上 下
5 / 6

しおりを挟む
 それから土曜日までの時間は、僕にとってちょっとした拷問だった。

(だってセックスする日がわかってるとか、ちょっと恥ずかしいっていうかさ)

 それに否が応でも期待が高まる。いまみたいに先生と向き合ってご飯を食べているだけでもそわそわしてしまう。

「なに余計なこと考えてるんだ」
「べ、別に何も考えてないし」

 慌ててカレーをすくったスプーンを口に入れる。今夜のカレーは我ながら上出来だと思った。ほろほろになった鶏肉もいい具合で、先生も絶対においしいって言ってくれるに違いないと胸を張った。
 それなのに、食べている先生の口を見るだけでそわそわしてしまう。スプーンを持つ先生の手が、あらぬ妄想をかき立てて落ち着かなくなった。

「顔、にやけてるぞ」
「え!? うそ、」
「やっぱり余計なこと考えてるじゃないか」
「ち、違うし! 変なことなんて何も考えてないから!」
「なるほど、余計なことじゃなくて変なことだったか。大方、土曜のことで頭がいっぱいなんだろ?」
「……っ」

 先生はずるい。いつもこうやって僕が考えていることを当ててしまう。

(だって、明日は金曜日だから余計に気になるっていうか)

 やっぱり僕は性欲旺盛なんだろうか。そんなことを考えていたら、先生が「明日だけどな」と口にした。

「先生方に捕まって、会議のあと飲みに行くことになった。遅くなるだろうから先に寝てろ」

 さっきまでのそわそわが、あっという間にしょぼんと萎れる。

「起きて待ってる」
「そう言ってソファで寝てたら風邪ひくぞ。夏だからって冷房つけてるんだから油断するな」
「でも、」

 先生は土曜日って言ったけど、金曜日の夜からするんじゃないかと密かに期待していた。そう思ったから、いまもずっとそわそわしていたんだ。
 だから先生が帰ってくるのを待っていたい。疲れているようなら我慢するけど、そうじゃないなら僕は明日の夜したい。

「土日は俺も休みだ。そんなに焦る必要はないだろ?」

 先生の言葉に「本当に土曜日のことだったんだ」と残念に思った。もしかしてと期待していたのに、明日じゃないんだ。

「本当におまえは顔に出やすいな」
「え?」
「おまえが考えてることなんて丸わかりだ。『金曜日の夜にするんだと思ってたのに』って残念がってる」
「そ、そんなこと、ないし」
「隠さなくていい。男子大学生なんて性欲旺盛真っ直中だからな」
「だから、そういうことじゃなくて」

 僕は先生とだからセックスしたいんであって、誰とでもしたくなるわけじゃない。大好きな先生だから、もっともっと近づきたいし触りたいんだ。

「俺も楽しみにしてるんだよ」
「……え?」
「ってことでおあいこだな、菜月なつき

 同棲っぽいのを始めてからも滅多に呼ばれない名前を言われて、心臓が飛び出るかと思った。キスされたわけじゃないのにドキドキしすぎて息が苦しくなる。

「ほんと、おまえって顔に出やすいよなぁ。まぁ、そこも可愛いんだが」
「せ、んせいって、意地悪だ」

 僕が言えたのはそれだけだった。そんな僕に先生は意地の悪い笑みを浮かべている。せっかく胸を張れるくらい力作のカレーだったのに、味も何もわからなくなったままモグモグと食べ続けた。



 ようやく金曜日の夜が来た。先生からは七時前に「飲みに行ってくる。ちゃんとベッドで寝てろよ」というメッセージが届いた。
 その後、一人でご飯を食べて片付けて、お風呂にも入った。今夜はしないかもとは思ったけど、念のため先生に教えてもらったとおりお尻の準備をしておく。

(だって、もしかしたら早く帰って来るかもしれないし)

 それなら、やっぱり今夜セックスしたい。何なら明日一日セックスでもかまわない。

「って、何考えてんだよ」

 熱くなった顔をパタパタと手で扇ぎながら時計を見た。もうすぐ十時になるけど先生からメッセージは来ていない。
 先生たちの飲み会ってどのくらいの時間やるものなんだろう。サークルに入っていない僕は、そういった飲み会みたいなものに参加したことがないからわからなかった。

「先生はサークルに入るのも大学生の楽しみの一つだって言うけどさ」

 でも、僕は大学の人たちとよりも先生と一緒にいたいんだ。アルバイトはそのうちしたいと思っているけど、できれば夏休みや冬休みのような先生が学校に行っている時間にやりたい。
 ほかは先生と過ごす時間に使いたかった。できるだけ先生と一緒の時間を過ごしたい。

「そうだ。あれ着てみようかな」

 ベッドに寝転がっていた僕は「えいっ」と勢いよく起き上がってクローゼットを開けた。ゴソゴソと奥のほうから袋を引っ張り出して中身を取り出す。いつか着ようと思って、こっそり隠していたものだ。

「たしかに見た目は可愛いけど……」

 広げたのは、フリフリのレースがついたドロワーズと呼ばれるパンツだ。絵本で昔見たカボチャパンツにも見える。

「やっぱり僕が穿いたら変な気もする」

 そんなことは買う前からわかっていた。それでも思わず買ってしまったのは、先生が「ドロワーズって可愛いよな」と言ったからだ。そのとき見ていた昔のヨーロッパを描いた映画では、可愛い女の子がドロワーズを穿いていた。ドロワーズという言葉を知らなかった僕は、ネットで調べて結局買ってしまった。

(あのときは、こういうのを穿いたらセックスしてくれるかもって思ったんだよな)

 結局穿く勇気が出なくて袋にしまったままだったけど、内心ちょっと興味があった。これを穿いた僕を見て、先生が興奮してくれたら嬉しいなぁなんて思ったりもしている。

「ちょっと穿いてみようかな」

 このときの僕は、何日もセックスのことばかり考えていたせいで少し変だったに違いない。だからフリフリのカボチャパンツを穿こうなんて思ってしまったんだ。
 パジャマのズボンを脱いでからカボチャパンツを当ててみる。裾は太ももの真ん中くらいでパンツっぽくはない。それに膨らんでいるから、下着を穿いたままでも大丈夫そうだと思った。

「……へぇ、意外と履き心地は悪くないかも」

 それに見た感じも可愛い。値段を見たときは「高っ」と思ったけど、これならあの値段も納得できる。
 そのままベッドにごろんと横になった僕は、スマホでほかのカボチャパンツを検索したりゲームをしたりした。そうして気がついたら寝落ちしてしまっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...