつこいのも粘着質なのも存じたうえでお慕いしていますわ」
あれ?
皆、若干引いている?
おかしいな……そーゆーのを知ったうえで好きか聞かれたよね、今。
合格が当たり前みたいなプレッシャーをかけないためだったと思いますわ、くらいのフォローをしとけばよかったかな。実際それが大きかったんだろうし。
「……そうか。それなら心配ないな。それから、丁寧に話そうとしなくていい。私も話していて疲れる」
さすがに王子様相手にそれは……。
「アリス、ここが春からの第二の家になる。君らしく話していいんだよ」
え、本気で言ってる?
「そ……れは……」
「学園でも寮でも気を張り続けていたら疲れてしまう。いいんだ、君らしくしていて。いつも通り話していいよ」
「本当にいいの……?」
「いいのよ、アリス」
ジェニファー様もうんうんと頷いてくれる。
「そっか……それなら……」
メイドさんの話していたような学園生活を送りたいと、以前教えてくれたジェニファー様――。
「よろしく、ジェニー!」
彼女からの期待の眼差しに、さっきのお返しにと抱きついた。
「学生寮だよ、アリス!」
いや……自宅に戻るかと思うじゃん、あの流れ。涙も引っ込むよね。
「私たちの愛の園よぉ~、アリスちゃん。一緒に暮らしましょうねぇ?」
「俺たちの愛の園だよ!」
「一緒に暮らしたいって……言ってくれたものねぇ?」
「含みを持たせた言い方をしないでよ、魔女さん」
「う……うん……? 話についていけてないけど」
寮……?
西洋風の旅館に見える。受付のような机もあるし、右手には食堂といったテーブルが複数とソファやローテーブルなど団欒する場所がまとまっている。ロビーだったのかもしれない。奥の階段から上にいくようで、部屋もいくつかありそうだけど……寮と言えるほど大きくはなくない?
「小さな旅館を買いとってもらったんだ。あ、無理矢理じゃないよ。手放そうとされている旅館の中でよさそうなのをね。学園区からは少し離れて中央区にはなっちゃったけど。通える距離だし、いいよね」
まだ顔に残っている涙を、レイモンドにハンカチで拭かれる。
え、鼻水まで拭ったハンカチをしまわないでよ。そこの洗い場で洗って!
いや、その前に聞きたいことを聞こう。
「……買いとってもらったって……誰に……」
「私だ」
突然真後ろから、威圧感のある声がした。
は! いつの間にか魔女さんが真後ろにワープしてる! 今、連れてきたんだ!
「あなたたち、目立ちすぎよ……」
ジェニファー様がため息を吐きながら私に微笑んで、ふわっと一度だけ軽くハグされる。
「よかったわね、アリス。私まで見ていて泣いちゃったわ」
「う……うん……ありがとう……」
めちゃくちゃ恥ずかしいな。
「それで、えっと……ダニエル様が買いとってくださったんですか?」
「ああ。気楽にお前に会える学生寮を用意しろとそいつに言われてな」
「そんな上から目線じゃないよ。ちゃんと丁寧にお願いしたよ?」
「言ってる内容は変わらん。さすがに二人はまずいが、ジェニファーもお前と過ごしたがっていたからな。魔女も管理人として入ると言うし、仕方ないから私も付き合おう。学園にも話は通した」
「楽しみだって言ってたくせに」
「話して疲れる相手が少なければ楽にはなる。週末は公務のためにいないこともあるだろうが、学生の間くらいは私も羽を伸ばさせてもらおう」
どこから突っ込めばいいんだろう。
だって絶対、家近いでしょ!
王宮から通えるでしょ!
王子様と一緒に暮らすって……それに……。
「魔女さん、管理人……?」
「そうよぉ~、そこの受付みたいなところの後ろの部屋にいつもいるわぁ~。いないかもしれないけどぉ。よろしくねぇ~」
それは安心かも、防犯上。護衛がいなくても鉄壁の守りなんじゃないの。
「五人で暮らすってこと……?」
「いや、悪いが私の従者を従業員として入れさせてもらう。食事も任せておけばいい。そこの調理室を使わせてもらう。それから、生徒も少なすぎる。平民から二人入れる。貴族はあとで面倒だ」
「平民……」
「厳選するがな。寮は点在していて第一希望からの抽選式だ。どこかには入れる。よさそうな平民に、どこも満員になったからとあてがっておく。もうほとんど決めてはいて……レイモンドも知っている。お前には何も言ってなかったようだがな」
「俺がわざわざアリスに黙っていたみたいな言い方はしないでほしいよね、ダニエル」
「ここのことも黙っていたんだろう。いいのか、こいつで。アリス嬢」
……アリス嬢。久しぶりに聞いたフレーズだ。新鮮だよね。
「ええ。卑怯なのも姑息なのも肝心なことを言わないのも、しつこいのも粘着質なのも存じたうえでお慕いしていますわ」
あれ?
皆、若干引いている?
おかしいな……そーゆーのを知ったうえで好きか聞かれたよね、今。
合格が当たり前みたいなプレッシャーをかけないためだったと思いますわ、くらいのフォローをしとけばよかったかな。実際それが大きかったんだろうし。
「……そうか。それなら心配ないな。それから、丁寧に話そうとしなくていい。私も話していて疲れる」
さすがに王子様相手にそれは……。
「アリス、ここが春からの第二の家になる。君らしく話していいんだよ」
え、本気で言ってる?
「そ……れは……」
「学園でも寮でも気を張り続けていたら疲れてしまう。いいんだ、君らしくしていて。いつも通り話していいよ」
「本当にいいの……?」
「いいのよ、アリス」
ジェニファー様もうんうんと頷いてくれる。
「そっか……それなら……」
メイドさんの話していたような学園生活を送りたいと、以前教えてくれたジェニファー様――。
「よろしく、ジェニー!」
彼女からの期待の眼差しに、さっきのお返しにと抱きついた。
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