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前編 恋の自覚と両思い
20.召喚の動機
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「……だからお勉強したの? あっちの言葉を」
気後れしたのを悟られないよう、軽い調子で聞く。
「そうだね、君のことをもっと知りたかったし」
彼も軽く言うけど……。
よく考えると狂っていないとおかしいかもしれない。何年も同じ人間を見続けて知らない言葉まで勉強して禁忌を侵して召喚……。
「私のことは条件に合致したから召喚したんじゃないの? もう少し……軽い好きだと思ってた。私がここに来た時も、軽い感じで話していたよね」
「んー、だって引かれたくなかったし。初対面で重い気持ちをぶつけられたら引くでしょ。ただ……気晴らしがほしくて軽い気持ちで探したのは確かだよ。でも君を見つけて、すぐに夢中になった」
「夢中になるようなすごいことは何もしていなかったと思うけど。学校行って部活やって宿題やって寝るだけってゆーか……」
「寝るだけじゃなかったよ。毎日騒がしくてさ、静かな時なんてなかったよね」
……そりゃ、二人も弟がいればね。光樹はいつもしゃべっていたし。
「見ていると面白くてさ。リビングの扉を絶対開けさせるものかって光樹くんが頑張っていたのは笑ったな」
ああ……確かにそんな時期もあった。光樹が二歳か三歳の時だ。お母さんの「ご飯よー」と呼ぶ声に反応して、扉の前で待ち構えていた。力勝負だと思っていたのかもしれない。
「それで、君はいつも負けてあげていた。リビングになかなか入れずに困っていた」
大樹は俺だって負けたくないと押し返していたから、毎回光樹が泣いていた。私だけでも負けてあげようと思うのは姉として当然だ。
「そんないつもの日常がどうしようもなく羨ましくて、俺も混ざってみたくなって、君のことが好きになって……」
レイモンドが言い淀む。
「……私の死を回避しようと思ったってこと?」
「うん……。君が死ぬのも、君の弟たちが悲しむのも見たくなかった」
私がもしあの時に熱中症で死んでいたのなら……大樹は自分のせいだと責めたはずだ。光樹もなんでねぇねは死んじゃったのと泣きわめいて……あの家からは笑顔がしばらくの間消えたはず。私の死は、ずっと影を落とし続けたのかもしれない。
回数券があるからとお金を持っていかなかった私が悪いんだけど……まさか自分のそんな軽いミスが、死につながるとはなぁ。
……ここに来てよかったかな。大樹に私の死の責任を負わせるくらいなら、最初からいなかったことになった方が……。
口には出さない。口にはしたくない。
でも……召喚してくれてありがとうと、今初めて思った。
レイモンドが狂ったように欲しているのは、きっと屈託なく話せる相手だ。私が過ごしていた、ただの日常がほしくて……参加している気分になりたくて言葉を覚えたのもあるのかな。
それなら……やっぱり私への好きの感情は永遠に続くものではないのかもしれない。
「とりあえず、あんたのストーカーをしていた動機は分かった」
「あれ? そんな結論になるの。おかしいな……もう少しいい話をしていた気がしたけど」
「変態行為に真っ当な言い訳を、どうもありがとう」
「我ながらいい話にもっていったと思ったんだけどなー、なんでかなー」
今の話を聞いたあとだと、私とこうやって軽口を言い合うのも楽しそうに見える。
「私に罵られるのが好きなのも分かった」
「え、違うよ!? 君が好きなんであって、そんな趣味はないよ!? そんなこと一言も言ってなかったよね、俺」
「分かったところで、お腹すいた。なんか出してよ。魔法でちょいちょいと」
「えー、変な勘違いをされたままだと困るんだけど。それに魔法もそんなに万能じゃないよ。でも……今日は都合よくちょいちょいと出せるようになっているんだよね……。未来を読まれているみたいで気持ち悪いけど、おいで」
彼の差し出す手に、自分の手をまた重ねる。
だって……ね?
森は足元が安定しないし。転んだ時に浮かせてもらえた方が、いいに決まっているもんね。
気後れしたのを悟られないよう、軽い調子で聞く。
「そうだね、君のことをもっと知りたかったし」
彼も軽く言うけど……。
よく考えると狂っていないとおかしいかもしれない。何年も同じ人間を見続けて知らない言葉まで勉強して禁忌を侵して召喚……。
「私のことは条件に合致したから召喚したんじゃないの? もう少し……軽い好きだと思ってた。私がここに来た時も、軽い感じで話していたよね」
「んー、だって引かれたくなかったし。初対面で重い気持ちをぶつけられたら引くでしょ。ただ……気晴らしがほしくて軽い気持ちで探したのは確かだよ。でも君を見つけて、すぐに夢中になった」
「夢中になるようなすごいことは何もしていなかったと思うけど。学校行って部活やって宿題やって寝るだけってゆーか……」
「寝るだけじゃなかったよ。毎日騒がしくてさ、静かな時なんてなかったよね」
……そりゃ、二人も弟がいればね。光樹はいつもしゃべっていたし。
「見ていると面白くてさ。リビングの扉を絶対開けさせるものかって光樹くんが頑張っていたのは笑ったな」
ああ……確かにそんな時期もあった。光樹が二歳か三歳の時だ。お母さんの「ご飯よー」と呼ぶ声に反応して、扉の前で待ち構えていた。力勝負だと思っていたのかもしれない。
「それで、君はいつも負けてあげていた。リビングになかなか入れずに困っていた」
大樹は俺だって負けたくないと押し返していたから、毎回光樹が泣いていた。私だけでも負けてあげようと思うのは姉として当然だ。
「そんないつもの日常がどうしようもなく羨ましくて、俺も混ざってみたくなって、君のことが好きになって……」
レイモンドが言い淀む。
「……私の死を回避しようと思ったってこと?」
「うん……。君が死ぬのも、君の弟たちが悲しむのも見たくなかった」
私がもしあの時に熱中症で死んでいたのなら……大樹は自分のせいだと責めたはずだ。光樹もなんでねぇねは死んじゃったのと泣きわめいて……あの家からは笑顔がしばらくの間消えたはず。私の死は、ずっと影を落とし続けたのかもしれない。
回数券があるからとお金を持っていかなかった私が悪いんだけど……まさか自分のそんな軽いミスが、死につながるとはなぁ。
……ここに来てよかったかな。大樹に私の死の責任を負わせるくらいなら、最初からいなかったことになった方が……。
口には出さない。口にはしたくない。
でも……召喚してくれてありがとうと、今初めて思った。
レイモンドが狂ったように欲しているのは、きっと屈託なく話せる相手だ。私が過ごしていた、ただの日常がほしくて……参加している気分になりたくて言葉を覚えたのもあるのかな。
それなら……やっぱり私への好きの感情は永遠に続くものではないのかもしれない。
「とりあえず、あんたのストーカーをしていた動機は分かった」
「あれ? そんな結論になるの。おかしいな……もう少しいい話をしていた気がしたけど」
「変態行為に真っ当な言い訳を、どうもありがとう」
「我ながらいい話にもっていったと思ったんだけどなー、なんでかなー」
今の話を聞いたあとだと、私とこうやって軽口を言い合うのも楽しそうに見える。
「私に罵られるのが好きなのも分かった」
「え、違うよ!? 君が好きなんであって、そんな趣味はないよ!? そんなこと一言も言ってなかったよね、俺」
「分かったところで、お腹すいた。なんか出してよ。魔法でちょいちょいと」
「えー、変な勘違いをされたままだと困るんだけど。それに魔法もそんなに万能じゃないよ。でも……今日は都合よくちょいちょいと出せるようになっているんだよね……。未来を読まれているみたいで気持ち悪いけど、おいで」
彼の差し出す手に、自分の手をまた重ねる。
だって……ね?
森は足元が安定しないし。転んだ時に浮かせてもらえた方が、いいに決まっているもんね。
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