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狼と猫2
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家に帰り着いたオリヴィは、夕飯はまだだと言うアスミに食べられないものはあるかと尋ねながら酒に合いそうな料理を手早く作った。
(狼族は肉が好きだって話だったよな)
以前そう耳にしたことがあったオリヴィは、ちょうど特製ダレにつけ込んでおいた骨付き肉を炙って出した。まさかそんな料理がすぐに出てくるとは思わなかったのか、やや驚いたような顔をしながらもアスミがおいしそうに食べ始める。
ほかにもテールスープや鶏肉とナッツの炒め物も出した。どれも目を細めてうまそうに食べるアスミの姿は料理人として嬉しい限りだ。
「オリヴィは料理がうまいな」
「これで飯を食ってるからな。それにしても狼族は肉が好きだって聞いてたんだが、本当なんだな」
そこそこの肉の量だったはずが、あっという間に皿から消えていく。残っているのは身を綺麗に剥がされた骨ばかりだ。
「俺はそこまででもないが、確かに狼族の大半は肉好きだと思う」
「酒も馬鹿みたいに飲むって聞いたことがあるけど、そうなのか?」
「どうだろう。俺の周りではそこまで飲む奴はいなかったと思うが」
「あ~、おまえ、いいとこの坊ちゃんっぽいからな。ガツガツした奴は周りにはいないか」
「え……?」
「うん?」
「いや、俺が坊ちゃんというのは……」
アスミが驚いたようにオレンジ色の目を瞬かせた。それにオリヴィが「食べ方見てりゃわかるよ」と答える。
「そもそも骨つき肉をナイフとフォークで器用に食べるやつなんて、いいとこの坊ちゃんくらいだろ?」
「なるほど、そうか」
“坊ちゃん”という言い方がよくなかったのか、アスミが少し考えるような顔になった。もしかして触れられたくないことなのかと考えたオリヴィは話題を変えることにした。
「アスミは旅の途中なのか?」
「旅といえば旅だが、目的地はとくに決まっていない」
「え? じゃあ、何しにこんな北の地まで来たんだよ」
「どこかおかしいか?」
「いや、狼族って暑いの苦手だろ? 用もないのに、わざわざこんな暑いところに来るなんて物好きだなと思って」
「そうか……たしかにそうだな。北に行けば狼族も少ないだろうと思っただけなんだが」
「ふぅん」
オリヴィは、目の前で綺麗に料理を平らげる狼族に何か隠し事があるんじゃないかと考えた。育ちの良さそうな狼族がたった一人で、しかも用事もないのにわざわざ北の地までやって来ることはまずない。
もしかしてお尋ね者かとも考えたが、アスミの様子を見る限りそんなふうには見えなかった。それに律儀で礼儀正しい様子からは追われているようには感じられない。オリヴィは「ま、平気だろ」と自分の勘を信じることにした。
「じゃあ、別に急ぐ用事はないってことなんだな? なら、飲め飲め」
「オリヴィは仕事じゃないのか?」
「明日は休みだから俺も飲むよ。おまえ、果実酒は平気か?」
「あぁ、大丈夫だ。……これはうまいな」
「だろ? こっちじゃこうした甘い酒が多いんだが……あ、一気に飲むなよ。甘いけど結構強い酒だから」
「わかった」
そう言いながらもアスミのジョッキはあっという間に空になる。それに並々と果実酒を注ぎながら、オリヴィはこれまでアスミが訪れたいろんな街の話を聞いた。
アスミはどの街でも路銀を稼ぎながら長期滞在しているようだった。そうして南のほうから少しずつ北へと移動してきたらしい。
「なぁ、この街にはまだいるつもりか?」
「そうだな、次の行き先が決まるまではいるつもりだ」
アスミの返事にオリヴィは「それなら俺の店で働くか?」と提案した。
「俺がか?」
「旅費を稼ぐ必要があるんだろ? じゃあ、俺の店で働けばいいよ。宿ならこのままここで寝泊まりすればいいし、宿泊費は掃除洗濯その他を自分でやるなら必要ない。あ、飯は俺が作るから心配するな」
「いや、しかし……」
「なぁに、店って言っても小さな料理屋だ。昼間でもそんなに忙しくはないし、料理を運んだり空いた皿を引っ込めたりするくらいだから、おまえでもできるって」
「まぁ、それくらいは大丈夫だと思うが……」
「なんだよ、なんか問題があるのか?」
「いや、俺に問題はない。だが、狼族の給仕というのはオリヴィの店にとって迷惑にならないか?」
「へ? なんで?」
「狼族は店を所有することはあっても接客はしない。だから変な噂にならないかと思ったんだが」
「あぁ、それなら大丈夫だ。この街はいろんな種族が集まってるから、おもしろいことや変わったことがあるといい話題になる。噂になっても客が増えるくらいだろうし、それ以外に問題はない」
「そうか」
「そうそう」
「それなら、よろしく頼む」
「おう、明後日からよろしくな」
そう言って互いのジョッキをカツンと重ねて改めて挨拶を交わした。
(ま、立ってるだけになっても話題にはなるだろうしな)
正直なところ、オリヴィは狼族を雇ったところで役に立つとは思っていなかった。育ちの良さそうなアスミは給仕をされる側であってもしたことはないだろうし、街の小さな料理屋の給仕は作法よりも体力と愛嬌が重要になる。
(体力は十分だとして、愛嬌はなぁ)
グイグイとジョッキを空けるアスミをじっと観察した。
体つきは逞しく、濃いオレンジ色の目に少し濃いめの灰色の毛並みはいかにも狼族といった感じだ。短く刈り込んだ髪の毛は見た目よりも柔らかそうな印象で、見た目だけでも騒がれそうな雰囲気をしている。
(それに綺麗な顔してるしな)
改めて見た顔立ちはやけに整って見えた。これなら雌たちにモテるかもしれない。ちょっと堅い話し方も似合っているし、愛嬌はなくても案外いけるかもしれないと考えた。
(獅子族の若様も美形だと思ってたけど、こりゃ負けてないな)
この街を実質的に支配しているのは獅子族だ。その若君は大層な美形でどの種族の雌たちも夢中になっている。しかし目の前のアスミも負けていない顔立ちだ。
そんなことをぼんやり考えながらアスミを見ていると、不意にオレンジ色の視線とぶつかった。やけに熱く見つめてくる目にドキッとする。
「なんだよ。どうかしたか?」
そう尋ねると、アスミがクンと鼻を鳴らした。
「……の匂いがする」
「は?」
「雌の匂いがするのは、どうしてだろうか……?」
「っ!」
アスミの言葉に、今度こそ心臓がドクンと跳ね上がった。オレンジ色の目は酔っているのか少し潤んでいて、その目で探るように見つめられると体が硬直したように動けなくなる。
オリヴィは慌てて視線を外し、「どんな匂いだよ」とごまかすように笑った。それでもじっと見つめてくるオレンジの目に鼓動がどんどん早くなる。「もしかしてバレたのか?」と焦り始めたとき、ようやくアスミの視線がジョッキに戻った。それにホッとしつつも、オリヴィの中にわずかな恐れと戸惑いが芽生える。
(ただの酔っ払いの言葉だし、気にすることはないよな……?)
気持ちを切り替えるようにオリヴィも残っていた果実酒をグイッとあおった。
「オリヴィの耳は獅子族に見えるな」
「……はい?」
(今度は耳の話か)
やっぱりアスミは酔っ払っているに違いない。そう思えばたったいま感じた恐怖も警戒心も薄れていく。
「耳の形や茶色の毛並みから獅子族かと思っていた。だが、グリーンの目は獅子族では見かけない」
「あ~、そっか。南のほうじゃ混合種って、あまりいないのか」
「混合種?」
「そ。俺の親父は獅子族だけど、お袋は猫族なんだ。だから耳は先が丸い獅子族の形をしてて、目は猫族に近い。色が緑なのはよくわかんねぇけど、きっと獅子族の金色と猫族の青色が混じったんだろうな」
オリヴィは異種族の両親の間に生まれた混合種だ。母側の猫族は同族で群れて生活しない種族のせいか、いろんな種族との間に子をもうけることがある。そうして生まれた子どもは大抵が猫族の特徴を引き継いでいた。
ところがオリヴィは獅子族の耳と猫族の目を持って生まれた。二種族の特徴がはっきりと姿に表れるのは珍しいことで、そのせいでズィーナにも「ハンパ者」と何度も言われている。
(でも、俺は混合種を恥じたりしない)
逆に亡き両親の特徴を持つ自分の姿を誇りに思っていた。だからこそ「ハンパ者」と言われるのが我慢ならない。小さい頃はそれで何度もズィーナとケンカになった。大人になったいまでも、指摘されればついカッとなってしまう。
「両親は獅子族と猫族なのか」
「ちなみに尻尾は猫族と同じでフサフサだぜ? ほら、結構いい毛並みだろ?」
そう言いながら立ち上がって尻を見せる。ズボンに空いた専用の穴から伸びているのは、猫族らしいフサフサの毛に覆われた細く長い尻尾だ。
獅子族は先だけが毛で覆われているので尻尾はほぼ猫族と言ってもいい。そう考えると耳だけが獅子族っぽいとも言える。体つきも猫族に近く、背は少し高いものの獅子族よりは低かった。
(いっそ耳も猫族ならよかったのにって考えたこともあったっけ)
しかし、いまでは獅子族らしい耳の形はオリヴィのお気に入りになっていた。
「狼族の尻尾とは違うな」
突然尻尾を掴まれ、思わず「ひっ!?」と悲鳴が漏れた。
「毛もしっとりしているし気持ちがいい。茶色ながら赤毛が少し混じっているのも狼族にはない色だ」
「ちょ、おま、触るな!」
「狼族より細くて、しなやかさも感じる」
「だから、触るなって! おまえ、酔っ払ってるだろ! もう飲むな! 部屋に案内するからさっさと寝ろ!」
まだ名残惜しそうにしているアスミの手を引きはがし、普段使っていない部屋へと引きずって行く。途中、浴室や便所を教えはしたが、ちゃんと理解したのか怪しいところだ。
「ほら、今夜はもう寝ろ」
そう言ってベッドに座らせて背を向けたところで、また尻尾を掴まれた。
「っ! だから尻尾を触るな! 寝ろ!」
「……いい手触りなのに」
「うるせぇ、寝ろ! この酔っ払いが!」
ベッドに転がして毛布を被せれば、すぐに寝息が聞こえてきた。
(ったく、酔っ払うととんでもない奴だな)
オリヴィは散々撫でられた尻尾をふるりと震わせてから部屋を出た。内心「部屋を提供したのは間違いだったかもしれない」と思いつつ、口元は楽しそうに笑っている。
(ま、酒さえ気をつければ何とかなるだろ)
久しぶりに自分以外の気配を感じる家に、オリヴィは少しだけ気分が高揚するのを感じていた。
(狼族は肉が好きだって話だったよな)
以前そう耳にしたことがあったオリヴィは、ちょうど特製ダレにつけ込んでおいた骨付き肉を炙って出した。まさかそんな料理がすぐに出てくるとは思わなかったのか、やや驚いたような顔をしながらもアスミがおいしそうに食べ始める。
ほかにもテールスープや鶏肉とナッツの炒め物も出した。どれも目を細めてうまそうに食べるアスミの姿は料理人として嬉しい限りだ。
「オリヴィは料理がうまいな」
「これで飯を食ってるからな。それにしても狼族は肉が好きだって聞いてたんだが、本当なんだな」
そこそこの肉の量だったはずが、あっという間に皿から消えていく。残っているのは身を綺麗に剥がされた骨ばかりだ。
「俺はそこまででもないが、確かに狼族の大半は肉好きだと思う」
「酒も馬鹿みたいに飲むって聞いたことがあるけど、そうなのか?」
「どうだろう。俺の周りではそこまで飲む奴はいなかったと思うが」
「あ~、おまえ、いいとこの坊ちゃんっぽいからな。ガツガツした奴は周りにはいないか」
「え……?」
「うん?」
「いや、俺が坊ちゃんというのは……」
アスミが驚いたようにオレンジ色の目を瞬かせた。それにオリヴィが「食べ方見てりゃわかるよ」と答える。
「そもそも骨つき肉をナイフとフォークで器用に食べるやつなんて、いいとこの坊ちゃんくらいだろ?」
「なるほど、そうか」
“坊ちゃん”という言い方がよくなかったのか、アスミが少し考えるような顔になった。もしかして触れられたくないことなのかと考えたオリヴィは話題を変えることにした。
「アスミは旅の途中なのか?」
「旅といえば旅だが、目的地はとくに決まっていない」
「え? じゃあ、何しにこんな北の地まで来たんだよ」
「どこかおかしいか?」
「いや、狼族って暑いの苦手だろ? 用もないのに、わざわざこんな暑いところに来るなんて物好きだなと思って」
「そうか……たしかにそうだな。北に行けば狼族も少ないだろうと思っただけなんだが」
「ふぅん」
オリヴィは、目の前で綺麗に料理を平らげる狼族に何か隠し事があるんじゃないかと考えた。育ちの良さそうな狼族がたった一人で、しかも用事もないのにわざわざ北の地までやって来ることはまずない。
もしかしてお尋ね者かとも考えたが、アスミの様子を見る限りそんなふうには見えなかった。それに律儀で礼儀正しい様子からは追われているようには感じられない。オリヴィは「ま、平気だろ」と自分の勘を信じることにした。
「じゃあ、別に急ぐ用事はないってことなんだな? なら、飲め飲め」
「オリヴィは仕事じゃないのか?」
「明日は休みだから俺も飲むよ。おまえ、果実酒は平気か?」
「あぁ、大丈夫だ。……これはうまいな」
「だろ? こっちじゃこうした甘い酒が多いんだが……あ、一気に飲むなよ。甘いけど結構強い酒だから」
「わかった」
そう言いながらもアスミのジョッキはあっという間に空になる。それに並々と果実酒を注ぎながら、オリヴィはこれまでアスミが訪れたいろんな街の話を聞いた。
アスミはどの街でも路銀を稼ぎながら長期滞在しているようだった。そうして南のほうから少しずつ北へと移動してきたらしい。
「なぁ、この街にはまだいるつもりか?」
「そうだな、次の行き先が決まるまではいるつもりだ」
アスミの返事にオリヴィは「それなら俺の店で働くか?」と提案した。
「俺がか?」
「旅費を稼ぐ必要があるんだろ? じゃあ、俺の店で働けばいいよ。宿ならこのままここで寝泊まりすればいいし、宿泊費は掃除洗濯その他を自分でやるなら必要ない。あ、飯は俺が作るから心配するな」
「いや、しかし……」
「なぁに、店って言っても小さな料理屋だ。昼間でもそんなに忙しくはないし、料理を運んだり空いた皿を引っ込めたりするくらいだから、おまえでもできるって」
「まぁ、それくらいは大丈夫だと思うが……」
「なんだよ、なんか問題があるのか?」
「いや、俺に問題はない。だが、狼族の給仕というのはオリヴィの店にとって迷惑にならないか?」
「へ? なんで?」
「狼族は店を所有することはあっても接客はしない。だから変な噂にならないかと思ったんだが」
「あぁ、それなら大丈夫だ。この街はいろんな種族が集まってるから、おもしろいことや変わったことがあるといい話題になる。噂になっても客が増えるくらいだろうし、それ以外に問題はない」
「そうか」
「そうそう」
「それなら、よろしく頼む」
「おう、明後日からよろしくな」
そう言って互いのジョッキをカツンと重ねて改めて挨拶を交わした。
(ま、立ってるだけになっても話題にはなるだろうしな)
正直なところ、オリヴィは狼族を雇ったところで役に立つとは思っていなかった。育ちの良さそうなアスミは給仕をされる側であってもしたことはないだろうし、街の小さな料理屋の給仕は作法よりも体力と愛嬌が重要になる。
(体力は十分だとして、愛嬌はなぁ)
グイグイとジョッキを空けるアスミをじっと観察した。
体つきは逞しく、濃いオレンジ色の目に少し濃いめの灰色の毛並みはいかにも狼族といった感じだ。短く刈り込んだ髪の毛は見た目よりも柔らかそうな印象で、見た目だけでも騒がれそうな雰囲気をしている。
(それに綺麗な顔してるしな)
改めて見た顔立ちはやけに整って見えた。これなら雌たちにモテるかもしれない。ちょっと堅い話し方も似合っているし、愛嬌はなくても案外いけるかもしれないと考えた。
(獅子族の若様も美形だと思ってたけど、こりゃ負けてないな)
この街を実質的に支配しているのは獅子族だ。その若君は大層な美形でどの種族の雌たちも夢中になっている。しかし目の前のアスミも負けていない顔立ちだ。
そんなことをぼんやり考えながらアスミを見ていると、不意にオレンジ色の視線とぶつかった。やけに熱く見つめてくる目にドキッとする。
「なんだよ。どうかしたか?」
そう尋ねると、アスミがクンと鼻を鳴らした。
「……の匂いがする」
「は?」
「雌の匂いがするのは、どうしてだろうか……?」
「っ!」
アスミの言葉に、今度こそ心臓がドクンと跳ね上がった。オレンジ色の目は酔っているのか少し潤んでいて、その目で探るように見つめられると体が硬直したように動けなくなる。
オリヴィは慌てて視線を外し、「どんな匂いだよ」とごまかすように笑った。それでもじっと見つめてくるオレンジの目に鼓動がどんどん早くなる。「もしかしてバレたのか?」と焦り始めたとき、ようやくアスミの視線がジョッキに戻った。それにホッとしつつも、オリヴィの中にわずかな恐れと戸惑いが芽生える。
(ただの酔っ払いの言葉だし、気にすることはないよな……?)
気持ちを切り替えるようにオリヴィも残っていた果実酒をグイッとあおった。
「オリヴィの耳は獅子族に見えるな」
「……はい?」
(今度は耳の話か)
やっぱりアスミは酔っ払っているに違いない。そう思えばたったいま感じた恐怖も警戒心も薄れていく。
「耳の形や茶色の毛並みから獅子族かと思っていた。だが、グリーンの目は獅子族では見かけない」
「あ~、そっか。南のほうじゃ混合種って、あまりいないのか」
「混合種?」
「そ。俺の親父は獅子族だけど、お袋は猫族なんだ。だから耳は先が丸い獅子族の形をしてて、目は猫族に近い。色が緑なのはよくわかんねぇけど、きっと獅子族の金色と猫族の青色が混じったんだろうな」
オリヴィは異種族の両親の間に生まれた混合種だ。母側の猫族は同族で群れて生活しない種族のせいか、いろんな種族との間に子をもうけることがある。そうして生まれた子どもは大抵が猫族の特徴を引き継いでいた。
ところがオリヴィは獅子族の耳と猫族の目を持って生まれた。二種族の特徴がはっきりと姿に表れるのは珍しいことで、そのせいでズィーナにも「ハンパ者」と何度も言われている。
(でも、俺は混合種を恥じたりしない)
逆に亡き両親の特徴を持つ自分の姿を誇りに思っていた。だからこそ「ハンパ者」と言われるのが我慢ならない。小さい頃はそれで何度もズィーナとケンカになった。大人になったいまでも、指摘されればついカッとなってしまう。
「両親は獅子族と猫族なのか」
「ちなみに尻尾は猫族と同じでフサフサだぜ? ほら、結構いい毛並みだろ?」
そう言いながら立ち上がって尻を見せる。ズボンに空いた専用の穴から伸びているのは、猫族らしいフサフサの毛に覆われた細く長い尻尾だ。
獅子族は先だけが毛で覆われているので尻尾はほぼ猫族と言ってもいい。そう考えると耳だけが獅子族っぽいとも言える。体つきも猫族に近く、背は少し高いものの獅子族よりは低かった。
(いっそ耳も猫族ならよかったのにって考えたこともあったっけ)
しかし、いまでは獅子族らしい耳の形はオリヴィのお気に入りになっていた。
「狼族の尻尾とは違うな」
突然尻尾を掴まれ、思わず「ひっ!?」と悲鳴が漏れた。
「毛もしっとりしているし気持ちがいい。茶色ながら赤毛が少し混じっているのも狼族にはない色だ」
「ちょ、おま、触るな!」
「狼族より細くて、しなやかさも感じる」
「だから、触るなって! おまえ、酔っ払ってるだろ! もう飲むな! 部屋に案内するからさっさと寝ろ!」
まだ名残惜しそうにしているアスミの手を引きはがし、普段使っていない部屋へと引きずって行く。途中、浴室や便所を教えはしたが、ちゃんと理解したのか怪しいところだ。
「ほら、今夜はもう寝ろ」
そう言ってベッドに座らせて背を向けたところで、また尻尾を掴まれた。
「っ! だから尻尾を触るな! 寝ろ!」
「……いい手触りなのに」
「うるせぇ、寝ろ! この酔っ払いが!」
ベッドに転がして毛布を被せれば、すぐに寝息が聞こえてきた。
(ったく、酔っ払うととんでもない奴だな)
オリヴィは散々撫でられた尻尾をふるりと震わせてから部屋を出た。内心「部屋を提供したのは間違いだったかもしれない」と思いつつ、口元は楽しそうに笑っている。
(ま、酒さえ気をつければ何とかなるだろ)
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