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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは

其の捌

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 帝から見舞いの使者が来たこともあり、屋敷を襲った鬼について報告しようと朝廷へ赴くことになった。久しぶりに着た束帯に窮屈さを感じながらも、お歴々の視線が集まる中で報告をする。
 もちろん金花に聞いた“鬼が女を攫う理由”も報告しておいたが、陰陽寮は納得できないのか俺の言葉に耳を傾けたくないのか、受け流された形で話は終わった。
 それから御所へ行き、母上からの文を帝にお渡しした。帝からは、見舞いとして椿餅つばいもちを頂戴し、さらに母上が熱心に読んでいる物語の写しも数冊いただくことになった。
 この物語は貴族の間で人気が高く、なかなか写しを手に入れることができない。それをお知りになった帝が取り寄せてくださったのだろう。帝がいかに母上を案じ元気づけようとしてくださっているのかわかり、ありがたく思った。

 朝廷へ赴いた数日後、兄上たちが手配したという警護用の武士もののふが十数人やって来た。聞けば全員が鬼と対峙したことがないということで、どの程度役に立つかはわからない。ただ、携えていた弓矢や太刀は八幡大菩薩の加護を受けているということだから、そちらは十分効果を発揮するだろう。

「これはまた、物々しいものが増えましたね」

 塗籠ぬりごめで新しく追加された武具を確認していると、金花が入って来た。ずらりと並ぶ太刀や弓矢を見渡し、何を思ったのか手前にある太刀を指で撫で始めてギョッとした。

「おまえ、それは八幡大菩薩のご加護を得た太刀だぞ!」
「あぁ、だから少しピリリと痺れたような感じがするのですね」
「不用意に触るな!」

 まだ太刀に触れている手を奪い取るように掴み、急いで太刀から引き離した。
 鬼である金花が加護を受けた業物なりものに触れるなど、どうかしている。たとえ刃に触れたわけじゃないとしても、何かしらの影響は受けるはずだ。

「ふふっ、わたしを心配してくれるのですか?」
「それは……ッ! おまえは鬼だろう、それなのに不用意に触れるなど迂闊にもほどがある!」
「わたしは半鬼ですし、たぶん大丈夫ですよ? そもそもあなたの太刀を素手で奪ったことを忘れたのですか?」

 そういえばそうだった。初めて対峙したとき、たしかに金花は素手で鴉丸からすまるを握り、奪い取った。そのときも苦しそうな様子はなく、俺が鴉丸からすまるを持つように何事もなく掴んでいたことを思い出す。

「それほど心配してくれるなんて、カラギも本当はわたしのことを好いているのではないですか?」

 金花の言葉に、ぐぅと言葉が詰まった。
 ついこの前までは違うとはっきり言えたのに、何となく言いづらい気持ちになっているのはたしかだ。しかし、それが金花の言う「好いている」ということかと問われると、そうだとも言い切れない。体を交えているうちに沸いた情が強くなっただけとも考えられる。

(それにしては、金花を見るたびに胸がざわついてしまうが……)

 いや、それこそが鬼のなせる技に違いない。そもそも好いただの何だのといったことで金花を都に連れてきたわけじゃない。もし子ができていたら責任を取らなくてはと思って連れてきたのだ。

(それなのに、屋敷に来てからも毎日のように交わってしまっている)

 黒く濡れた目を見ると、途端に意識が金花にしか向かなくなる。紅い唇が言葉を紡ぐだけで吸い寄せられ、白い手が体に触れるだけで気持ちが昂ぶり、身を寄せられるだけで逸物がこれでもかといきり勃ってしまう。
 極めつけは伽羅の香りだ。おそらく金花自身から漂っているのであろうあの香りを嗅ぐと、酒精に呑まれたようなぼんやりした状態になった。
 そうなると、ただひたすら金花がほしくてたまらなくなった。毎日のように子種を吐き出しているのに、まるで閨事を覚えたばかりの頃のように、すぐにいきり勃ってしまう。

(それもこれも、鬼の力のせいに違いない)

 そうだ、鬼の技に違いない。そう思っているのに、いまも俺の手は金花に伸びてしまっている。

「こんな場所で逞しくしてしまうなんて、カラギもわたしと同じですね」
「ちがう……!」
「そうですか?」

 布の上からそろりと撫でられただけなのに、逸物がグンと上を向くのがわかった。こんな場所で、しかも朝餉を食べたばかりの時間だというのに、体がどんどん熱くなっていく。
 気がつけば金花を掴んでいた手に力が入り、ぐいっと引き寄せて抱きしめていた。

(……これでは何を言っても説得力がないじゃないか)

 金花とはほぼ同じ背丈だからか、引き寄せるとすぐそばに頬が近づく。長い睫毛もスッと伸びた鼻筋も紅く熟れた唇もすぐそばにあるからか、無意識のうちにゴクリと喉が鳴ってしまった。

「本当に理想的な精の強さだこと。ふふっ、わたしはいいですよ?」
「……っ」

 耳元で囁かれた声に、俺の喉は不覚にもまたゴクリと音を立ててしまった。





 じゅぶ、じゅぶぶと、濡れて泡立つ音が暗い塗籠ぬりごめに響く。
 小袿と真っ赤な袴は床の上にぐしゃりと置かれ、白い単だけを身につけた金花は尻を後ろに突き出すように壁に両手をついている。そのまろい尻にいきり勃つ逸物をねじ込みながら、俺は腹の奥がじりじりと燃えるような奇妙な感覚に襲われていた。
 金花の奥に逸物を一突きすればじりりと熱が上がり、引き抜けばじゅわりとその熱を持っていかれる。うねるような感触と上下する自分自身の熱に、もう二度も吐き出した逸物は衰えることなくますますいきり勃っていた。

「あ、ん……。いつにも増して、なんて逞しいこと……」
「う、るさい……っ」
「ふふ、相変わらず、んっ、心は素直じゃ、ないんだから、ぁんっ」
「余計なこと、言う余裕、が、ハァ、まだある、みたいだ、な……!」

 男にしては細い腰をむんずと掴み、腰骨を尻にぶつける勢いで根本まで突き入れた。衝撃のためか、金花の背中が一瞬にしてしなる。着物に隠れていても、その背中がいかにみだりがましい様子かまざまざと想像できた。

 そうだ、俺はもう何度もこういう金花の姿を見ている。腹の上に乗って腰を振るのも、大股を広げて正面から俺を受け入れているのも、いまみたいに後ろから獣のように穿たれる姿も、何度も見てきたから容易に想像できるのだ。

 しなやかな背骨がグッとそり返ると、そのぶんだけ腰骨のあたりに窪みができる。いまは着物の下で見えないが、わずかに影を落とすその窪みはやたらと色気があった。
 腰から視線を下げればつるりとした双丘、割れ目、女ほど豊かでないものの引き締まった尻たぶが目に入る。その隙間をぬるりと光る己の逸物が出入りするのを目にすると、俺の意思とは関係なく逸物がぐぅんと力を増すのはいつものことだ。

 ふと、カリカリという音がしていることに気がついた。音のほうを見ると、壁にしがみつく金花の美しい指が壁の板を引っ掻いている。それはまるで苛立ちを表しているような、何かを求めているような様子に見えた。

「金花、それでは爪を、痛めるぞ……」

 腰を緩やかに回しながら、まだカリカリと音を立てる右手にそっと触れた。

「……っ、ふふ。ほら、やっぱりわたしを思って、んっ、くれるじゃ、ないですか」
「それは、……ッ。目の前で不用意にどこか傷つくのを見る、のは、好きではない、だけだ」
「そんな優しいところも、好いていますよ……。ん、ぁん、照れ隠しに、奥をぐりぐり、しないで、んっ」
「うる、さいぞ……ッ。ほら、引っ掻くなと言って、る、だろう……ッ」

 腰をグッと押しつけながら、カリカリ引っ掻き続けている左手にも己の左手を覆い被せた。背後から両手を包み込み、金花の背中に胸を押しつけるように覆い被さる。

「もう、引っ掻くな。本当に、爪を痛める、だろう……」

 薄桃色に染まった耳に口を近づけ息を吹き込むように囁くと、金花の背中がびくりと震えたのがわかった。その震えが胸に伝わるだけで腹の奥がぞくりとする。

「あなたの声に、少し、いってしまいそうでしたよ……。ん、んふ、また逞しくなった……」
「く……ッ、これ以上締める、な……っ」
「大丈夫、カラギなら、あと二度は、出るでしょう……? あっ、奥に、すごぃ、ズンズン当たって、ぁあっ、ぁん! い、とても、い、あぁ、いってしまう、いってしまいそう……!」
「いけば、いいッ。おまえこそ、何度でも、いけるだろう……ッ!」

 背中にぴたりと胸をつけたまま、逸物をぐぐぅと奥深くにねじ込んだ。そこは金花がいつも震えるほど感じるところだ。
 柔らかく熱い壁を先端で擦るように叩けば、腰を震わせ声を漏らしながら逐情に至る。思ったとおり、いまも小刻みに全身を震わせながら感じ入っているようだった。
 俺のほうも、そう余裕があるわけじゃない。根本までねっとりと揉まれ、先端はきゅうきゅうと強烈に吸われるような感覚に目眩がする。そうこうしているうちに、三度目も勢いよく子種を吸い取られてしまった。

(こういうのを、名器と、呼ぶのだろうな……)

 思う存分子種を吐き出す心地よさに浸りながら、ぼんやりとそんなことを思った。
 身も心も深い伽羅香を感じている俺の耳に、小さなカリカリという音が聞こえてきた。俺の手の下で、なおも金花が壁板を引っ掻いているのだ。

「……なぜ、引っ掻くんだ」

 我ながらぼんやりした声だなと思ったが、気になって訊かずにはいられなかった。

「鬼の、……鬼の本性が、これではないと、……あぁ、気にしないでください……」

 鬼の本性……? それは、こうして交わることではないのか?

 まだかすかに聞こえるカリカリという音、それに手の中で引っ掻き続ける指の動きを感じながら、最後の一滴まで注ぎ込まんと腰をグッグッと突き入れる。それにすら感じ入って腰を震わせる金花の姿に満足しながらも、「鬼の本性」という言葉がやけに気になって仕方がなかった。
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