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前編 恋の自覚と両思い

26.光の精霊

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 ふわんふわんと火の玉のような光が浮かぶ。赤ではなく黄色というか……電球の色に近いかな。

「ただし、光の源を知らなければ扱えない。今の君ではおそらく無理だ。試してみて」
「う……うん……」

 光……ぽわぁって優しく広がる小さな光……。
 イメージをしてからお願いをする。

「光をちょうだい、精霊さん」

 うん……何も起きない。
 分かっていても寂しいな。

「光はね、ただ照らすだけじゃないんだ。神の愛情そのもの。軽い怪我なら治りもする」
「治癒魔法?」
「そうだね。光の精霊の力だけではさすがに魔獣は浄化できないものの、小さな嫌な気持ちも払うことができる。こうやって願うんだ」

 またレイモンドが、私の両手を握りしめた。

「アリスの心に宿る聖なる光よ、精霊の祝福を受けて輝きを放て」

 光が彼を一瞬包んだかと思うと大きな珠のように目の前に集まり、私の中に溶け込んでいく。ふわりと私の胸の中が温かくなった気がした。なんだか、ぽかぽかする。

「輝きを放った気はしないけど……可愛いワンちゃんを触った時みたいな気持ちになってきた」
「うん、それくらいの効果はあるかな。言葉にされて気付く程度だね」
「そうなんだ……光は、神の愛情……」
「ああ、ここでは太陽も神の恵みだ。太陽がこの世界を回っている」
「天動説なんだね。ここは球体でもないの?」
「そうだね。幻惑の海をここティルクオーズ王国をはじめとして七つの国が取り囲んでいる。霧も強くて海は渡りにくい。より中央に近い森からは魔獣が出続ける。今はあんまり森から出ようとはしないけどね。船が停泊している開けた場所はあるけど、騎士団が常駐しているよ」

 七つの国が取り囲む海……それって海なの?
 どこかに切れ目があるのかな。地中海も海だったしね。

「海の中心の大きな島には千年周期で魔王が現れて、聖女は最終的にそこに行くみたいだね。この世界の端っこは全部海で、そこに辿り着く前に元の場所へ戻ってしまうらしいよ。端に近い他の大陸の人たちが何回か試してそうなったようだ。ただ……この世界は聖樹によって支えられていると言われているから、樹の幹でもうねっているのかもしれないけどね。魔女さんがくれる杖も、それなのかもしれない」

 うーん、ものすごくファンタジーっぽい。それなのかもって……正体不明だったの。

「世界の果ては見せてあげられないけど、光についてはなんとなく分かってくれたかな。もう一度、精霊さんにお願いをしてみて」
「わ、分かった」

 えっと……神様の愛情……私たちを照らしてくれる柔らかな光……。

「光をちょうだい、精霊さん」

 さっきと同じ言葉にも関わらず、私の両手の中にぷかぷかと球体の光る球が現れて、ふよふよと浮かび始めた。

「綺麗……」
「だね。こうやって、この世界に満ちる力について信じて理解すれば魔法を行使できるんだ。勉強して解釈してアレンジも加えて……そうやって今は便利な魔道具も数多く作られている」
「勉強したことが分かりやすく目の前に形として現れるなら、やる気が出るね」
「まぁね。本にはややこしく書かれているけどね。さっきの俺が君にした簡単な心の浄化も、文章にするなら『神に創られし人の魂はその愛の源泉から湧きいずる聖なる光に照らされる時、大いなる存在からの祝福を受けて輝きに満たされるだろう』とか、そんな感じかな。魔道具を作るような応用魔術は、もっと小難しく書いてある」

 またやる気がなくなってきた……。またレイモンドにつきっきりで家庭教師をしてもらいたくなってきた……。
 ……それを狙ってんじゃないの、この男。ムカつくから言葉にしたくないけど……絶対そっちの方が早く習得できる。

「レイモンド……あんたって忙しいの。どれくらい私に付き合えるの」
「それはつまり、好きです付き合ってください的な――」
「ちっがぁぁぁぁう!!!」

 絶対分かってて言ってる、コイツ!

「あっはは、いいよ~。しばらくは君にべったりするよ。慣れてきたら……まぁ俺も剣術とか戦闘訓練みたいなのも、また再開するけどね。両親と一緒に視察でいない時も、あるかもしれない」

 あー……やっぱり色々あるんだ。

「じゃ、最後に相手の軽い攻撃を防ぐ練習でもしよっか」

 ……攻撃されるの……祈りと感謝の世界なのに。

 突っ込もうと思ったけれど彼が手を差し出すから……ひとまず手を重ねておくことにした。

 少しでも彼の側へと、引っ張り上げてもらわないといけないもんね!
 
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