垂れ耳兎は蒼狼の腕の中で花開く

朏猫(ミカヅキネコ)

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28 垂れ耳兎は蒼狼の腕の中で花開く・終

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 垂れ耳の先端を牙で甘噛みされ、腰がひくんと震えた。それだけで触ってもいない雄の証からぴゅるっと種がこぼれる。同時に後ろがきゅうっと窄まり逞しいバシレウスのものをこれでもかと食い締めた。

「二回目とは思えないな……」
「んっ!」

 グッと押し上げられて体がベッドの上を滑った。それを遮るかのように腰を引き寄せられる。そのままググッと押し潰されたリトスは、どんどん膨らむ快感に全身を震わせながら目の前の逞しい体にしがみついた。

「これがリトスの本格的な発情か……甘い匂いがあちこちからして、たまらない気分になる」
「ぁっ」

 今度は垂れ耳の付け根あたりを甘噛みされた。耳が弱いリトスは鳥肌を立てながらたまらず腰を揺する。

「耳も頬もいい匂いがする」
「んっ」

 頬を噛まれて驚いた。続けて顎や首筋を噛まれゾクゾクしたものが背筋を這い上がる。いろんなものですっかり濡れそぼった尻尾がブルブル震え、後ろがますますきゅうっと切なく締まった。

「く……っ。あぁ、子宮もすっかり下りてきて……それに、前回より搾り取られそうな具合が……っ、はっ、まずいな」
「ぁっ、ぁっ!」
「もっと……もっと奥に……っ」
「ぁっ、あっ、あぁっ!」
「ぐぅ……っ」

 唸るようなバシレウスの声に思わず爪を立てた。途端に後ろがぐわっと押し広げられ、腹部の奥でドクンと脈打つようにバシレウスのものが弾ける。
 リトスは「あぁ、バシレウス様の種だ」と思った。体中が熱くて何も考えられないはずなのに、なぜか注ぎ込まれていることだけははっきりとわかる。ドクドクと脈打つ感覚に腹部の奥がぞわりとし、前回感じた痛みはまったくなく疼くような痺れに肌が粟立った。

「リトス、リトス」

 小柄なリトスを押し潰すように抱きしめながらバシレウスが何度も名前を口にする。その声に、腕の熱さに、押し広げられる後ろの感覚と注ぎ込まれる熱にリトスの体はますますカッカと燃えるようだった。

(これが、本当の発情、なんだ)

 なんて気持ちいいのだろう。体の外も中も気持ちがよくてたまらない。あれだけ気持ち悪かった行為のすべてが一気に上書きされたような気がした。
 感じる体も漏れる声もあれほど嫌悪していたのに、それらすべてを「好きだ」と言われて涙があふれた。忌み嫌われる存在でしかなかった自分は、もしかしてバシレウスに会うために生きていたのかもしれない。そう思いながら逞しい体に必死に縋りつく。

「リトス、俺の花嫁」

 バシレウスの甘い囁きに胸が苦しくなる。喜びと切なさに目尻から涙がこぼれ落ちた。

「リトス」

 熱い唇に目尻を吸われ、それだけで肌が甘くざわついた。

(僕は、バシレウス様が好きだ)

 憧れよりもずっと強い感情に泣きたくなるほど胸が震える。

「バシレウスさま……」

 好きです。
 唇をそう動かしたものの、声がちゃんと出たのかわからない。もう一度言おうとしたが、体の奥で静まっていたものがググッと膨らみ「はふ」と甘いと息しか出てこなかった。

「またクシフォスに説教されそうだが、止められそうにない」

 再び体の奥を抉られる感覚に、リトスは身も心も溺れていくのを感じた。

  ・ ・

 大騒ぎになった月の宴から半年後、バシレウスはクシフォスの屋敷からほど近い場所にこぢんまりとした屋敷を手に入れた。そこには必要最小限の使用人しかおらず、狼族が出入りするのは固く禁じられている。

「バシレウス様、おかえりなさい」
「ただいま」

 長に呼ばれ、早朝に街を出たバシレウスが屋敷に戻って来たのは夕食の時間を少し過ぎた頃だった。出迎えたリトスは垂れ耳を隠すことなく玄関に立っている。

「どうかしたか?」

 そう言ったバシレウスがそっと手を伸ばし、リトスの頬に柔らかく触れ熱を測るように包み込む。そんな仕草にリトスの眉尻がわずかに下がった。

(いつもと変わらないようにしようと思っていたのに)

 どんな些細な変化もバシレウスはすぐに気づく。何か思い悩んでいるのではないか、また不安になっているのではないかと気遣ってくれる。それが嬉しくもあり、リトスを勇気づけてくれる力にもなっていた。

(僕はバシレウス様の隣にいていいんだ)

 このままの自分でいいのだと、ようやく思えるようになってきた。だからこそ、これからは自分も番のために何かしたい。一緒に楽しんだり悩んだりしながら前を見て隣を歩いていきたい。

(それに、一緒に歩いて行くなら二人より三人のほうがきっと楽しいはず)

 そう思うだけでふわりと体が温かくなる。

「何でもないです」
「本当に?」
「はい。あ、今夜はスープを作ったんですよ。いくら馬車でも日帰りは大変だと思って」

 そう言うとバシレウスの顔が笑顔に変わった。廊下を歩きながら「リトスのスープがあれば疲れも吹っ飛ぶな」と口にする。

「いまじゃ俺の一番の好物だ」
「ありがとうございます」
「嘘じゃないからな? それに食べると体の底から元気がわき上がってくるんだ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

 ニコッと微笑み返すリトスにバシレウスが立ち止まった。どうしたのだろうと見上げると、美しい顔がスッと近づいて来る。

「嘘じゃないと今夜ベッドで証明してやろう」
「……っ!」

 耳元で囁かれた言葉に白い頬が一瞬にして真っ赤に染まる。それににやりと笑ったバシレウスの雄臭い顔に、腹部の奥がきゅっと切なくなるのがわかった。

(たぶん、そろそろに違いない)

 リトスは青みがかった銀毛の尻尾が揺れる背中を見ながら、自分の腹部をそっと撫でた。数日前からここがやけに疼く。すでに四度発情しているが、それとは違う感覚のような気がしていた。

(こういうのも兎族の本能なのかな)

 リトスは少し未来にきっと訪れるだろうことを考え、それをバシレウスに伝えられる日が来ることを願いながら愛しい背中を追いかけた。
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