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βであるということ3

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「ん、ふ……っ」
「声、我慢しなくていいからね?」
「ん……!」

 そんなことを言われても無理な話だ。これまで修一朗さんの部屋でこうした行為を何度もしてはきたけれど、ここは食事をしたり話をしたりする居間部分で部屋もとても明るい。
 そんな部屋のソファの上で、僕は下半身を剥き出しにした状態で修一朗さんの膝に跨がっていた。上半身もシャツが半分はだけているような状態なのに、修一朗さんはシャツのボタンをいくつか外しただけでズボンすら脱いでいない。まるで僕だけがいやらしいことをしているような気がして、声が漏れないように必死に唇を噛み締めた。

「ほら、それじゃあ唇に傷がついてしまう」
「ん、んっ! んふ……!」

 後頭部を優しく引き寄せられ、下から塞がれるようにキスをされた。そのままズンと体の奥を突かれて「んぅ!」と声が漏れる。キスをしたままの修一朗さんが小さく笑ったのがわかり、頬がカァッと熱くなった。

「ん……っ、んぁ、や、しゅ、ちろ、さん、」

 唇が離れた途端に甘えるような声で名前を呼んでしまった。それに応えるように、また下からズンと突き上げられて力が抜ける。

「千香彦くんがいつまでも初めてみたいな反応をしてくれるから、僕はどうにかなってしまいそうだ」
「や、しゅう、ちろ、さ、それ以上は、んっ! は、はっ、も、駄目、」
「大丈夫。いつものきみは、これよりずっと奥に迎え入れてくれている」
「でも、これ、ぁ……!」
「そうだね、いつもは僕が上だから少しずつ深くしていた。でもいまは千香彦くんが上だから……ほら、すぐに奥が広がっていくだろう?」
「ひ……! だめ、奥は、しゅ、いちろ、さ……だめ……!」

 修一朗さんの大きな手が僕の腰を引き寄せるように動いた。両足ともすっかり力が抜けていたせいで、導かれるままにストンとお尻を落としてしまう。そうすると修一朗さんが一気に奥まで入ってきて、僕の前はまたみっともないくらい漏らしてしまっていた。
 最近はいつもこうだ。何度も交わっている僕の体はすっかり貪欲になってしまったみたいで、こうして奥を突かれるだけで吐き出してしまう。しかも途中からはサラサラしたものが出るばかりで、初めてそれが出たときは粗相をしたのかと思って慌ててしまった。

(粗相じゃ、なくても、汚して……っ)

 頭ではわかっているのに吐き出すものを止めることができない。トンと突かれるとぴゅっと吐き出し、ズンと抉られるとぷしゃっと勢いよく噴き出てしまう。それが僕のお腹を濡らし、前立てだけくつろげている修一朗さんのズボンも汚してしまっているはずだ。

「まって、おねがい、だから、まって」
「大丈夫、服が汚れることなんて気にしなくていい。それとも、気にならないくらいにしたほうがいいかな?」
「しゅういち、ひ……っ! ぁ、ひ……だめ、だか……ぁ、あ、あ!」

 それ以上入らないというところまで入っていたはずなのに、さらに奥へと熱くて硬いものが入ろうとしているのがわかった。まるで内蔵を押し開くように、むしろ突き破ろうとしているかのようにグイグイ入り込んでくる。
 怖くなった僕は必死に修一朗さんにしがみついた。自分の体がどこかに飛んでいってしまいそうな気がして、がむしゃらに服を着たままの体を抱きしめる。そんな僕にかまうことなく、熱くて硬いものはズブズブと奥深くへと突き進んだ。
 そうして何かをズボッと押し開いた瞬間、僕の体は壊れてしまったようにガクガクと震え出した。

「は……っ、……っ、ぁ……っ、……っ」

 声は出なかった。口を開いても掠れた音が漏れるばかりで、呼吸すらうまくできない。苦しくてたまらなくなった僕は、陸に上がった魚のように口をパクパクさせた。
 そんな僕ののど仏に修一朗さんの唇が触れた。チュッと音を立てて吸いついたあと、首筋にキスをして鎖骨にも触れる。そうして何度も何度も肌に吸いつきながら独り言のように何かをつぶやき始めた。

「βをΩに変えるのは、αの強い欲が引き起こしているんじゃないかと僕は考えている。βのままじゃ安心できないし、何よりΩにしてしまえばすべてを手に入れられるのだとαは知っているからね」
「ん……っ」
「そんな強い欲はこうした行為にもっとも現れやすい。そうして執着や執心、独占欲といった欲の結晶が、いま千香彦くんに注ぎ込んでいるものだ」

 修一朗さんの声がどこか遠くに聞こえる。息が苦しくて耳鳴りがするからか、何を話しているのかうまく聞き取れない。

「体のずっと深いところに僕の欲をたくさん注ぎ込んであげよう。強欲で執念深い珠守たまもり家のαが抱く強烈な欲の塊をね。きっと僕の願いを、千香彦くんの望みを叶えてくれるはずだ。それにΩになれば千香彦くんはもう何も悩むことはない。心身ともに僕だけのものにできるし、ようやく僕も安心できる」
「ぁ……ぁ……」

 体の奥が熱くなってきた。まるで子守歌のように聞こえる修一朗さんの声に意識がふわふわと漂い始める。それなのに、うなじを撫でる手の感触だけはやけにはっきりと感じられた。
 少し前から、修一朗さんは行為の最中にうなじを撫でるようになっていた。吸われることもあるし甘く噛まれることもある。そうされるたびに僕の体は心地よい痺れにうっとりして、同時に体の芯からゾクゾクと震えるようにもなった。

(あぁ、修一朗さんの、香りがする)

 清々しくて少し甘い大好きな香りが胸いっぱいに入ってきた。普段も感じることがあるけれど、最中はとくに強く香っていることに気づいたのは最近になってからだ。おかげで、この香りを嗅ぐだけで淫らな気持ちがわき上がるようになってしまった。
 いまだってそうだ。あんなに苦しかったはずなのに、香りを嗅いでいると体の奥が疼くように熱くなる。もっとしてほしいなんて淫らな欲を抱いてしまう。

(僕は、なんていやらしくなったんだろう)

 こんな僕に修一朗さんは呆れたりしないだろうか。はしたないと嫌いになったりしないだろうか。

(……どうか、こんな僕でも嫌いにならないで)

 そう思い、力の抜けた腕で必死にしがみついた。肩や背中に爪を立てながら子どものように縋りつく。そんな僕を力強く抱きしめ返してくれた修一朗さんが、再び体の奥深くをズンと突き上げた。僕は必死にしがみつきながら、すべてを受け止めた。
 この日から、修一朗さんは毎日のように僕を求めてくれるようになった。以前は「βの体には負担が大きいからね」と言って数日に一度しかしてくれなかったのに、いまは僕が意識を失うまで肌を合わせてくれる。

(本当は、ずっとこうされたいと思っていた)

 あまりにもはしたなくて我慢していたけれど、本心ではずっとそう思っていた。βだからなんて言わずに毎日こうして求めてほしい。もっと僕に触れてほしい。そんなことばかり考えていた。

(もっと、この体に修一朗さんを刻み込んでほしい)

 いつかそばにいられなくなっても思い出せるように、死ぬまで修一朗さんのものだと忘れないように刻み込んでほしい。そう思いながら、僕は修一朗さんに抱かれ続けた。
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