50 / 64
宿題と短編小説3
しおりを挟む「赤坂先生! 短編、かけました! よんでください!」
朝一番に教科指導室にやってきて、原稿用紙を押しつけた僕を見て、赤坂先生はギョッとした顔をした。
「もう書いたのか⁉︎ 宿題で出したの、昨日だぞ?」
「書きたくて書きたくて、たまらなくて! 気がついたら書いちゃいました」
僕は散歩の時間がきた犬みたいなテンションで言った。多分、提出する手は、妙な興奮で震えていたと思う。
「……そうか。若えなあ」
赤坂先生はちょっと遠い目をしていた。
「ごめんなさいっ! 朝忙しい時間に。講評はみんなと同じ時間で大丈夫なんで」
「いや、こんだけ早く書いてきたんだ。俺も早く返した方がいいだろう。そのほうが推敲もできる。今から読むよ」
赤坂先生はそう言って、俺に隣の空いている椅子に座るように促してから、角にクリップが止まった俺の短編小説を読み始めた。そうして、読み初めているうちに、眉間に皺を寄せ始めた。
「名岡は情景の描写が上手いな……さすがだ」
お褒めの言葉に、僕は素直な犬みたいに喜んでしまう。やっぱりプロだった経験を持つ赤坂先生は読むのも早い。十分ほどで一通り読み終わると、
「なんでも良いから小説の賞に出してみたらどうだ?」
と言ってくれた。
「出してますよ。落ち続けてますけど」
「もう公募に出してるのか! ……まあ、お前の家にはプロがいるんだから、そうなるよな」
「あーさんに僕の小説、見せてませんよ?」
「え?」
赤坂先生はぽっかりと口を開けた。いつもカッコいいと騒がれているどこか整えられた印象とは違う、間抜けさがある表情。
「僕、あーさんに小説家になるの、反対されてるんで。現実を見ろってよく言われるんです」
「そっか……あいつは苦労してるもんな」
「先生は現実を見ろって言います?」
そういうと、先生はうーん、と低音ボイスで唸った後、言いにくそうに口を開いた。
「書いていた人間としては、作家なんてやめとけ、と言いたいところだけど。でもなあ、先生っていう職業は、現実的に夢を見ろっていう職業だからな。絶対無理っていうレベルで、本人も努力をしてなければ諦めろっていうけど、そうでないなら否定はしないよ。名岡は周の大変な状況を知っていてもなりたいって思う猛者だからな」
猛者。嬉しい言葉だ。
「……赤坂先生から見て僕は……小説家になれると思いますか?」
僕がいうと赤坂先生は不敵な笑みを見せた。
「なれるかなんて誰にもわかんねーよ。でも諦めない奴は応援なんかしなくても勝手になりたいものになるんだよ」
その言葉に目が覚めるようだった。
書こう。僕は書こう。
ちゃんと、行動に流されずに、芯のある言葉で。
僕がそう決意を固めた時だった。赤坂先生が、こんなこと聞くとコンプライアンス違反になるかもしれないんだけど、という枕詞のあと、いいにくそうに口を開く。
「あとさあ……お前さあ……ああ……やっぱり聞きたくねえ……」
「なんですか? 聞きたいことがあれば、はっきり言ってくださいよ」
赤坂先生は、喉のつっかえているものを無地やり送り出すように言った。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる