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現実を見た者と夢を描き続ける若人4
しおりを挟むあーさんは呆れた顔をしながら、空気が抜けるみたいな声で続ける。
「でもなあ。書くなよ、そんなもん、と思う反面、お前が小説を書きたくなる気持ちは理解できるんだ。書くことは傷つくことだ。だけど、書くことは救われることだからな」
「なにそれ。矛盾じゃん」
「人間なんて矛盾ばっかりだ。死にたいのに、生きたい」
僕はその、鋭利な切れ味を持った言葉に、心底びっくりした。
大人になれば、死にたいとか、消えたいとか、そういう腹のそこから溢れてくるどうしようもない欲求を飼い慣らせるようになるのかと思っていた。
だけど、あーさんはそれをいまだに持ち続けているみたいだ。
あーさんは、大人っぽくない。
少なくとも僕に向かって、大人ヅラをしない人間だ。
自分を権威ある人間っぽく見せようとしない。
ダメな部分を小出しに見せてきて、大人が子供の延長線上の生き物であることを知らしめてこようとする。
ああ、だから僕はあーさんをあの日——両親が死んだ日に、あんなにも瞬間的に信用したんだ。
葬式場にいた、親戚の人たちは、自分のことしか考えてなかった。
僕がどれだけ孤独かとか、僕がどれだけ悲しい状況に置かれているかなんてちっとも考えてなくて、自分が不利益を得ないために、必死になっていた。まるで、僕を疫病神のように扱った。
そんな僕の元にいきなり現れた、同じ地点に立って話してくれる人。同じ国の人。同じ言語を話す人。
この人は子供の国から来た人だ。
世の中の大人たちが汚点だと思って手放してしまう、苦くて、醜悪で、カッコ悪いものを、大切に宝物のようにして生きて、子供へ続く道を今も断ち切らずに、大人の世界で居心地悪そうに生きている。
「ま、なんでもいいけど。じゃ、お前は頑張って、賞を取れるような官能小説を書くってことで」
そういってあーさんは軽く手を振りながら自室へと帰っていった。
「え、ちょっと待ってよ!」
慌ててあーさんに声をかけても、あーさんは足を止めてはくれなかった。
あれ……。なんでこんなことになったんだっけ?
僕、官能小説なんて書いたことないよ……。
あれ? あれえ~?
僕はリビングの中心で頭を抱えてしゃがみ込むことしかできなかった。
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