垂れ耳兎は蒼狼の腕の中で花開く

朏猫(ミカヅキネコ)

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20 初夜

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「痛くないか?」

 優しくも熱い声に、リトスはコクコクと頷いた。口を開けば変な声が出てしまうと思い、両手で口を押さえながら痛くはないのだと必死に伝える。

(声を出さないようにしないと)

 それに声を出せば厭らしい奴だと思われるに違いない。せっかく求めてくれたのに「やっぱりアフィーテは淫らな奴だ」と思われるのだけは避けたかった。

『すぐにがって、どんだけ厭らしいんだよ』
『そんな大声上げたら、みんなに聞こえるぞ』

 かつての兎族たちの声が耳の奥で響く。何度も投げつけられた言葉に体が強張り、尻尾の毛がぶわっと膨らんだ。

(違う、いま僕に触れているのはバシレウス様だ)

 触れられて嬉しいはずなのに染みついた記憶が邪魔をする。そんな自分が嫌でぎゅっと目を瞑った。

「……やっぱりやめておくか?」

 やや強張った声にハッとした。慌てて目を開くと、仰向けに寝転がるリトスを心配そうな顔が覗き込んでいる。

「だ、大丈夫です」
「……しかし、」
「大丈夫だから、続けてください」

 リトスの必死の言葉にバシレウスの表情がわずかに曇る。そうして持ち上げていた両足を下ろし、労るように膝頭を撫でた。

「こういうことは無理をしてもよくない。それに三度吐き出したのだから発情も少し落ち着いただろう」

 リトスの頬がサッと赤くなった。雄の証を散々いじられたことを思い出し、後ろがきゅうっと窄まる。そこを先端で貫いていたバシレウスは、突然の締まりに耐えるかのようにグッと眉を寄せた。

(……なんて綺麗なんだろう)

 初めて見る狼族のそうした表情にリトスの胸がきゅっと切なくなる。

(それに、バシレウス様はやっぱり優しい)

 服を脱がせる手もベッドに横たえる手つきも優しかった。肌に触れるときは「触るぞ」と声をかけ、震えると「大丈夫か?」と気遣ってもくれた。自身の下半身も熱く滾っているというのに、自分の欲望よりもリトスの体を心配し優しく触れ続けてくれた。

(キスがあんなに気持ちいいことも初めて知った)

 触れるようなキスも吸いつくようなキスも気持ちがよかった。唇を甘噛みされると垂れ耳が震えるほど気持ちよかった。キスは恐ろしいことの始まりのはずだったのに、あっという間に塗り替えられてしまった。

「少しずつ、俺が全部上書きしてやるから」

 言われたその言葉に、リトスは救われるような気がした。この人になら何をされてもいい。そう思って自分から足を開いた。一度もしたことがない格好も怖くなかった。

「やめないで、ください。バシレウス様が、僕の体、嫌じゃないなら、このまま続けて、……っ」

 貫かれたところがさらに押し広げられる感覚に腰が跳ねた。ぐぐぅと広がった場所から脈打つような振動を感じる。

(これが、バシレウス様の)

 そう思った途端に落ち着いていた体の熱が一気に膨らんだ。ドッドッと鼓動が強くなり、何度も果てたはずの雄の証がピクピクッと跳ねる。

「お願い、だから、このまま続けて、」
「……リトス」

 見下ろす金色の目がギラリと光った。苦しそうに寄せる眉も噛み締める口元も震えるほど美しく、リトスの心身を熱く滾らせる。ドクドクと脈打つ自分の鼓動と貫く熱が混じり合い、体の奥で燃えるような熱の塊がどんどん膨らんでいく。

「く……っ。なんて強い匂いだ。引きずられて、しまう……っ」
「ぃ……っ」

 ズンと体の中心を貫かれた。一気に押し開かれた体の中がビクビクと痙攣する。垂れ耳のはずなのに、リトスは自分の耳がピンと立ち上がったような気さえした。
 気がつけば視界の端に自分の両足が映っていた。爪先はぐぐぅと丸まりガクガクと揺れている。自分とベッドの間に押し潰されていたはずの尻尾は、なぜかひどく濡れているようで冷たく感じた。

「リトス、リトス」
「ひっ、ぁっ、ぁ、ぁっ、あっ!」

 必死に口を塞いでいた両手はシーツを握り締め、蔑まされてきた声をひっきりなしに上げていた。抑えつけている逞しい体が動くたびに声が漏れ、その声が耳に入るたびに体が燃えるように熱くなる。

「ぁっ、ぁっ、ぁっ」
「リトス、……っ」
「んっ、ぁ、ぁあっ、あ、あぁっ!」
「……ここか」

 何かを確信するような声の直後、体の深いところを熱いもので押し上げられた。あまりの刺激にリトスの口から悲鳴のような声が上がる。そこは兎族たちの指にもいじられたことがない深い部分で、痛みにも似た感覚が腹部の奥を刺激した。

「ぁっ、ぁ、ぁっ!」

 掠れた声が何度も上がった。ずくずくとした痛みは恐ろしいはずなのに、体はその痛みを歓迎するかのように別の感覚をリトスにもたらし始める。

「や、こわぃ、なに、やだ、これ、いや、ぁあっ!」
「大丈夫だ。発情した兎族の雄はここ・・が下りて開く。そこに精を受ければ発情も収まるはずだ」
「まって、いや、こわぃから、まって」
「……っ、すまない、待つことはできない」
「ひ……! ぁ……っ!」

 ずくんと体の奥を押し上げられ、勢いのあるものがびしゃっと叩きつけられた。同時にビクンと腰を跳ね上げたリトスの体がガクガクと震え出す。それをバシレウスの体が抱きしめるように抑えつけた。

「絶対に孕ませる」

 耳元で囁かれた熱い声に背筋がぞくりとした。下腹が震え貫いているものをぎゅうっと食い締める。同じくらいの力で組み敷く体に両腕を絡みつけた。

(僕の、つがい)

 なぜか自然とそう感じた。それを最後に、リトスの意識は一気に真っ暗闇に落ちていった。
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