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中編 愛の深まりと婚約
80.聖アリスちゃん
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「………………は?」
「赤い服も着ているし、ちょうどいいよ!」
突然テンションが高くなったレイモンドに、やや引いてしまう。
「え……何を言っているのか分からないけど」
「んー、今のアリスなら、都市ラハニノスの範囲内くらいかな。祈っちゃおう、祈っちゃおう。俺が安定して空に浮かせてあげるから、祈ってみてよ。クリスマスには赤い服を着た可愛い女の子から、光の魔法のプレゼント。サンタさんの起源になるかもしれないよ!」
え……アリスロースよりレイモンドロースのがいいんだけど……目立ちたくない……。
「やっぱりクリスマスにはサンタさんだよね」
「そこは同意するけど……」
「終わったら一緒に逃げてあげるから、サンタさんになろうよ」
すごくはしゃいでる……。
そういえば、レイモンドに何かをここまでお願いされたことはない気がする。キスとか……ただじっとしていればいいだけのことはお願いされても、こーゆーのはない。
どうしようかな……。
「ねー、サンタさんになろうよ~」
「……たまたま今日だけ赤い人が現れたのをわずかな人が目撃しましたーってだけになる可能性も十分あると思うけど」
「それはそれでいいじゃん。思い出になるし」
「仕方ないなぁ」
今日は水色の服は着ていないし……正体不明の赤い人になってみても、いっか。クリスマスだけの特別イベントだって、思ってもらえるかもしれないよね。
◆◇◆◇◆
そうして、レイモンドは木陰に隠れて私を浮かせる。
コートの下にはふわもこワンピ、ドロワーズやタイツまで履いて寒さ対策をしているから、下着も見えない。
ゆるゆると上昇するに従って、綺麗なイルミネーションが眼下へと降りていく。冷たい空気も相まって、少し寂しい。
……レイモンドも赤い服を着ていたら、隣にいてもらったのに。
人通りのないところで浮いているだけだから、人々には気付かれていない。
今日までの約半年間を思い出す。
わずかな間だけれど、たくさんの人と知り合った。
お母さんのように優しくしてくれるメイリア。
一緒にメッセージカードを書いて、ハンスと両思いになったと浮かれっぱなしのソフィ。
レイモンドのご両親も、誰も彼も温かく見守ってくれる。
保育園でも、シルビア先生をはじめとしてたくさんの先生にもお世話になったし……、アンディくんたちには幸せな人生を歩んでほしい。まだ若すぎる私が言うのもアレだけど……うっかり熱中症で死んじゃう人生にはしてほしくない。
色んな店にも入った。たくさんの人がここで、それぞれの道を歩んでいる。
いつか結婚したいなーなんて思っちゃう人が与えてくれた、私のもう一つの人生。
――神に祈りを捧げる。
私自身はまだ未熟だ。私にどうこうできる力なんてない。それでも……。
神様……どうかその無償の愛を人々に。
今日という日を迎えることができた祝福を。大好きなこの街の皆に、その光が行き届きますように。
自分の体が光に包まれていく。
ここは地球ではない。
空に浮かぶ星々も、天体ではないのかもしれない。それは光の塊なのかもしれない。
――神の加護よ、流れる星のようにこの街へと降り注いで。
放たれた光が雨のように降り注ぐ。
自分の体が、まるで神の愛を人々に注ぐ媒介物になった気分だ。
大好きな人へと目を向ける。
レイモンドはどこに……って……。
だ……大注目だ!
思った以上だ!
ヤバイヤバイ!
「さいっこうだね! 逃げよう、アリス!」
レイモンドが杖に跨がって空へと上ってきた。
「これ……ヤバくない?」
「ないない! 今日は横向きに乗ってよ。その方が絵になる」
「絵って……」
彼の杖に横乗りする。
今日は私が後ろだ。そのまま彼の腰へと手を回す。
「行くよー!」
誰もが上を向いて、こちらを指さしている。
家の中にいた人まで、外に出てきている。
「私……今、すごく嫌なことを思い出したんだけど」
「こんなにハッピーな夜に、どんな嫌なこと?」
「自由に制約なく空を飛べる人って……限られていなかった?」
「アリスにしては、気付くのが遅すぎだね!」
「あんたが私を杖に乗せて飛んだら、正体不明の赤い人じゃないじゃん! 正体モロバレじゃん!」
「ピンポーン! あったり~!」
「ふざけんなー!!!」
クリスマスの夜に、私の怒声が空へと響く。
レイモンドのこっち系のお願いは、よっぽどじゃないと聞くのはよそう……。
――この出来事から三ヶ月後、『クリスマスの夜の聖アリスちゃん』とかいう意味の分からない絵本が出回ることになるのも、レイモンドのせいなのかもしれない。
ううん……もしも私がサンタさんの起源になったのなら、プレゼントはイブじゃなくてクリスマスの夜になっちゃうのかな。
「赤い服も着ているし、ちょうどいいよ!」
突然テンションが高くなったレイモンドに、やや引いてしまう。
「え……何を言っているのか分からないけど」
「んー、今のアリスなら、都市ラハニノスの範囲内くらいかな。祈っちゃおう、祈っちゃおう。俺が安定して空に浮かせてあげるから、祈ってみてよ。クリスマスには赤い服を着た可愛い女の子から、光の魔法のプレゼント。サンタさんの起源になるかもしれないよ!」
え……アリスロースよりレイモンドロースのがいいんだけど……目立ちたくない……。
「やっぱりクリスマスにはサンタさんだよね」
「そこは同意するけど……」
「終わったら一緒に逃げてあげるから、サンタさんになろうよ」
すごくはしゃいでる……。
そういえば、レイモンドに何かをここまでお願いされたことはない気がする。キスとか……ただじっとしていればいいだけのことはお願いされても、こーゆーのはない。
どうしようかな……。
「ねー、サンタさんになろうよ~」
「……たまたま今日だけ赤い人が現れたのをわずかな人が目撃しましたーってだけになる可能性も十分あると思うけど」
「それはそれでいいじゃん。思い出になるし」
「仕方ないなぁ」
今日は水色の服は着ていないし……正体不明の赤い人になってみても、いっか。クリスマスだけの特別イベントだって、思ってもらえるかもしれないよね。
◆◇◆◇◆
そうして、レイモンドは木陰に隠れて私を浮かせる。
コートの下にはふわもこワンピ、ドロワーズやタイツまで履いて寒さ対策をしているから、下着も見えない。
ゆるゆると上昇するに従って、綺麗なイルミネーションが眼下へと降りていく。冷たい空気も相まって、少し寂しい。
……レイモンドも赤い服を着ていたら、隣にいてもらったのに。
人通りのないところで浮いているだけだから、人々には気付かれていない。
今日までの約半年間を思い出す。
わずかな間だけれど、たくさんの人と知り合った。
お母さんのように優しくしてくれるメイリア。
一緒にメッセージカードを書いて、ハンスと両思いになったと浮かれっぱなしのソフィ。
レイモンドのご両親も、誰も彼も温かく見守ってくれる。
保育園でも、シルビア先生をはじめとしてたくさんの先生にもお世話になったし……、アンディくんたちには幸せな人生を歩んでほしい。まだ若すぎる私が言うのもアレだけど……うっかり熱中症で死んじゃう人生にはしてほしくない。
色んな店にも入った。たくさんの人がここで、それぞれの道を歩んでいる。
いつか結婚したいなーなんて思っちゃう人が与えてくれた、私のもう一つの人生。
――神に祈りを捧げる。
私自身はまだ未熟だ。私にどうこうできる力なんてない。それでも……。
神様……どうかその無償の愛を人々に。
今日という日を迎えることができた祝福を。大好きなこの街の皆に、その光が行き届きますように。
自分の体が光に包まれていく。
ここは地球ではない。
空に浮かぶ星々も、天体ではないのかもしれない。それは光の塊なのかもしれない。
――神の加護よ、流れる星のようにこの街へと降り注いで。
放たれた光が雨のように降り注ぐ。
自分の体が、まるで神の愛を人々に注ぐ媒介物になった気分だ。
大好きな人へと目を向ける。
レイモンドはどこに……って……。
だ……大注目だ!
思った以上だ!
ヤバイヤバイ!
「さいっこうだね! 逃げよう、アリス!」
レイモンドが杖に跨がって空へと上ってきた。
「これ……ヤバくない?」
「ないない! 今日は横向きに乗ってよ。その方が絵になる」
「絵って……」
彼の杖に横乗りする。
今日は私が後ろだ。そのまま彼の腰へと手を回す。
「行くよー!」
誰もが上を向いて、こちらを指さしている。
家の中にいた人まで、外に出てきている。
「私……今、すごく嫌なことを思い出したんだけど」
「こんなにハッピーな夜に、どんな嫌なこと?」
「自由に制約なく空を飛べる人って……限られていなかった?」
「アリスにしては、気付くのが遅すぎだね!」
「あんたが私を杖に乗せて飛んだら、正体不明の赤い人じゃないじゃん! 正体モロバレじゃん!」
「ピンポーン! あったり~!」
「ふざけんなー!!!」
クリスマスの夜に、私の怒声が空へと響く。
レイモンドのこっち系のお願いは、よっぽどじゃないと聞くのはよそう……。
――この出来事から三ヶ月後、『クリスマスの夜の聖アリスちゃん』とかいう意味の分からない絵本が出回ることになるのも、レイモンドのせいなのかもしれない。
ううん……もしも私がサンタさんの起源になったのなら、プレゼントはイブじゃなくてクリスマスの夜になっちゃうのかな。
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