不眠症日記

痴漢

　ツイッターのトレンドで痴漢祭りなる言葉を目にした。どうやら、大学共通テストの受験生を標的にした言葉らしい。

　自分にも、その先の未来が懸かった特別な日があったから、他人事になんてとても思えない。痴漢という言葉を目にして、よみがえる出来事が最近あった。

　帰り道に、いつも通りの電車に乗っていたときのこと。私は、電車では、窓から流れる風景を見るのが好きで、いつも座らずに立っている。

　座ってしまえば、前に人が立ったとき、反対側の窓から流れる景色が見えなくなってしまう。自分の後ろ側にも窓はあるのだが、振り返って景色を見るのは、何だか子供っぽいような気がして恥ずかしくなってしまう。

　だから、いつものように立って流れる景色を見ていたとき、ふと前を向いてみた。自分は先頭車両の運転室側の壁にもたれ掛かっていた。

　前に目をやると、太ったサラリーマン風の男が何やら不可解な行動を取っていた。席の前に立つ私服姿の女性に少しづつ近づいて行っていた。

　それも、ワイヤー式のイヤホンの片耳が外れていて、それを取ろうとする格好で近づいて行く。すぐにイヤホンを取って、耳に戻せばいいものをそうしそうにない。

　イヤホンを取るのをわざとらしく、手こずるようにして女性へ近づいて行く。少し見て、ああ痴漢だとすぐに分かった。

　周りには、結構な人がいたのに皆、スマホに目をやっていて気づく様子はない。私が何とかしなければと思うのだが、怖くて近づいて行く気持ちは起きず、声を出す勇気も起きない。

　でも、何もしないでいるのは絶対嫌で、とにかく男性を睨みつけた。男性は、キョロキョロ周りを確認していたからすぐに私が見ていることに気がついた。

　すると、すぐにイヤホンを耳に戻し、女性から離れて行った。私は、小さい頃から目付きが悪いと、よく周りから言われていたのでそれが活きたのかもしれない。

　とにかく、女性の役に立てて嬉しかった。別に、女性からお礼を言われた訳でもないから自己満足かもしれないが、人の役に立てるというのは嬉しいことだ。

　案外、痴漢というものは、気の強いようで気の小さな人間だから、見渡しているだけで抑止力になると思う。だから、大きな受験がある日なんかは、スマホは使わないで視界を広くもっておくと、自らの未来を懸けて戦いに向かう人たちの為になるかもしれない。