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24.婚約指輪
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ひたひたと王宮内の廊下を歩く。灯りは吊り下げ燭台に灯されているものの、やはり暗い。
さすがに夜は怖いわね……。ゴーストとか出てきそう。
廊下の先に衛兵さんが立っている。迷っているそぶりを見せると寄って来てしまいそうなので、速足でヴィンスの部屋へと向かった。
軽くノックしてから、返事も待たずにバングルを当てて中に入る。……廊下は怖くて早く入りたかったからだ。
「セイカ……っ」
ヴィンスが走り寄ってきた。部屋は暗いものの、窓際近くの椅子に座っていたらしい。
「どうした、こんな夜更けに。根を詰めて読みすぎて頭でも痛くなったのか。大丈夫か」
「……読み終わったから来ただけよ」
「なんだそれは……」
はぁぁぁ~と深いため息をつかれる。
「明日でよかっただろう」
「顔を見たくなったんだもの」
「自分の格好を見てみろ。そんな出で立ちで来るな。廊下を歩くな」
「普通すぎるネグリジェよね。ここに黒のベビードールでも置いておいてくれない? この格好では誘惑されてくれないわよね」
「勘弁してくれ……」
あら、座り込んで頭を抱えてしまったわ。この人、からかいたくなるわよね……。特に、アリスの日記を読んだあとだと可愛くも見えてくるわ。魔法の特訓とか……色々とアリスのお相手の真似をしていたと知ってしまったから。そういえば、オリジナル性がないとか言ってたわね。
深呼吸したあとに不機嫌そうにスクっと立ち上がった。
「はぁ……それなら目的は遂げただろう、戻れ。部屋まで送る」
「ねぇ、あれ本当に私に渡していいってアリスが言ったわけ? 生々しすぎるんじゃない?」
「……やっぱりそう思うか。私と同じ感想だな」
「だってそうでしょう。赤の他人のあなたに預けるのも意味が分からないわ」
メイドさんに唆されてベビードールを買ってもらった話なんかも日記には書かれていた。人に見せられるような内容ではない。手紙を全て書き終えてから日記も渡していいと告げたらしいけれど……。
「言いづらかったが……仕方ないな。アリス嬢は死を迎える日までは手紙のみを魔女から渡してもらう予定だったらしい。死の瀬戸際に私にどちらも託すことに決め、あの世のような場所で冷静になったものの、『もう死んでるし、まぁいっか』と言っていたそうだ」
……何それ。軽いのか重いのかも分からないわね。死か……何百年も前だものね。分かってはいたけれど人からの言葉で聞くと辛い。もうアリスはこの世にいないのね……。
あれらを渡される時にヴィンスからも聞いた。アリスは元の世界で召喚日の翌日に死ぬことが確定していたと。死因は熱中症だ。弟との緑地公園での卓球が原因かもしれない。だから死を迎える前に召喚された。
こちらへ召喚された者は、最初から存在しなかった世界へとあちらでは再構成される。つまり、アリスがあっちと同じ時間軸のこの世界に召喚されると同時に、私は七百年後の未来――今私がいる現在の世界に送り込まれたらしい。アリスの記憶を保持したままでいられるように。
アリスにはたくさん友達もいたし家族とも上手くやっていた。弟の世話も頑張って焼いていたのに、いなかったことになってしまったのね……。
私は家族にとって邪魔でしかなかったから丸く収まっただけでしょうけど。
日記は途中までしか渡されていない。一度私はアリスに会いに過去へと遡るらしく……その日以降の日記は読めないようになっているとか。ちょうど一冊が終わるところまでで……一冊書き終わった時期を狙って、魔女がそこに私を送るのかもしれないわね。
「それで、どうだった」
「そうね……。私のこと、離れてせいせいしたとは書かれていなくて安心したわ」
「親友だと当たり前のように書いてあっただろう。もう会えないのは寂しいと」
「ええ、そうね……」
私だけがそう思っていたわけじゃなかった。すごく……救われた。
「いい友人関係だったのだろう。お前は気付いていなかったのかもしれないが」
……きっと、そうだったのね。
もう一度、あの時に戻ってみたい。
大事な友達だってお互いが思っていると信じられる状態で……でも、もうアリスは死んでしまった。会う機会は――たった一度、残されているだけ。
――その時の幸せはその時だけのもの。
当たり前の幸せは、手に入らなくなってやっと貴重なものだと分かるのね。
だから、ヴィンスとの今の関係も大事にしたい。想いを確かめたい。私は必ず、魔王浄化までは生きている。彼もきっと、私が過去に遡るまでは生きている。でも……そのあとの保証なんてどこにもない。
だから――。
「それよりも、私はあれを読んで思い出したのよ」
「な、なんだ……」
「婚約指輪を用意するって言ってたじゃない。仮でとも言ってたけど。どうなったのよ」
大事なのは現在だ。
「――――う」
視線がさっきまでヴィンスが座っていたソファの方へ……ローテーブルに何か置いてある……?
「あっ、おい。待てっ――」
「私……つくづく部屋に来るタイミングがよすぎない?」
あの時はメモ用紙が書斎机って感じの机に置いてあったけど……。
「……悪すぎるの間違いだろう……」
指輪が二つは入りそうな横長のリングケースが……なぜかそこには二セットあった。
さすがに夜は怖いわね……。ゴーストとか出てきそう。
廊下の先に衛兵さんが立っている。迷っているそぶりを見せると寄って来てしまいそうなので、速足でヴィンスの部屋へと向かった。
軽くノックしてから、返事も待たずにバングルを当てて中に入る。……廊下は怖くて早く入りたかったからだ。
「セイカ……っ」
ヴィンスが走り寄ってきた。部屋は暗いものの、窓際近くの椅子に座っていたらしい。
「どうした、こんな夜更けに。根を詰めて読みすぎて頭でも痛くなったのか。大丈夫か」
「……読み終わったから来ただけよ」
「なんだそれは……」
はぁぁぁ~と深いため息をつかれる。
「明日でよかっただろう」
「顔を見たくなったんだもの」
「自分の格好を見てみろ。そんな出で立ちで来るな。廊下を歩くな」
「普通すぎるネグリジェよね。ここに黒のベビードールでも置いておいてくれない? この格好では誘惑されてくれないわよね」
「勘弁してくれ……」
あら、座り込んで頭を抱えてしまったわ。この人、からかいたくなるわよね……。特に、アリスの日記を読んだあとだと可愛くも見えてくるわ。魔法の特訓とか……色々とアリスのお相手の真似をしていたと知ってしまったから。そういえば、オリジナル性がないとか言ってたわね。
深呼吸したあとに不機嫌そうにスクっと立ち上がった。
「はぁ……それなら目的は遂げただろう、戻れ。部屋まで送る」
「ねぇ、あれ本当に私に渡していいってアリスが言ったわけ? 生々しすぎるんじゃない?」
「……やっぱりそう思うか。私と同じ感想だな」
「だってそうでしょう。赤の他人のあなたに預けるのも意味が分からないわ」
メイドさんに唆されてベビードールを買ってもらった話なんかも日記には書かれていた。人に見せられるような内容ではない。手紙を全て書き終えてから日記も渡していいと告げたらしいけれど……。
「言いづらかったが……仕方ないな。アリス嬢は死を迎える日までは手紙のみを魔女から渡してもらう予定だったらしい。死の瀬戸際に私にどちらも託すことに決め、あの世のような場所で冷静になったものの、『もう死んでるし、まぁいっか』と言っていたそうだ」
……何それ。軽いのか重いのかも分からないわね。死か……何百年も前だものね。分かってはいたけれど人からの言葉で聞くと辛い。もうアリスはこの世にいないのね……。
あれらを渡される時にヴィンスからも聞いた。アリスは元の世界で召喚日の翌日に死ぬことが確定していたと。死因は熱中症だ。弟との緑地公園での卓球が原因かもしれない。だから死を迎える前に召喚された。
こちらへ召喚された者は、最初から存在しなかった世界へとあちらでは再構成される。つまり、アリスがあっちと同じ時間軸のこの世界に召喚されると同時に、私は七百年後の未来――今私がいる現在の世界に送り込まれたらしい。アリスの記憶を保持したままでいられるように。
アリスにはたくさん友達もいたし家族とも上手くやっていた。弟の世話も頑張って焼いていたのに、いなかったことになってしまったのね……。
私は家族にとって邪魔でしかなかったから丸く収まっただけでしょうけど。
日記は途中までしか渡されていない。一度私はアリスに会いに過去へと遡るらしく……その日以降の日記は読めないようになっているとか。ちょうど一冊が終わるところまでで……一冊書き終わった時期を狙って、魔女がそこに私を送るのかもしれないわね。
「それで、どうだった」
「そうね……。私のこと、離れてせいせいしたとは書かれていなくて安心したわ」
「親友だと当たり前のように書いてあっただろう。もう会えないのは寂しいと」
「ええ、そうね……」
私だけがそう思っていたわけじゃなかった。すごく……救われた。
「いい友人関係だったのだろう。お前は気付いていなかったのかもしれないが」
……きっと、そうだったのね。
もう一度、あの時に戻ってみたい。
大事な友達だってお互いが思っていると信じられる状態で……でも、もうアリスは死んでしまった。会う機会は――たった一度、残されているだけ。
――その時の幸せはその時だけのもの。
当たり前の幸せは、手に入らなくなってやっと貴重なものだと分かるのね。
だから、ヴィンスとの今の関係も大事にしたい。想いを確かめたい。私は必ず、魔王浄化までは生きている。彼もきっと、私が過去に遡るまでは生きている。でも……そのあとの保証なんてどこにもない。
だから――。
「それよりも、私はあれを読んで思い出したのよ」
「な、なんだ……」
「婚約指輪を用意するって言ってたじゃない。仮でとも言ってたけど。どうなったのよ」
大事なのは現在だ。
「――――う」
視線がさっきまでヴィンスが座っていたソファの方へ……ローテーブルに何か置いてある……?
「あっ、おい。待てっ――」
「私……つくづく部屋に来るタイミングがよすぎない?」
あの時はメモ用紙が書斎机って感じの机に置いてあったけど……。
「……悪すぎるの間違いだろう……」
指輪が二つは入りそうな横長のリングケースが……なぜかそこには二セットあった。
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