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32.普通?
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もう一つの会場に着くと、やはりあちらとは全く違う。
立食なのは変わらないけれど、完全に身内パーティーといった感じだ。演奏しているのも学生で、適当にノリよく踊って適当に食べている。ガヤガヤもしているし、音楽もリズミカル。
音楽は……やっぱり昔とは違うのかしら。アリスの日記にはラテン系かなとか、民族音楽のようで「ズンチャカズンチャカ」と擬音まで書いてあったけれど……印象が少し違う。
ノリはよくアップテンポ。楽器も不思議な形ね。ギターのようだけれど、銅の部分が丸くて金属も使われているようだし……ケルト音楽が近未来的になったような……。
でも、音楽を楽しむ気持ちはきっと、七百年も前から変わらないのね。異世界扱いされる、前の世界とも変わらない。
「……人って、何年経ってもどこにいても、あまり変わり映えしないのかしら」
「当然だろう。似たような脳を持ち、似たような期間しか生きられないのだからな」
「……そうね」
私のようなコミュ障タイプも、きっとたくさんいるのよね……。
「セイカちゃんはどうする? フルーツサンドをまずは食べる?」
クリスが聞いてくれるけど、だからフルーツサンドはアリスの……って、心の中で突っ込むのも飽きてきたわ。
「それより、アドルフ様と踊ってらっしゃいよ」
「え」
頻繁に話しかけてくれるけど……この子は、友達がすぐにできるタイプだ。
「私はヴィンスと二人で食べているから、適当に踊ってきたらいいわよ」
「んんー……。こっちのダンスはさすがに上手くは……」
「そんなの求められていないよ、クリス。行こうか」
アドルフ様に誘われてやる気を出したようで、突然目が輝いた。「それなら行ってくるわ」とクリスたちが手を振って中央あたりへと移動していく。
「……やっぱりサマになっているわね」
「そうだな」
ヴィンスがお皿にとってくれたフルーツサンドを食しながら、妖精のように軽やかにアップテンポの適当ステップを踏んでいる彼らを見る。甘いイチゴジャムのような味のフルーツの味に首をかしげると「アリス嬢が好きだと書いていたチェリチェリベリーだ」と教えてもらう。
「なんだか、ここにいると……ただの普通の女の子の気分になるわよね」
視線は気になるものの、周りにいる生徒たちだって自分の学園生活が一番大事に決まっている。それぞれが思い思いに話し、踊り、私は前の世界と同様、仲のいい人から離れず……。
「普通の女の子だろう?」
「……聖女が普通なの」
「ああ。魔王浄化というイベントが待っているだけだ」
……それ、普通なの。
「特別な女の子でもいい。私といつか結婚したいと言ってくれる女は、世界を救う特別な聖女。それでもいい」
人から聞くと、そんな御大層なもんじゃないわよと言いたくなるわね。
「やっぱり普通ね。あなたといつか結婚したいと思っている女は、鬱陶しくてよく泣いて人付き合いが下手で、魔王浄化のイベントがそのうち起こるだけの普通の女の子ね」
「…………」
そんな……愛おしそうな目で見ないでよ。恥ずかしいじゃない。
案の定、踊り終えたクリスたちには人が群がっている。にこやかに笑顔を振りまく彼女を邪魔したくはない。こちらに戻ってこなければと思われないように、フルーツサンドをヴィンスの口に突っ込んだ。
「……なんだ」
「恋人とイチャイチャしてみたくなって。そんな経験ないもの」
「そんなタイプだったのか……」
違うけど。
でも、こんな顔をしてくれるなら、そんなタイプになってしまいそう。
これから先を思うと気が重い。私が早く魔王浄化ができるレベルまで達しなければ被害が出続ける。
でも――、
今だけは、普通の一日を楽しみたい。
立食なのは変わらないけれど、完全に身内パーティーといった感じだ。演奏しているのも学生で、適当にノリよく踊って適当に食べている。ガヤガヤもしているし、音楽もリズミカル。
音楽は……やっぱり昔とは違うのかしら。アリスの日記にはラテン系かなとか、民族音楽のようで「ズンチャカズンチャカ」と擬音まで書いてあったけれど……印象が少し違う。
ノリはよくアップテンポ。楽器も不思議な形ね。ギターのようだけれど、銅の部分が丸くて金属も使われているようだし……ケルト音楽が近未来的になったような……。
でも、音楽を楽しむ気持ちはきっと、七百年も前から変わらないのね。異世界扱いされる、前の世界とも変わらない。
「……人って、何年経ってもどこにいても、あまり変わり映えしないのかしら」
「当然だろう。似たような脳を持ち、似たような期間しか生きられないのだからな」
「……そうね」
私のようなコミュ障タイプも、きっとたくさんいるのよね……。
「セイカちゃんはどうする? フルーツサンドをまずは食べる?」
クリスが聞いてくれるけど、だからフルーツサンドはアリスの……って、心の中で突っ込むのも飽きてきたわ。
「それより、アドルフ様と踊ってらっしゃいよ」
「え」
頻繁に話しかけてくれるけど……この子は、友達がすぐにできるタイプだ。
「私はヴィンスと二人で食べているから、適当に踊ってきたらいいわよ」
「んんー……。こっちのダンスはさすがに上手くは……」
「そんなの求められていないよ、クリス。行こうか」
アドルフ様に誘われてやる気を出したようで、突然目が輝いた。「それなら行ってくるわ」とクリスたちが手を振って中央あたりへと移動していく。
「……やっぱりサマになっているわね」
「そうだな」
ヴィンスがお皿にとってくれたフルーツサンドを食しながら、妖精のように軽やかにアップテンポの適当ステップを踏んでいる彼らを見る。甘いイチゴジャムのような味のフルーツの味に首をかしげると「アリス嬢が好きだと書いていたチェリチェリベリーだ」と教えてもらう。
「なんだか、ここにいると……ただの普通の女の子の気分になるわよね」
視線は気になるものの、周りにいる生徒たちだって自分の学園生活が一番大事に決まっている。それぞれが思い思いに話し、踊り、私は前の世界と同様、仲のいい人から離れず……。
「普通の女の子だろう?」
「……聖女が普通なの」
「ああ。魔王浄化というイベントが待っているだけだ」
……それ、普通なの。
「特別な女の子でもいい。私といつか結婚したいと言ってくれる女は、世界を救う特別な聖女。それでもいい」
人から聞くと、そんな御大層なもんじゃないわよと言いたくなるわね。
「やっぱり普通ね。あなたといつか結婚したいと思っている女は、鬱陶しくてよく泣いて人付き合いが下手で、魔王浄化のイベントがそのうち起こるだけの普通の女の子ね」
「…………」
そんな……愛おしそうな目で見ないでよ。恥ずかしいじゃない。
案の定、踊り終えたクリスたちには人が群がっている。にこやかに笑顔を振りまく彼女を邪魔したくはない。こちらに戻ってこなければと思われないように、フルーツサンドをヴィンスの口に突っ込んだ。
「……なんだ」
「恋人とイチャイチャしてみたくなって。そんな経験ないもの」
「そんなタイプだったのか……」
違うけど。
でも、こんな顔をしてくれるなら、そんなタイプになってしまいそう。
これから先を思うと気が重い。私が早く魔王浄化ができるレベルまで達しなければ被害が出続ける。
でも――、
今だけは、普通の一日を楽しみたい。
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