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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは

其の弍拾陸

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 ぴちゃぴちゃと舐める音と、股に顔を埋める金花の姿に俺の逸物がぐぅんと力を持つ。俺の着物をするすると解いた指は逸物の根本を擦り、もう片方はその奥の玉を揉むようにいじっていた。そうして紅い唇をぱかりと開き、隆々とした逸物を咥えたのだ。
 御帳の中は一気に淫らな空気に包まれ、明るい昼日中には似つかわしくない雰囲気が漂っている。それでも以前のように駄目だと言えないのは、俺自身が金花を欲しているからだった。

「……ふふっ、また逞しくなった」

 半裸で這いつくばるようにしていた頭を少し上げ、ちらりと俺に視線を向けた金花がうれしそうに笑う。そのまま赤い舌を伸ばし、まるで見せつけるかのように逸物の先端をべろりと舐め上げた。

「く……っ」
「おや、少し漏れてしまいましたか?」
「……ッ、仕方がない、だろう……! 何日も、交わっていないのだからな……!」
「ふふ、うれしいことを」
「どういう意味、だ……ッ」

 例の鬼のせいで金花はずっと寝ていたのだし、その前から御所に詰めていたから八日以上は誰とも交わっていない。そんな状態なのに手で抜かれ、口に含まれ、淫らに舐める姿を見せられては我慢できなくなっても仕方がないだろう。
 そう思いぎろりと睨んだが、己の眼差しに力が入っていないのは自分でもわかっていた。当然、金花はいつもどおり笑みを浮かべるだけで気にした素振りさえ見せない。

「だって、わたしに操を立てて誰とも交わらなかったということでしょう? 屋敷には美しい女房たちがいるというのに、それでも手を出さなかっただなんて、うれしいじゃないですか」
「あ……たりまえだろう! 俺の奥方はおまえなのだぞ!? 深手を負って目の前で寝ているというのに、他の女とそんなことができるものか!」
「……うれしい」

 上半身を起こした金花は、気のせいでなければ頬を染めているように見えた。普段のニィと笑う顔ではなく、どこかはにかんでいるような表情が新鮮で、腹の奥にグッと熱がこもる。
 たまらず腕を引き、そのまま紅く濡れた唇を吸った。たったいま己の逸物を咥えていたことなどまったく気にならないほど、ただその口を味わいたいと強烈に思ったのだ。

 くちゅくちゅと舌を舐め合い、唇を甘噛みし、互いの口の中を舌でねぶりあっていると、どちらのものかわからない唾液がぽたぽたと顎を伝った。その感触でさえも体を昂ぶらせ、もっと近づきたいという欲にかられる。
 皮膚一枚隔てた感覚すらいとわしく、もっと触れていたい、もっと近づきたいと、ただひたすらに口を吸いながら体を寄せていった。

 気がつけば体をぴたりとつけて抱き合っている状態になっていた。口を吸い合いながらも時折り金花が胸を擦りつけるからか、乳首が擦れ合い、じくじくと甘い痺れが全身に広がっていく。

「……はぁ、気持ちが昂ぶりすぎて、気が遠くなりそうです」

 ほんのわずか唇を離した金花が、うっとりと囁いた。それには俺も同感で、金花の唾液と己の先走りで濡れそぼった逸物は子種を吐き出したいと震えっぱなしだ。
 それでも吐き出すのは金花の中だと、下腹に力を込めてなんとかやり過ごす。そうして意識がはっきりしている間に言わねばならないと思っていたことを口にした。

「……血は、いらないのか?」
「…………」
「遠慮はいらない、俺はもう決めたのだ。金花を生かすためなら俺の身を捧げようと」
「……あなたは、鬼を嫌っていたのでは?」
「御所でも言ったが、それはおまえ以外の鬼のことだ。……おまえのことは、誰よりも好いている。この身を捧げてもよいと思うくらいにはな」

 それが俺の本音だ。
 いまでも鬼は退治すべき存在だと思っているが、金花は別だ。半分鬼であっても鬼らしくなく、俺の側にいるために必死に鬼の本性を抑えようとしてくれていたのだ――そのせいで命を失うかもしれないというのに。
 俺は、そんな金花の思いに応えたかった。いや、好いている金花のために何かしてやりたいと思っている。そのためなら己の血肉を差し出すことくらい何てことはない。

「……本当に、あなたという方は……」
「金花?」

 ふふっと笑んだ金花の顔が遠のいた。俺を見下ろす目は優しく微笑んでいるように見える。そうして俺の太ももに座ったまま、細い指で俺の頬をうれしそうに撫で始めた。

「身を捧げるなど、大層なことを言わないでください」
「しかし、人を食らわねば生きていけないのだろう?」
「本来はそうでしょうが、わたしの鬼の部分は半分だけ。それに、あなたが相手であれば血だけで十分ですよ」
「……そうなのか?」
「えぇ」

 頬を撫でていた指が顎をくすぐり、そのまま首筋を意味ありげに撫でている。

「あなたの精はとても強い。他の精など必要ないほど強く、そして濃いのです。……それは血も同じ。あなたの血の香りを嗅ぐだけで、鬼の本性が出てしまうくらい魅力的なのですよ」
「……そういえば、前にもそんなことを言っていたな」
「あのときは何とか耐えられましたが、今度は耐えられないでしょう。……おそらく、わたしは鬼の姿を抑えられなくなってしまいます。それでも、……それでも、血をくれると言うのですか?」

 ゆらゆらと揺れる黒目が、とても美しいと思った。美しく淫らで、鬼のくせに鬼らしくなく、人である俺を好いていると言う金花。

(俺だって、負けないくらい好いているのだ)

「たとえ鬼の姿になったとしても、おまえを好いている気持ちは変わらない。俺は金花だから好いているのだ」
「本当にあなたという方は……。ふふっ、わたしも心の底から好いていますよ。人かどうかなど関係ありません。カラギだから好いているのです」
「では、問題ないだろう」
「……そうかもしれませんね」

 ゆらりと瞳を揺らした金花が、つつつと爪の先で首筋を撫でた。たったそれだけなのに、どうしてか撫でられた部分がじくりと熱くなる。

「……いつかここを吸わせてくださいね」
「金花?」
「いえ、なんでもありません。カラギ、指を貸してください」

 右手を持ち上げると、人差し指を突き出すように言われる。何をするのだろうと思いながら人差し指を突き出せば、大事そうに両手で包んだ金花がニィと笑んで指先をぱくりと咥えた。直後、ちくりと小さな痛みが指先に走る。

「……あぁ、やはり芳しい香り……」

 指先には、金花の紅い唇と同じくらい赤い色をした血が滲んでいた。つぷりつぷりと滲む様子から、傷は深くないように見える。

「こんな小さな傷じゃあ、それほど血は出ないぞ?」
「これで十分です。言ったでしょう? あなたの血はそれほど濃いのだと。……ほら、もう耐えられなくなってきました……」

 とろりとした金花の顔に視線を向けると、唇の端からほんの少し尖った歯が見えている。つるりと白く形のよい額には赤い角が一本、にょきりと姿を現した。腰ほどまであった黒髪は、まるで真っ黒な蛇がうごめくようにするすると毛先を伸ばし始めている。
 変化へんげする様は恐ろしく震えてもおかしくないはずなのに、俺はただ呆然と様子の変わる金花を見つめ続けた。

 小さい牙を持ち、額に角のある鬼の姿になった金花は、なんと美しいのだろうか。目の前にいるのは間違いなく鬼ではあるが、何者よりも美しく愛しい、俺だけの――。

「美しいな……」

 気がつけばそんな言葉が漏れていた。俺の言葉に金花がふわりと笑う。

「鬼を美しいなどと言う人は、カラギくらいでしょうね」
「本当にそう思ったのだ。金花は何よりも美しい……」

 腑抜けた声を出す俺に「本当にかわいい方」と笑った金花は、ふと真面目な顔をして俺の目を見た。

「どうした?」
「……わたしの名ですが……、本当は金花ではないのです」
「なんだと……?」
「妖魔は本当の名を知られるのを嫌がります。だから名乗らなかったのですが、兄上様に尋ねられたゆえ、仕方なく金花と」
「……では、金花というのは何の名だ?」
「金花猫から取りました。人で言えば家名のような感じでしょうか?」
「藤原や源氏といったところか」
「まぁ、そんなところです」

 なんと、俺は心底好いた相手の本当の名を知らないままでいたとは。いや、それが“ようま”なのだとしたら、金花を責めることはできない。

「わたしの名は、キツラ」
「キツラ……」
「……っ、ふぅ、名を呼ばれるだけでこうとは……」
「どうした? まさか、まだ具合が、」
「いえ、そうではありません。真名マナを呼ばれると、タガが外れてしまいそうになるのです」
「どういうことだ?」

 俺の問いかけに、またもやとろりとした表情に変わった金花……、いや、キツラがすぃと顔を寄せてきた。

「ますますあなたの子種がほしくなると言っているのですよ」
「……ッ!」
「あぁ、香りが強くなって……。カラギ、わたしのかわいい方……」

 口に吸いついてきたキツラの唇はやけに熱く、それでいて熱心だった。俺も負けじと吸いつきながらキツラの体を抱き寄せ、乳首を擦り合わせるように体を揺する。そうすると天を向いた逸物同士も擦れ合い、体中に痺れにも似た心地よさが広がった。

「……ッ、はぁ、はぁ」
「カラギ、もう、耐えられません。早く、早く逞しいものを、わたしの中に、」

 口を離したキツラにとんと押された俺は、どさりと背中から倒れ込んだ。
 腰を持ち上げたキツラが左手を俺の腹につき、後ろに回した右手で俺の逸物を掴む。その感触にさえ腰をぶるりと振るわせた瞬間、俺の逸物はぶちゅりと音を立て温かな中に入り込んでいた。

「ぅ、あ……!」
「あぁ! く……ぅっ、なんて、逞しい……。ふ、すぐにいいところに当たって、あっ、い、ぃ……」
「ぐぅ……!」
「すごく、くて、あぁ、止まらない、あぁ、あぁ……」

 感に入ったような声を聞かされ、細い腰をぬぷぬぷと小刻みに動かされてはひとたまりもなかった。
 腰を大きく震わせた俺は、まだ逸物の半分ほどしか中に入っていないというのに盛大に子種をぶちまけてしまっていた。あまりの量からか、それとも半分ほどしか中に入っていなかったからか、ぶちゅぶちゅと音を立てて溢れ出した子種が俺の下腹を濡らしていく。

「あ、ぁ……。なんて、濃いのでしょう……。それに、まだこんなに逞しい……」
「おいっ、く……ッ!」
「ふふ、ほら、子種のおかげで、わたしの中もぐっしょりです。そのぶん、ぁん、すべらかになって、……ふふ、カラギもい、でしょう……?」
「まだ、出ている、のだ……ッ、動く、な……ッ」
「はぁ、ぁ、あん……、するりと、奥まで入って、……あぁ、すごい、奥まで、気持ちいい……」

 子種が出ている最中だというのに、キツラは腰をぐいぐいと動かし続ける。そのせいで半分ほど外にあった逸物が、ぬぷんと勢いよく熱い中に入ってしまった。その衝撃で、終わりに近づいていた子種が最後のひと吐きだと言わんばかりにびゅうと吹き出す。

「なんて、すごいのでしょう……。ねぇカラギ、血を、血をください……」

 夢うつつのようなキツラの声に右手を伸ばせば、ぎゅうと握られた。まだつぷつぷと滲んでいた人差し指の血をぺろりと舐めたキツラは、たまらないといった表情で指ごと口に含む。

 ぴちゃ、ぴちゃり、ちゅ、ちゅく。

 まるで逸物を舐めしゃぶるように俺の指をねぶる姿に、子種を吐き出したばかりの俺の逸物はすぐさまぐんと力を持った。そんな俺に目だけでニィと笑んだキツラが、くいくいと腰を動かし、またぐりぐりと回したりし始める。それだけですぐに子種がせり上がってしまい、慌ててぐぅっと下腹に力を入れた。

「ふふ、堪えずともよいのに……。カラギなら、あと数度は、濃いものを飲ませてくれるでしょう……? ぁん、ほら、こうして、すぐに応えてくれる……。あぁ、本当に、なんと逞しいのでしょう……。それに熱くて、まるであなたの胸の音のように、どくどくとして……」

 俺の指を舐めながらうっとり微笑むキツラは、畏れを抱くほど美しかった。それに小さな尖った歯が指に触れるたびに、どうしてか腰がずくずくと疼くように熱くなる。額の赤い角が目に映るたび、鬼と交わっている背徳とそれをも凌駕する悦楽に目眩がした。

「あ、あ……、奥深くが、また……、開いて、……逞しい切っ先が、……あぁ、そこは……、すぎて、おかしくなって、しまう……!」

 俺を見下ろす美しくも淫らなキツラにカッと熱が上がり、下から思い切り腰を突き上げた。すると、ずるりと狭いところを突き抜けた先端がきゅうぅと熱い肉に包まれる。
 その瞬間、堪えようとする間もなく再び子種を吹き出していた。びゅうびゅうと音がしそうなほどの勢いに、我ながらどうしたものかと思わず笑ってしまった。

「ぁ、ん……っ」

 小さく笑っただけだったが、腹が動いたせいで腰に深く乗ったキツラにも響くのだろう。身悶えるように少し背をかがめ、汗に湿った黒髪がするりと肩を滑り落ちるのが妙に艶めかしく見える。

「次は、俺の番だな」

 俺の言葉にキツラがニィと艶やかに笑った。

「カラギの、逞しいものを、もっとください」

 負けじと笑い返した俺はキツラを腹に乗せたまま上半身を起こし、今度は上下逆だと肩を押し、ふるりと震えた白い太ももをがしりと持ち上げた。
 そうして昂ぶる気持ちのまま、再び滾った逸物でさらに奥を貫かんと腰を打ちつけた。
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