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中編 愛の深まりと婚約
66.太陽と虹に挟まれて
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「じゃ、やむ前に練習しよっか」
「なんの練習?」
雨が軽くパラついているのに、陽がさしている。変な感じだけど……好きだな。雨が綺麗に見える。
「光魔法と風魔法を同時に使う練習。そのうち慣れたら三つ同時にやってみよう。今日は二つまでにしようか」
「……ハードだね」
「楽しくやろう」
傘をさしながら、レイモンドの体だけが光る。今回は私も自分でやれってことだよね……。
本格的な雨だとレイモンドが私の分までやっちゃうからなぁ。ミスして消えたら濡れちゃうしって……過保護だよね。乾かせるのに。
――恵みの雨は地へとお還り。
祈りを捧げ、私の身体を光が包む……どこか温かい。神のご加護が身に宿る。
レイモンドがベンチを乾かしたあとに鞄を置いて、傘をかぶせた。杖をチョイチョイと動かして、空中に間隔の空いた石の階段ができる。
自分も生み出したことがあるものの、違和感は拭えない。水は分かるけど、石はね……。魔法で生み出した石が火や水と違って放っておくと勝手に消えてしまうのは、理にかなっている気もする。どんな理かは分からないけど。
「おいでよ、アリス。飛び移って来て」
私よりも二段上に跳び乗って、私を誘う。
ただ適当に浮くよりも、一メートルほどの高さに跳んで石の上に乗る方が難しい。ぐらつく体を静止するには、自分に対して周囲から空気を押して安定させるような調整が必要になる。浮くだけでも偏りが生じるとぐらぐらするし、体重移動があるなら尚更だ。
空を跳ぶのもそうだ。ただ杖に乗るだけではすぐに傾いてしまう。レイモンドの風魔法によって支えられているだけで、まだ一人ではバランスが上手くとれない。
「よいしょっ……と」
「光魔法、少し薄くなったよ」
「……意識しておくの、忘れちゃうよね……」
「慣れだよ。おいで」
またレイモンドが、後ろ向きに一つ上に跳ぶ。余裕そうな彼が格好よく見えてしまう。
何度か繰り返して、ものすごく高いところまで来てしまった。レイモンドがいなかったら、絶対に一人でこんな練習はしない。
「あ……足がガクガクしてきた……」
「下を見ないでと言いたいところだけど、下にある足場に着地したい時もあるからなぁ。落ちても大丈夫って経験を積むしかないよね。落ちても無事、風魔法で怪我をしませんでしたって経験をさ」
「キツイ……」
西陽が彼を照らし、サラサラと揺れる金髪が柔らかそうで触りたくなってしまう。
レイモンドだけを見ていれば、怖くないかな……なんて。
「雨、やんじゃったね」
「ああ。濡れずに頑張ったね」
小さい子を相手にするみたいに褒めるなぁ。
「虹だ……」
レイモンドが東の方角を見るので、私も顔をそちらに向ける。
この世界にも虹はあるんだ……。
「一緒に見よう、アリス」
レイモンドが彼の一段下の足場を大きくして、そこへ降りた。手を広げて、花がほころぶような笑顔を私に向ける。
こうやって、彼は私を試す。
どれくらい好きなのって――、何度も何度も試してくる。
「おいで」
「……落とさないでよ」
「もちろん」
足をトンッと打ち付けるのが魔法開始の合図だ。軽やかな風に包まれて、私の身体は彼の腕の中に――。
恥ずかしさから気を逸らすように、東の方角へまた顔を向けた。
空に架かる虹が、雲を照らす。
光り輝く空はどこまでも高く、見ていると吸い込まれてしまいそうだ。階段のように重なり合う雲に跳び移っていくことができれば、いずれは神の元にすら辿り着けるような気さえする。
「今日は二人の記念日だね」
私なら乙女チックなフレーズすぎて絶対に言えないような言葉を、レイモンドが臆面もなく言う。
「アリスと一緒に虹を見られて、おそろいのキノコも買って、それに――」
慌ててレイモンドの口を手で塞ぐも、外されてしまう。
「アリスからキスしてくれた」
――言うと思った。
「誕生日とクリスマスが同時に来たみたいだ。大事な記念日」
「私……そーゆーのすぐ忘れるけど。言われないと誕生日も忘れるタイプだけど」
「いいよ、忘れて。記念日だねって言ったら思い出してくれる。それだけでいいよ」
軽く彼が私の体を持ち上げて、足元の平坦な石が消えた。すぐ下に重なるように生み出された次の足場へと降りる。そうしないと、勝手に消えてしまうからだ。
「……ここ、クリスマスはあるの?」
「それがね……クリスマス自体は聖女クリスがこの世界へと最初に降り立った日みたいな記念日としてあるんだよ。君がいた世界とは意味合いが全く違うけど日付は同じだ。ただし、サンタさんがいないんだよ……。いつか歳をとってサンタクロースくらいの年齢になったら似たようなことをして、つくり出すしかないよね……」
レイモンドが起源でサンタクロースって名前になるのは無理がありそう。レイモンドロースとかになっちゃうんじゃない?
「レイモンドロース……肉っぽい……」
「なんでそうなったの!?」
私たちは太陽と虹に挟まれて、空に浮かぶ石の上でくすくすと笑い合った。
「なんの練習?」
雨が軽くパラついているのに、陽がさしている。変な感じだけど……好きだな。雨が綺麗に見える。
「光魔法と風魔法を同時に使う練習。そのうち慣れたら三つ同時にやってみよう。今日は二つまでにしようか」
「……ハードだね」
「楽しくやろう」
傘をさしながら、レイモンドの体だけが光る。今回は私も自分でやれってことだよね……。
本格的な雨だとレイモンドが私の分までやっちゃうからなぁ。ミスして消えたら濡れちゃうしって……過保護だよね。乾かせるのに。
――恵みの雨は地へとお還り。
祈りを捧げ、私の身体を光が包む……どこか温かい。神のご加護が身に宿る。
レイモンドがベンチを乾かしたあとに鞄を置いて、傘をかぶせた。杖をチョイチョイと動かして、空中に間隔の空いた石の階段ができる。
自分も生み出したことがあるものの、違和感は拭えない。水は分かるけど、石はね……。魔法で生み出した石が火や水と違って放っておくと勝手に消えてしまうのは、理にかなっている気もする。どんな理かは分からないけど。
「おいでよ、アリス。飛び移って来て」
私よりも二段上に跳び乗って、私を誘う。
ただ適当に浮くよりも、一メートルほどの高さに跳んで石の上に乗る方が難しい。ぐらつく体を静止するには、自分に対して周囲から空気を押して安定させるような調整が必要になる。浮くだけでも偏りが生じるとぐらぐらするし、体重移動があるなら尚更だ。
空を跳ぶのもそうだ。ただ杖に乗るだけではすぐに傾いてしまう。レイモンドの風魔法によって支えられているだけで、まだ一人ではバランスが上手くとれない。
「よいしょっ……と」
「光魔法、少し薄くなったよ」
「……意識しておくの、忘れちゃうよね……」
「慣れだよ。おいで」
またレイモンドが、後ろ向きに一つ上に跳ぶ。余裕そうな彼が格好よく見えてしまう。
何度か繰り返して、ものすごく高いところまで来てしまった。レイモンドがいなかったら、絶対に一人でこんな練習はしない。
「あ……足がガクガクしてきた……」
「下を見ないでと言いたいところだけど、下にある足場に着地したい時もあるからなぁ。落ちても大丈夫って経験を積むしかないよね。落ちても無事、風魔法で怪我をしませんでしたって経験をさ」
「キツイ……」
西陽が彼を照らし、サラサラと揺れる金髪が柔らかそうで触りたくなってしまう。
レイモンドだけを見ていれば、怖くないかな……なんて。
「雨、やんじゃったね」
「ああ。濡れずに頑張ったね」
小さい子を相手にするみたいに褒めるなぁ。
「虹だ……」
レイモンドが東の方角を見るので、私も顔をそちらに向ける。
この世界にも虹はあるんだ……。
「一緒に見よう、アリス」
レイモンドが彼の一段下の足場を大きくして、そこへ降りた。手を広げて、花がほころぶような笑顔を私に向ける。
こうやって、彼は私を試す。
どれくらい好きなのって――、何度も何度も試してくる。
「おいで」
「……落とさないでよ」
「もちろん」
足をトンッと打ち付けるのが魔法開始の合図だ。軽やかな風に包まれて、私の身体は彼の腕の中に――。
恥ずかしさから気を逸らすように、東の方角へまた顔を向けた。
空に架かる虹が、雲を照らす。
光り輝く空はどこまでも高く、見ていると吸い込まれてしまいそうだ。階段のように重なり合う雲に跳び移っていくことができれば、いずれは神の元にすら辿り着けるような気さえする。
「今日は二人の記念日だね」
私なら乙女チックなフレーズすぎて絶対に言えないような言葉を、レイモンドが臆面もなく言う。
「アリスと一緒に虹を見られて、おそろいのキノコも買って、それに――」
慌ててレイモンドの口を手で塞ぐも、外されてしまう。
「アリスからキスしてくれた」
――言うと思った。
「誕生日とクリスマスが同時に来たみたいだ。大事な記念日」
「私……そーゆーのすぐ忘れるけど。言われないと誕生日も忘れるタイプだけど」
「いいよ、忘れて。記念日だねって言ったら思い出してくれる。それだけでいいよ」
軽く彼が私の体を持ち上げて、足元の平坦な石が消えた。すぐ下に重なるように生み出された次の足場へと降りる。そうしないと、勝手に消えてしまうからだ。
「……ここ、クリスマスはあるの?」
「それがね……クリスマス自体は聖女クリスがこの世界へと最初に降り立った日みたいな記念日としてあるんだよ。君がいた世界とは意味合いが全く違うけど日付は同じだ。ただし、サンタさんがいないんだよ……。いつか歳をとってサンタクロースくらいの年齢になったら似たようなことをして、つくり出すしかないよね……」
レイモンドが起源でサンタクロースって名前になるのは無理がありそう。レイモンドロースとかになっちゃうんじゃない?
「レイモンドロース……肉っぽい……」
「なんでそうなったの!?」
私たちは太陽と虹に挟まれて、空に浮かぶ石の上でくすくすと笑い合った。
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