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13 初めての発情1

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「やはり香りはしないが……少し触れるぞ」
「……っ」

 声がしたあと、尻のあたりを撫でられて驚いた。というより、撫でられたことが気持ちよくてびっくりした。

(なんで……気持ちがいいんだ……?)

 腰や尻、お腹を撫でられるだけでゾクゾクする。滅多にしない自慰のときの感覚に似ていることに戸惑っていると、ボタンを外され上着を脱がされた。そのままタイを取られ、カフスも取られる。
 気がつけばズボンを穿いていないのにシャツは羽織ったままという、よくわからない格好になっていた。たぶん靴は脱いでいるが、膝下まである靴下は履いたままのような気がする。

「ん……っ」

 素肌にシャツが擦れるだけでゾクッとした。熱があるからか下半身がほぼ裸だというのに肌寒さは感じない。

「……男のΩは香りがしないものなのか……?」

 不思議そうな声に、閉じていた瞼をゆっくり開けた。目の前にはシャツとズボンだけになった殿下の姿があった。

「殿下……?」

 これはどういうことだろうか。視線をぐるりと巡らせると、自分が薄暗い部屋のベッドに横たわっていることがわかった。しかし、すっかり見慣れてしまった寝室のベッドではない。自分が使っているものより大きく年季が入っているように見える。それに、かすかにだが焼き菓子のような香りもした。

「……これは、バター、か……ミルク、か……?」

 なぜベッドでそんな香りがするのだろうかと思っていると、右側がわずかに沈んだことに気がついた。

「礼儀として、一応確認しておく」

 殿下の顔がやけに近い。

(そうか、覆い被さっているから……というか、なぜこんな状況に……?)

 薄暗いからか、覆い被さるようにしている殿下の表情はよくわからない。声だけで判断すれば、どこか少し焦っているようにも聞こえる。

「これから発情の相手をするが、かまわないな?」
「……はつ、じょう……?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。そうして殿下の言葉が頭を一周し、ようやく自分の状況に思い至った。

(なるほど……これが、発情ってやつなのか)

 皮膚がざわざわして目眩も熱も感じるから、てっきり風邪か何かで高熱が出たのだと思っていた。一人でいたときなら、これが発情だなんてわからなかっただろう。

(殿下が近くにいて、よかった……)

 しかも願ったり叶ったりの状況じゃないか。考えていたとおり殿下の近くで発情し、そのままベッドに連れ込まれた。そうしていま「発情の相手をする」と言われた。
 それはつまり、これからベッドを共にする、ということだ。

(……アレの問題はわからずじまいだが、まぁ、いいか……)

 詳しい閨のことはわからないが、殿下がうまくやってくれるに違いない。それに、僕はこの機を逃すわけにはいかないのだ。ここで子を孕むことができれば、はれて大国ビジュオールの王太子妃の一人になれる。

「よろしく、おねがい、します」

 若干朦朧とした頭のまま、とりあえずそれだけは口にすることができた。そんな僕の言葉に、殿下が少し笑っているような声で「わかった」と答えた。




 まさか、尻があんなに気持ちよくなれる場所だとは思わなかった。それに、心配になるくらいグジュグジュに濡れていたような気もする。
 おぼろげにしか覚えていないが、尻の中を殿下の指にあれこれされたような気がする。何をされても気持ちがよかった僕は、みっともない声を出しながら必死に殿下にしがみついていた……ことは、なんとなく覚えていた。
 それ以外は、とにかく気持ちがよくて大変だったということしか記憶にない。むしろ気持ちいいこと以外の感覚が抜け落ちているくらいだ。

「…………発情とは、すごいものなんだな」

 はっきり言って、そうとしか言いようがなかった。最中は気持ちがよくて、よすぎて何度も泣いた気がする。うっすらとだが、とんでもないことを口走った記憶もある。それもこれも、高熱に浮かされているよりも全身が熱くておかしくなっていたせいだ。それに、意識が混濁しているような感覚もあった。
 そんな強烈な状況が続いたからか、意識がはっきりしているいまも体が熱っぽい。というよりも……。

「……尻の奥が、熱い」

 いや、奥だけじゃない。出口……いや、この場合は入口か。とにかくそこもジンジンと熱を持っているし、お腹の奥も妙に熱っぽく感じる。体中が気だるいのに敏感になっているようで、おそらく殿下が着せてくれたのであろう夜着の感触がくすぐったく感じるほどだ。
 そうしてジンジンする尻を気にしながら少し動いたところで、あることに気がついた。

「……そうか。僕にはほかに穴がないから尻に入れたということか」

 ようやく謎が解けた。まさか尻とは思わなかったが、よく考えれば僕の体にはそこしか突っ込める場所がない。解決したのはいいが、ますます珍獣のような気がして笑いたくなった。

「女性のΩは普通の女性と同じなのだろうが……男のΩは、やはり変わっているということだな」

 尻に突っ込んで子ができるなんて、いくらΩでもとんでもなさすぎる。人体の不思議を超えて、やはり珍獣じゃないだろうか。

「まぁでも無事に正真正銘のΩになったことだし、これで子ができていれば万々歳だ」

 初めての発情で子ができるのかはわからないが、可能性はなくはない。子ができたかは、おそらく普通の女性と似たような感じになるだろうからわかるはずだ。それなら閨の教本で何度も読み返したから覚えている。

「……待て。腹に子ができたとして、僕はどうやって生むんだ……?」

 ベッドに横たわったまま、じっと天井を見る。教本では、ナニを入れる場所から子が出てくると書かれていた。ということは、つまり……。

「……いや、そこは違うのかもしれない。それに、まだ子ができたと決まったわけじゃないしな」

 子ができなければ困るが、すぐに子ができても困るような気がする。どうやって子が生まれるのかわからないのは、αのアレをどこに入れるのか知らなかったことよりよほど恐ろしく思えた。
 そんなことを眉をひそめながら考えていると、扉が開く音がした。頭を動かし視線を向ければ、いつもより身軽な服装の殿下が水差しを持って近づいてくるところだった。

「目が覚めたか」
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