8 / 189
前編 恋の自覚と両思い
8.白薔薇邸
しおりを挟む
我ながら無意味な会話をした……。
軽く後悔をしながら再度門を通り、建物の入口に立つ衛兵さんにも挨拶をした。
ここは離れの邸宅だ。白薔薇邸と呼ばれているらしい。敷地内には本館である城以外にも騎士館や監視塔など多くの建物があるとか。プライベートを別にするために離れに居住スペースを設けているとのことだ。
移動は空を飛べば楽だというのもあるみたいだけど……敷地が広大すぎて胸焼けがする。
建物の中に入るとズラリと使用人の人たちが並んでいる。
なんで……? ビビるんだけど。
帰ったこと、分かっていたのかな。魔法の世界だしね。
「お帰りなさいませ、レイモンド様」
「ああ、変わりはない?」
「はい、そちらが……」
「アリス・バーネットだ。メイリア、ソフィ、よろしく頼む」
「はい。本日よりアリス様の身の回りのお世話をさせていただく、メイリアと申します」
「同じくソフィです。よろしくお願いします」
「あ、はい。お願いします」
二人はメイドさんといった装いだけれど見た目はまるで違う。
メイリアさんはお母さんと同じくらいの年齢に見える。紺色の髪を後ろで留めて落ち着いた雰囲気だ。ソフィさんは若くて可愛い。髪は薄い桃色で、ツインテールなので幼さを感じる。
お母さんのような存在と友達のような存在を私につけておこうと思ってくれたのかもしれない。
……レイモンドが徳川十五代将軍を覚えてくれたせいで、彼の株が上がってしまった気がする。お願いしなきゃよかったなぁ。
「アリス、あとで一緒にご飯を食べようね」
彼はにっこりと笑うと、スタスタといなくなってしまった。
行っちゃうんだ……すごく不安なのに。
「それでは、アリス様。お部屋にご案内いたします」
「あ、はい。ありがとうございます、メイリアさん」
「あら、さんはいりませんよ。私たちは使用人ですから。呼び捨てにしてください」
「わ、分かりました。メ……メイリア?」
「はい」
温かい笑顔で応じてもらって、少し安心する。
「ソ……ソフィ?」
「はい、ソフィです! 名前を呼んでもらえて嬉しいです」
「う、うん。ありがとう」
話し方が難しいな……。
えっと、使用人には普通で? でも友達みたいには駄目だよね。レイモンドはどうしていたかな……なんか偉そうだった気も……。
階段を上り、アーチ状になった天井が続いていく廊下を歩いていく。
やっぱりどこもかしこもリッチだ……。
「あの、私は話し方とかどうしたらいいんでしょうか」
「私たちより上の立場ですから、楽にお話しください」
「う……うん……」
くすりと二人が笑う。
「いずれレイモンド様の奥方となるのでしょうし、そのような話し方を意識されてもよろしいかもしれませんね」
「ど、どんな感じかな」
「そうですね……このような時は『ええ、そうさせていただくわ』といったふうでしょうか」
どこの貴族だ!
いや……貴族だけど……。
奥方かぁー。そう思われているんだ、やっぱり。突然来た女の子をそんな扱いするのって、嫌じゃないのかな。
「頑張って意識する……けど、たまに練習に付き合ってほしいかな」
「ええ、もちろんです。いつでもおっしゃってください。ただ、私たちの前で無理はされなくても結構ですよ」
ひとまずここで暮らすのなら慣れなくては仕方がない……けど、そう言ってくれるなら、二人の前では無理しなくてもいっか。
話しているうちに部屋へ着いたようだ。二人が止まったので私も足を止める。
「こちらが、アリス様の部屋となります」
そうして、私はやっとこの世界での帰る場所……自分の部屋へと足を踏み入れた。
軽く後悔をしながら再度門を通り、建物の入口に立つ衛兵さんにも挨拶をした。
ここは離れの邸宅だ。白薔薇邸と呼ばれているらしい。敷地内には本館である城以外にも騎士館や監視塔など多くの建物があるとか。プライベートを別にするために離れに居住スペースを設けているとのことだ。
移動は空を飛べば楽だというのもあるみたいだけど……敷地が広大すぎて胸焼けがする。
建物の中に入るとズラリと使用人の人たちが並んでいる。
なんで……? ビビるんだけど。
帰ったこと、分かっていたのかな。魔法の世界だしね。
「お帰りなさいませ、レイモンド様」
「ああ、変わりはない?」
「はい、そちらが……」
「アリス・バーネットだ。メイリア、ソフィ、よろしく頼む」
「はい。本日よりアリス様の身の回りのお世話をさせていただく、メイリアと申します」
「同じくソフィです。よろしくお願いします」
「あ、はい。お願いします」
二人はメイドさんといった装いだけれど見た目はまるで違う。
メイリアさんはお母さんと同じくらいの年齢に見える。紺色の髪を後ろで留めて落ち着いた雰囲気だ。ソフィさんは若くて可愛い。髪は薄い桃色で、ツインテールなので幼さを感じる。
お母さんのような存在と友達のような存在を私につけておこうと思ってくれたのかもしれない。
……レイモンドが徳川十五代将軍を覚えてくれたせいで、彼の株が上がってしまった気がする。お願いしなきゃよかったなぁ。
「アリス、あとで一緒にご飯を食べようね」
彼はにっこりと笑うと、スタスタといなくなってしまった。
行っちゃうんだ……すごく不安なのに。
「それでは、アリス様。お部屋にご案内いたします」
「あ、はい。ありがとうございます、メイリアさん」
「あら、さんはいりませんよ。私たちは使用人ですから。呼び捨てにしてください」
「わ、分かりました。メ……メイリア?」
「はい」
温かい笑顔で応じてもらって、少し安心する。
「ソ……ソフィ?」
「はい、ソフィです! 名前を呼んでもらえて嬉しいです」
「う、うん。ありがとう」
話し方が難しいな……。
えっと、使用人には普通で? でも友達みたいには駄目だよね。レイモンドはどうしていたかな……なんか偉そうだった気も……。
階段を上り、アーチ状になった天井が続いていく廊下を歩いていく。
やっぱりどこもかしこもリッチだ……。
「あの、私は話し方とかどうしたらいいんでしょうか」
「私たちより上の立場ですから、楽にお話しください」
「う……うん……」
くすりと二人が笑う。
「いずれレイモンド様の奥方となるのでしょうし、そのような話し方を意識されてもよろしいかもしれませんね」
「ど、どんな感じかな」
「そうですね……このような時は『ええ、そうさせていただくわ』といったふうでしょうか」
どこの貴族だ!
いや……貴族だけど……。
奥方かぁー。そう思われているんだ、やっぱり。突然来た女の子をそんな扱いするのって、嫌じゃないのかな。
「頑張って意識する……けど、たまに練習に付き合ってほしいかな」
「ええ、もちろんです。いつでもおっしゃってください。ただ、私たちの前で無理はされなくても結構ですよ」
ひとまずここで暮らすのなら慣れなくては仕方がない……けど、そう言ってくれるなら、二人の前では無理しなくてもいっか。
話しているうちに部屋へ着いたようだ。二人が止まったので私も足を止める。
「こちらが、アリス様の部屋となります」
そうして、私はやっとこの世界での帰る場所……自分の部屋へと足を踏み入れた。
1
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。
甘寧
恋愛
断罪の最中に前世の記憶が蘇ったベルベット。
ここは乙女ゲームの世界で自分がまさに悪役令嬢の立場で、ヒロインは王子ルートを攻略し、無事に断罪まで来た所だと分かった。ベルベットは大人しく断罪を受け入れ国外追放に。
──……だが、追放先で攻略対象者である教皇のロジェを拾い、更にはもう一人の対象者である騎士団長のジェフリーまでがことある事にベルベットの元を訪れてくるようになる。
ゲームからは完全に外れたはずなのに、悪役令嬢と言うフラグが今だに存在している気がして仕方がないベルベットは、平穏な第二の人生の為に何とかロジェとジェフリーと関わりを持たないように逃げまくるベルベット。
しかし、その行動が裏目に出てロジェとジェフリーの執着が増していく。
そんな折、何者かがヒロインである聖女を使いベルベットの命を狙っていることが分かる。そして、このゲームには隠された裏設定がある事も分かり……
独占欲の強い二人に振り回されるベルベットの結末はいかに?
※完全に作者の趣味です。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜
楠ノ木雫
恋愛
朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。
テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。ある日先輩方と城下町でお酒を飲みべろんべろんになって帰ってきた次の日、ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる