47 / 48
第二章 - 廃人と聖職者
6 - 古代迷宮チャレンジ
しおりを挟む
■聖王首都ビクトリア/階層墓地/助祭:ユウ=フォーワード
首都から少し離れた古い教会。
もう使われていない教会なのだが、その下に階層墓地と呼ばれる迷宮が存在する。
「ここが古代迷宮ダンジョンですか」
「うん」
冒険者ギルドで許可を取った俺とマリアナは、さっそく向かってみた。
許可証を提示して、教会所属の騎士が厳重に守護する重厚な扉をくぐる。
中は少し空気がひんやりしていた。
「普通は来れないのですよね?」
「そうだな」
マリアナのいうとおり。
今の俺たちみたいな駆け出しの冒険者はまず弾かれる。
この階層墓地のモンスターは、少し対処が特殊だと言われるから。
では、なぜ俺たちは入れているのだろう。
どこの国でも〈異人〉だから特別、という扱いは基本的にありえない。
「だが、対アンデッド職を持っていれば、初期階層まではレベル上げで使っていいそうだ」
そう、入れた理由は、俺のメイン職業が【助祭】だから。
この職業をメインに置くと、職業効果で精神値補正とゴーストやアンデッド系のモンスターに対して大きなアドバンテージがつくので、基本的に入り口から近い範囲の初期階層ならば、ある程度のレベル上げを所属の【助祭】は認められているのだ。
「〈異人〉ですから心配は無用だと思いますが……下階層に行けば行くほど、物騒になりますので、お気をつけて」
「はい」
守護の騎士にそう言われて、俺たちは階段を降りて階層墓地へと入った。
〈異人〉ですから……か。
騎士の口ぶりから少し悟る。
基本的に区別はしないが、割と世界は〈異人〉に甘いのだろう。
死亡リスクがほぼないから。
「ゴースト系に弓などが物理攻撃が通用するでしょうか?」
「光属性というか、聖属性というか、そういうものがついたものなら通用するらしいよ」
「なら、今の私はただのお荷物ですね」
「まあ、ゴースト系にはそうだけど、普通に物理が通用するモンスターもいるからお荷物じゃないよ」
そもそも、マリアナの良さは索敵能力とその命中制度とかアビリティを利用した綿密な狩人の職業特性だ。
火力ゴリ押し、それはそれでいいけど。
こういう何があるかわからない迷宮内では索敵系の方が重要だと、俺は考えている。
「──ひっ!?」
ぼんやりとした薄暗い中を先へ進んでいると、後ろでマリアナが素っ頓狂な声をあげた。
「どうした!?」
「い、今何かに胸を揉まれた感覚がありました」
「ゴースト系か!」
くそ、よくも俺の乳を!
じゃなかった。
とりあえず変なものに取り憑かれないように除霊を行う。
除霊は簡単だ。
「一応スキャンかけとくぞ」
「はい」
マリアナ以外を全て不透過にして、光の壁を通す。
これだけでいいのだ。
常在菌は流石に落とせないが、猫のシラミみたいな体についた小虫なら余裕で落とせる。
【助祭】になってから、なんだか光の壁の出力が少し増した気がするし。
「ウボオアアア!! オッッパアアア!!」
「うわっ!!」
光の壁に押しのけられてなんか出た。
それは目が血走った足のない半透明の浮遊体。
幽霊、ゴースト系のモンスターかな……これ。
「オッパアア! オパアアアイ!」
「……とりあえずこのおっぱいはマスターのなので、あなたにはあげませんよ」
「胸は譲渡するものじゃねーよ」
適当にツッコミを入れて。
俺はあらかじめ買っておいたメイスで、その幽霊を殴りつけて消しとばした。
あっさり消えたな。
でもそれ以上に、いったい生前にどんな業を背負って死んだのだろう。
それが非常に気になった。
胸への執着。
もしかして童貞幽霊とか?
この世界に来なかったら、俺の末路もあんな感じなのかなって思った。
絶対に機会は存在していなかったと思うし。
「のっけからとんでもないエロゴーストに当たりましたね」
「……大丈夫かよこの古代迷宮……」
「ゴーストはダメですけど、マスターはいつでもカモンですからね?」
「はいはい」
おそらくこの階層のモンスターはこの程度なのだろう。
狩ってみた感触は、とても柔らかい。
さらに、光の壁がかなり通用するというか。
こうして取り憑かれそうになった際、有効に利用できるのが素晴らしい。
「もうマスター、除霊師みたいなのをやった方がいいんじゃないですか?」
「……一瞬考えたけど、レベルを上げてなんぼだろ」
「レベルへの執着が凄まじいですね。親でも殺されたんですか?」
「いや、そんなことはない」
つーか、現実にレベルなんて存在しないし。
あったとしても俺は最底辺。
でも、あったら良かったな、と思う。
日本もゲームみたいなシステムがあれば、俺はレベルを上げまくっていたと思う。
なぜだろう。
なぜだろうか。
改めて深く考えたことはないが、とりあえずレベルっていうテーブルがあるならば、上げちゃうよね。
そこに山があるから的な感じで。
「そこにレベルがある限り俺はカンストを目指すぞ」
頂点を、頂上を目指すのだ。
「…………うーん、乙女改造を施されている私にはそれはバカとしか言いようがありませんね?」
「どの口がほざいてんだ!」
変態下ネタ乙女の方が、世間的にみたらよっぽどバカだと思います。
そんなことを話していると、マリアナの表情が変わる。
「人がいます」
その時、
「──キャアアアアアアアア!」
女の子の悲鳴が、階層墓地の中に響き渡っていた。
首都から少し離れた古い教会。
もう使われていない教会なのだが、その下に階層墓地と呼ばれる迷宮が存在する。
「ここが古代迷宮ダンジョンですか」
「うん」
冒険者ギルドで許可を取った俺とマリアナは、さっそく向かってみた。
許可証を提示して、教会所属の騎士が厳重に守護する重厚な扉をくぐる。
中は少し空気がひんやりしていた。
「普通は来れないのですよね?」
「そうだな」
マリアナのいうとおり。
今の俺たちみたいな駆け出しの冒険者はまず弾かれる。
この階層墓地のモンスターは、少し対処が特殊だと言われるから。
では、なぜ俺たちは入れているのだろう。
どこの国でも〈異人〉だから特別、という扱いは基本的にありえない。
「だが、対アンデッド職を持っていれば、初期階層まではレベル上げで使っていいそうだ」
そう、入れた理由は、俺のメイン職業が【助祭】だから。
この職業をメインに置くと、職業効果で精神値補正とゴーストやアンデッド系のモンスターに対して大きなアドバンテージがつくので、基本的に入り口から近い範囲の初期階層ならば、ある程度のレベル上げを所属の【助祭】は認められているのだ。
「〈異人〉ですから心配は無用だと思いますが……下階層に行けば行くほど、物騒になりますので、お気をつけて」
「はい」
守護の騎士にそう言われて、俺たちは階段を降りて階層墓地へと入った。
〈異人〉ですから……か。
騎士の口ぶりから少し悟る。
基本的に区別はしないが、割と世界は〈異人〉に甘いのだろう。
死亡リスクがほぼないから。
「ゴースト系に弓などが物理攻撃が通用するでしょうか?」
「光属性というか、聖属性というか、そういうものがついたものなら通用するらしいよ」
「なら、今の私はただのお荷物ですね」
「まあ、ゴースト系にはそうだけど、普通に物理が通用するモンスターもいるからお荷物じゃないよ」
そもそも、マリアナの良さは索敵能力とその命中制度とかアビリティを利用した綿密な狩人の職業特性だ。
火力ゴリ押し、それはそれでいいけど。
こういう何があるかわからない迷宮内では索敵系の方が重要だと、俺は考えている。
「──ひっ!?」
ぼんやりとした薄暗い中を先へ進んでいると、後ろでマリアナが素っ頓狂な声をあげた。
「どうした!?」
「い、今何かに胸を揉まれた感覚がありました」
「ゴースト系か!」
くそ、よくも俺の乳を!
じゃなかった。
とりあえず変なものに取り憑かれないように除霊を行う。
除霊は簡単だ。
「一応スキャンかけとくぞ」
「はい」
マリアナ以外を全て不透過にして、光の壁を通す。
これだけでいいのだ。
常在菌は流石に落とせないが、猫のシラミみたいな体についた小虫なら余裕で落とせる。
【助祭】になってから、なんだか光の壁の出力が少し増した気がするし。
「ウボオアアア!! オッッパアアア!!」
「うわっ!!」
光の壁に押しのけられてなんか出た。
それは目が血走った足のない半透明の浮遊体。
幽霊、ゴースト系のモンスターかな……これ。
「オッパアア! オパアアアイ!」
「……とりあえずこのおっぱいはマスターのなので、あなたにはあげませんよ」
「胸は譲渡するものじゃねーよ」
適当にツッコミを入れて。
俺はあらかじめ買っておいたメイスで、その幽霊を殴りつけて消しとばした。
あっさり消えたな。
でもそれ以上に、いったい生前にどんな業を背負って死んだのだろう。
それが非常に気になった。
胸への執着。
もしかして童貞幽霊とか?
この世界に来なかったら、俺の末路もあんな感じなのかなって思った。
絶対に機会は存在していなかったと思うし。
「のっけからとんでもないエロゴーストに当たりましたね」
「……大丈夫かよこの古代迷宮……」
「ゴーストはダメですけど、マスターはいつでもカモンですからね?」
「はいはい」
おそらくこの階層のモンスターはこの程度なのだろう。
狩ってみた感触は、とても柔らかい。
さらに、光の壁がかなり通用するというか。
こうして取り憑かれそうになった際、有効に利用できるのが素晴らしい。
「もうマスター、除霊師みたいなのをやった方がいいんじゃないですか?」
「……一瞬考えたけど、レベルを上げてなんぼだろ」
「レベルへの執着が凄まじいですね。親でも殺されたんですか?」
「いや、そんなことはない」
つーか、現実にレベルなんて存在しないし。
あったとしても俺は最底辺。
でも、あったら良かったな、と思う。
日本もゲームみたいなシステムがあれば、俺はレベルを上げまくっていたと思う。
なぜだろう。
なぜだろうか。
改めて深く考えたことはないが、とりあえずレベルっていうテーブルがあるならば、上げちゃうよね。
そこに山があるから的な感じで。
「そこにレベルがある限り俺はカンストを目指すぞ」
頂点を、頂上を目指すのだ。
「…………うーん、乙女改造を施されている私にはそれはバカとしか言いようがありませんね?」
「どの口がほざいてんだ!」
変態下ネタ乙女の方が、世間的にみたらよっぽどバカだと思います。
そんなことを話していると、マリアナの表情が変わる。
「人がいます」
その時、
「──キャアアアアアアアア!」
女の子の悲鳴が、階層墓地の中に響き渡っていた。
0
お気に入りに追加
1,088
あなたにおすすめの小説
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
中二病ドラゴンさんは暗黒破壊神になりたい
禎祥
ファンタジー
俺様は暗黒破壊神ルッスクーリタ!
え? 何で笑うの?
高校生活第一日目にして「中二病乙w」なんて笑われ避けられボッチな俺様。暗黒破壊神は孤高で高貴な存在なのだ! だから友達……コホン、下僕など要らんのだ!
なんて一匹狼を気取っていた俺様。
ある朝気づけばドラゴンになっていた――おおおおっ! 俺様、格好いいではないか! やはりドラゴンに生まれたからには、最強を目指さねばなっ!! そんでもって、今度こそ本当の暗黒破壊神に……え? 暗黒破壊神もういるの? 誰だそいつは!? 俺様を差し置いて暗黒破壊神を名乗るなど、許せん!!
俺様こそ真の暗黒破壊神! 偽物の暗黒破壊神など俺様が倒してやる!
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
中二病気取りの転生者が織りなす痛い系コメディです。ニヤっと笑っていただけたら嬉しいです。
最初からグロ表現あるので耐性のない方は回れ右して下さい。
二話目に挿入したイラストは皆鈴さん(Twitter→@minarin_narou)さんが描いてくださいましたヾ(=゚ω゚=)ノシ
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる