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30.入学パーティ
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「……いい加減、どんよりするのやめたら?」
「していない」
「絶対していると思うわ」
「していないと言えばしていない」
「ヴィンスのお陰で、上手くやれそうだと言ったじゃない」
「そうだとしたら、私のお陰ではなくお前の力だ」
昨日のやり方はよくなかったと思い込んで、ずっと落ち込んでいるのよね……。冷たく追い返しすぎたかしら。でもあれ以上いてもらうのは恥ずかしかったし。
今、私たちは入学パーティの会場にいる。白と金が基調の豪華絢爛な会場だ。
……ほんと、学園ではなく宮殿よね……。
王立学園だけあって国の威信をかけているようだ。入学パーティの会場は二箇所ある。こちらが貴族用。もう一箇所は平民用。どちらに行ってもいいことにはなっているし、どちらがそうだとハッキリ言われているわけではないけれど……こちらだけは礼装でと案内に書かれていたので、お察しといったところだ。
学園長の挨拶や来賓の挨拶も終わり、アドルフ様がクリスをエスコートしてホールの中央に立った。ファーストダンスは彼らだけらしい。楽団の生演奏に合わせて、彼らがダンスを踊る。
「さすがね……クリスも」
「幼い頃より習っていただろうからな」
物語の王子様とお姫様のようだ。
苺のショートケーキのように可愛らしいドレスに、飴細工のように透き通ったピンクの髪飾り。金髪碧眼の王子様とくるくると回って、童話の中の世界みたい。
「……浄化が終わったら私も習おうかな……」
「無理はしなくてもいい」
「せっかく綺麗なドレスを着ても、私では料理の食べ比べくらいしかできないし」
「そこにいるだけで華になるだろう」
……この人って私が卑屈になると口説いてくるわよね。
私は青と黒のアゲハ蝶のようなデザインのドレスだ。デザインにも口を出させてもらった。ヴィンスは深い青と黒のスーツ。薔薇をイメージした黒の刺繍がそこかしこにありシックで格好いい。芸術家っぽくもある。
あんなダンスを見せられたら、私もって気分になるわよね。それに、聖女としか踊らないとご令嬢とのダンスを断っていたなんて聞いてしまったし。
「あなたのダンスの上手さを体感したくなったのよ」
「……並程度だ」
彼らが一礼して次のワルツが始まる。他の人たちも踊り始めた。
「さて、食べるか」
「……そうね」
私も踊れたらって……思っちゃうわよねー。
「セイカちゃん!」
私とヴィンスが立食でカルパッチョやマリネ、リゾットや温野菜を食べているとクリスが来た。後ろにはアドルフ様もいる。二回目のダンスが終わってから真っ直ぐここに向かったのだろう。
「……ガッツリ食べているわね」
「他にすることもないもの」
「ねぇ、果物は食べた?」
「まだよ」
話していると、アドルフ様がこそっとヴィンスに何かを呟き視線を奥にやった。
ああ……学園長たちがあの奥の扉の向こうにさっき入っていったわよね。話でもしたいのかしら。
「ヴィンス、行ってもいいわよ」
「……分かった」
こうやってたくさんの人がいる中で後ろ姿を見ると、ヴィンスからも王子様オーラが出ているのを感じる。歩き方が洗練されている。
「ねぇ、クリス。ヴィンスってもてるの?」
「え、ええっと……どうかしら。もてそうな雰囲気はあるわよね」
「他の女性に誘惑されている場面とか見たら私、発狂しそうだけど大丈夫かしら」
カランとクリスの後ろからフォークの音がした。同じクラスの女の子から凝視されてしまったわ。
「は……発狂したらどうなるの?」
「さぁ。世界が危ないかもしれないわね」
くすりと笑ってみせると奥の子が叫ぶように私に話しかけた。
「だ、大丈夫ですわ、セイカさん! 他のご令嬢とお茶会の機会もたまにありますの。私が、ヴィンセント様に近付くと世界が危ないと広めておきますわ! ご安心ください!」
この子、名前なんだっけ……。橙色の髪の毛で少しメイドのシェリーたちに似ている。クリスマスに聖アリスに頼んだものは昨日聞いたから覚えているけど……。
ちなみに聖女様やセイカ様と呼ばれて辟易したので、せめてさん付けにしてもらうよう昨日クラスメイトにはお願いをした。
「ありがとう。ごめんなさい、あなたの名前を忘れてしまったわ。幼い頃、クリスマスにたくさんの色のクレヨンを頼んだことは覚えているのだけど」
誤魔化すように笑っておこう。
「こ、光栄ですわ。ハンナ・ヴェセリーですわ。お見知り置きを。いえ、忘れても結構ですわ」
「大切なクラスメイトを忘れるわけないじゃない。ハンナね。今覚えたわ」
「あ、ありがとうございます! 大変嬉しく思いますわ」
この喋り方、楽よね。もしかして、私に今まで友達ができなかったのはナチュラルに上から目線だったのもあるのかしら……。ついそうなるのよね。聖女であれば許容されやすいということ? やっぱり私って、特権階級でないと満足に友達もできないタイプよね。
「あなたのお陰で世界は守られそうね。よろしく頼むわ」
「はい、お任せください!」
……頼んじゃってよかったのかしら。流れでお願いしてしまったわ。
「セイカちゃん……ものすごくヴィンセント様がお好きよね。馴れ初めが気になりすぎるわ」
「あらそう?」
ハンナ以外のクラスメイトもチラチラとこちらを気にしている。
馴れ初めか……ヴィンスを好きになった最初のきっかけはやっぱりアレよね。世界を滅ぼしていいなんて言ってくれたから。いけない。どうしても笑みがこぼれてしまうわ。
「言うわけないじゃない。そうでしょう?」
耐えられずにクスクスと笑うと、なぜかクラスメイトの顔が赤くなった。
「……セイカちゃんって……言いにくいけど……艶めかしいわよね」
どんなよ!
「あ、それですね。どう表現すればいいかと思っていましたが、それですそれです」
茶系の髪の男の子が後ろから入ってくる。
「オーティス、聖女様に失礼ですわ!」
「え、それだとクリスさんが聖女様に失礼なことを言ったってことになるよね。艶めかしいって先に言ったわけだからさ」
「え、ええっと……」
ハンナとオーティスね。今のうちにしっかりと名前を覚えよう。この二人、仲がいいのかしらね。クリスも昨日、様付けはやめてと言っていたので、さん付けになっている。特に女性同士は基本そうなった。
「別に気にしないわ。艶めかしくて悪いことなんてないもの。それより、聖女様って言われるのは好きではないわね」
「これは失礼しました、セイカさん」
「もう。オーティスは馴れ馴れしくしすぎよ、セイカさんに」
……ラブコメだわ。
なにこの、ラブコメ。
まぁでも、距離が近くはなったわよね。前の世界ではこの程度ですら話す子はアリス以外いなかった。
「馴れ馴れしくてもいいわよ。私、友達ができないタイプだから。前の世界でも友達はアリスしかいなかったもの」
「え……」
「でも、好きな女の子の前で他の女性にやたら話しかけるのはよくないかもしれないわね」
「は!? お、俺は別に……!」
「そう? 私の見立て違いだったかしら」
微妙な空気ね。まどろっこしい期間なんてすっ飛ばして付き合ってしまえばいいのになんて思う私は、情緒がないのかな。貴族っぽいしそう簡単にはいかないのかも。
「ねぇ、あなたたちはどの飲み物が好きなの? 果物系が多いわね。お酒がないのは残念だわ。飲んだことはないけれど。三ヶ月後を少し楽しみにしているのよ」
「お酒は十六歳からですもんね。ここだけの話、少しは飲んだこともありますけどね。レモンが好きなので割って飲んでみました。セイカさんは七月が誕生日なんですか?」
「そうね。二人は?」
適当に話を変えて彼らと談笑する。
……なかなかヴィンスが戻ってこないし、ハンナはどう見てもオーティスを意識している。彼が結構私に話しかけてくるから妬いているようだ。
「もう一つの会場に行きましょうか、クリス。そっちも行ってみたいわ」
ここにいなかったら、ヴィンスたちも察して来るでしょう。
「あ、そうね! そっちならフルーツサンドもあると思うわよ」
……だから好きなのは私じゃなくてアリスだってば。昨日ヴィンスがクラスでそんなことを言ったせいで……あれは、ジャンクフード扱いなのかしら。でも、久しぶりに食べてみたいわね。アリスと一緒に買って公園で食べたことしかない。
「それなら行きましょう」
「そうね」
「あなたたちは、二人でダンスをまだ踊るのよね?」
「「え」」
「ごゆっくり。それではね」
ひらひらと手を振って会場をあとにする。廊下を歩きながらクリスが呟いた。
「セイカちゃんって、なぜか色っぽいわよね。私、セイカちゃんとなら倒錯の世界もアリのような気がしてきたわ……」
まったく。こんな特殊な指輪をアドルフ様と対でつけているくせに、何を言ってんのよ。でも、アリスも日記で友人の王子様の婚約者の子に対してそんなことを書いていたっけ……やっぱりどこか似ているわね。
あの日記を読んでから思い出し笑いをする回数が増えたなと思いながら、次の会場へと向かった。
「していない」
「絶対していると思うわ」
「していないと言えばしていない」
「ヴィンスのお陰で、上手くやれそうだと言ったじゃない」
「そうだとしたら、私のお陰ではなくお前の力だ」
昨日のやり方はよくなかったと思い込んで、ずっと落ち込んでいるのよね……。冷たく追い返しすぎたかしら。でもあれ以上いてもらうのは恥ずかしかったし。
今、私たちは入学パーティの会場にいる。白と金が基調の豪華絢爛な会場だ。
……ほんと、学園ではなく宮殿よね……。
王立学園だけあって国の威信をかけているようだ。入学パーティの会場は二箇所ある。こちらが貴族用。もう一箇所は平民用。どちらに行ってもいいことにはなっているし、どちらがそうだとハッキリ言われているわけではないけれど……こちらだけは礼装でと案内に書かれていたので、お察しといったところだ。
学園長の挨拶や来賓の挨拶も終わり、アドルフ様がクリスをエスコートしてホールの中央に立った。ファーストダンスは彼らだけらしい。楽団の生演奏に合わせて、彼らがダンスを踊る。
「さすがね……クリスも」
「幼い頃より習っていただろうからな」
物語の王子様とお姫様のようだ。
苺のショートケーキのように可愛らしいドレスに、飴細工のように透き通ったピンクの髪飾り。金髪碧眼の王子様とくるくると回って、童話の中の世界みたい。
「……浄化が終わったら私も習おうかな……」
「無理はしなくてもいい」
「せっかく綺麗なドレスを着ても、私では料理の食べ比べくらいしかできないし」
「そこにいるだけで華になるだろう」
……この人って私が卑屈になると口説いてくるわよね。
私は青と黒のアゲハ蝶のようなデザインのドレスだ。デザインにも口を出させてもらった。ヴィンスは深い青と黒のスーツ。薔薇をイメージした黒の刺繍がそこかしこにありシックで格好いい。芸術家っぽくもある。
あんなダンスを見せられたら、私もって気分になるわよね。それに、聖女としか踊らないとご令嬢とのダンスを断っていたなんて聞いてしまったし。
「あなたのダンスの上手さを体感したくなったのよ」
「……並程度だ」
彼らが一礼して次のワルツが始まる。他の人たちも踊り始めた。
「さて、食べるか」
「……そうね」
私も踊れたらって……思っちゃうわよねー。
「セイカちゃん!」
私とヴィンスが立食でカルパッチョやマリネ、リゾットや温野菜を食べているとクリスが来た。後ろにはアドルフ様もいる。二回目のダンスが終わってから真っ直ぐここに向かったのだろう。
「……ガッツリ食べているわね」
「他にすることもないもの」
「ねぇ、果物は食べた?」
「まだよ」
話していると、アドルフ様がこそっとヴィンスに何かを呟き視線を奥にやった。
ああ……学園長たちがあの奥の扉の向こうにさっき入っていったわよね。話でもしたいのかしら。
「ヴィンス、行ってもいいわよ」
「……分かった」
こうやってたくさんの人がいる中で後ろ姿を見ると、ヴィンスからも王子様オーラが出ているのを感じる。歩き方が洗練されている。
「ねぇ、クリス。ヴィンスってもてるの?」
「え、ええっと……どうかしら。もてそうな雰囲気はあるわよね」
「他の女性に誘惑されている場面とか見たら私、発狂しそうだけど大丈夫かしら」
カランとクリスの後ろからフォークの音がした。同じクラスの女の子から凝視されてしまったわ。
「は……発狂したらどうなるの?」
「さぁ。世界が危ないかもしれないわね」
くすりと笑ってみせると奥の子が叫ぶように私に話しかけた。
「だ、大丈夫ですわ、セイカさん! 他のご令嬢とお茶会の機会もたまにありますの。私が、ヴィンセント様に近付くと世界が危ないと広めておきますわ! ご安心ください!」
この子、名前なんだっけ……。橙色の髪の毛で少しメイドのシェリーたちに似ている。クリスマスに聖アリスに頼んだものは昨日聞いたから覚えているけど……。
ちなみに聖女様やセイカ様と呼ばれて辟易したので、せめてさん付けにしてもらうよう昨日クラスメイトにはお願いをした。
「ありがとう。ごめんなさい、あなたの名前を忘れてしまったわ。幼い頃、クリスマスにたくさんの色のクレヨンを頼んだことは覚えているのだけど」
誤魔化すように笑っておこう。
「こ、光栄ですわ。ハンナ・ヴェセリーですわ。お見知り置きを。いえ、忘れても結構ですわ」
「大切なクラスメイトを忘れるわけないじゃない。ハンナね。今覚えたわ」
「あ、ありがとうございます! 大変嬉しく思いますわ」
この喋り方、楽よね。もしかして、私に今まで友達ができなかったのはナチュラルに上から目線だったのもあるのかしら……。ついそうなるのよね。聖女であれば許容されやすいということ? やっぱり私って、特権階級でないと満足に友達もできないタイプよね。
「あなたのお陰で世界は守られそうね。よろしく頼むわ」
「はい、お任せください!」
……頼んじゃってよかったのかしら。流れでお願いしてしまったわ。
「セイカちゃん……ものすごくヴィンセント様がお好きよね。馴れ初めが気になりすぎるわ」
「あらそう?」
ハンナ以外のクラスメイトもチラチラとこちらを気にしている。
馴れ初めか……ヴィンスを好きになった最初のきっかけはやっぱりアレよね。世界を滅ぼしていいなんて言ってくれたから。いけない。どうしても笑みがこぼれてしまうわ。
「言うわけないじゃない。そうでしょう?」
耐えられずにクスクスと笑うと、なぜかクラスメイトの顔が赤くなった。
「……セイカちゃんって……言いにくいけど……艶めかしいわよね」
どんなよ!
「あ、それですね。どう表現すればいいかと思っていましたが、それですそれです」
茶系の髪の男の子が後ろから入ってくる。
「オーティス、聖女様に失礼ですわ!」
「え、それだとクリスさんが聖女様に失礼なことを言ったってことになるよね。艶めかしいって先に言ったわけだからさ」
「え、ええっと……」
ハンナとオーティスね。今のうちにしっかりと名前を覚えよう。この二人、仲がいいのかしらね。クリスも昨日、様付けはやめてと言っていたので、さん付けになっている。特に女性同士は基本そうなった。
「別に気にしないわ。艶めかしくて悪いことなんてないもの。それより、聖女様って言われるのは好きではないわね」
「これは失礼しました、セイカさん」
「もう。オーティスは馴れ馴れしくしすぎよ、セイカさんに」
……ラブコメだわ。
なにこの、ラブコメ。
まぁでも、距離が近くはなったわよね。前の世界ではこの程度ですら話す子はアリス以外いなかった。
「馴れ馴れしくてもいいわよ。私、友達ができないタイプだから。前の世界でも友達はアリスしかいなかったもの」
「え……」
「でも、好きな女の子の前で他の女性にやたら話しかけるのはよくないかもしれないわね」
「は!? お、俺は別に……!」
「そう? 私の見立て違いだったかしら」
微妙な空気ね。まどろっこしい期間なんてすっ飛ばして付き合ってしまえばいいのになんて思う私は、情緒がないのかな。貴族っぽいしそう簡単にはいかないのかも。
「ねぇ、あなたたちはどの飲み物が好きなの? 果物系が多いわね。お酒がないのは残念だわ。飲んだことはないけれど。三ヶ月後を少し楽しみにしているのよ」
「お酒は十六歳からですもんね。ここだけの話、少しは飲んだこともありますけどね。レモンが好きなので割って飲んでみました。セイカさんは七月が誕生日なんですか?」
「そうね。二人は?」
適当に話を変えて彼らと談笑する。
……なかなかヴィンスが戻ってこないし、ハンナはどう見てもオーティスを意識している。彼が結構私に話しかけてくるから妬いているようだ。
「もう一つの会場に行きましょうか、クリス。そっちも行ってみたいわ」
ここにいなかったら、ヴィンスたちも察して来るでしょう。
「あ、そうね! そっちならフルーツサンドもあると思うわよ」
……だから好きなのは私じゃなくてアリスだってば。昨日ヴィンスがクラスでそんなことを言ったせいで……あれは、ジャンクフード扱いなのかしら。でも、久しぶりに食べてみたいわね。アリスと一緒に買って公園で食べたことしかない。
「それなら行きましょう」
「そうね」
「あなたたちは、二人でダンスをまだ踊るのよね?」
「「え」」
「ごゆっくり。それではね」
ひらひらと手を振って会場をあとにする。廊下を歩きながらクリスが呟いた。
「セイカちゃんって、なぜか色っぽいわよね。私、セイカちゃんとなら倒錯の世界もアリのような気がしてきたわ……」
まったく。こんな特殊な指輪をアドルフ様と対でつけているくせに、何を言ってんのよ。でも、アリスも日記で友人の王子様の婚約者の子に対してそんなことを書いていたっけ……やっぱりどこか似ているわね。
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