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花のように5

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 その後、ディニはクリュスの言葉を真に受けたように頻繁に通ってくるようになった。しかし行為はなく話だけで夜が終わる。果たしてこれでよいのかとクリュスが考え始めてひと月が経った頃だった。

「クリュス、お願いがあるんだ」
「何ですか?」

 その日もディニには果実水を出し、自分はお気に入りのハーブティーを飲みながら話をしていた。そうして夜も更けた頃、ディニが神妙な顔をしながら「お願いがある」と切り出した。

「その……ここは華街かがいだろう? そしてクリュスは華だ」
「はい」

 頷くとディニがますます真剣な眼差しでクリュスを見つめる。

「俺はクリュスとそういうことをしたい。……駄目か?」

 クリュスは水色の目をパチパチと瞬かせた。それを見たディニが目元を赤く染める。

「俺はクリュスを抱きたい。俺の初めてはクリュスがいい」

 情熱的な言葉に垂れ耳がピクッと震える。まるで抱かれる側のような告白に「なんてかわいいのだろう」という気持ちがわき上がってきた。
 同時にこの手で優しく手ほどにしてやりたいと思った。真っ直ぐで若々しいディニに夜の営みを教えてやりたい。優しく丁寧に、それでいて官能的な一夜を味わわせてやりたい。そんな不思議な感情が芽生えてくる。

「クリュスを抱きたい。駄目か?」

 情熱的な言葉に垂れ耳がふるふると震えた。気が遠くなるほどくり返してきた行為のはずなのに、まるで初めてのように胸が高鳴り体が火照り始める。

(わたしの手で、忘れられない初めてを与えたい)

 クリュスはにこりと微笑みながら「もちろんかまいませんよ」と答えた。そうして手を取り「さぁ、ベッドへ行きましょう」といざなう。

「……っ」

 手に取ったディニの右手はかすかに震えていた。それだけ緊張しているということなのだろうが、華街かがいに来る者でここまで緊張する客はまずいない。あまりに初心な反応にクリュスの気持ちに熱が入る。
 体を強張らせるディニをベッドに仰向けに寝かせたクリュスは、努めて優しく触れながら逞しい腰を跨いだ。それだけでオレンジ色の目がゆらゆらとさまよい始める。

(何だかいけないことをしているような気になってきますね)

 華街かがいはこうしたことをする場所だというのに、思わずそんなことを思ってしまった。そんな自分に内心苦笑しながら、若く美しいディニの頬をそっとひと撫でする。それだけで灰色の耳はビクッと震え、瞳がギラリと光った。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

 微笑みかけながら、ゆっくりと上半身をかがめて首筋に吸いついた。何度か触れるだけの口づけをし、様子を見ながらディニの服を脱がしていく。そうして顕わになった胸にそっと手を載せた。

「……っ」

 それだけで肌を震わせる様子はあまりに微笑ましい。これまで見てきた表情と、目の前にある真っ赤な顔があまりにも違うことにクリュスは口元をほころばせていた。

「……かわいい」

 不意にディニのつぶやきが聞こえた気がした。顔を見ると、ますますギラギラと燃えるような目でクリュスを見ている。その視線に華奢な背筋をゾクゾクとしたものが駆け上がった。

(たくさんかわいがってあげたい)

 なぜかそう思い、そんなことを思った自分に思わず苦笑してしまった。華である自分がそんなことを思うなんてとおかしくなる。すると何に驚いたのか、オレンジ色の瞳が小さく見開かれた。

「大丈夫、わたしが気持ちよくして差し上げますから」

 まだ緊張しているのかと思い、そう囁いた。そうして優しく肌を撫で、細い指で若い胸をいじり始める。

「ん……っ」

 漏れた声にディニの顔がますます赤くなった。それに満足しながら、ぷくりと膨らんだ部分をキュッと摘み上げる。そうして舌でねぶり、口に含んでチロチロと舌先でかわいがった。

「んっ……ん……!」

 行為自体が初めてというディニには刺激が強いのだろう。たったそれだけで隆々となった雄の証がビチビチとクリュスの尻たぶを叩く。

(これなら問題なさそうですね)

 薄い衣装をはらりと脱ぎながら「そのまま楽にしていてください」と告げ、にこりと微笑んだ。
 ぼんやりしたオレンジ色の目を見ながら、右手を後ろに回したクリュスが猛々しい肉茎に手を添える。それだけでさらに太くする様子にクリュスの後孔がじゅんと濡れた。念のために毎回香油を仕込んではいたものの、久しぶりの行為だからかそこはヌルヌルと濡れふくふくと物欲しそうに開閉し始める。

「さぁ、気持ちよくして差し上げます」

 囁きながら、後孔に先端をゆっくりと押し当てた。そのままぐぅっと腰を落とし呑み込んでいく。

「く……っ! ぅわっ、ちょ……っ!」

 思わずといった感じでディニの手が力強く細腰を掴んだ。それだけでクリュスの全身がぞわっと総毛立つ。この先に待っているのは快感なのだと長年の経験から体が勝手に期待している証拠だった。
 それがクリュスの胸をわずかに掻きむしった。アフィーテであり華でしかない自分が汚いもののような気がして腰が止まる。いままさに貪ろうとしている若く美しい狼族をこのまま汚してよいのか一瞬だけためらったのだ。

(そんなこと……)

 求めてきたのはディニだ。それに応えるのが華であるクリュスの勤めで、ここが華街かがいだということは最初からディニもわかっている。汚す汚さないなんて言葉は、この場所には存在しない。
 小さく頭を振ったクリュスは、膝立ちになりディニの熱塊をずぶずぶと根元まで呑み込んだ。そのまま腰を上下に動かし後孔で逞しい肉茎を愛撫し始める。そのたびにクリュスが両手をついている若々しい腹筋がビクビクと波打った。

「く……っ! なんだ、よ……っ、これ……っ」
「気持ちいい、ですか……?」
「ぅわっ! ちょ、動か、ぅんっ! んんっ!」
「んふ……はぁ……ぁ……んっ」
「ぅはっ、あぁっ、ちょ、待っ……! 待てって、あっ、あっ、あぁ……っ!」

 腰を動かすたびに声を上げる初心な様子に、クリュスはこれまで感じたことがない充足感を味わっていた。腰を掴む大きな手には十分な力が入っているのに、それでも乱暴に動かないのは必至に自分を律しているからだろう。初めてなのに本能に呑み込まれず相手を気遣う姿に、クリュスの胸が切なく高まっていく。

「ぁ……!」

 体の奥深くで何かがぐにゃりとほどけた気がした。これまで何度となく狼族の肉茎を受け入れてきたというのに、こんな感覚は初めてだった。突然のことに戸惑うクリュスが動きを止めると、それまで掴んでいるだけだったディニの手にグッと力が籠もる。

「ひぁっ!」

 下から思い切り屹立をねじ込まれて悲鳴のような声が漏れた。

「も、駄目だ……っ。我慢でき、ない……!」

 切羽詰まったような声に視線を落とすと、オレンジ色の目がギラギラと自分を見つめていた。まるで射殺さんと言わんばかりの鋭さに、クリュスは兎族の本能から「ひっ」と首をすくめる。その瞬間を狙ったかのように、ディニがとんでもない勢いで腰を穿ち始めた。

「ぁあ……!」

 硬い切っ先がクリュスも知らなかった深い場所を強烈に穿った。そんな奥まで突かれたことがない体がビクビクと激しく震える。それにかまうことなくディニは腰を押しつけ、さらに奥へと呑み込ませようとした。
 クリュスは初心な場所を硬いもので擦られるたびに腰を跳ね上げ仰け反った。あまりの感覚に逞しい腹についた両手を突っぱねるように伸ばす。

「や、ディニ、さま……っ。それ以上は、駄目、です……っ」
「ぐぅっ! は、は、は……っ。すご、ぃ……気持ち、い……!」
「あぁっ! 駄目、そこは、駄目……っ」
「ぐふっ! ぅあ……っ、ぐぁ……っ!」

 力強く低い声が響いた直後、体のずっと奥深いところで熱が弾けたのがわかった。初めて濡らされる場所にクリュスの全身がブルブルと震え出す。
 仰け反っていた頭がかくんと前に倒れた。ゆっくりと瞼を開き、ディニの顔を見る。若い顔は真っ赤になり、オレンジ色の目はギュッと閉じていた。そうして口からは「はっ、はっ」と荒い息がひっきりなしに漏れている。

(なんて美しい狼族、だろう……)

 クリュスの鼓動がとくんと跳ねた。後ろがやけに苦しく感じるのはコブが出ているからに違いない。華街かがいに慣れた狼族の客たちは、礼儀としてコブを入れることはしなかった。つまり、これがクリュスにとって初めてのコブの感触というわけだ。
 コブまで入っているということは、それだけ奥深くに先端が入り込んでいるということだ。だからこれまで感じたことがない部分を擦られ体が驚いたに違いない。

(それだけじゃない)

 奥深くを暴かれ濡らされることに、どうしようもない悦びを感じていた。ともすれば未熟な子宮に届きそうな種の感触に、発情すらまともにしないはずの本能が「もっと」と欲を見せ始める。

(……駄目です)

 咄嗟にそう思った。いまの「もっと」という欲は華としての気持ちじゃない。それは兎族としての本能で、華街かがいでは抱いてはいけない欲望だ。

(こんなことを思っては絶対にいけない)

 勢いよく吐き出されているディニの種を奥深くで受け止めながら、クリュスはひたすらわき上がる欲を抗い続けた。
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