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43.報告
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そうして――、私たちは魔女の力を借りて王宮へ戻った。ルーカス様はご両親と共に後処理に追われるのだろう。国内全て、他の国も同様だ。
私は魔王を浄化しただけ。後始末は全て他の人の仕事だ。一晩熟睡させてもらって、いつものように放課後に私は学園に遊びに行く。先生に私が訪れるから待ちたい人は待ってもらうようにといつも伝えてもらっていた。そして毎回全員が待っている。クラスへ行くまでも雰囲気を感じとって他のクラスの生徒が廊下で待っていてくれるので、いつも笑顔を振りまいてはいる。今回は拍手で迎えられた。
「ただいま、皆さん。役目は終えたわ」
教室へ入ると、またも鳴り止まない拍手。
「ありがとうございました! セイカさん!」
「感動しました!」
「光が降ってきましたよね、セイカさんだったんですよね!」
……ものすごく偉い人になっちゃった気になるわね。
「当然よ。でも、私にあんなおどろおどろしいものを浄化なんて、できるわけがないわ。魔道具のお陰よ。他の人の祈りのお陰。ありがとね」
最終的な魔道具は各国の研究成果の結晶ではあったけど、発案したのは彼らだ。
「そんな、セイカさんのお陰ですよ。……魔王ってどんなんだったんですか」
「黒い物体ね。島を覆い尽くそうとしていたわ。放っておくと世界を覆うのね、きっと。瘴気にあてられてバタバタと人が倒れていくのだと思うわ」
「うわぁ……」
クラスメイトが口々にたくさんの質問を私に浴びせ、私も答える。前の世界では絶対にあり得なかった光景だ。
「今日はね、もう一つ報告も兼ねてきたのよ。私はもうこの学園に来ないわ。悪いけど、行方不明になるのよ」
「え……」
クラスの全員が固まった。
「でも、心配しないで。もうすぐ冬休みよね。冬季休暇が開けたら転校生が来るわ。仲よくしてあげてくれるかしら」
「え、え……?」
「名前はセイカ・オルザベル。クリスティーナ・オルザベルの双子の姉よ。ねぇ、クリス?」
既に話は通してある。
「ええ、そうね。あまり私とは似ていない双子の姉。でも昔からセイカちゃんって呼んでいるから、これからもそう呼ぶわ」
意味深な目をして彼女が笑う。完全に他の皆にも意味は通じたようだ。
「これからはえっと、そ、そのお姉さんと授業も受けられるんですか!?」
「もちろんよ。勉強はお手上げらしいから、教えてあげてほしいわね」
わぁっと皆が盛り上がってくれる。
私はこれから、家庭教師の元で猛勉強だ。冬休み開けになんとか授業の内容の意味くらいは理解できるようにしておきたい。
「魔法だけは得意らしい頭の悪い転校生の女の子をどうかよろしくね」
「俺、教えるの上手いですよ!」
「もー、私のが上手いわよ。ヴィンセント様に怒られるわよ」
「あー……怖そうだからなー。やましい気持ちはないんで、頼ってください!」
「抜け駆けは駄目よ。ね、放課後勉強会をしましょうよ! あ……そう、クリスさんのお姉様に伝えてほしいわね!」
もう慣れたはずなのに、たまにふと昔を思い出す。あの頃は、こんなふうにクラスメイトと馴染める光景をたまに一瞬空想して……気持ち悪いなと自分が嫌になっていた。
ほんっとに……すぐに目が潤むのが、我ながら鬱陶しいわ。
「セイカさん?」
「ごめんなさいね。もしかして好かれているのかしらなんて思うと嬉しくて泣きそうになるの」
「…………っ」
ここは居心地がいいわ。ただの私なら気色悪いだけかもしれない。でも、聖女である私なら、そう言ったって喜んでくれるでしょう?
「私はセイカさんが好きですよ!」
「俺だって好きです!」
なにこの、恥ずかしい空間……。
「ありがと。私も好きよ、皆のことも世界のことも。ふふっ、聖女だったってことを利用して、楽しい人生を歩ませてもらうわ」
満面の笑みで、クラス中を見渡す。
「セイカ・オルザベルがね!」
さぁ、新しい人生を始めよう。私の第二の人生はこれから始まるのよ。
――ねぇ、アリス?
あなたが生きていて、今の私を見たらどう思うのかしら。大好きな恋人がいる。気軽に話せる友達がいる。あなたのお陰よって。勇気をたくさんくれた、アリスのお陰よって伝えたい。
もう……どこにもいないけど。
「世界を救えて、よかったわ」
私の泣き癖はなかなか治らないけど、今日はそれでもいい。だって皆も、泣いてくれているものね。
私は魔王を浄化しただけ。後始末は全て他の人の仕事だ。一晩熟睡させてもらって、いつものように放課後に私は学園に遊びに行く。先生に私が訪れるから待ちたい人は待ってもらうようにといつも伝えてもらっていた。そして毎回全員が待っている。クラスへ行くまでも雰囲気を感じとって他のクラスの生徒が廊下で待っていてくれるので、いつも笑顔を振りまいてはいる。今回は拍手で迎えられた。
「ただいま、皆さん。役目は終えたわ」
教室へ入ると、またも鳴り止まない拍手。
「ありがとうございました! セイカさん!」
「感動しました!」
「光が降ってきましたよね、セイカさんだったんですよね!」
……ものすごく偉い人になっちゃった気になるわね。
「当然よ。でも、私にあんなおどろおどろしいものを浄化なんて、できるわけがないわ。魔道具のお陰よ。他の人の祈りのお陰。ありがとね」
最終的な魔道具は各国の研究成果の結晶ではあったけど、発案したのは彼らだ。
「そんな、セイカさんのお陰ですよ。……魔王ってどんなんだったんですか」
「黒い物体ね。島を覆い尽くそうとしていたわ。放っておくと世界を覆うのね、きっと。瘴気にあてられてバタバタと人が倒れていくのだと思うわ」
「うわぁ……」
クラスメイトが口々にたくさんの質問を私に浴びせ、私も答える。前の世界では絶対にあり得なかった光景だ。
「今日はね、もう一つ報告も兼ねてきたのよ。私はもうこの学園に来ないわ。悪いけど、行方不明になるのよ」
「え……」
クラスの全員が固まった。
「でも、心配しないで。もうすぐ冬休みよね。冬季休暇が開けたら転校生が来るわ。仲よくしてあげてくれるかしら」
「え、え……?」
「名前はセイカ・オルザベル。クリスティーナ・オルザベルの双子の姉よ。ねぇ、クリス?」
既に話は通してある。
「ええ、そうね。あまり私とは似ていない双子の姉。でも昔からセイカちゃんって呼んでいるから、これからもそう呼ぶわ」
意味深な目をして彼女が笑う。完全に他の皆にも意味は通じたようだ。
「これからはえっと、そ、そのお姉さんと授業も受けられるんですか!?」
「もちろんよ。勉強はお手上げらしいから、教えてあげてほしいわね」
わぁっと皆が盛り上がってくれる。
私はこれから、家庭教師の元で猛勉強だ。冬休み開けになんとか授業の内容の意味くらいは理解できるようにしておきたい。
「魔法だけは得意らしい頭の悪い転校生の女の子をどうかよろしくね」
「俺、教えるの上手いですよ!」
「もー、私のが上手いわよ。ヴィンセント様に怒られるわよ」
「あー……怖そうだからなー。やましい気持ちはないんで、頼ってください!」
「抜け駆けは駄目よ。ね、放課後勉強会をしましょうよ! あ……そう、クリスさんのお姉様に伝えてほしいわね!」
もう慣れたはずなのに、たまにふと昔を思い出す。あの頃は、こんなふうにクラスメイトと馴染める光景をたまに一瞬空想して……気持ち悪いなと自分が嫌になっていた。
ほんっとに……すぐに目が潤むのが、我ながら鬱陶しいわ。
「セイカさん?」
「ごめんなさいね。もしかして好かれているのかしらなんて思うと嬉しくて泣きそうになるの」
「…………っ」
ここは居心地がいいわ。ただの私なら気色悪いだけかもしれない。でも、聖女である私なら、そう言ったって喜んでくれるでしょう?
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「ありがと。私も好きよ、皆のことも世界のことも。ふふっ、聖女だったってことを利用して、楽しい人生を歩ませてもらうわ」
満面の笑みで、クラス中を見渡す。
「セイカ・オルザベルがね!」
さぁ、新しい人生を始めよう。私の第二の人生はこれから始まるのよ。
――ねぇ、アリス?
あなたが生きていて、今の私を見たらどう思うのかしら。大好きな恋人がいる。気軽に話せる友達がいる。あなたのお陰よって。勇気をたくさんくれた、アリスのお陰よって伝えたい。
もう……どこにもいないけど。
「世界を救えて、よかったわ」
私の泣き癖はなかなか治らないけど、今日はそれでもいい。だって皆も、泣いてくれているものね。
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