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12 真冬に王様に教えられたこと2
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その後、ぼくは一緒にお風呂に入った王様に体の隅々まで洗われることになった。もちろん抵抗はした。でも力が強い王様を止めることなんて、やっぱりできるはずがない。
(しかも手で洗うって……王様なのに……)
風呂場には体を洗うための布が置いてある。公衆浴場に行くときも洗う用の布を持って行った。そういうので石鹸を泡立てて洗うのが普通だ。それなのに王様はぼくの体を手で洗った。大きな手に泡をたくさんつけて、それで腕も足も胸も……アレも洗われてしまった。それにお尻の孔も洗われた。そのとき孔の中に少しだけ指を入れられた。
(あんなところに王様の指が……うぅ……)
思い出しただけで頭が爆発しそうになる。
(しかも王様のあ、アレを入れるなんて……)
絶対に入るわけがない。だってお尻の孔はとても小さい。自分の指を入れると想像するだけで怖くなる。そんなところにあんな大きなものが入るわけがない。
王様のアレはとても大きかった。すぐに腰に布を巻いたから見えたのは一瞬だったけれど、ぼくの何倍も大きかったのは間違いない。あれがぼくのお尻に……想像するだけで痛くなる。
(怖いと思ってるのに……それなのに、どうしてドキドキするんだろう)
洗ってもらっている最中も、ぼくはずっとドキドキしていた。ドキドキしすぎてのぼせてしまったくらいだ。それに驚いたのは王様で、慌てて風呂場から出るとタオルでグルグル巻きにして暖炉の前に連れて行ってくれた。そうして冷たいレモン水を飲ませてもくれた。レモン水を飲んでいる最中も、ぼくはずっとドキドキしていた。
そんなことがあった五日後、ぼくはお妃様の部屋に引っ越すことになった。引っ越しのことを聞いたのは前日の夜ご飯のときで、朝ご飯を食べ終わる前に王様が迎えに来た。急にやって来た王様に使用人の人たちはとても驚いていた。みんな耳をピンと立ててソワソワしている。それを見た王様が「気にしなくていい」と言ったけれど、そんなの無理に決まっている。
ぼくは大慌てでご飯を食べた。王様を連れ出せば使用人の人たちが気を遣わなくて済むと思ったからだ。「ご馳走さまでした」と言って急いで立ち上がると、「行こうか」と言って王様がぼくの右手を握る。
(手を繋いで歩くなんて、さすがにどうなんだろう)
そう思ったけれど嫌だとは言えない。嫌だとも思っていない。それに誰かと手を繋ぐのは久しぶりだった。小さいときにおかーさんと手を繋いで歩いたことを思い出す。
(おかーさんの手も大きいと思ったけど、王様の手はもっと大きい)
その大きくて温かい手がぼくの右手をギュッと握っている。それだけでやっぱりドキドキした。
「今日からここがおまえの部屋だ」
部屋に入ると、最初に大きな窓が目に入った。前にいた部屋よりずっと大きくて床から天井まである。窓の近くにはキッチンがあり、大きめのオーブンと材料を保管しておく棚もあった。
寝室に行くと、真ん中にとんでもなく大きなベッドが置いてあった。ぼくが何人寝ても余りそうな大きさに「ひぇ」と目が大きくなる。驚いていたぼくに王様が「俺の大きさに合わせた」と教えてくれた。
「お、王様もここで寝るんですか?」
驚いて振り向くと「当然だろう?」という顔でぼくを見下ろしている。
「忙しいときは無理だが、できる限り共に寝る」
「別に、無理しなくても」
「つがいに寂しい思いをさせたくはない」
「そ、そうですか」
段々顔が熱くなってきた。風呂場も気になったけれど王様と一緒に見るのはやめておこう。そうしないと、全身を手で洗われたときのことを思い出して変な顔になりそうだ。
こうしてぼくは前の部屋よりずっと豪華な部屋で暮らすことになった。といってもやることは前とほとんど同じで、部屋でご飯を食べたりパンやお菓子を作ったりして過ごす。相変わらず掃除や洗濯は使用人の人たちがしてくれるし、アルギュロスさんも一日一回会いに来てくれた。
変わったのは夜のことだ。まずベッドがとんでもなく大きくなった。一番大きく変わったのは、そこに王様と二人で寝ることだ。寝る前に王様と話をすることもある。それが新しい部屋での日常になった。
(そろそろ来る頃かなぁ)
お風呂から上がって暖炉の前でぼんやりしているとドアが開いた。振り返ると“寝間着”を着た王様が立っている。
(寝る前なのにかっこいい)
洗いたてのしっとりした髪の毛もかっこよかった。それに昼間よりツルツルしている気もする。「触ったら気持ちよさそうだなぁ」なんて思いながらうっとり眺めた。
(まぁ、本当に触ったら怒られそうだけどさ)
相手は王様だ。いくら奧さんになったとしても触ったら駄目だと思う。それでもいつか触ってみたい。触れるくらい王様と仲良くなりたい。そんなことを思いながら二人並んで寝室に入る。
「おまえは獣人が怖くないのか?」
「え?」
ベッドに座ったらそんなことを聞かれた。どういうことだろうと思いながら隣に座った王様を見る。
「怖くないのか?」
少し考えてから「怖くないです」と答えた。
「人は獣人を怖がるものだろう?」
王様の言葉に「そうなんだろうか」と思った。ぼくが住んでいた街には獣人がいなかったからよくわからない。
(そういえば本にはそんなふうに書いてあったっけ)
偉い人にもらった本には、どれだけ獣人が怖いかがこれでもかというくらい書いてあった。あれを読んだ人は怖いと思うかもしれない。でもぼくは怖くない。だって実際に会った獣人はみんな優しかった。
「ほかの人はわかりません。でも、ぼくは怖くないです」
「そうか」
蜂蜜色の目が少しだけ笑った気がした。それを見たぼくは「あっ」と思った。
王様はぼくよりずっと体が大きい。獣人は人より大きな体をしているけれど、ぼくが小さいからかさらに大きく見えた。そのせいでぼくが怖がっているんじゃないかと気にしているのかもしれない。
「怖くないです」
もう一度そう言って王様をじっと見た。本当に怖くないんだと信じてほしくて大きな王様の手を握る。
「王様のことも怖くありません」
王様の手はぼくよりずっと大きい。でも、この手が優しいことをぼくは知っている。頭をポンとされたときも、体を洗ってくれたときも優しかった。それに毎晩ギュッと抱きしめてくれるときも優しい。
「怖くないです」
「だが、俺はおまえよりずっと大きい」
「大きいですけど、ぼくが小さいから余計にそう見えるだけです」
「たしかにおまえは小さいな。それで十八とは思えん」
「アハハ、ですよね。ぼくもそう思います。お医者様には赤ちゃんのときに熱を出したのが原因だと言われました。食いしん坊だからたくさん食べたんですけど、どんなに食べても大きくなりませんでした」
「アルギュロスから聞いた。死にかけたそうだな」
「そうみたいです。おかげでいろいろ足りない奴に育っちゃいました」
「足りない奴?」
「あー……ええと、大きくならない体とか、話し始めるのが遅くて言葉が足りないとか、文字を読むのもちょっと苦手で学問所に通えなかったとか、少しずつ何かが足りないってみんなに言われて」
アハハと笑ったぼくを王様がじっと見ている。
「王様?」
「おまえは足りない奴じゃない。パンも菓子も職人のように作ることができる。ありのままで我らと接することができる。気持ちを素直に言葉にできる。文字を読むのが苦手だと言ったが、我が国の菓子を作ったということはきちんと読めたということだろう? 努力できるのはすばらしいことだ」
「そ、それはちょっと褒めすぎだと思いますけど」
照れくさくてアハハと笑うと「おまえでよかった」と言われて驚いた。
「おまえが花嫁でよかった。おまえでなければ俺はひどいことをしていただろう」
「王様?」
「いや、なんでもない。とにかくおまえでよかったと思っている」
「そう言ってもらえるのはうれしいですけど……でも、ぼくはただの平民だし、お妃様にはふさわしくないです」
「おまえは王族の証である紫の目を持っている」
「それは、まぁ」
「それで十分だ。むしろ王族として育てられないほうがよかっただろう」
「そ、そうですか……?」
よくわからないけれど、王様がいまのぼくでいいと言ってくれるならそれでいい。そう思いながら握った左手をじっと見る。
「どうした?」
「やっぱり大きい手だなぁと思って」
握っていたぼくの右手と比べると、ますます大きく見えた。手もそうだけれど手首からして大きさが全然違う。
「おまえの手は小さくてかわいい」
「かわいいって、それ子どもに言う言葉ですよ」
「はじめはおまえを子どもだと思っていた」
「まぁ、こんな体ですからね」
「だが子どもでないことはわかっている」
見比べていたぼくの右手を王様が掴んだ。どうしたんだろうと思っていると、そのまま持ち上げられて指先にキスをされる。
「お、王様?」
驚いていると手の甲にもキスをされた。そのままクルッとひっくり返されて、手のひらにもキスをされる。キスをしながら蜂蜜色の目がぼくをじっと見ていた。
「あ、あの……?」
王様は何も言わない。それなのに、手のひらに感じる熱と蜂蜜色の目に顔がカッと熱くなった。キスしながら見つめるなんて、ずるい。かっこよすぎてどうしていいのかわからなくなる。
「王様」
「おまえはわたしのつがいだ」
手のひらに熱い息が当たる。初めてされた手のひらのキスにも蜂蜜色の目にもドキドキしている。
「俺のつがい生涯はおまえだけだ」
枕元の灯りに照らされた金色の耳がピンと立った。艶々の金髪もキラキラ光っていて眩しい。
「おまえには子を生んでほしいと思っている。いや、おまえ以外と子を作りたいとは思わない」
蜂蜜色の目がギラリと光った気がした。
「獅子族は男女関係なく子を孕ませることができる。おまえは男だが子が生める。どうか俺の子を生んでほしい」
ぼくが、子どもを、生む。
頭が真っ白になった。心臓がドクドクして体が熱くなる。何かが体の奥からせり上がってきて、頭のてっぺんでパンと弾け飛んだ。
「俺の子を生んでほしい」
「ひゃ、ひゃい」
声がひっくり返った。どうして「はい」なんて返事をしたのか自分でもわからない。いくら王様の言葉でも男のぼくが子どもを生むなんてあり得ないからだ。
それでも「はい」と言いたかった。顔を真っ赤にしながら返事をしたぼくに王様はホッとしたような顔をして、それから少しだけ笑ったように見えた。
(しかも手で洗うって……王様なのに……)
風呂場には体を洗うための布が置いてある。公衆浴場に行くときも洗う用の布を持って行った。そういうので石鹸を泡立てて洗うのが普通だ。それなのに王様はぼくの体を手で洗った。大きな手に泡をたくさんつけて、それで腕も足も胸も……アレも洗われてしまった。それにお尻の孔も洗われた。そのとき孔の中に少しだけ指を入れられた。
(あんなところに王様の指が……うぅ……)
思い出しただけで頭が爆発しそうになる。
(しかも王様のあ、アレを入れるなんて……)
絶対に入るわけがない。だってお尻の孔はとても小さい。自分の指を入れると想像するだけで怖くなる。そんなところにあんな大きなものが入るわけがない。
王様のアレはとても大きかった。すぐに腰に布を巻いたから見えたのは一瞬だったけれど、ぼくの何倍も大きかったのは間違いない。あれがぼくのお尻に……想像するだけで痛くなる。
(怖いと思ってるのに……それなのに、どうしてドキドキするんだろう)
洗ってもらっている最中も、ぼくはずっとドキドキしていた。ドキドキしすぎてのぼせてしまったくらいだ。それに驚いたのは王様で、慌てて風呂場から出るとタオルでグルグル巻きにして暖炉の前に連れて行ってくれた。そうして冷たいレモン水を飲ませてもくれた。レモン水を飲んでいる最中も、ぼくはずっとドキドキしていた。
そんなことがあった五日後、ぼくはお妃様の部屋に引っ越すことになった。引っ越しのことを聞いたのは前日の夜ご飯のときで、朝ご飯を食べ終わる前に王様が迎えに来た。急にやって来た王様に使用人の人たちはとても驚いていた。みんな耳をピンと立ててソワソワしている。それを見た王様が「気にしなくていい」と言ったけれど、そんなの無理に決まっている。
ぼくは大慌てでご飯を食べた。王様を連れ出せば使用人の人たちが気を遣わなくて済むと思ったからだ。「ご馳走さまでした」と言って急いで立ち上がると、「行こうか」と言って王様がぼくの右手を握る。
(手を繋いで歩くなんて、さすがにどうなんだろう)
そう思ったけれど嫌だとは言えない。嫌だとも思っていない。それに誰かと手を繋ぐのは久しぶりだった。小さいときにおかーさんと手を繋いで歩いたことを思い出す。
(おかーさんの手も大きいと思ったけど、王様の手はもっと大きい)
その大きくて温かい手がぼくの右手をギュッと握っている。それだけでやっぱりドキドキした。
「今日からここがおまえの部屋だ」
部屋に入ると、最初に大きな窓が目に入った。前にいた部屋よりずっと大きくて床から天井まである。窓の近くにはキッチンがあり、大きめのオーブンと材料を保管しておく棚もあった。
寝室に行くと、真ん中にとんでもなく大きなベッドが置いてあった。ぼくが何人寝ても余りそうな大きさに「ひぇ」と目が大きくなる。驚いていたぼくに王様が「俺の大きさに合わせた」と教えてくれた。
「お、王様もここで寝るんですか?」
驚いて振り向くと「当然だろう?」という顔でぼくを見下ろしている。
「忙しいときは無理だが、できる限り共に寝る」
「別に、無理しなくても」
「つがいに寂しい思いをさせたくはない」
「そ、そうですか」
段々顔が熱くなってきた。風呂場も気になったけれど王様と一緒に見るのはやめておこう。そうしないと、全身を手で洗われたときのことを思い出して変な顔になりそうだ。
こうしてぼくは前の部屋よりずっと豪華な部屋で暮らすことになった。といってもやることは前とほとんど同じで、部屋でご飯を食べたりパンやお菓子を作ったりして過ごす。相変わらず掃除や洗濯は使用人の人たちがしてくれるし、アルギュロスさんも一日一回会いに来てくれた。
変わったのは夜のことだ。まずベッドがとんでもなく大きくなった。一番大きく変わったのは、そこに王様と二人で寝ることだ。寝る前に王様と話をすることもある。それが新しい部屋での日常になった。
(そろそろ来る頃かなぁ)
お風呂から上がって暖炉の前でぼんやりしているとドアが開いた。振り返ると“寝間着”を着た王様が立っている。
(寝る前なのにかっこいい)
洗いたてのしっとりした髪の毛もかっこよかった。それに昼間よりツルツルしている気もする。「触ったら気持ちよさそうだなぁ」なんて思いながらうっとり眺めた。
(まぁ、本当に触ったら怒られそうだけどさ)
相手は王様だ。いくら奧さんになったとしても触ったら駄目だと思う。それでもいつか触ってみたい。触れるくらい王様と仲良くなりたい。そんなことを思いながら二人並んで寝室に入る。
「おまえは獣人が怖くないのか?」
「え?」
ベッドに座ったらそんなことを聞かれた。どういうことだろうと思いながら隣に座った王様を見る。
「怖くないのか?」
少し考えてから「怖くないです」と答えた。
「人は獣人を怖がるものだろう?」
王様の言葉に「そうなんだろうか」と思った。ぼくが住んでいた街には獣人がいなかったからよくわからない。
(そういえば本にはそんなふうに書いてあったっけ)
偉い人にもらった本には、どれだけ獣人が怖いかがこれでもかというくらい書いてあった。あれを読んだ人は怖いと思うかもしれない。でもぼくは怖くない。だって実際に会った獣人はみんな優しかった。
「ほかの人はわかりません。でも、ぼくは怖くないです」
「そうか」
蜂蜜色の目が少しだけ笑った気がした。それを見たぼくは「あっ」と思った。
王様はぼくよりずっと体が大きい。獣人は人より大きな体をしているけれど、ぼくが小さいからかさらに大きく見えた。そのせいでぼくが怖がっているんじゃないかと気にしているのかもしれない。
「怖くないです」
もう一度そう言って王様をじっと見た。本当に怖くないんだと信じてほしくて大きな王様の手を握る。
「王様のことも怖くありません」
王様の手はぼくよりずっと大きい。でも、この手が優しいことをぼくは知っている。頭をポンとされたときも、体を洗ってくれたときも優しかった。それに毎晩ギュッと抱きしめてくれるときも優しい。
「怖くないです」
「だが、俺はおまえよりずっと大きい」
「大きいですけど、ぼくが小さいから余計にそう見えるだけです」
「たしかにおまえは小さいな。それで十八とは思えん」
「アハハ、ですよね。ぼくもそう思います。お医者様には赤ちゃんのときに熱を出したのが原因だと言われました。食いしん坊だからたくさん食べたんですけど、どんなに食べても大きくなりませんでした」
「アルギュロスから聞いた。死にかけたそうだな」
「そうみたいです。おかげでいろいろ足りない奴に育っちゃいました」
「足りない奴?」
「あー……ええと、大きくならない体とか、話し始めるのが遅くて言葉が足りないとか、文字を読むのもちょっと苦手で学問所に通えなかったとか、少しずつ何かが足りないってみんなに言われて」
アハハと笑ったぼくを王様がじっと見ている。
「王様?」
「おまえは足りない奴じゃない。パンも菓子も職人のように作ることができる。ありのままで我らと接することができる。気持ちを素直に言葉にできる。文字を読むのが苦手だと言ったが、我が国の菓子を作ったということはきちんと読めたということだろう? 努力できるのはすばらしいことだ」
「そ、それはちょっと褒めすぎだと思いますけど」
照れくさくてアハハと笑うと「おまえでよかった」と言われて驚いた。
「おまえが花嫁でよかった。おまえでなければ俺はひどいことをしていただろう」
「王様?」
「いや、なんでもない。とにかくおまえでよかったと思っている」
「そう言ってもらえるのはうれしいですけど……でも、ぼくはただの平民だし、お妃様にはふさわしくないです」
「おまえは王族の証である紫の目を持っている」
「それは、まぁ」
「それで十分だ。むしろ王族として育てられないほうがよかっただろう」
「そ、そうですか……?」
よくわからないけれど、王様がいまのぼくでいいと言ってくれるならそれでいい。そう思いながら握った左手をじっと見る。
「どうした?」
「やっぱり大きい手だなぁと思って」
握っていたぼくの右手と比べると、ますます大きく見えた。手もそうだけれど手首からして大きさが全然違う。
「おまえの手は小さくてかわいい」
「かわいいって、それ子どもに言う言葉ですよ」
「はじめはおまえを子どもだと思っていた」
「まぁ、こんな体ですからね」
「だが子どもでないことはわかっている」
見比べていたぼくの右手を王様が掴んだ。どうしたんだろうと思っていると、そのまま持ち上げられて指先にキスをされる。
「お、王様?」
驚いていると手の甲にもキスをされた。そのままクルッとひっくり返されて、手のひらにもキスをされる。キスをしながら蜂蜜色の目がぼくをじっと見ていた。
「あ、あの……?」
王様は何も言わない。それなのに、手のひらに感じる熱と蜂蜜色の目に顔がカッと熱くなった。キスしながら見つめるなんて、ずるい。かっこよすぎてどうしていいのかわからなくなる。
「王様」
「おまえはわたしのつがいだ」
手のひらに熱い息が当たる。初めてされた手のひらのキスにも蜂蜜色の目にもドキドキしている。
「俺のつがい生涯はおまえだけだ」
枕元の灯りに照らされた金色の耳がピンと立った。艶々の金髪もキラキラ光っていて眩しい。
「おまえには子を生んでほしいと思っている。いや、おまえ以外と子を作りたいとは思わない」
蜂蜜色の目がギラリと光った気がした。
「獅子族は男女関係なく子を孕ませることができる。おまえは男だが子が生める。どうか俺の子を生んでほしい」
ぼくが、子どもを、生む。
頭が真っ白になった。心臓がドクドクして体が熱くなる。何かが体の奥からせり上がってきて、頭のてっぺんでパンと弾け飛んだ。
「俺の子を生んでほしい」
「ひゃ、ひゃい」
声がひっくり返った。どうして「はい」なんて返事をしたのか自分でもわからない。いくら王様の言葉でも男のぼくが子どもを生むなんてあり得ないからだ。
それでも「はい」と言いたかった。顔を真っ赤にしながら返事をしたぼくに王様はホッとしたような顔をして、それから少しだけ笑ったように見えた。
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