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序章 最果てへの旅路

4 - 最終決戦4

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■エンドコンテンツ/最果ての地/最終段階


「《アビスゲート》!! 《ネクロ》!! 《デモン》!!」

 レベル300カンストである、俺の最大MPはマリアナの二倍で百万。
 光属性のスキルを使用してMPが三割ほど減少しているが、HPが1の時のコストダウンの割合はなんと五割時の十分の一。
 召喚できる軍勢の規模がとんでもなく化けるのだ、そして強化も十倍にまで跳ね上がる。

 軍勢召喚のためにつぎ込んだMPは、──全て。
 鈍色球体の時とは比べ物にならないほどの軍勢が一挙として【最果て】を取り囲む。

 その代わり、光属性の技は一切使用不可になるけどな。
 HP1は腕で小突かれただけでも即死してしまうくらいの脆さ。
 もともと防御に関しては紙切れレベルの職業だし、ここでHPを余計に残して半端な安全マージンを取るよりも、限界まで削った方がよっぽどマシだ。

「死霊ども! 悪魔ども! ──やっちまえ」

 そう言いながら右手の親指をサムズダウン。
 呼び出した軍勢は俺の意図を読み取り、雄叫びをあげながら【最果て】に群がっていった。

 目標が小さいだけに、数で攻撃を重ねて一気に削りきることはできないが、それでも万にも匹敵するレベルの軍勢を相手を前にして、【最果て】は一体何ができるのだろうか。

 軍勢を蹴散らしてHP1の俺を狙うのもいいが、その道ははるかに遠いと言える。

 落下物、召喚獣、砲撃、自動迎撃。
 そしてHPの減少とともに現れる中身と、その最終段階。
 このためだけに準備したヘブンズクエストの特別級装備と、ヘルズクエストの特別級装備。
 そして神薬は全て使い切った。

 押し込めるだろうか?
 まだまだ隠し球を持っているのだろうか?

 フラグを折るための験担ぎとして、勝利の確信みたいなことをやってきたが、そろそろ相手の逆転フラグも折りきったところなのかもしれない。
 絶叫を上げて抵抗する【最果て】は、次から次に押し寄せる軍勢の相手で精一杯のようだ。
 鱗粉をまき散らそうが、固めて強固になろうが、そんなことは御構い無しに、徐々に、徐々に残りのHPが削れていく。

『残存HP1万を切りました』

 出せる力を用いて、ようやく全てに蹴りがつく瞬間が訪れようとしていた。
 累計ダメージがえらいことになっているな、球体時も合わせて五百万くらい与えているんじゃないか?

「ふぅ……ようやくか」

 そう息を吐いた瞬間──、

『【最果て】の残存HPの急激な減少と同時に異様な魔力の膨張を確認! ──これは、《命力換装》です!』

 マリアナが“命を燃やして魔力を暴走させる”一般魔法職の究極スキルの名を叫んだ。

「いかんぞ、小僧!」

 同じように何らかの兆候を感じ取ったヘルメアも焦った声を上げる。

「我が犠牲となる! はよう我の後ろへ回れ!」

「すまん、無理だ」

 光状態なら余裕でも、今は一切の移動スキルを持たない闇属性。
 例え全力で走ったとしても、さすがにもう間に合わない。

「ヘルメア! マリアナだけは死んでも守れ!」

「なぬ!? 正気か小僧!!」

『ヘルメア! マスターの言う通りに!』

「くっ、何か秘策があるかしらんが……今度呼び出された時に全てを教えてもらうぞ! 《八大獄門》」

 俺とマリアナの間に、巨大な地獄の門が八つ。
 大地を割って出現した。
 俺のMPを代償にしていれば、ヘルメアの持つ最大で絶対防御の《無限獄門》を使えたのだろうが……なんてそんなことを思っている場合じゃない。

「悪魔公! 死霊王!」

 軍勢を束ねる指揮官級の名前を叫ぶ。
 時間がない、俺の意図を汲み取った彼らはわずかな時間で肉壁を構築する。

 そして──、



 【最果て】は残りの全てのHPをつぎ込み、魔力を暴走させた。

 戦いは、最後に立っていた者が勝者となる。

 過程なんか関係ない、本気の戦いに余力を残すなんか無粋だ。

 だから……。

 HPを1にして攻撃に全力を振り絞った俺を真似したのだろうか?

 こういったボスクラスには、一度使った技に対応してくるラーニング機能が標準搭載されてるから。

 まさに、【最果て】最後の一撃とも言える暴走した魔力に──、








 ──俺は飲み込まれ、もともとわずかしかなかったHPは、あっけなくゼロになった。



















『所有者の死亡デスを確認。支援スキル《特別支援》を使用します』










 よく知る優しい声が聞こえた。

『復活しますか? マスター』

 当たり前だ。
 これぞ、切り札中の切り札。

 期間限定イベントにて手に入るアンドロイドの中でも、メインとサブの二つの職業につくことができ、その保持ステータスを所持するプレイヤーに上乗せする、超高性能戦闘型アンドロイド──通称〈バトルロイド〉を抑えて、チートとまで言われた支援型アンドロイド、〈サポートロイド〉の本領。

 サポートロイドの《特別支援》は、デスペナルティしてしまった所持プレイヤーを一度だけ復活させてくれる。
 その上で、聖属性魔法職にも劣らない強化支援スキルを施してくれるのだ。

 まさに、HPMP部位欠損も全快で、もう一度チャンスをあたえてくれる女神様。

「愛してるぜマリアナ!」

『いえ、私を最優先で守ってくれた、マスターのためです。ヘイト稼ぎ、ダメージ削り、相手の切り札全開時お疲れ様です』

 サポートロイドはあまり戦闘に参加しないから、ボス系のヘイトが向くことはあまりない。
 ただ、マップ全体への殲滅攻撃のみ、事故死がありうるのでその辺の気配りだけしておけばいい。
 途中からヘルメアに丸投げだったわけなのだが……。

「……よし」

 【最果て】を見ると、大技を放った後の硬直によって停止していた。
 命力変換はコスパが悪いんだよな、一撃の威力はとんでもないが、その後がどうしようもない。
 カットタイムに入っている間、ただでさえ少ないHPの上限値が大きく目減りするわけだし。

「次は俺が切り札を切るぞ」

 そう言いながら右手の中指に嵌めていた指輪を外すと、

『あの、使うんですか……それ』

 なぜかマリアナが名残惜しそうな顔をしていた。

「なに?」

『使ったら消えますよね? それ』

「そうだな、何度も使えたらそれこそチートだろうし」

『最後に、最後に私の薬指にはめていただけませんか?』

「……え、嫌だ」

『お願いします! お願いします!』

 なんでこいつはこうも必死なんだろうか。
 普通にしていれば、十分なのに、こう言う乙女チックなところだけ変に人間味があると言うか。
 いやありすぎると言うか……。

「だぁ~もう、硬直すぎる前にかたつけたいから今度な! 今度オーダーメイドでなんか作ってやるから!」

『それではダメです! マスターが究極クエストをソロ達成して得たその自由報酬の〈混沌の指輪〉じゃないとダメなんです!』

 究極クエストとは、特別職以上についたものに用意された究極スキル解放コンテンツである。
 唯一職である【双極】の一個前の特別職【双塔】についた時点でクエストを受けることが可能。

 これをせずして、何が唯一職か、特別職か。
 という具合の重要なクエストで、普通は友達やらに手伝ってもらいながら複数人でのクリアを目指すのだが、あいにく仲の良かった廃人連中がエンドコンテンツのクリアと同時にログインしなくなってしまったので、俺は一人でこなすしかなかった。

 ヘブンズも、ヘルズも、究極も。
 特別職を新しく取得したりするとやり直しになるので、全部ぜーんぶ一人でこなしてきた。
 まあ基本的にはマリアナと一緒に、だが。

「こだわりすぎだってば」

『乙女心はいつだってロマンチックなんです。制作主は私にそう言いました!』

 俺は心の中でウィンストンにあったらぶん殴ることを固く決意した。

「──キ、キアア……」

「チッ、時間がない。指輪は今度一緒に作りに行こう」

『オーダーメイドで、高いのでお願いします』

「……う、ん」

 なんとなく締まりが悪いが、これで終了だ。

 究極クエスト【双塔】のクリア報酬は、光属性防具もしくは闇属性武器。
 だが単独クリアにはさらに自由報酬が追加される、それが〈混沌の指輪〉だ。

 この指輪の固有スキルは《混沌》。
 HP1や一日一回の上限を無視して、30秒だけ混沌状態に入ることができる。

 〈獄門の首輪〉、〈御鏡の玉杖〉の固有スキルはどちらも一日一回の固有スキルだが、日を跨げば再使用ができる。
 だが、この〈混沌の指輪〉は一度使用すると“壊れて”二度と使えなくなる。

 究極クエストは職業の再取得によって再び受けることができるのだが、諸々の手間を考えると一生に一度に近い決戦装備とも言える代物だ。

『そもそも、瀕死の【最果て】に必要あるのでしょうか?』

 マリアナは頬を膨らませ、そっぽを向きながらまだそう言って食い下がる。

「万全を期す、また起死回生の一手を打たれたら面倒だからな」

 それにお互い死力を尽くして戦った。
 限界ギリギリのラインで起死回生の暴走を使って、一度デスペナに追いやられてるわけだ。
 だから俺も同じように全力の一撃を持って相手を打ち倒す。

「漢のロマンだな」

『乙女改造されていますので理解できません』

「……そっか」

 ウィンストンめ。
 さて、硬直からそろそろ復帰しそうなので、行動に移すとする。

「──《混沌》」

 HPとMPを満タン保持した状態で、混沌属性へと至る。
 《堕天降臨》と《混沌の剣》はすでに使っているので、今はもう使えない。
 だが、混沌属性の究極スキルはまだ二つ残されている。

「マリアナ、自分自身に神薬を」

『はい』

 サポートロイドは所持制限がつくアイテムを持つことができる。
 彼女がいるだけで、俺は神薬を二つ使うことができるのだが、今回は彼女に使用してもらい、俺に供給し続けて失ったMPを全て回復してもらう。

「後は、《支援詠唱》も頼む」

『わかりました、スキルを指定してください』

 《支援詠唱》はサポートロイドに指定したスキルを同時詠唱してもらうことで、サポートロイドの使用MPをそのままスキルの威力に上乗せするという機能。

「これでいいか」

『こ、これは……また中二ですね……』

 混沌属性のもう一つのスキルの名前を知って、マリアナはそう表現していた。
 確かに、中二だ。
 だが、それ故に強いというのは、もう十分に言ってきたはず。
 っていうか黙って使え。

『すいません、余計な話をしすぎました。【最果て】動き出します』

 硬直していたラスボスが動きだす僅かな兆候を感じ取って、マリアナは冷や汗を流す。

「大丈夫だ」

 俺はそんな彼女の冷たく小さな手を握りしめた。
 ぎゅっと握り返され、僅かに感じた彼女の震えも、再び強く握り返すと自然と収まっていた。

「行くぞ」

『はい』

 二人で手を繋いで【最果て】を見据える。

 近づかなくて正解だった、動き始めた途端、周りに漂っていた《死の鱗粉》が動き始めて、ガリガリガリガリと最果ての大地を削って行く。
 何かに縋るように、駄駄を捏ねる子供のように、掠れていた【最果て】の悲鳴は大きくなっていき、それに合わせて最果ての大地を削る規模もどんどん増して行く。

 決着だ。
 俺とマリアナは、短く息を吸ってタイミングを合わせると、その究極魔法の名を呟いた。



「『──《デイブレイク》』」



 俺もマリアナも、全てのMPが一気に持っていかれる感覚によろめいた。
 二人で体を支えあいながら、放った究極魔法の行く末を見守る。

 まず【最果て】を中心として光の奔流が迸った。
 鈍色だった世界が真っ白な白銀の世界に切り替わる。

 眩しいが優しい。
 そんな光の中心で【最果て】はその身を焦がされる。

 その光の外枠から、全てを包み込む闇が姿を表す。
 弾け迸る光の奔流を無理やり押さえつけるように、真っ黒な闇がギュウギュウと包み込んで行く。



 ──ギアアアアアアアアアアアアア!!!!!



 押し潰される最中、なんとか逃れようと、腕を上に伸ばし、焦げへし折れた羽を広げようとする。
 抵抗する【最果て】の目には、涙が浮かんでいた。



 ──アァァアアアアアァァァァ……。



 そして【最果て】は闇の中に飲み込まれていった。
 全ての光が消えて、世界が真っ暗になって数秒後、また元の鈍色の最果ての地に戻ると、ワールド全体に討伐報告が流れる。

〔プレイヤーネーム:ユウ・フォーワードが最果ての単独討伐に成功しました〕

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